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ヘルスケア
誰もが使える
免疫センサで、
じぶんで健康を
守れる世の中へ。
『唾液による健康状態の可視化』 

イノベーション推進本部
藤田 智子
水産系の大学院、大学病院での基礎研究を経て現職に。
バイオ×ICTでさまざまな領域からアプローチし、一人ひとりのウェルビーイングに繋がるバイオセンシングを目指す。

POINT:バイオテクノロジーの研究開発力 |
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人の「免疫」(※1)を可視化し、体調管理をサポートすることを目的に、唾液で現在の免疫状態を測り、アプリで結果を確認・記録できる簡易センサを開発。新型コロナウイルスの陽性判定に使われていたイムノクロマト法と電気化学測定技術(※2)、さらに唾液中に含まれる分泌型免疫グロブリンA(sIgA)(※3)と強く結合する当社独自のアプタマー(※4)を組み合わせることで、これまでその場で簡易測定できなかった免疫の定量評価を可能に。 免疫状態を日常的に記録し、その傾向を可視化することで、今まで主観的にしか捉えられなかった免疫状態を客観的に把握できるようにし、行動するきっかけを提供します。 本簡易センサを活用したサービスを2025年度に開始予定です。 また「アプタマーセンサ」(※5)、パンデミックウイルスを検知する防疫領域、麻薬や爆薬を対象とするセキュリティ領域、アレルゲンや食中毒を検出する食の安全領域など、様々なソリューションへの応用が可能です。 |

- ※1本プロジェクトでは、目や鼻、喉、腸などの粘膜組織から分泌される粘液に含まれ、病原体などを中和して感染から身を守る機能。
- ※2イムノクロマト法と電気化学測定技術を組み合わせた「GLEIA」技術や関連する装置類は、大阪大学発ベンチャーの株式会社イムノセンスから導入した。
- ※3sIgA(secretory immunoglobulin A)は抗体の一種であり、粘液に含まれる二量体IgAを指し、分泌型IgAとも呼ばれる。目や鼻、喉、腸などの粘膜組織から分泌され、病原体などを中和して感染から身を守る。
- ※4アプタマーとは、特定の物質と特異的に結合する核酸分子のことで、同様の性質を持つ抗体に比べ、安価に合成できる、安定性が高いなどの利点がある。化学修飾を導入したものが人工核酸アプタマーであり、塩基部位を修飾した人工核酸は、天然核酸に比べて強い結合力を持つアプタマーが取得できる。
本アプタマーは2014年~2017年に「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」において、群馬大学とNECソリューションイノベータで共同開発した。 - ※5アプタマーをセンサ素子として活用した測定。
病気になってからの治療ではなく、
病気になる前に免疫を測って予防するという、これまでにないアプローチで挑戦。
パンデミックにより日々関心が高まる感染予防や健康問題を解決し、人々のQOLを高めていく。
これまで免疫の状態は、
「なんとなく」でしかわからなかった。

きっかけは、コロナ禍に「免疫力」への注目が高まったことでした。食べ物など、免疫を高める方法はさまざまなものがありますが、今の自分の免疫状態が客観的にわからないので免疫を高める必要があるのかどうか、どの方法が自分の免疫対策として合っているのか、わからないと感じていました。誰もが短時間で免疫を測る仕組みがあれば、もっと自分の健康を効率的に管理できるのではないか。そんな思いから、唾液を使って免疫の状態をセルフチェックできる簡易センサの開発に至りました。
今回のセンサには、10年以上にわたり当社で研究を進めてきた「アプタマー」を活用しています。アプタマーはタンパク質など特定の分子と結合するDNA素材で、今回私たちが開発したものは、免疫やストレスと関連のある「sIgA」という体内の分子を測ることができます。小型センサの素子としてアプタマーをセンシングに活用できたのは、アプタマー開発のノウハウがあり、そこにセンサなどのICTを組み合わせる当社ならではの高い技術デザイン力があったからといえます。
今の状態がその場でわかるから、
効率的な体調管理ができる。

アプタマーセンサの特長は、自分自身の生活習慣の中に取り入れやすいところです。日常的に使え、専門家の力を借りず、測りたいと思ったときに自分で測れる。結果がグラフで表示され、自分の免疫状態を変化として把握しやすいことは、効率的な体調管理につながると思っています。
新型コロナウイルスは感染症法上の位置付けが5類に移行しましたが、感染症自体が世の中からなくなることはありません。持病があって薬が飲めない人、絶対に風邪を引いてはいけない状況にある人など、世の中には「免疫を落としてはいけない」人たちが数多くいます。また、コロナ禍を機に体調管理に意識を向けるようになった人も増えています。

私たちのセンサはさまざまな免疫の中でもとくに、病原体などの異物がからだに侵入するのを防ぐときに働く「粘膜免疫」を測定ターゲットとしたもの。新型コロナウイルスから風邪のような日常的なものまで、病原体が侵入しやすい状態かわかるのが特徴で、一般的な感染症予防にも通じるものです。一人ひとり異なる免疫を、日々習慣的に測ることで傾向をつかむ。そんな「自分の中での健康の基準を作る」という考え方は、今後も変わらず大切であり続けると思います。
自分で気づけば行動できる。
だから人間は素晴らしい。

私が研究開発の道に進んだ原点は、小さい頃に飼っていた金魚が病気になってしまった経験でした。ペットショップで薬を買ってもらい、与えてみましたが治らず、「助けられなかった」という後悔の気持ちが強かった。その思いを原動力に水産系の大学へと進学し、大学院では魚の病気の予防を研究。仮説を立てて解き明かしていく、その度に新しい発見があるのが楽しい時間でした。
そんな魚の研究をしていた私が、今こうして人間の病気を予防する仕事をしているのは、研究者として活動する中で得た一つの発見からです。それは「行動できるのが人間の素晴らしいところ」ということ。魚は言葉を話せないし、外から誰かが気づいてあげないと治療できません。けれど、人は体調が悪ければ誰かに助けを求められるし、病院にも行ける。自分で気づいてアクションし予防できるのです。ただ、なかなか気づけないのが問題です。早く気づく仕組みを作ることに貢献できる人が必要なのではないかと。
パンデミックの影響もあり、今の人々は感染症にかかりたくないという思いが非常に強い。そんな人たちのために、「病院に行かなくても、自分の健康を守れるような世の中」をつくることが私の目標です。病院に行こうと思ったときは、実はすでに自覚するほど体調が悪く症状が進んでいるとき。「アプタマーセンサ」のような技術で健康状態を客観的に見ることができれば、より早くアクションができ、もっと効率的に体調管理ができるはずです。一人ひとりが自分の健康をもっと気遣える安心な社会。そういうと大げさですが、私たち人間なら必ず実現できると思っています。
UPDATE:2023.10.19