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デジタル社会の実現に向けた基盤技術として、ブロックチェーンの活用が、注目されています。そんなブロックチェーンの優れた特長とは何か。どんな分野に役立つのか。そして、実際に行われている取り組みとは。活用提案を数多く行っているエバンジェリストが、ブロックチェーンがもたらす価値や活用に向けたヒントを語ります。

特定の管理者不在。利用者同士がシステムを管理

初めに、ブロックチェーンはどんな技術なのか、概要を教えてください。

  • 深田:
    ブロックチェーンとは、特定の人や機関に依存せずに、利用者同士が取引履歴を分散共有して管理する技術です。管理者が存在しない分散台帳技術という点が、従来のシステムと大きく異なっています。取引情報などをブロックという固まりにまとめ、時系列によってブロックを鎖のように連携することからブロックチェーンと呼ばれています。

 
ブロックチェーンはどのような目的や経緯で開発されたのでしょうか。
  • 深田:
    ブロックチェーンは、仮想通貨の実現に向けて“サトシナカモト”という謎の人物がその仕組みの論文を投稿したのが始まりだと言われています。その後、有志メンバーが開発を行い、有名なビットコインが誕生しました。ブロックチェーンを使った仮想通貨の個人間取引は、すでに10年以上の歴史があり、近年はFintechを中心とした金融業界での活用が活発に検討されてきました。
どのような特長があるのでしょうか。
  • 深田:
    ブロックチェーンには、大きく4つの特長があります。
    第1の特長は、管理者不在でも、自律的なネットワークとして動く「非中央集権」。
    第2は、ある利用者のノード(コンピュータ)が停止しても、システムが継続する「高可用性」。
    第3は、ブロックとブロックをつなぐ技術に暗号的ハッシュ関数(※)を使い、不正から守る「改ざんの防止」。
    そして第4の特長は、電子署名や全参加者の検証・承認によって取引の正当性を保証する「不正取引防止」です。
    特に、改ざん防止や不正取引防止などの優れた特長は、金融以外の分野でも活用の期待が広がっています。

    ※暗号的ハッシュ関数:入力した値に対して、まったく別の値が出力される暗号方式。

幅広い分野で期待される、ブロックチェーン活用

どのような分野で活用が期待されているのですか。
  • 深田:
    口座開設や自治体窓口での本人確認の手続き、異なるカード間のポイントのやりとり、地域通貨やトレーサビリティへの活用など、さまざまな分野のシステムにおいて、不正行為が行われにくいという高信頼性が力を発揮します。新しい領域として、個人間の電力取引に活用する実証実験なども既に始まっています。
NECソリューションイノベータは、ブロックチェーンにどのように取り組んできたのでしょうか
  • 深田:
    当社では2016年頃から、ID管理のための技術研究や、地域通貨の仕組みに活用する実証実験をスタートしました。
    地域通貨(コイン)の実証実験では、ブロックチェーンをコインの管理に活用するということだけでなく、一般消費者、商店、自治体など、それぞれにどのような価値があれば地域内でコインが循環し、地域経済の活性化につながるのか、といった観点も含めた検証を行いました。
    また、パブリック型ブロックチェーン(※)に関する技術研究や、NECのFintech対応の一端も担うなど、技術と経験を蓄積してきました。
    2018年には、営業部門や業種SEからの問い合わせに対応する窓口として、ブロックチェーン技術センターも立ち上げました。

    ※パブリック型ブロックチェーン:ビットコインでも採用されているブロックチェーンの最も一般的な形式。(他に、コンソーシアム型ブロックチェーン、プライベート型ブロックチェーンがある)

企業、大学、自治体と、さまざまな取り組みを実施

最近、注力している取り組みとしては、どのようなものがありますか。
  • 深田:
    ブロックチェーンをビジネスに活用したいというお客様向けの教育・サポートや、トレーサビリティシステムにブロックチェーンを活用する取り組みに注力しています。

    電力関連のある企業向けの例では、基本知識や技術に関する座学に加え、ブロックチェーンを活用したアプリケーションを作って実際に動かすハンズオンや、未来世界を想像し今何ができるかというバックキャストの考え方によるアイデアソン、出てきたアイデアをもとにしたPoCの実施なども行っています。

トレーサビリティ関しては、自治体や大学など外部団体と連携した取り組みを積極的に進めていきます。家畜の飼育過程、加工方法など履歴情報を管理し、追跡可能とすることで、安全・安心な食肉提供を目指すという取り組みや、ジビエ(野生鳥獣の食肉)の捕獲から食肉として提供するまでの情報を管理することで、利用を促進し、地域活性化を目指すという取り組みを検討しています。

牛肉の生産工程におけるブロックチェーン活用のイメージ

こうしたシステムは食肉だけでなく、農作物や海産物などにも適用することが可能です。健康志向の消費者が安心して食べられる食材のブランド化など、新たな価値の創出も期待できます。
ただ一方で、システムを整備するためにはコストがかかるという課題もあります。技術的な仕組みとともに、経済的なメリットを生み出す新たなビジネスモデルを構築することが、ブロックチェーンの活用拡大において重要なカギとなります。

技術的な知見と業種の知識で、お客様を支援

ブロックチェーンのエバンジェリストとして、深田さんはどんな業務を行っているのでしょうか。
  • 深田:
    ブロックチェーン技術センターのセンター長として、お客様向けの教育サポート、コンサルティングを行っています。
    ブロックチェーンの研究者としては、ID管理やトレーサビリティの実現性、パブリック型ブロックチェーンの可能性に関する研究を継続するとともに、技術関連の最新情報を日々キャッチアップして、新たな技術を身につけるようにしています。
仕事に対して、深田さんにはどんなこだわりがあるのでしょうか。
  • 深田:
    コンサルティングを行うためには、技術的な知見とともに、もう一つ大切なものがあります。それは、業種に関する知識です。個々のお客様の課題解決や、新たな価値を生み出すため、有識者とのネットワークを活用するなど、業種特有の知識を深めるための努力を続けています。

    また、ブロックチェーンという技術をお客様に説明する時、私が大切にしているのがわかりやすさです。例えば、ブロックチェーンの一般的な入門資料をさらにかみ砕いてわかりやすくした超入門資料というものを作成しました。
    輸送状況のトレーサビリティを説明するためには、IoT機器のサンプルを自作しました。温度・湿度・気圧などが計測できるセンシングキットです。実際に動作するものをお客様に見ていただくことで、IoTとブロックチェーンを連携したトレーサビリティの仕組みが、より具体的にイメージできるようになります。

正しい理解と活用で、ブロックチェーンならではの価値を

お客様支援における、NECソリューションイノベータのアピールポイントは何ですか。
  • 深田:
    NECグループの中で唯一ブロックチェーン専門の技術窓口を構えているため、幅広い分野のお客様への活用提案やサポートの実績があることです。
    また、トレーサビリティへの活用において、正確なデータを把握するために必要となるIoT技術も当社の強みの一つです。社内連携によって最新の技術を活用することが可能です。
    「ブロックチェーンについて、NECソリューションイノベータなら安心して相談できる」そんなパートナーを目指し、NECグループがこれまで築き上げてきた「品質」を大切にしながら、ブロックチェーンだから実現できる提案を行っていきたいと思います。
今後の展望を教えてください。
  • 深田:
    新たなビジネスチャンスの可能性をこれからも広げるために、当社ではブロックチェーン技術をもっと容易に利用できるインターフェースを開発・提供するなど、環境づくりにも力を注いでいきたいと考えています。

私自身の展望は、「ブロックチェーンをさらに広めていくこと」です。
コロナ禍で外出自粛の中でも、押印のために出勤するといった問題点が浮き彫りになっています。こうしたことがきっかけで、取引や契約、各種手続きなど、ビジネスや日常生活のデジタル化がさらに加速し、基盤技術としてのブロックチェーンの適用拡大も見込まれます。ブロックチェーンの正しい理解・活用を社内外に向けて発信することで、デジタル社会の実現に貢献していきたいと思います。

(2020年5月18日)