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新政酒造株式会社 佐藤祐輔社長
インタビュー記事

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伝統×イノベーション
昔の技術を守ることが
次代のイノベーションを生む

秋田県秋田市。創業170年を迎える老舗酒蔵の新政酒造様は、伝統的な酒造りを継承しつつ、新しい取り組みを次々と打ち出し、伝統と革新の二つの軸で日本酒業界に新風を巻き起こしています。老舗酒蔵の枠組みを超え、日本酒文化全般に及ぶ技術と伝統の保全に取り組む現社長・佐藤祐輔氏に、銘酒「新政」に込められたポリシーとビジョンについてお話をうかがいました。

新政酒造株式会社
代表取締役社長
佐藤祐輔 氏

撮影:船橋陽馬(根子写真館)

I 伝統的な醸造手法への回帰

酒造りの工程を
すべて見せられる蔵へ

新政酒造様の酒造りの基本方針はシンプルかつ明確です。①秋田県産の酒米を使用、②「きょうかい6号酵母」を用いた醸造、③天然の乳酸菌を活用する伝統製法「生酛(きもと)造り」による純米酒のみを製造。一般的な酒蔵で行われている醸造手法とは一線を画す、昔ながらの仕込み技術を貫いています。
「6号酵母」は、新政酒造五代目蔵元・佐藤卯兵衛氏の時代に「新政」のもろみから発見された酵母です。摂氏10度以下でも問題なく発酵が可能な酵母で、酒どころと言われている東北や北陸、信州などの寒冷地に酒造りが広まる大きな要因のひとつとなりました。
八代目社長の佐藤祐輔氏が、実家である新政酒造に入社したのは2007年。東京でジャーナリストとして活躍していたキャリアを手放しての大きな転身でした。
「入社前、東京や広島の研究機関で醸造技術を学んだのですが、日本酒業界の現状に大きな違和感を感じました。日本酒に限らずワインやビールはもちろん、比較的コスト優先の醸造現場にはお客さまに見せられない部分が少なからずあるんです。代表的なのは仕込みの段階で使われるさまざまな添加物。日本の伝統や文化を代表する酒なのに、製造過程にはお客さまの夢を壊すようなプロセスがたくさんある。そんな造り方を続けていいのかと疑問に思いました」
高度成長期以降、日本酒をはじめ醸造飲料・食品の製造現場ではコスト削減や品質の安定化を図るため、さまざまなテクノロジーが取り入れられました。機械化が進み、醸造アルコールや糖類、酵素剤、活性炭、醸造用乳酸などさまざまな添加物が使用されています。ラベル表示義務がない物質も多く、消費者はどのような添加物が使われているかを知る手段はありません。
「自分が酒造りを始めるなら、そういうブラックボックス的なものを排除したいと思いました。酒造りのすべてをお客さまに堂々と見せられるような蔵にしたかったのです」

撮影:Shingo Aiba
撮影:Shingo Aiba

プロセスは伝統的でも
プロダクトは現代的

入社翌年から、佐藤氏は酒造りの大改革に取り組みます。10年に及ぶ試行と探究の末にたどり着いたのが江戸時代から続く伝統的な手法でした。添加物を一切使わないだけでなく、仕込みの工程も江戸時代後期に確立された技術を中心とした伝統的な手法を再現。洗米は竹の笊(ざる)での手洗い、蒸米は甑(こしき)と木製セイロの2台を用いて少量ずつ蒸し上げ、製麹(せいぎく)は現代ではほとんど使われていない蓋(ふた)という極小の容器で行っています。いずれも高度な職人技が求められる技術で、杜氏や蔵人は昔の資料をもとに技術を再構築し、数年かけて精度を高めていきました。酒母は天然の蔵付乳酸菌が自然に現れるのを待ち、手作業で造る「生酛(きもと)造り」に特化。乳酸剤を添加する速醸系酒母に比べると、発酵に倍以上の時間がかかりますが、ポリシーを貫くためには不可欠な要素でした。さらに、発酵には杉の木桶を使用しています。一般的なホーローやステンレスのタンクに比べ、木桶は温度の管理が難しく、こまめなメンテナンスが必要なため、現在ではほとんど使われていません。しかし、佐藤氏は「同じ機械や道具を使って同じような造り方をしたら、酒の品質も似たようなものになってしまう」と、あえて木桶を選択。現在、蔵には38本の木桶が置かれています。
「木桶は、そこに住み着いている微生物によって独特の味わいが生まれ、それが個性になる。コンピュータで管理して均一なアウトプットを目指すのもいいのですが、酒蔵ごとにアウトプットにばらつきがあるほうが面白いと思います」
伝統的な醸造手法への回帰は、次の時代を切り開くイノベーションの始まりでもありました。佐藤氏は2010年に秋田県内の若手蔵元と「NEXT5(ネクストファイブ)」というグループを結成し、定期的に利き酒会を開いたり、共同醸造プロジェクトに取り組むなど積極的な活動を続けています。そのなかで得た着想や改革のヒントは新政酒造の酒造りに新しい風を吹き込み、現代にふさわしい作品を生み出しています。
「江戸時代の手法を再現してはいますが、出来上がったものは江戸時代ものより確実に進化しています。昔のものをそのまま持ってくればいいという考えではなく、日本酒の本質を取り戻した上で、今の時代にふさわしいものでなければならないと思っています」

撮影:Shingo Aiba
撮影:Shingo Aiba

II 造る技術、見せる技術

消費者の目に止まることが
ファンづくりの入り口

「伝統的な造り方であっても、出来上がったものは現代の作品」。そう語る佐藤氏のスタンスを明確に表すものが「デザイン」です。新政酒造様では、2013年から専属のデザイナーを社員として雇用し、酒瓶のラベルから、パッケージ、ノベルティ等のグッズまですべてのデザインを自社内で行っています。
「現在流通している日本酒の多くは、最先端のバイオ技術やITを駆使して製造したお酒が、難しい漢字で書かれた瓶に入っている、そういう印象があります。私たちはその逆を狙っていて、若い人や日本酒をあまり飲まない人たちにも手にとってもらえるよう、強い印象を持たせています。モダンなデザインに惹かれ、飲んでみて『あ、美味しい』と感じ、『どういう生い立ちの酒なのだろう?』とさらに深く入り込んでいくと、じつは江戸時代から続く伝統的な製法を守り続けていることがわかる。そんな流れで私たちの作品を理解してほしいと思っています」
現在、「No.6(ナンバーシックス)」「Colors(カラーズ)」「PRIVATE LAB(プライベートラボ)」などのシリーズがあり、瓶やラベルのデザインは日本酒というよりワインや洋酒のようなスタイリッシュなデザインが特長です。
「造り方は決して変えないけど、味やパッケージについては、思いきり現代の感覚に振り、過去の作品に固執せず柔軟に変化させています」
唯一の定番生酒である「No.6」は、6号酵母の魅力をダイレクトに表現することを目的として造られている人気商品。10周年記念企画では、6人のアーティストによるオリジナルラベルが話題を呼んでいます。また、瓶の裏側に貼られている裏ラベルには、原材料名や精米歩合、発酵容器(木桶)などのほか、瓶詰月・出荷月など細かく記載され、造り手の思いを伝えるとともに、製品管理に必要な情報をすべて公開し、トレーサビリティに役立てています。

撮影:Shingo Aiba

すべてに通底する世界観が
技術の土台を支えている

商品ラインナップには『異端教祖株式会社』『農民芸術概論』『見えざるピンクのユニコーン』などユニークな名前を持つものがあります。いずれも哲学や文学に由来する言葉で、これらも佐藤氏の持つ世界観を表現したものです。
「全銘柄に通底する世界観がないと、底の浅い表面的なデザインだと見抜かれてしまいます。分かりやすさを求め、ユーザーフレンドリーに徹したからといって、お客さまが伝統文化に尊敬の眼差しを向けてくれるわけではありません。幅広い消費者にアプローチはするけど、過度におもねらず自分たちの主張を通すところがないと、伝統製法の価値をきちんと伝えることはできないと考えます。そういう意味では、土台の技術がしっかりしていることを示すデザイン戦略でもありますね」
世の中におもねることなく、自分たちの思想や美学を前面に押し出す。時にはあえて難解なテーマを投げかけることで、消費者との予定調和を壊す。そんなメッセージ性の強いデザインが多くの日本酒ファンを惹きつけ、新政作品の認知度はここ数年急速に高まっています。

III 技術を守ることは文化を守ること

絶やしてはならない技術は
自分たちで守るしかない

2015年、新政酒造様は秋田県のほぼ中心にある鵜養(うやしない)という土地に新たな拠点をつくりました。そこには契約農家と自社圃場を合わせて23町歩以上の田んぼが広がり、清涼な水をたたえた大小の川が流れ込み、周囲は杉・ブナ・ミズナラなどが茂る山林に囲まれています。佐藤氏は、ここで無農薬酒米の栽培に着手し、秋田杉を使った木桶の製造も計画しています。
「もともとは無農薬栽培の酒米が欲しかったんです。仕込み段階で添加物は使わないと決めているのに、原材料に農薬が使われているのでは矛盾してしまいます。ところが、秋田で無農薬の酒米を栽培しているところがほとんどなかった。誰も作ってくれないので自分たちで作らざるを得なかったというのが実情ですね」
もうひとつの重要なプロジェクトが木桶の製造で、鵜養に工房を建設し、ゆくゆくは他社からのオーダーにも応えられるような体制を築く計画を進めています。
「木桶の工房を作ることになったのは、日本で唯一の木桶製造会社さんから大桶の製造をやめると言われたことがきっかけです。うちは今でさえ木桶だらけなのに、今後は誰がメンテナンスするのか、壊れたら誰が新しい木桶を作るのか。このまま木桶の技術が失われてしまったら私たちの目指す酒造りもできなくなる可能性もあり、かなり切羽詰まった事態でした」
そこで、設計士の資格を持つスタッフを大阪・堺の桶屋「藤井製桶所」に派遣し、桶造りの技術を習得させ、2018年から仕込桶の自社制作を始めました。
「誰かが続けてくれるならそこまでやる必要はなかったのですが、後を継ぐ人がいないなら自分たちでやるしかない。本来なら、国や自治体が伝統技術の保護や後継者育成をやってもよいくらいだと思いますが、日本酒の正統性・継承性は維持しなければならないので、なかば公共事業のような気持ちでやっています」
将来的にはこの地に酒蔵も建て、原料の調達から製造までを鵜養で完結させたいという佐藤氏。農業や林業など地場産業の活性化にも貢献したいと考えています。
「鵜養だけで米も作るし酒も造る。周辺の山地の秋田杉で木桶を造り、秋田の材料を加工した文化的なプロダクトを生み出していく、そういう場所にしたいですね」

撮影:Shingo Aiba

酒造りの技術をアーカイブする
総合日本酒文化保護企業へ

一般的な酒蔵では仕込みを行う冬の間だけ杜氏や蔵人を雇う習慣が長く続いていますが、近年は杜氏を社員として通年雇用する酒蔵も増えてきています。新政酒造様も、2008年に杜氏の招聘をやめ、製造スタッフのすべてを社員として通年雇用としています。
「私たちの蔵は、人間が身につけている技術によって製品をつくり出しています。私にはやりたいことがはっきり見えているので、私の考えていることを理解してもらうには、高い技術を持った人材を社員として雇い入れ、一緒に働きながら意思の疎通ができる環境が必要です」
そもそも酒蔵とは杜氏も蔵人も高度な技術を持った職人によって運営されるものであり、「人が持つ技術」によって支えられている産業です。新政酒造様では、さらに技術の範囲が広がりつつあり、木桶職人や無農薬栽培農家、デザイナーなど専門的な技能を有する技術者集団へと発展しています。それらの技術が伝統を守り、継承し、次の世代へつなげていくことの重要性を佐藤氏は痛感しています。
「木桶の製造技術も、農薬を使わない米づくりも、失ってはならない貴重な技術です。私たちは、酒造りに関する伝統技法のみならず、その周辺文化もアーカイブしていかなければならないと感じています。酒蔵と言うよりは、『総合日本酒文化保護企業』と表現した方がいいかもしれません」
2020年、佐藤氏は有志とともに、全国の日本酒・本格焼酎の蔵元をオンラインで結ぶ「一般社団法人J.S.P」という団体を発足しました。地方の中小酒蔵がネットワークを形成し情報交換や相互扶助を行うのが主な目的です。その代表理事も務めている佐藤氏は、日本酒や本格焼酎の魅力をオンラインで発信する新たな試みにも力を入れています。

伝統的な酒造りを支えるクラウドサービス

新政酒造様は「NEC 清酒もろみ分析クラウドサービス」を利用しています。本サービスは、清酒造りに必要な情報をクラウドに記録し、仕込み経過を可視化するサービスです。スマートフォンやタブレットで外出先からも仕込み経過を見ることができ、杜氏や蔵人の業務をサポートします。佐藤氏も、「私は杜氏ではありませんが、制作総指揮という立場で常に蔵の状況を把握しておく必要があります。「NEC 清酒もろみ分析クラウドサービス」は、出張先でももろみの状態をチェックできるのでとても便利だと思います」と語り、伝統的な酒造りを支える技術のひとつとして活用しています。

企業情報
新政酒造株式会社 様

住所   秋田県秋田市大町6丁目2番35号
創立   嘉永五年(1852年)
事業概要 日本酒の醸造および販売
URL   new windowhttp://www.aramasa.jp/

撮影:Shingo Aiba

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