コロナ禍で中堅・中小企業のデジタル化は待ったなし DXを加速させるための経営者の理想的な姿 | NECソリューションイノベータ

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専門家コラム

コロナ禍で中堅・中小企業のデジタル化は待ったなし
DXを加速させるための経営者の理想的な姿
【執筆者】野口 浩之氏
青山システムコンサルティング株式会社 代表取締役

UPDATE : 2021.06.25

短期間で市場ニーズが急激に変化する昨今、DXはあらゆる業界で企業が存続するのに避けて通れない取り組みとなっています。コロナ禍において社会環境が大きく変化したことで、業務のデジタル化はどの企業にとって喫緊の課題といっても過言ではありません。

DXへの取り組みは最優先の経営課題と理解しながらも、資金力の乏しい中堅・中小企業では、デジタル化を実現する予算や人材の確保に頭を抱えています。

中堅・中小企業はどのようにDXと向き合えばよいのか。そして、どうしたら成功できるのか。『勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書』の著者・青山システムコンサルティングの代表取締役 野口 浩之氏がそのヒントを解説します。

「DX」とはデジタルを活用した
お金を稼ぎ続ける仕組みの構築

DX(デジタル・トランスフォーメーション) というキーワードは、すっかり世の中に定着しました。DXは、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン氏(ウメオ大学教授)によって提唱された概念であり、「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」というものと定義されています。この定義はとても素晴らしいと思うものの、一般的な営利を目的とする企業の視点で考えると、少々理解しにくく、取り組みにくい定義かもしれません。

本記事においては、一般的な企業の視点でDXに向き合うために、「DXとは、デジタルを活用してビジネスモデルを変革し、お金を稼ぎ続ける仕組みを作ること」と定義したいと思います。

2020年1月頃より現在にいたるまで、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、社会全体が大きな影響を受けています。このような状況下において、「お金を稼ぎ続ける」ために、変革を余儀なくされた企業も数多かったといえます。

私の身の回りでも、実際に以下のような変革がみられました。

  • 移動を伴い頻繁に顧客訪問をする営業スタイルから、Web会議を中心とした効率的な営業スタイルへの転換
  • 取引先からFAXで受注する方式から、BtoB Web販売サイトによる受注方式への切り替え
  • 実店舗での飲食提供を主体とした経営スタイルから、Webサイトで予約を受け付けての配達・持ち帰り事業の拡大

コロナ禍により事業が立ち行かなくなった企業も少なからずあります。その一方で「お金を稼ぎ続ける」ための変革に成功した企業が、数多く存在することに注目すべきでしょう。

今回は新型コロナウイルス感染症の蔓延による影響を受けての出来事でした。この先も別の感染症や大規模災害などの影響により、経済活動や生活様式が変化し、企業が「お金を稼ぎ続ける」ための変革を余儀なくされる状況が発生し得ることは、誰もが理解していることでしょう。そのような状況下でも成長し続けられる企業であるためには、DX に取り組める組織であること、DX への取り組みに着手することは重要なポイントの一つではないでしょうか。

大企業よりも中堅・中小企業ほど
DXに取り組みやすい理由

中堅・中小企業における DX への取り組みは、まだまだ道半ばの企業が大半である状況ですが、実は中堅・中小企業ほどDXに取り組みやすいのです。なぜなら、中堅・中小企業は大企業ほど組織やリソースが複雑ではなく、経営者が本気になり主導して取り組めば、迅速かつ効率よく進められるからです。中堅・中小企業は、大企業ほどステークホルダーが多くなく、再挑戦や計画変更もしやすいこともメリットでしょう。

既存事業が順調な企業は、「なぜわざわざお金をかけて、DXに取り組まなければならないのか」と思うかもしれません。しかし、いま取り組み始めないと、多くの産業や企業は先細りになるのは目に見えています。デジタルの世界は一瞬で攻め込まれ、気がついたときには取り返すのが困難な状況に陥っていることが珍しくありません。

異業種から新しい技術やビジネスモデルが参入し、あっという間にシェアを奪うような事例も、実際によく目にするようになりました。そうなってからDXに取り組み始めては、もはや手遅れなのです。

成功する企業の共通点は
強力なリーダーシップを備えた経営者の存在

DX という言葉が世の中に生まれてきていない時代から、中堅・中小企業でもいまでいうDXに成功している企業は存在します。それらの企業には、以下の共通点があります。

  • 経営者がリーダーシップをとり、不退転の決意をもって実現
  • 事業の「ありたい姿(Will Be モデル)」を考えるところからスタート

※「Will Beモデル」は青山システムコンサルティング株式会社の登録商標(商標登録 第6272163号)です。

経営者が現場に「DX に取り組め」と指示をするだけでは、成功する見込みはまずありません。中堅・中小企業におけるDX の成功には、経営者の強いリーダーシップを欠かすことはできません。

また、注目すべきポイントは、成功している企業はDXへの取り組みをスタート地点としていないということです。DX というキーワードを先行させて取り組むことが必ずしも失敗要因というわけではありませんが、「ありたい姿(Will Be モデル)」を実現するためのDXであることを忘れてはいけません。

DX人材はどのように確保するか?

経営者のリーダーシップだけではDX への取り組みは難しく、DX人材・IT人材(以下、DX人材)も必要です。ところが、DX人材はおろか、IT部門やIT担当者が配置されていない中堅・中小企業が数多く存在しています。そのような組織では、DX はなかなか前に進みません。

優秀なDX人材は、時として社員3人分、5人分、それ以上の働きをする可能性があります。まだDXへの取り組みや、IT活用が十分に進んでいない中堅・中小企業ほど、優秀なDX人材を社内に配置できれば、効果は絶大です。

中堅・中小企業において DX人材を確保する際には、ITベンダーなどの外部から人材登用をすることが多いのではないでしょうか。ところが、それでは成果を得るのに長い時間が必要になることや、成果につながらないことが多いのが実態です。

中堅・中小企業におけるDX人材は、以下のような人材を社内登用するのがDX成功への近道と考えています。

  • 会社のビジネスを理解している
  • 社内で一定の信頼を得ており、社内で協力を得やすい

実際には技術的な知識や経験も必要になってきますが、後から学ぶこともできますし、外部リソースで補完することもできるでしょう。

デジタル化の鍵を握る
経営者に不可欠な「Will Be モデル」

「DX に取り組む」「DX を推進する」という表現について、私は実は違和感をもっています。企業が「Will Beモデル(ありたい姿)」を考え、「Will Beモデル」を実現するためにデジタルを利用した変革をしていくことがDX の本質であり、DX そのものは取り組む、推進する対象ではないはずです。

さて、「Will Beモデル」を描き、理想を追求することが重要であるとお伝えしました。一方で、理想を追求するあまり、費用や期間を大きく使い過ぎて、いつまでも「お金を稼ぎ続ける仕組み」が実現できずに失敗する姿が世の中には多いように思います。そのような失敗に陥らないためには、小さい成功を積み重ねることが重要です。

幸い、多種多様な新しい技術がクラウドサービスで提供される世の中になり、短期間・低コストでそれらを活用しやすくなりました。中堅・中小企業においても、桁外れな投資や長期間に渡る研究開発をしなくても、DXに取り組み始めやすい環境といえます。このような環境を活かし、小さな成功を積み重ねながら取り組むことが、重要なポイントです。

■結び:変革の第一歩は小さな成功体験の積み重ねから

中堅・中小企業がDXに取り組まなくてよい理由は見当たりません。経営者が強いリーダーシップをとり、「Will Beモデル」を考えることから始めることが、成功への第一歩です。小さな成功を積み重ねながら変革をし続けることは、これからの時代に成長していける組織の絶対条件といってもよいでしょう。

■執筆者プロフィール

野口 浩之(のぐち ひろゆき)

青山システムコンサルティング株式会社 代表取締役

慶應義塾大学経済学部卒業後、中堅の独立系システム開発会社に入社。システムエンジニア・プロジェクトリーダーなどを経験した後、青山システムコンサルティング株式会社に入社し、コンサルタント職に就く。IT戦略策定からシステム化計画、システム開発、保守運用、そしてDX など幅広い知識と経験を活かし、第一線でコンサルタントとして活動している。共著書に『業務効率UP+収益力UP 中小企業のシステム改革』(幻冬舎メディアコンサルティング)『勝ち残る中堅・中小企業になる DXの教科書』(日本実業出版社)がある。