SAPの2027年問題とは?移行の注意点を解説 | NECソリューションイノベータ

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コラム

SAPの2027年問題とは?
移行の注意点を解説

UPDATE : 2022.03.25

基幹システムパッケージの代表格である『SAP ERP』ですが、『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)の標準保守期限が2027年末で終了となります。この「SAP 2027年問題」をどのように乗り越えるかは、自社の今後のIT戦略を大きく左右するでしょう。そこで本記事では「SAP 2027年問題」のポイントをわかりやすく解説します。

INDEX

SAPの2027年問題とは

「SAP 2027年問題」とは、大企業を中心に世界中の企業で基幹システムパッケージとして使用されているERP(Enterprise Resource Planning/企業資源計画)ソリューション『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)の標準保守(メインストリームサポート)が2027年末に期限を迎えるという問題です。かつては2025年末が期限のため「SAP 2025年問題」でしたが、期限が2年延長されたことを受け「SAP 2027年問題」となりました。対象となるSAP製品を使用している企業は、最新の基幹システムパッケージである『SAP S/4HANA』に移行するなどの経営判断が迫られています。

ERPの代表格「SAP(エス・エー・ピー)」

『SAP ERP』や『SAP S/4HANA』は、ドイツに本社を置くSAP SE(以下、SAP社)が提供する基幹システムの統合パッケージ(ERPパッケージ)ソリューションです。世界中の大企業が社内の情報を効率的に管理するために利用しているSAP社のERPソリューションは、効率的な企業活動に不可欠なERPの代名詞的存在です。その最大の特長はグローバル対応の強さ。世界各国で利用されているSAP製品は、諸外国の法令、商慣習への対応にも優れているため、グローバル展開を狙う企業にとっては特に代替が効かない存在でしょう。

求められる経営判断

『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)の標準保守期限が2年延期され時間の猶予が多少はできましたが、基幹システムの移行は簡単なプロジェクトではないため、楽観視はできません。システムの移行にはコストと時間を要するうえ、そもそも今後のデジタル戦略を踏まえて移行方針を策定し、経営判断を下す必要があります。
またSAP製品の導入や移行を支援するSAPコンサルタントや、システム開発を担うパートナー企業の選定と確保も安穏としていられません。現在は、経済産業省の『DXレポート』で警鐘されているようにIT人材が不足している状況下です。今後は、従来通りのスケジュール感、予算感での移行が難しくなる可能性もあるでしょう。

SAP 2027年問題への対応は選択肢が3つ

『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)を導入している企業が迫られている「SAP 2027年問題」。対応方法は次の3点が挙げられます。

選択肢① 『SAP S/4HANA』へ移行

『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)から最新版『SAP S/4HANA』への切り換えはSAP社も推奨している選択肢です。最新版ならではの優れた機能や、クラウド化といった恩恵を享受でき、ビジネスの意思決定の加速に貢献します。ただしシステムの移行には、要件定義やアセスメント、PoC、アドオンの最適化など少なくない高度なプロセスがあり、発生するさまざまなコスト(資金的/人的/時間的)を踏まえたデジタル戦略の構想策定が求められます。またシステム移行を機にアドオンを含めた業務プロセスを見直すことで、抜本的な業務改革であるBPR(Business Process Re-engineering:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を図ることができます。

選択肢② 移行せず継続して利用

あえて既存の『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)を使い続けるという判断も可能です。現在の保守基準料金に2%追加することで、保守期限を2030年末まで伸ばす延長保守サービスも用意されています(Enterprise Supportだけでなく、Standard Supportのユーザーにも提供。ただし“EhP6”以上を導入していることが条件)。また、第三者による保守サービスを受ける選択肢もあります。
システム基盤を刷新しないため業務面で混乱を起こすことはありませんが、機能が拡張されることもありません。デジタル戦略において最適化を進めている競合他社からは後れを取る恐れがあります。

選択肢③ 他のERPサービスへ移行

このタイミングでSAP製品の利用を終了し、クラウドベースのERPサービスも含めた幅広い選択肢の中から新たな基幹システムを選択するという方法もあります。ただしその場合は、ERPシステムの選定から開発、導入に至るまで多大なコストが発生します。また過去に蓄積したデータや知見、ノウハウが活かせなくなる恐れもあるでしょう。運用マニュアル作成や社内教育の負担も考慮して、構想する必要があります。

次世代のERP『SAP S/4HANA』とは

『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)からの移行先として推奨されている『SAP S/4HANA』は、2015年にリリースされて以降、アップグレードで進化を続けている最新世代のソリューションです。

  SAP ECC 6.0 SAP S/4HANA
インテリジェント
テクノロジー
機械学習などの組み込み分析機能、デジタルアシスタント機能(SAP CoPilotの利用)
データベース ディスクベースのデータベース カラム型インメモリーデータベース
UI 従来型のSAP GUI 最新型のSAP Fiori
導入タイプ オンプレミス型 オンプレミス型、クラウド型、ハイブリッド型
サポート 2027年末 2040年末

ここでは、システム移行を検討するために重要な『SAP S/4HANA』の代表的なメリットを紹介します。

メリット① 高速なデータ処理

『SAP S/4HANA』は、「SAP HANA」と呼ばれるカラム型インメモリーデータベースで稼働します。全てのデータをメモリー上に保有することで、ハードディスク上にデータを保有する場合と比べて、飛躍的に高速なデータ処理を実現しました。またカラム型のデータ格納方式により適正にデータ圧縮を行うことで、高速処理に貢献しています。

メリット② リアルタイム分析とレポーティング

『SAP S/4HANA』では、オンライントランザクション処理(OLTP)機能とオンライン分析処理(OLAP)機能が統合されていることで、リアルタイムなデータ利用が可能です。また構造化データ(行列の概念を持つ整理されたデータ)だけでなく、規則性のないドキュメントデータや地理空間データなどといった非構造化データに対応している点もポイント。さらに機械学習やテキストマイニングなどの機能を活用すれば、高度な分析やリアルタイムな予測をビジネスの現場に投入できます。

メリット③ ユーザーフレンドリーなUI

『SAP S/4HANA』で新たに採用された「SAP Fiori(フィオーリ)」というUI(ユーザーインターフェース)は「機能中心からユーザー中心へのシフト」を掲げており、ユーザー目線に立った直感的な操作を提供します。実装されている多くのアプリを各自の用途に合わせて利用でき、組織のデータ活用推進や生産性向上に貢献するでしょう。さらに「SAP Fiori」はマルチデバイス・マルチブラウザに対応している点も特徴。スマートフォンやタブレットなどの端末の種類、Google ChromeやFirefoxなどのブラウザの種類を問わずに利用可能です。なお開発環境やライブラリは公式に提供されているため、ユーザー自身で開発・拡張することもできます。

メリット④ クラウドでもオンプレミスでも導入可能

『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)では、オンプレミス環境での導入を前提としていました。しかし『SAP S/4HANA』は時代の変化に対応し、AWS、Google Cloudといったパブリッククラウドのほか、パートナー企業が提供するマネージドクラウド上でも動作させられるようになりました(ハイブリッドクラウド運用も可能)。クラウドを効果的に活用すれば、迅速な導入や事業規模に合わせたスケールアウトなどのメリットも期待できます。
オンプレミスのカスタマイズ性やコントロール性、クラウド導入による迅速性やTCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)など、重視する要件によって導入形態を選択できる点はメリットです。

SAP S/4HANAへのマイグレーションは、パターンが3つ

『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)から『SAP S/4HANA』へ移行(マイグレーション)する際には、アセスメントの実施から始まります。求めるビジネス要件に対してどのような移行手段が採択可能か費用を含めて調査するためです。さらにPoCによる実環境の検証を経て、ようやく本格的なシステム移行へと進みます。なお採択するマイグレーションの方式には、大別して3つのパターンがあります。

パターン① ブラウンフィールド(コンバージョン)

ブラウンフィールド(コンバージョン)は、原則、既存の要件・環境を活かしつつデータを変換して『SAP S/4HANA』へ移行する方式です。『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)からの変化が少ない移行方法であるため、次に紹介するグリーンフィールド(リビルド)と比べてユーザーへの影響や移行コストを抑えることが可能です。
現行踏襲する方針であるため、新規機能の恩恵が少なく抜本的なビジネスの刷新(BPR)は望みにくいですが、新UIの活用や移行したデータによるAIや機械学習を用いた高度な分析は可能です。最新のERPシステムへ“迅速”に移行することは、DX・デジタルシフトのための基盤整備であり、将来的にビジネスをイノベーションするための準備になり得ます。

パターン② グリーンフィールド(リビルド)

『SAP S/4HANA』で新たな環境を一から再構築する方式がグリーンフィールド(リビルド)です。大がかりな基幹システム改修に合わせて業務プロセスを見直すことが可能であるため、現在のビジネスプロセスに不満点が多い場合にメリットがある移行方式です。SAP社が積み上げたノウハウをもとにした最適解である「SAPベストプラクティス」というテンプレートに合わせて構築すれば、先進的で効率的なプロセスを自社ビジネスに採り入れ標準化することができます。
ビジネス要件を整理し、アドオンを含めた見直しを行うため、相対的にコストと時間、リソースが必要となる点は留意しましょう。

パターン③ 選択データ移行(Selective Data Transition)

ブラウンフィールドとグリーンフィールドの中間に相当するマイグレーション手法です。現在利用している『SAP ERP 6.0』(ECC 6.0)で扱っている一部のデータを段階的に『SAP S/4HANA』に移行させながら、機能改修を同時に進めます。システム移行とデータ移行を分離し、先行して構築したシステムにデータを選択的に移行することで、事業部単位の移行や、不要データの削除によるダウンタイムの削減、アーカイブデータの活用なども可能になります。なお、この選択データ移行を実現するためのサービス『SAP DMLT(Data Management and Landscape Transformation)』がSAP社から公式に提供されています。

マイグレーション検討時のポイント

『SAP S/4HANA』へのマイグレーションには、難易度とリスクの高い業務が数多く発生します。例えば、独自開発でブラックボックスと化した数々のアドオンの移行や、新たなデータベース形式のためのデータ連携、文字コード変換(『SAP S/4HANA』はUnicode化が必須)など専門知識が求められる業務が存在します。また基幹システムの改修には、必要な機能を精査するために事業部をまたいだ綿密な連携と、それぞれの業務に対する深い理解が求められます。そのため、組織内にプロジェクトチームを発足しつつ、高度なスキルを有する専門人材(SAPコンサルタント)やパートナー企業の選定と確保をすることが肝要です。

2025年の崖・人材不足へ先手を打つ

『SAP S/4HANA』へのマイグレーションについて、いくつかの注意点を紹介してきましたが、とりわけ深刻な問題が、専門人材・パートナー企業の早期確保です。経済産業省は『DXレポート』で「国際競争に勝ちぬくシステムへのデジタルシフトを手がけられる高度IT人材が今後ますます不足していく見込み」であることに触れ、「2025年の崖」問題として警鐘を鳴らしています。『SAP S/4HANA』に長じたコンサルタント、エンジニアは現時点でも引く手あまたで確保が難しいという状況。それを裏付けるように、SAP人材を育成するプロジェクトが発足しています。
いざマイグレーションを進めようとしたときに人材が不足していると、移行の遅延や不具合のリスクが生じ、機会損失やシステム停止による信頼の失墜を招く恐れがあります。経営陣には、現況と将来のリスクを把握し、一刻も早い経営判断を下すことが求められています。

システムの標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」

SAP社は『SAP S/4HANA』へのマイグレーションに向け、「Fit to Standard」という概念を提唱しています。基本パッケージで実現できない一部の機能をアドオンで実現する「Fit & Gap」で生まれた独自性の強いアドオンは、将来的なバージョンアップの妨げになりかねません。変化への柔軟性を失い、方針変換の際にさらなるコストと時間、リソースが必要となることは問題です。「Fit to Standard」はシステムパッケージの標準機能に、自社業務を合わせていくという方法論。システムのバージョンアップに合わせてアップデートすることで、最新機能による最適化の恩恵を享受することができます。標準化を徹底することで、時代の変化へ追随しやすくなる点は大きなメリットです。

マルチクラウド時代における経営基盤の最適化

SAP社も提唱する「Fit to Standard」は、ビジネスを巡るさまざまな環境の変化に継続的に対応できるため、システム移行を機にビジネスプロセスの抜本的な改革を図るのであれば検討すべき手法です。また「リフト&シフト」(まずは既存システムをそのまま移行し、段階的に最適化していく手法)でクラウドへ移行を進めていく方法もあります。「SAPベストプラクティス」で業務を標準化し補完すべき部分を他のクラウドサービスで実現する「マルチクラウド環境」は一考に値します。データ連携や統合管理・監視基盤の整備など、マルチクラウド環境での運用も含めたITデジタル戦略の構想が肝要です。

まとめ

「SAP 2027年問題」は基幹システムという業務の根幹を担うシステムの問題だけに“間違い”が許されません。今後のDX・デジタルシフト戦略に向けて「自社にはどのような選択肢が存在するのか」、置かれている状況を正確に把握するところから早々に手を打つべきです。そして最善手を取るためには、最新の専門知識と移行プロジェクトの実績に基づくノウハウを有するパートナー企業の確保がこれまで以上に重要になっていくでしょう。