デジタルツインとは?製造業や都市などでの活用事例8選 | NECソリューションイノベータ

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コラム

デジタルツインとは?
製造業や都市などでの活用事例8選

UPDATE : 2022.07.01

デジタルツインとは、現実世界の環境から収集したデータを使い、仮想空間上に同じ環境をあたかも双子のように再現するテクノロジーのこと。製造業や都市開発で近年注目を集めています。最先端のITやAIを駆使した “デジタルの双子” がどのような価値を産み出すのか。基礎知識から実際の活用事例までをわかりやすく解説します。

INDEX

  • デジタルツインとは?
    現実の環境を仮想空間に再現するテクノロジー
    • デジタルツインが注目される背景
    • デジタルツインとシミュレーションの違い
  • デジタルツインのメリット
    • 試作期間の短縮・コスト削減
    • 品質の向上・リスク低減
    • 予知保全の実現
    • 遠隔での作業支援・技能伝承
    • 社会課題解決へのアプローチ
  • デジタルツインに活用されるおもなテクノロジー
    • IoT:モノのデータを収集
    • 5G:リアルタイムでデータを反映
    • AI:収集したデータを分析
    • AR・VR:デジタル空間を視覚化
    • CAE:デジタル空間でシミュレーションを実行
  • デジタルツインの活用事例8選
    • ①デジタルツインで「止まらない工場」を実現しロスを低減(ダイキン工業)
    • ②熟練技術者が設備異常を遠隔から支援(旭化成)
    • ③適切なタイミングでの航空機エンジンのメンテナンスを可能に(GE)
    • ④車両に搭載したデジタルツインで走行状態を常に識別、修正(テスラ)
    • ⑤モノやサービスが情報でつながる街をつくるための検証に活用(トヨタ自動車)
    • ⑥3D都市モデルを整備・オープンデータ化し誰でも利用可能に(国土交通省「PLATEAU」)
    • ⑦国を丸ごとデジタルツインにし、都市情報をリアルタイムで可視化(シンガポール)
    • ⑧“防災版デジタルツイン”で未来の災害対策に挑む(内閣府「CPS4D」)
  • まとめ

デジタルツインとは?
現実の環境を仮想空間に再現するテクノロジー

デジタルツインとは、現実世界の物体や環境から収集したデータを使い、仮想空間上に全く同じ環境をあたかも双子のように再現するテクノロジーのこと。直訳で「デジタルの双子」という意味です。IoTなどで現実空間から収集した膨大なデータをもとに、仮想空間上でAIが分析やシミュレーションを実施。現実空間へフィードバックすることで、将来起こる変化にいち早く対応することが可能となります。

2022年2月に発行されたBCC Research「デジタルツイン:世界市場2026年予測」(取扱い:リサーチステーション合同会社)によると、デジタルツインの世界における市場規模は2021年では49億ドル、2026年には約502億ドルにのぼるとし、市場での平均年成長率は59.0%に達すると予測されています。

デジタルツインが注目される背景

デジタルツインという概念自体ははるか以前から存在しており、工学分野におけるシミュレーションの技術のひとつとして知られていました。源流と言われているのが1960年代に米国国家航空宇宙局(NASA)が編み出した「ペアリング・テクノロジー」です。ペアリング・テクノロジーは地球側に月側と全く同じ機材設備を複製しておくことで、トラブルが発生した際、スピーディに適切な対応ができることを目的としていました。実際、1970年に行われたアポロ13号の月面着陸ミッションにおいて、爆発した酸素タンクの遠隔修理指示に活躍しました(映画『アポロ13』でもその様子が描かれています)。

NASAの試みは実際に複製を用意するというものでしたが、デジタルツインではコンピューター内の仮想空間上に構築。IoTやAIを始めとする技術進化によって、これまでとはケタ違いの解像度で現実空間を再現できるようになったことから、近年、実用化が劇的なスピードで進んでいます。

デジタルツインとシミュレーションの違い

シミュレーションとは、国立国語研究所の「外来語言い換え提案」によると「模擬実験」「想定実験」「模擬行動」のこと。つまり、現実世界で起こるさまざまな事象を本物に似せた空間で実験することで、そこで発生する出来事の検証や予測を行う技術と言えます。本物に似せた空間で行うシミュレーションにはさまざまな形態があります。先に紹介したペアリング・テクノロジーもそのひとつですし、他にも車の走行実験に使う本物の道路に似せたテストコースや、台風の影響を疑似的に再現する風洞実験施設なども実際に使われています。

デジタルツインは、シミュレーションの最新の形態のひとつ。現実空間での再現と異なりリアルタイム性が高く、トライアンドエラーが容易であるなど、仮想空間ならではのメリットを数多く備えています。

デジタルツインのメリット

現在、デジタルツインはすでに製造業、建設業、物流業などの産業課題解決に活躍しています。また、社会課題の解決などにも期待を集めています。ここではデジタルツインの主なメリットを紹介します。

試作期間の短縮・コスト削減

これまでのモノ作りでは、製品を完成させるまでに何度も試作を繰り返す必要があり、コスト(時間、人員、費用)が大きな負担になっていました。一方デジタルツインでは、試作のプロセスを現実の環境を反映した仮想空間で行うことができます。試作期間が大幅に短縮され、かつコストを大きく削減できます。

品質の向上・リスク低減

全てが仮想空間で完結するデジタルツインはトライアンドエラーが容易で、製品の試作をローコストで繰り返すことが可能です。これにより細かな欠陥の洗い出しが可能となり、完成品の品質の向上につながります。また、製造ラインも含めた検証・予測ができるため、製造時におけるリスクの低減も期待できます。

予知保全の実現

製造の現場においても、デジタルツインは大きな力を発揮します。工場設備などで異常が発生した際、ライン上に設置された各種センサーが状況をリアルタイムに正しく伝えることで、遠隔地においても正しい状況判断・原因究明ができます。また、蓄積された情報から将来的な故障の予測をする予知保全も可能となります。

遠隔での作業支援・技能伝承

先に紹介したアポロ13号の事例のように、デジタルツインを活用した遠隔地からの作業指示もできるようになります。現場に出向くことが必須だと考えられていた作業監督者、指導員のような業務もリモートで行うことが可能に。また、作業内容を記録、蓄積することで熟練者の技術やノウハウを、デジタルツインを通して技術伝承していくこともできるでしょう。

社会課題解決へのアプローチ

デジタルツインは社会課題の解決にも有用です。例えば、気象災害における避難訓練の実施計画立案や、実際に起こり得る問題・課題の洗い出し、解決手段を見出す取り組みへの活用などが始まっています。そのほか、実際の天候や土壌データを元に仮想空間に農場を再現して農作業の効率向上に活かすなど、さまざまな社会課題解決への貢献が期待されています。

デジタルツインに活用されるおもなテクノロジー

高精度なデジタルツインを実現するために活用されているテクノロジーのうち、重要な5つについて紹介します。

IoT:モノのデータを収集

IoT(Internet of Things)は、工場設備などに据え付けられたカメラやセンサーなど、あらゆるモノがインターネットに接続してデータの送受信を行うテクノロジーのことを言います。さまざまなセンサー類が取得した設備や機器などの情報を、インターネットを介してデジタルツインに反映することで、よりリアルで高精度な現実空間の再現を可能にします。

5G:リアルタイムでデータを反映

5G(5th Generation)とは、第5世代移動通信システムのことです。国内では2020年からサービスを開始。それまでの移動通信システムと比べて大容量のデータを超高速かつ低遅延に伝送できるため、デジタルツインに必要な高速データ通信を低遅延で実現できます。

AI:収集したデータを分析

AI(Artificial Intelligence)、すなわち人工知能によるデータ分析・予測もデジタルツインには欠かせません。関連性が不明瞭なデータを含め膨大なデータを収集し、機械学習、深層学習(ディープラーニング)させることで、従来手法と比べて高度かつ高精度な分析・予測が可能になります。

AR・VR:デジタル空間を視覚化

AR(Augmented Reality/拡張現実)、VR(Virtual Reality/仮想現実)もデジタルツインの重要テクノロジーです。AR・VRにより、サイバー空間上に再現したデジタルツインを視覚的(あるいは聴覚、触覚なども)に、現実味を持って体感できるようになります。デジタルツインを利用した研修や作業支援などで特に有用です。

CAE:デジタル空間でシミュレーションを実行

CAEとはComputer Aided Engineeringの略称で、製品の設計や開発、工程設計などの際に事前シミュレーションを行うテクノロジーのことです。以前から存在する概念ですが、IoT技術の普及で実態に近いデータをリアルタイムに活用できるようになり、注目を集めています。

デジタルツインの活用事例8選

デジタルツインの活用はすでに始まっています。活用事例から特に象徴的なものをピックアップして紹介します。

①デジタルツインで「止まらない工場」を実現しロスを低減(ダイキン工業)

エアコンや化学製品などを製造するダイキン工業は、2018年に建て替えを行った堺製作所臨海工場において、デジタルツインを用いた新生産管理システムを2020年より稼働開始。製造ライン上に設置した各種センサーから取得した生体データ、制御データ、温度・CO2濃度データなどをリアルタイムにデジタルツイン上に反映し、異常予測機能を用いて重大インシデントを未然に防ぐ取り組みを行っています。これにより、前年度比で3割強のロスを削減できる見込みとのことです。

②熟練技術者が設備異常を遠隔から支援(旭化成)

化学、繊維、住宅、エレクトロニクス、医薬品等の大手総合化学メーカー 旭化成は、2021年福島の水素製造プラントにデジタルツインを導入。設備異常に適切に対応できるベテラン技術者が現場に不在の場合、あるいは定年退職などで空席の場合でも、リモートで対応できる仕組みを構築しました。将来的には海外のプラントを日本国内から支援することも視野に入れているそうです。

③適切なタイミングでの航空機エンジンのメンテナンスを可能に(GE)

米国の総合電機メーカー GE(ゼネラル・エレクトリック)は、医療から航空まで幅広い分野でデジタルツインの活用を推進してきました。最初のケースとなったのは航空機エンジンのメンテナンス。航空機エンジンのあらゆるデータをエンジンに取り付けた200以上のセンサーからリアルタイムに取得し、デジタルツイン化。AIがエンジンの状態を分析し、適切な検査時期を正確に示してくれます。不具合を未然に防ぐことが可能となり、かつ保守点検に関するコストを大幅削減できました。

④車両に搭載したデジタルツインで走行状態を常に識別、修正(テスラ)

米国の電気自動車(EV)メーカー テスラは、製造する全ての新車にデジタルツインを搭載しています。車には数々のセンサーが組み込まれ、車両の状態から気候条件も含む周辺環境データを収集。車が期待通りに機能するかをAIが分析し、問題がある場合は無線ソフトウェアアップデートにより修正するという取り組みを行っています。遠隔で車両診断を行なえるため、顧客がサービスセンサーに出向く手間、サービスセンターが対応するコストを最小限にできました。

⑤モノやサービスが情報でつながる街をつくるための検証に活用(トヨタ自動車)

トヨタ自動車が2021年2月に着工した「Woven City(ウーブン・シティ)」。モノやサービスが情報でつながる時代を見据え、テクノロジーやサービスの実証実験をする都市です。技術開発や検証をスピーディに行うためのプラットフォームとして、デジタルツインを活用。自動運転やモビリティ、ロボットなど新領域のテクノロジーを仮想空間上でシミュレーションします。同社は自動車という業界の枠を超え、社会問題解決のイノベーションに取り組むとしています。2025年に実際の入居が開始される予定です。

⑥3D都市モデルを整備・オープンデータ化し誰でも利用可能に(国土交通省「PLATEAU」)

国土交通省は2020年4月、3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のプロジェクト「PLATEAU(プラトー)」を公開しました。国内の3D都市モデルを、デジタルツインとして誰もが利用できるというもので、全国56都市のオープンデータ化を完了(2022年6月時点)。仮想空間での街歩き体験を提供する「バーチャル新宿」や、渋谷区のさまざまなデータを可視化してスマートな街作りを目指す「デジタルツイン渋谷プロジェクト」など、すでに利活用が始まっています。

脱炭素社会や自動運転の実現に向けたユースケース(画像提供:国土交通省 都市局 Project PLATEAU)

⑦国を丸ごとデジタルツインにし、都市情報をリアルタイムで可視化(シンガポール)

人口約570万人※の都市国家シンガポールでは「PLATEAU」よりも一足早く、2014年に「Smart Nation(スマート国家)」構想を掲げて、国土全体を丸ごとデジタル化する取り組み「バーチャル・シンガポール」を開始。仮想空間上に再現した国土に社会インフラを再現し、人流などのリアルタイムデータを重ねることで、開発計画や渋滞緩和などの政策設計を最適化していくことを目指しています。

※2020年時点

⑧“防災版デジタルツイン”で未来の災害対策に挑む(内閣府「CPS4D」)

災害の多い日本ではデジタルツインを防災に活用しようという動きも始まっています。内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で推進するプロジェクト「CPS4D(Cyber-Physical Synthesis for Disaster Resilience)」もそのひとつ。CPS4Dでは災害に関するデータの時系列的な変化を蓄積し、デジタルツイン上で再現。台風発生時に浸水が想定される地域を割り出したり、各自治体の「職員1人あたりの被災者数」を算出したりすることで、効果的な災害対策を可能にします。

まとめ

IoTやAI、5Gなどの技術進展によって実現したデジタルツインは、製造業や都市をはじめ幅広い分野で今後活用が拡大していくと目されています。分析やシミュレーションによる効率的なモノ作りから都市レベルの課題解決まで、デジタルツインはスケール感も幅広く、その用途もますます拡大していくでしょう。
自社の課題に有効な解決手段となり得る可能性があります。まずは最新情報のキャッチアップを始めてみてはいかがでしょうか。