パーパスとは?ビジネスでの意味やパーパス経営の事例を紹介 | NECソリューションイノベータ

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コラム

パーパスとは?
ビジネスでの意味やパーパス経営の事例を紹介

UPDATE : 2022.12.23

ビジネスシーンで近年、企業の社会的な存在価値や社会的意義を意味する言葉として使われているパーパス。本記事ではパーパスの意味や広まった背景、パーパス策定のメリット、パーパス経営を実践する企業事例などについてわかりやすく解説します。

INDEX

パーパスとは?
企業の社会的意義や志を意味する

パーパス(Purpose)とは、一言でいうと企業の存在意義を指します。「目的」「目標」「意図」などと訳される英単語ですが、ビジネスシーンでは近年、企業の社会的な存在価値や社会的意義を意味する言葉として使われています。

「自社は何のために存在するのか」「その事業をやる理由は何か」といった根源的な問いの答えとなるものがパーパスです。事業を行う根拠や原点であり、揺るぎない自社の指針となります。『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』の著者で一橋大学大学院教授・経営学者の名和高司氏は、パーパスを「志」と表現。パーパスに基づいた経営を「志本経営」として提唱しています。

MVV(ミッション、バリュー、ビジョン)との違い

パーパスと類似した言葉に「MVV」があります。MVVとはミッション、ビジョン、バリュー(Mission, Vision, Value)の略称で、日本語では使命、理念、行動指針と訳されます。

ミッションは、直訳の通り企業が果たすべき「使命」のこと。パーパスに類似した概念ですが意味合いは異なります。パーパスが「その企業はなぜ存在するのか?」(Why)という社会的意義を表すのに対し、ミッションは「パーパスを実現するために何をするのか?」(What)という行動や目標を示します。ビジョンは、パーパスを実践する自社が目指す姿や状態(Where・When)。バリューは、自社が大切にする価値観や行動基準(How)を表します。このような関係性から鑑みると、パーパスからMVVが構築されると言ってもよいでしょう。

パーパスとMVV(ミッション、バリュー、ビジョン)との違い

経営理念との違い

経営理念とは、経営を行うにあたっての経営者・創業者の考えや信念を明文化した言葉です。経営理念が経営者の価値観や大切にしているものを表しているのに対し、パーパスは社会的な存在価値を表します。パーパスは社会に向けた自社の存在を意識しますが、経営理念は一概には言えない場合もあり、経営者が交代した際には変更される場合も。また、経営者の交代が無い場合であっても時代の変化に応じ変更するケースもあります。一方、パーパスを変えることは極稀なため、昨今では経営理念に代わり、パーパスを掲げる企業が増えてきているのです。

クレドとの違い

クレドとは、「信条」「約束」などを意味するラテン語。ビジネスシーンでは個々の社員に向けて、どのような働き方を期待しているかを明文化した行動指針を指します。前段で説明した「バリュー」に近い概念ですが、パーパスは「企業」の存在価値を表した指針で、クレドは「社員」の行動にフォーカスした指針というような違いがあります。

パーパスの派生語

パーパスに関連する言葉をいくつか解説します。

パーパス経営

パーパス経営とは、掲げたパーパスを軸として会社経営を行うことです。欧米では「Purpose based management(パーパスを基にした経営)」や「Purpose driven business(パーパスを原動力にするビジネス)」などと言われており、パーパスを軸とした企業活動と同時に社会への貢献を目指すとされています。

パーパスブランディング

パーパスブランディングとは、パーパスが広く社会に認知され多くの共感を得ることにより、自社商品やサービスのブランディングにつなげる手法です。従来のブランディングは利益拡大を目的としていましたが、パーパスブランディングは認知拡大が目的。社会でより多くの人々の共感を集めることが重要とされています。

パーパスドリブン

パーパスドリブンとは、自社のすべての物事がパーパスを起点として始まっている状態を指します。パーパスを組織として共有し、商品やサービスにパーパスが反映されている自社のあり方です。パーパスから逆算して考え、自社がなぜそのアクションを行うのかという理由がパーパスに照らし合わされる状態とも言えます。

パーパスステートメント

パーパスステートメントとは、文字通りパーパスを言語化してまとめたステートメント(声明)のこと。社内外にパーパスを共有・発信するために、パーパスステートメントを作成することが重要です。

パーパスが必要とされる背景とは?

なぜ今、パーパスが注目を集めているのでしょうか。パーパスが必要とされるようになった背景について解説します。

企業に求められる価値観が変わった

企業の事業活動において、サスティナブル(持続可能)な経営が求められるようになりました。2015年の国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択されて以来、企業には経済的な発展だけでなく、社会的な責任やSDGs達成への貢献が不可欠です。サスティナブルな経営を行うためには、自社の社会的な在り方(存在意義)を再構築する必要が生じるでしょう。

また、ミレニアル世代を中心とした若者層では、就職先を選択するにあたり、パーパス(働く意味)や企業文化、社会貢献度を重視するといった傾向があります。この先の企業活動や消費者の中心となる世代が、企業に求める価値観が変わってきているのです。こうした背景により、パーパスが広まったと言えます。

投資家が評価する価値基準が変わった

投資家の評価基準の変化も影響をもたらしています。サスティナビリティやESGに関心が高まっている中、株主のみに限定されずステークホルダーや社会に対しても価値をもたらせるか、といった社会的意義も投資家に注目されています。2018年、世界最大の資産運用会社である米国ブラックロック社のラリー・フィンクCEOが取引先のCEOに宛てた書簡で、パーパスの重要性を説き話題となりました。パーパスを掲げていることが、投資の評価基準の一つとして重要視されるようになったのです。

DX推進の広がり

昨今広がりを見せているDX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透も要因の一つです。DXはデジタル化による効率化に留まらず、デジタル技術やデータを活用してビジネスモデルおよび企業文化の変革を目的とする取り組みです。ビジネスモデルや企業文化を変革するには、自社のあり方や顧客および社会にどのように貢献するのかを根本的に見直す必要があるでしょう。

自社の存在意義や目指す方向がはっきりとしていなければ、ビジネスモデルの創出は難しいと言えます。つまりDX推進のためにも、パーパスの明確化が必要なのです。

パーパスを掲げるメリットや効果

パーパスを掲げることにより期待できるメリットを3つの観点から解説します。

ステークホルダーに支持される

パーパスに取り組んでいる企業は、信頼できる企業という印象を周囲に与え、消費者や株主などステークホルダーの共感を得やすくなります。共感する人が増えればSNSでの共有などで認知度向上につながり、消費のみならず、応援してくれるファンも増えるでしょう。企業イメージ向上や売上向上といった効果ももたらし、自社の成長の原動力となり得ます。

社員のエンゲージメントが高まる

パーパスを掲げることで、社員のエンゲージメント向上につながります。パーパスは自社で働く意義を明文化したものでもあるので、パーパスにより、社員は自分が行っている業務がどのように社会へ貢献しているのか実感しやすくなります。自分が何のために働き、どう役立っているのかを感じることでモチベーションやエンゲージメントが高まるでしょう。

イノベーションが創出しやすくなる

パーパスを掲げ実践することで、組織としての一体感が生まれ、社員が同じ目的を持ち、意識の方向が統一されます。そうした組織のベースができれば、部署間を越えたアイディアや意見が出やすくなるでしょう。また、パーパスが明確になれば社員が自発的に行動しやすくなります。パーパス策定で環境の変化をもたらし、イノベーションが創出しやすい組織へと変革できるでしょう。

パーパス策定と実施のポイント

実際にパーパスを策定する際の手順と、押さえておきたいポイントを解説します。

パーパス策定のステップ

パーパスを策定する際は次の手順で進めましょう。

①自社のパーパスを明確にする
②パーパスステートメントの作成
③パーパスステートメントの実行、評価

【STEP①】自社のパーパスを明確にする

自社が抱く信念がパーパスとなるため、パーパス策定に正解はありません。存在意義や信念を言語化するのは難しいですが、下記を意識するとよいでしょう。

  • 現在ある社会課題の解決につながるか
  • 自社の強みを活かせるか
  • 自社が実現できることか
  • 社員が自分事として捉えられるか

自社の歴史を振り返ったり、社内のさまざまな部署の多様な社員を巻き込んで議論したり、といったこともパーパス策定に役立ちます。

【STEP②】パーパスステートメントの作成

パーパスが明確になったら、パーパスステートメントを作成します。パーパスステートメントとは先述したように、パーパスを言葉にした声明です。「自社が何のために存在するのか」「そのために自社が提供する価値は何か」との問いに答えるような、シンプルで伝わりやすい文言にします。また、パーパスステートメントを作成する際、行動指針(バリュー)も一緒に作成するとよいでしょう。

【STEP③】パーパスステートメントの実行、評価

パーパスステートメントを実行することが最も重要といっても過言ではありません。社内全体に浸透させ、社外への発信など実際の企業活動に反映させましょう。パーパスブランディングとして、自社商品やサービスのブランディングにつなげるのも良い方法です。トップ自らが規範となって実行し、プロジェクトを立ち上げ社員に自分事化する取り組みも必要と言えます。

パーパスステートメントの実行後は、取り組みを評価するのも大事です。レポートを社内外に発信・共有すれば、ステークホルダーのエンゲージメント向上につながります。

パーパスウォッシュに注意する

パーパスウォッシュとは、パーパスを掲げながらも実際の企業活動が伴っていない状態を指します。発表したパーパスと実態に乖離があれば、ステークホルダーをはじめ社会から信頼を失いますので、パーパスウォッシュは避けるべきです。絵にかいた餅にしないよう、行動を一致させ継続することが肝要です。

パーパス経営を実践する企業の事例

パーパス経営を実践し、成功している企業の事例を紹介します。

●パタゴニア

米国発の人気アウトドアブランドであるパタゴニアは、世界の環境問題に取り組む企業としても有名です。2018年、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」というパーパスを発表し話題となりました。パタゴニアの取り組みで最も有名なのが「1% for the Planet」。全売り上げの1%を自然環境の保護と回復のために寄付するというものです。また、2022年9月には創業者イヴォン・シュイナー氏の「地球が私たちの唯一の株主」とのメッセージと共に、新たに2つの組織を創設しパタゴニアのすべての所有権を譲渡しました。「株式公開に進む(Going public)」のではなく「目的に進む(Going purpose)」とし、事業に再投資されない利益を配当金として地球を守るために分配。次の50年に向けて、独自の取り組みを進化させています。パタゴニアのパーパスは社員、消費者、生産者など多くの人々から支持を集めています。

●ネスレ

世界最大の食品飲料会社であるネスレは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」をパーパスとして掲げています。同社はパーパス実現のために「個人と家族」「コミュニティ」「地球」の3つの領域で社会課題の解決に取り組んでいます。具体的な取り組みとしては、自宅で手軽にスーパーフードが摂れる新感覚スムージーの提供や、カカオ農園での児童労働禁止、包装材料を2025年までに100%リサイクルまたはリユース可能にする施策、主力製品のパッケージの紙化など。すべての企業活動がパーパスに基づいて展開されています。

●ソニー

ソニーグループは2019年1月に「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを掲げました。同社では、全世界11万人の社員へパーパスを浸透させるための専門の事務局を設立。ポスターにして全世界へ配布したり、CEOのパーパスへの思いをつづった署名入りレターを配信したり、社内Webサイトに「日々の業務の中でパーパスをどう実践しているのか」世界中のグループ社員にインタビューした記事を公開したりするなど、さまざまな取り組みを行いました。そうした中、2020年度は過去最高収益を達成。この成果はコロナ禍であっても社員1人1人がパーパスに向かって行動したからこそ、と同社会長兼社長CEO吉田憲一郎氏は語っています。ソニーグループの事例は、パーパスを策定したものの社内への浸透に課題がある企業にとって非常に参考になる事例です。

●味の素

国内外で食品事業・アミノサイエンス事業を展開する味の素グループでは、パーパスを「食と健康の課題解決」と定義。パーパスに基づくグループビジョンとして「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」を掲げました。同社ではパーパスやビジョンを従業員に自分事化してもらうため、組織および個人目標を設定し、発表会を実施。また、ベストプラクティスを社内SNSでの共有や年一回の表彰、エンゲージメントサーベイで従業員への浸透度測定などを行いました。こうした取り組みにより、組織一体となってパーパスに基づいた事業活動を展開しています。

DX推進とパーパスの関係性

近年多くの企業で課題となっているDX推進においても、パーパスは欠かせません。経済産業省の「DX推進ガイドライン」では、DXとは『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』と定義しています。ビジネスモデルや企業文化・風土を変革するDXの目指す先を定めるためにも、パーパスは必須と言えます。

事例で挙げた味の素では、企業変革として「パーパス経営への転換」と「DX」を両軸で展開しました。同社は、DXによるデジタル化は機能性・合理性をもたらし、パフォーマンス向上やプロセスを高速化できるとしています。企業が今後も発展、成長を続けるためには、DXとパーパスは欠かせない取り組みと言えるでしょう。

まとめ

社会環境の変化やSDGsの広がりなどの影響で、パーパスに注目が集まっています。パーパスを策定し社内に浸透させ、社外に発信することで自社の成長につながるといったメリットが期待できます。社会課題の解決につながる実現可能なパーパスを策定し、自社の変革を試みてはいかがでしょうか。