PoCとは?意味や進め方のポイントをわかりやすく解説 | NECソリューションイノベータ

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コラム

PoCとは?
意味や進め方のポイントをわかりやすく解説

UPDATE : 2023.04.14

PoC(Proof of Concept:概念実証)とは、新しいアイデアや技術の実現可能性を検証することを指します。PoCはプロジェクトの失敗リスク低減に貢献するため、AIやIoTなど新しい技術の導入がビジネスで重要視されている昨今、特に注目を集めています。

そこで本記事では、PoCの意味やメリット、実施手順、成功させるためのポイントについてわかりやすく解説します。

INDEX

PoCとは

PoC(読み:ピーオーシー、ポック)とは「Proof of Concept」の略で、日本語では「概念実証」と訳される言葉です。サービスや製品に用いられるアイデアや技術が実現可能かを確認する一連の検証作業を指します。新しいサービスを立ち上げる際や新しい技術を導入する際に、本格開発・導入の前段階で実施されます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が喫緊の課題となっている昨今では、特にIT業界における重要キーワードとなっています。PoCは、IoTやAI、クラウドなど、新技術を用いたプロジェクトの実現可能性を見極めるために欠かせないプロセスであるためです。

ただし、PoCはITに関する業界用語というわけではありません。医薬品の研究や航空機の開発、映画製作などでもPoCは実施されています。例えば、医薬品や航空機開発の業界における新しい理論や複雑な技術については、机上の検証のみでは実現可能性を測れない場合があります。また、映画製作のように多額の資金調達が必要なプロジェクトでは、本格始動の前にPoCで実現可能性を示し、出資を集めやすくすることが重要でした。

● PoCと「PoV」「PoB」の関係

PoCは、狭義には技術的な実現性の検証のみを意味し、広義には事業的な実現性の検証までも含めた意味となります。広義のPoCは、以下の図のように「PoV」「狭義のPoC」「PoB」に分解することが可能です。

PoCの定義とPoV・PoBとの関係図

PoVとは「Proof of Value」の略で、日本語では「価値実証」と訳されます。PoVでは、当該事業がユーザーにとって価値があるか、ニーズがあるかを検証します。PoBは「Proof of Business」の略で、収益性やコスト構造などをもとに、その事業がビジネスとして成立するかを検証します。

そのほか、技術的な検証を「PoT(Proof of Technology)」とするケースもあるなど、PoCはさまざまに定義・解釈されています。本記事における「PoC」は、特に限定して言及しない限り、広義のPoC(ユーザー視点であるPoVや、ビジネス視点であるPoBを含んだ概念)として扱います。

PoCと関連用語の違い

ここでは、PoCと「実証実験」「プロトタイプ」「MVP」の違いについてわかりやすく解説します。

● PoCと実証実験の違い

PoCは技術や概念の実現可能性を検証する工程を指しますが、実証実験は具体的かつ実際的な環境で製品やサービスを運用し、実用化に向けた問題点を洗い出す検証を指します。ただし、問題点についてはPoCで発見できる場合もあるため、PoCを実証実験と同じ意味として扱うケースも少なくありません。

● PoCとプロトタイプの違い

プロトタイプとは、アイデアや技術の実現性・方向性を確認したうえで製作する試作品を指します(プロトタイプを用いて改善を繰り返し完成品に近づけていく手法は、プロトタイピングと呼ばれます)。そのため、技術的検証(狭義のPoC)の後にプロトタイプを製作するケースが一般的ですが、技術的な実現性を検証するのにプロトタイプが必要となる場合もあります。

なお、プロトタイプには以下の種類があります。

ファンクショナルプロトタイプ 製品の具体的な動作を確認するための試作。
デザインプロトタイプ 機能に加えて、デザイン面も完成形に近づける試作。
コンテクスチュアルプロトタイプ ユーザーに製品の使用イメージを体験してもらうための試作。

● PoCとMVPの違い

MVPとは、「Minimum Viable Product」の略で、日本語では「実用最小限の製品」と訳される言葉です。MVP開発は、顧客に価値提供できる必要最小限の機能を持った製品・サービス(=MVP)を製作し、ユーザーおよび市場からの反応をテストしながら改善を繰り返す開発手法を指します。製品開発の準備段階となるMVP開発は、PoCとは目的を違えます。しかしながら、プロトタイプと同様、製品・サービスの検証過程でMVPが求められる場合もあるため、“MVP開発がPoCに含まれる”とする考え方もあります。

MVPの代表的なケースとして知られるのがTwitterです。Twitterは、Odeo社の社内向けコミュニケーションツールとして提供されたシンプルなプロダクトが前身。そこから社内で検証と改善を繰り返し、一般向けのツールへと進化していきました。

PoCのメリットと重要性

ここでは、PoCにより得られるメリットを3つ解説します。

● 新しい取り組みのリスクを抑制できる

PoCを実施すると、「技術的に実現可能なのか」「ユーザーニーズがどのくらいあるのか」「採算が取れるのか」などを事前に確認可能です。問題点があれば、解消につながる方法を選択して開発を進められるため、不確実性が高いままプロジェクトを進行せずに済みます。また、PoCの結果、課題の解消が難しいと判明したタイミングで撤退判断ができる点もポイント。早期の撤退判断により、プロジェクトの損失を最低限に抑えられます。

● 開発における無駄なコストの削減につながる

PoCでは新規事業の実現可能性を小規模の予算で検証するため、本格的な開発に取り組んだ後に実現できないと判明し、開発費用が無駄になるという事態を防げます。また、効果を得るのに不必要な機能を開発したり、想定外の軌道修正を繰り返したりするなどといった費用と時間の無駄も削減可能です。より実現性の高い方針を見極められ、早期で必要な工程も明確になるため、工数や人員にロスの少ない計画的な進行管理につながります。

● 投資家や外部企業に判断材料を提供できる

PoCで得られる情報は、社内だけでなく、投資家や外部企業などにとっても有益な判断材料となります。PoCによって製品やサービスの実現可能性・有効性を実証できれば、投資家やファンドから出資を得やすくなり、外部企業との業務提携、技術提供なども進めやすくなるでしょう。そのほか、プロジェクトに対する注目度が高まれば、事業に必要な人材を集めやすくなるというメリットもあります。

PoCのデメリットと注意点

PoCにはビジネスに有益なメリットがある一方、以下のような注意すべきデメリットも存在します。

● 検証の回数によりコストが増える

一般的にPoCは、トライ&エラーを繰り返しながら有益な成果を積み上げて行く流れで進行します。当然ながら検証回数が増えるほどコストも増えてしまいます。検証が複雑になると、得られる成果がコストを下回ったり、コスト回収に想定以上の期間を要したりする事態になりかねません。PoCの成果を最大化するには、目的を正しく定義し、その実現に向けたプロセスを厳選して、コストと効果のバランスを確認しながら取り組んでいく必要があります。

● 情報漏えいのリスクがある

PoCやプロトタイピングを進めアイデアが具体化していくと、情報漏えいのリスクがつきまといます。とりわけ業務提携や協業でPoCを実施する場合は、注意が必要です。自社の技術やアイデアを守り、知見を巡るトラブルを引き起こさないためにも、PoC契約や秘密保持契約(NDA)などを結ぶべきでしょう。なお、PoCのパートナー選びは、知見を巡るトラブルのほか、プロジェクト進行のスピードや柔軟性にも影響を及ぼすため、特に慎重を期すべきポイントと言えます。

PoCの実施手順

ここでは、PoCを実施する手順について、3つのSTEPに分けて解説します。

【STEP①】PoCのゴールおよび実施計画を策定

PoCを始めるにはまず、何の効果を検証するのか、プロジェクトの仮説とゴールを設定する必要があります。次にそのゴールに基づき、どういったデータを取得すべきかを明確にします。例えばRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を進めるケースでは、「既存システムと連携したRPAを事務作業に導入可能か」「RPAの導入によって、業務処理時間を○%削減可能か」といった具合で定めます。

PoCの目的が定まった後は、実施計画の策定に移ります。実施計画では目標や検証項目に加え、検証対象の範囲・スケジュール・実施内容・実施体制・役割分担などを具体的に設定します。

【STEP②】実験や検証の実施

PoCの実施計画が定まったら、次は実際に仮説を検証していくフェーズです。なるべく実際の環境に近い状態で、スピーディに検証を進めます。前段で例示したRPA導入のように、対象範囲が幅広いプロジェクトでは、なるべく多くの対象者に参加してもらうことが重要です。対象者の偏りが少ないと、客観的で精度の高い検証につながります。

【STEP③】検証結果を評価して次のアクションへ

最後は、検証結果を評価するフェーズです。設定した目標に対しての達成度から実現性を分析し、結果が良ければ、本格的な導入や開発へと進んでいきます。反対に、実現性やリスク、コストで問題点が確認できれば、判明した課題をもとに新たなPoCの仮説を設定します。結果次第では、中止や撤退の判断を下す必要もあるでしょう。PoCでは、リスクを抑えて改善を加えながら、着実にプロジェクトを具体化していくためにも、仮説の設定から検証結果の評価までのサイクルを素早く繰り返すことが重要です。

PoC実施手順のイメージ図

PoCで検証すべきポイントとは

PoCでは、「価値」「技術」「事業性」の観点から、その実現性を検証していくことが重要とされています。まずは「価値」を確かめてから、「技術」と「事業性」をチェックするというプロセスが一般的です。

PoCで検証すべき3つの観点
価値の検証 新しい技術やサービスが、顧客やユーザーに価値を提供できるかを検証する。検証内容としては、「顧客やユーザーが現状抱える課題は何か」「課題を解決することでどのようなベネフィットがあるか」「課題の解決には、当該技術が必要なのか」など。
技術の検証 技術的に実現可能かどうか、その技術で有効な結果を得られるかを検証する。「想定した仕組みは技術的に実現可能か」「当該技術は必要な効果を得られるか」「精度や品質は基準を満たすか」「具体的にどのような仕様が技術の実現に必要か」などの項目で、技術的な実現性・具体性を確認する。
事業性の検証 当該技術・サービスで事業性が見込めるかを検証する。「新しいサービスの開発や運用にかかる費用はどの程度か」「費用対効果はどの程度見込めるか」などの項目を設定し、事業性を分析する。

注目を集めるPoC事例

PoCは、検証の主体者として実施する以外にも、協業パートナーとして関わるケースもあります。ここでは、PoCを効果的に活用している事例について、角度を変えて3例紹介します。

【事例①】空き家活用株式会社

空き家活用株式会社は、行政の空き家対策のサポートを目的とした事業を展開しています。同社は、空き家の流通が市場として成立するかを検証するPoCを実施。PoCを通じて、空き家に関する情報ニーズと相談窓口のニーズ、空き家流通プラットフォームの必要性と仕様を分析しました。

同社はPoCの結果を踏まえ、空き家調査と調査データの管理を効率化する「アキカツ調査CLOUD」と、空き家所有者向けの空き家活用相談窓口である「アキカツカウンター」を開発。これらをパッケージ化した「アキカツ自治体サポート」というサービスを、2022年6月にローンチしています。空き家対策を一気通貫で支援するこのサービスは、2022年度末までに12の自治体に導入されています。

【事例②】清水建設株式会社

経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「DX銘柄」に2年連続で選定された清水建設株式会社は、建設領域でDXを力強く推進していることで知られています。技術開発に積極的な同社は、外部と連携したPoCも推進。巡回・監視ロボットの実用化に向けた実証実験や、プロジェクション型VR技術を活用した体感型共同学習システムの開発に向けた実証実験などを実施しています。

また、同社はスタートアップ企業を支援するアクセラレーターとしての側面もあります。ReGACY Innovation Group株式会社と共同で実施する「SHIMZ NEXT」プログラムでは、同社のビジネスの発展にも影響する「建設・まちづくり」「レジリエンス(対災害)」「環境・エネルギー」といった分野で、技術開発や新しい事業の創出を支援。多様なアセットの提供により、スタートアップ企業のPoC実施をサポートし、プロジェクトの社会実装や事業化を推進しています。

【事例③】福岡市

福岡市は、官民が連携するオープンイノベーションの形でPoCプロジェクトを推進しています。「福岡市 実証実験フルサポート事業」は、AIやIoTなどの先端技術を活用する優秀なプロジェクトを対象に、「実証フィールド調整・提供」「広報支援」「行政データ提供」「規制緩和」を提供。自治体のアセットを活かして、PoCプロジェクトの進行をサポートしています。

同事業では、例年複数のプロジェクトが選ばれており、令和4年11月30日時点で合計93件のプロジェクトが採択されています。採択されたプロジェクトは「キャッシュレス」「AI多言語音声翻訳システム」「デジタル身分証」などで、いずれも社会課題の解決や生活の利便性向上につながると見込まれています。企業や大学などの事業者にとっては、福岡市のリソースを活用しながら事業化を推進できます。さらには、自治体とのプロジェクトによる信頼性の向上およびPR効果を得られる点もメリットです。そのため同事業は、自治体・住民・事業者が相互に恩恵を受けられるPoCプロジェクトとして注目されています。

PoCの失敗例と成功させるためのポイント

ここでは、PoCを失敗させないために理解すべき、代表的な失敗例と成功させるためのコツを解説します。

●「PoC疲れ・PoC止まり・PoC貧乏」と呼ばれる失敗例

製品やサービスの事業化に向けた課題を解消するのに有効なPoCですが、次のようなケースに陥らないよう注意する必要があります。

  • 技術の導入自体が目的になっている
  • 検証目的(ゴール)が不明瞭なまま始動している
  • 一部の関係者の視点が無視され視野の狭い検証になっている

これらが原因となり「検証が最終段階で振り出しに戻る」ケースや「ゴールに近付くことなくPoCを繰り返す」ケースを引き起こしてしまいます。繰り返しのPoCでプロジェクトが停滞し、事業化につなげられず検証や試作の費用を無駄にしている状態は、「PoC疲れ」「PoC止まり」「PoC貧乏」などと呼ばれ、PoC担当者の悩みの種となっています。

● PoCを成功させるためのポイント

ここでは、PoC疲れのようなケースに陥らないために注意すべきポイントを3つ解説します。

【ポイント①】明確なゴールやルールを設定する

検証のゴールを明確かつ適切に設定することは、何より重要なポイントです。PoCの検証目的が明確になっていれば「PoCの実施自体が目的となってしまい、収集したデータを正しい意志決定や開発に活かせない」という事態を防げます。PoCをいたずらに長期化させないためにも、PoCの実施期間や撤退判断基準も含めて、明確にルールを設定すべきでしょう。

なお、検証目的の順位付けも成否を分けるポイントとなります。なぜなら、技術的な実現可能性を確認できても、その後からユーザーニーズが無いことが判明しては、取り組みが無駄になってしまうからです。まずは「価値」の検証を進め、その後に「技術」と「事業性」を見極めていくべきでしょう。

【ポイント②】スモールスタートでPDCAを回す

PoCでプロジェクトを着実に具体化していくためには、複数回の検証を前提にスモールスタートで取り組む必要があります。大規模な検証では、コストや工数削減などのメリットを享受しにくいほか、PoC疲れに陥るリスクが高まるからです。「Think Big, Start Small」の姿勢で検証項目や範囲を絞り込み、小規模の検証をスピーディに展開すると、「検証内容を盛り込みすぎてしまい環境設定に時間がかかりすぎてしまう」ケースなども防げるでしょう。

また、ネガティブな結果も有益な判断材料として捉えるスタンスも重要です。ネガティブな結果から得られたデータは、PoCプロジェクトを軌道修正して、PDCAを回転させていくのに必要な情報になるからです。

【ポイント③】運用現場に条件を合わせて検証する

PoCで有益かつ高精度なデータを収集するためには、本番の環境に近い状況での検証が必要です。実際に運用する場面と検証環境・条件が異なってしまうと、PoCの検証が机上論になってしまいかねません。

また、プロジェクトの有効性を測るうえでは、新しい技術やサービスを実際に使用するユーザーの視点も欠かせない要素です。実際に利用するユーザーや導入環境の現場に近い人からフィードバックを得ながら、PoCを進めていくべきでしょう。

DX推進に欠かせないPoC

昨今PoCが注目を集めるようになった背景には、DXの推進が喫緊の課題として求められているという現状があります。ユーザーニーズ・技術的実現性・事業性を明らかにするPoCは、デジタル技術を用いた未知数のプロジェクトの解像度を高めるのに効果的な手法となるからです。

また、PoCはDXを高速かつ効果的に進めていくためのアジャイル開発と好相性な点もポイント。アジャイル開発は「計画・開発・実装・テスト」のサイクルを短期間で繰り返していく開発手法で、環境変化の激しい現在のビジネスシーンへ柔軟かつスピーディに対応するのに有効とされています。ただし、現在はDX人材が慢性的に不足している状況です。DXをスピーディに推進していくためには、アジャイル開発とPoCについてのノウハウを持つITベンダー企業との協働も検討すべきでしょう。

まとめ

PoCは、新しい技術やサービスの失敗リスクを抑えるために有効な取り組みです。AIやIoTを活用したプロジェクトなど、先進的な取り組みとなるDXを成功させるうえでも重要視されています。ただしPoCを機能させるためには、適切な目標設定や本番環境に近い条件の整備など、注意しなければならないポイントがいくつもあります。PoCを効果的に実施するためにも、専門知識のあるITベンダー企業と協力体制を築いてみてはいかがでしょうか。