マルチクラウドとは?メリットや課題を専門家が解説 | NECソリューションイノベータ

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マルチクラウドとは?
メリットや課題を専門家が解説

UPDATE : 2022.03.18

マルチクラウドとは、複数のクラウドサービスを組み合わせて、最適な環境を構築しようとする運用形態を指します。昨今では、デジタル庁の「ガバメントクラウド」施策がマルチクラウド環境を想定しており注目を集めました。官庁と同様に民間企業でもクラウドサービスの活用は広く進んでいますが、“マルチ”にすることでどのような恩恵を享受できるか、実態を掴めていらっしゃらない方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事ではマルチクラウド運用のメリットや課題、効果的に機能させるためのポイントや将来の展望を、NECソリューションイノベータで現場の最前線を主導する澤本信男氏と、中村嘉伸氏が解説します。

「マルチクラウド」「ハイブリッドクラウド」とは?

--まずはマルチクラウドとは何なのか、その定義についてご説明いただけますか?

中村:複数のクラウドサービスを組み合わせて最適な環境を実現するというのがマルチクラウドの定義になります。一般的にマルチクラウドというとAmazonのAWSやMicrosoftのAzureなど、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)と呼ばれるインフラレイヤーのクラウドサービスをイメージされることが多いのですが、SaaS(Software as a Service)やDaaS(Desktop as a Service)といったアプリケーションレイヤーのクラウドサービスを組み合わせて、ビジネスに必要な環境を構築することも充分にマルチクラウドに含まれるという認識です。

--では、マルチクラウドのメリットはどのような点にあるのでしょうか。

中村:複数のクラウドベンダーを使い分け、得意とする部分だけを良いとこ取りできる点が一番大きなメリットでしょう。サービスの種類が豊富なベンダー、AIやデータの利活用が得意なベンダー、それぞれの長所を享受することができます。

--それに対してマルチクラウドのデメリットや注意すべき点はありますか?

中村:複数のベンダーを並行して利用するため、どうしても運用管理の手間が増えます。例えば、ユーザーIDの管理などが煩雑化するといった具合ですね。また、多くのクラウドはボリュームディスカウントという仕組みを導入しており、たくさん使えば使うほど料金がお得になっていくケースがありますが、利用を分散してしまうマルチクラウドではその恩恵を受けにくいという費用的なデメリットもあります。

--なるほど。そういったメリットとデメリットを理解して使いこなしていくことが大切ですね。ところで、ハイブリッドクラウドという言葉もありますが、こちらはどういったものなのでしょうか?

中村:ハイブリッドクラウドは、各種クラウドサービスに加えて、いわゆるオンプレ(オンプレミス)と呼ばれる自社サーバーなどを組み合わせて最適な環境を構築するというものです。メリットとしてはクラウド特有のスピード感、柔軟性といった長所を享受しつつ、どうしてもクラウドに移行できない従来型のレガシーシステムも扱えるといったところだと認識しています。

ビジネスに欠かせないマルチクラウド環境

--では続いて、マルチクラウドを取り巻く昨今の状況について教えてください。

澤本:世の中はすでにマルチクラウドになっているというのが私の実感です。例えば、SNSやビデオ会議などはほとんどクラウドで提供されていますし、ビジネスで欠かせない存在となっているERP(Enterprise Resource Planning/企業資源計画)やCRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)などの各種システムも、今はSaaSという形でも提供されています。そしてそれらを組み合わせて使うということは、すなわちマルチクラウドですよね。

--確かにそう言われてみると、私もすでにマルチクラウドの環境で仕事をしていますね。仕事どころか日常生活も「マルチクラウドなしでは成立しない」状況かもしれません。そのように、すでに浸透していると言えるマルチクラウドがビジネスにどういった恩恵をもたらしているのでしょうか?

澤本:ビジネスという観点では、クラウドを活用するとスピーディーに業務を立ち上げることができる点でしょうか。さらに、その後の機能の追加や拡張もスムーズです。あとはデータの授受などを含め迅速かつ柔軟な連携が可能な点です。例えば、取引先やパートナーとつながる時も、相手がクラウドを利用していれば、マルチクラウドの技術やサービスを利用して接続できますから。

--なるほど。そうした中、特に直近の動きとして注目すべきトピックはありますか?

中村:直近ということですと、やはりこのコロナ禍による出勤や出張の規制で、テレワークの需要が高まったという部分が大きいですね。それに伴うネットワーク環境の整備なども含め、クラウドの活用が急激に加速したと考えています。特に我々の事業では、DaaSと呼ばれるリモート接続環境でオフィスと同じデスクトップ環境を実現するための仕組み構築の引き合いが、とても増えたと実感しています。

また、昨今の深刻な半導体不足によりハードウェアの手配は困難を極めています。そういったご時世でも、マルチクラウドを活用してビジネスに必要な機能をクラウド上に移管していれば、機材の調達に苦労することなく、リードタイムを短縮して展開していくことが可能です。

政府も「ガバメントクラウド」でマルチクラウド化を推進

--2021年に設立されたデジタル庁が主導する「ガバメントクラウド」でも、マルチクラウドを重視する姿勢を打ち出しています。ここにはどういった背景があるのでしょうか?

澤本:例えば、話題となった新型コロナウイルス接触確認アプリや実証実験が進んでいるスマートシティ構想など、今後、行政サービスのデジタル化が加速度的に進んでいくことは間違いありません。その際、政府の提供するサービスが対象とするのは全国民ということになりますから、一企業のサービスとは文字通りケタが違います。そうなると、先ほどお話しした機材調達の問題がなかったとしても、オンプレミス環境での対応は現実的ではありません。そもそも選択肢がクラウドしかないわけです。

そして、例えば1億人以上の国民が利用するとなると、最大手のクラウドベンダーでも単一で担うには物量的に厳しい。また、東日本と西日本というリージョン(データセンターを設置するエリアのこと)の違いによる、提供機能の差異や得意不得意も配慮しなければなりません。場合によってはクラウドを使い分けたり連携したりして構築する必要があります。その時点で、マルチクラウドを前提としていますので、政府が「ガバメントクラウド」でマルチクラウドを強調するのも必然ではないでしょうか。

実は、政府に限らずSaaSという形で企業向けの基幹システムを提供する大手ベンダーも、複数のクラウドを上手に使い分けています。サービス規模がある程度大きくなっていくと、メガクラウドを活用したマルチクラウドという構成になっていくのだと考えています。

マルチクラウドの活用において注意すべきこと

--NECソリューションイノベータは、すでに多くのお客さまのマルチクラウド化を支援されていますね。そこで、マルチクラウドを上手に活用してビジネスを加速している事例について教えてください。

澤本:私が実際に担当している案件では、元々オンプレミス環境で動作していたものを、一旦、NECのクラウドプラットフォームである『NEC Cloud IaaS』に移行し、そこから段階的にそれぞれの機能を得意とするクラウドを選定して振り分け、マルチクラウド化していくというケースが増えていますね。一気に全てを進めると実質的にシステムの再構築となり負担が大きいため、上手く業務を切り出しながら段階的に進めることで、業務を止めることなくスムーズに移行します。

中村:クラウドジャーニーといわれるクラウドへの移行プロセスにおいて、クラウドネイティブというクラウド活用を前提としたアーキテクチャーをご提案するケースがあります。その際には、システムを早々にクラウドに移行してそこから機能を強化していく、リフト&シフトという導入プランをご提示することもあります。まずはクラウド化することのメリットをお客さまに感じていただこうと。

--そうした最低限のクラウド導入からでもメリットはあるものなのですね。

中村:そうですね。ハードウェアの有効期限や保守切れに左右されることがなくなるほか、急なビジネス環境の変化や法改正などにも柔軟に対応できるようになります。また、クラウドサービスは素早く乗り換えや使用停止ができるため、ビジネススピードを損なうことなくトライできる点もお客さまにご好評いただいております。

--なるほど。ではマルチクラウド導入後に気をつけねばならないことはありますか?

澤本:まず挙げられるのが「コスト」と「性能」という観点です。オンプレミス環境の場合、導入以降はいかに安定稼働させるかというところに着目されると思うのですが、それと同じ感覚でクラウドを運用するとせっかくのメリットを引き出せない恐れがあります。

クラウドは従量課金という特徴があるので、使っていないときは落としたり、逆に必要な時だけ使用したりといった工夫をする必要があります。また、クラウドの美点には「新しいサービスや機能が次々と生まれてくる」ということが挙げられますが、新しいサービスの方が高機能で低コストな場合が往々にしてあります。そのためクラウド環境下では、同じ機能で安定稼働を目指すというよりも、新しいものを採り入れて性能を上げつつ、さらにコストも下げていくという考え方に切り替えていく必要があります。

--守る運用から、より良い環境を絶えず目指していく運用に切り換えるということですね。しかし、そうすると担当者は常に最新の情報を追い続けないといけない大変さが生まれます。

澤本:確かにそういう側面はあるかと思います。そういう意味でも、さまざまなクラウドサービスに精通している我々の存在意義がありますので、ぜひご相談いただいてマルチクラウドのメリットを最大限享受していただきたいですね。

--その他、留意すべきことはありますでしょうか? 例えばクラウドというと「セキュリティ」を不安に感じる人も少なからず存在するかと。

澤本:マルチクラウド環境では活用するクラウドサービスが複数存在するため、それぞれユーザーIDを管理していかねばならなくなります。そこで現在はクラウド間でシングルサインオンできるようにする仕組みの導入が進んでおり、NECソリューションイノベータでも『OneLogin』というサービスでサポートしています。こうしたソリューションの導入で、パスワード漏洩によるセキュリティリスクを抑えつつ利便性を高めることができます。

またNECグループでも導入している『Zscaler』など、クラウドベースのセキュリティ監視サービスを活用することも有用です。ゼロトラストを原則として社内外のアクセスを監視することで、セキュリティ対策を講じるべきでしょう。

マルチクラウド時代に求められるスキルセットとは?

--今後、マルチクラウドはどうなっていくのでしょうか?

中村:先ほど話題に出たデジタル庁のガバメントクラウドなどに象徴されるように、マルチクラウド化という流れはもはや必然でしょう。その中で、クラウドを活用していく我々や、アーキテクトする側のスキルセットの変革が1つ注目すべき事象だと考えています。

マルチクラウドでクラウドの良いとこ取りができることに加えて、それぞれのクラウドサービスにおいて次々と新しい機能が実装されています。特にAIや自動化、データ分析の領域などですね。今後はそれらの活用が重要となります。従来のIT担当者が担っていたタスクがそういった新機能に置き換えられるため、いかに対応しスキルセットを変革できるかが肝要になっていくのではないでしょうか。

--もう少し具体的に教えていただけますか。

中村:現在、多くのプロジェクトにおいて、アプリ担当やインフラ担当といった役割分担があると思うのですが、今後はそういう枠組みすらも不要になっていくと考えています。例えば、アプリ開発の場面でも「ローコード」や「ノーコード」といった技術の登場で、プログラミング言語のスキルにとらわれる次元ではなくなっています。それほどに今のITサービスのバリエーションは増えており、多くのアイデアを誰でも実現させる素地があります。今後は、アプリやインフラという枠に縛られず意識を上流シフトさせて、ビジネス価値のあるアイデアを創出することが重要でしょう。

--そうした中で、NECソリューションイノベータがどのようなアドバンテージを持っているのかもお話しください。

澤本:まず我々は、NECグループとして、AWS、Azure、Google Cloud、Oracle Cloudといった大手クラウドベンダーにおいて、上位レベルのパートナーとなっています。そして、日本全国でそれらの技術を備えたエンジニアを擁しており、幅広いエリアで高いレベルでのマルチクラウド構築が可能です。

--特定のクラウドに強いだけでは実現できないようなこともNECソリューションイノベータであれば実現できるということですね。

澤本:はい、そうです。組織が求める機能を単一のクラウドサービスだけでは実現できないこともあるでしょう。我々はさまざまなクラウドに長じているので、各クラウドの良いとこ取りをした「ビジネス要件を適えるマルチクラウドならではの提案」ができると思っています。

■解説者

澤本 信男

NECソリューションイノベータ株式会社
関西支社 ITO(ITアウトソーシング)グループ
シニアプロフェッショナル

■解説者

中村 嘉伸

NECソリューションイノベータ株式会社
関西支社 ITO(ITアウトソーシング)グループ
主任