NEC 保育園入園選考 AI マッチングシステム

結果は変えずに、プロセスだけを進化させて
複雑な業務を9割削減。
きっかけは山形市からの1枚のFAXで、ひと目見て効率化の可能性を直感しました。手書きの保育園選考プロセスの図が、非常に複雑だったのです。先行する他社サービスはあったものの、まだ解決できる課題があるのではないかと。たどり着いた差別化のポイントは、AIだけでなく「人が介入する」ことでした。保育園の選考ではひとりの選考結果が変わると、数百人の結果に影響が出てしまいます。職員の業務を圧迫していたのが、この「玉突き」の調整作業。都度数百人分の選考の調整を、数日かけて行う必要がありました。一方ですべての作業をAIに任せると、結果も運用方法も大きく変わってしまい導入が難しくなる。だから玉突き部分のシミュレートをAIに任せて、「判断」は今までどおり人が行うよう分業を徹底したのです。各家庭の個別の事情を汲んで判断することは、やはり人にしかできない。目指したのは、結果を変えずにプロセスを大きく効率化していくことでした。

山形市で使用していた保育園入園の選考書類。膨大な書類に目をとおし、結果を調整する業務に多くの時間を要していた。
- NEC 保育園入園選考
AI マッチングシステム -
入園希望や家庭状況などの複雑な条件を組み合わせて、AIが児童に保育園を割り当てるシステム。特長は人とAIの共同作業で個別の事情を汲んだ選考ができ、従来の人手による選考と結果に差が少ないこと。結果の99.3%を一致させると同時に、選考業務時間の約9割を削減しました。
やりたいことではなく、やれることをやる。アイデアの源は、自分より社会の中に。
この企画は山形市との共創だから実現できたこと。課題をヒアリングして、それを起点にやれることは何かを考えて、一緒にスピード感を持ってつくり上げていくのが私の性に合っていました。もともとモノをつくるのが好きで、ゲームや音楽づくりに没頭してしまうタイプでしたが、やりたいことは特になくて……やりたいことではなく、やれることをやる、というのが私のポリシーなのです。
この共創プロジェクトのような新規事業開発に関わりはじめたのはここ3年。重要なことは2つあると思います。1つは世の中の動向を見極めること。近年、国や自治体がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している状況を見て、AIサービスが受け入れられる土壌があると思いました。もう1つ、もっと大切なのは直感を信じることだと思っています。新規事業開発は正直しんどいです。だから迷ったときは、最初に「これはイケる」とひらめいた瞬間に立ち戻って判断する。論理的な思考にとらわれすぎないことが、新規事業をカタチにしていく上で大事なのだと思います。

技術だけじゃない、理念だけじゃない。「文系と理系の交差点」から、世の中をより良くしていく。
今の世の中を見ていると、サービスの内容が似たり寄ったりになっていたり、感情を動かすものが減っていたり、合理化を追求するあまり均質化してしまっていると思います。「文系と理系の交差点」という言葉があるのですが、さまざまな技術を開発するのが理系の仕事で、その使い方を考えるのが文系の仕事。ただ新しいものをつくるだけではなく、人々の感情に思いを馳せながら技術と文化が交わるところを探さなければいけません。今回の『NEC 保育園入園選考AIマッチングシステム』がまさにそうでした。ヒアリングをしていくうちに、自治体の職員さんたちは「大変だ、大変だ」と言いながら、この仕事を楽しんでいるように思えてきたのです。窓口を訪れる保護者や児童一人ひとりに、生身の人間として思い入れを抱くようになっていた。そういったプロセスや感情をなくさずに、どうすれば効率を上げられるかというのが、ずっと考えていたポイントでした。
この10年でさまざまなものが自動化されて、人間性や身体性(体を使って体験をすること)が失われてしまったと言われています。でも、だからこそ私は、そうではないものをつくりたい。人間らしさと新しさや便利さは、きっと両立できると思っています。