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人が行き交う場所で、不審者や不審物を見つけ出す。地震などの災害時に、混乱する群衆の流れを把握する。これまで人間が行ってきたことを、機械が瞬時に自動で行うのが、先進の映像解析です。カメラ映像を使って人やモノをどのように識別するのか。不審な行動をいかにして見分けるのか。映像解析のプロフェッショナルが、技術の仕組みや実際の活用事例について語ります。

不審者や不審物を逃さず検知

映像解析は、どんなことを目的とした技術なのでしょうか。

  • 石寺:
    映像解析の目的はいろいろありますが、私が主に行っているのはカメラ映像を用いて防犯や減災など、人々の安全・安心な暮らしに役立てることです。具体的には、カメラで撮影した映像を解析し、施設に無断侵入する人物を不審者として検知したり、公共エリアに置き去りにされた箱や袋などを不審物として判断したり、事件や事故を未然に防ぐことが大きな目的です。
    また、災害時などには避難する群衆の流れを自動検知することで、混乱を抑えて人々を安全に誘導するなど、緊急時の迅速な対応や被害の最小化にも貢献できます。さらに大きなイベント会場などでは、参加者の混雑緩和サービスに役立つと考えています。 

映像解析の基本的な技術や仕組みについて、わかりやすく教えてください。
  • 石寺:
    画像認識技術やディープラーニングというAIを活用して、撮影した映像の中から人間の特徴的な形を自動で抽出し、どこにどれだけの人がいるかを検知します。また映像の中の人の不自然なふるまい、本来あるべきではない場所に置かれたモノの輪郭や一部分を抜き出して、それらの通常と異なる映像の変化を分析します。これにより、多くの人が集まる場所で具合が悪くなって倒れる人、また周りをキョロキョロ見る人、急に走り出す人、長時間置きっぱなしの箱など、不自然な人の動きやモノをリアルタイムで識別します。どんな人やモノを検知したいのか、お客様の要望や目的に応じて条件を設定します。
映像解析の機能構成図
映像解析を活用するとどんなメリットがあるのでしょうか。
  • 石寺:
    人間による映像監視では、大きく2つの課題があります。1つは、人員確保の課題です。たとえばモニターの数が100台を超えるような場合、監視する人間の数も大幅に増やさなくてはなりませんが、映像解析を活用すれば、パソコンを増やすだけで簡単にクリアすることができます。2つ目は、集中力という課題です。人間の集中力には限界がありますが、映像解析を使えば、まさに疲れ知らず。24時間365日、同じ精度で不審者や不審物を検知することができます。
    また、混雑する場所に置かれた不審物は、行き交う人の姿に遮られて目視では発見が難しいと言われています。しかし映像解析を活用すると、わずかな隙間から見える一部分から全体像を分析して、不審物を発見できるのです。

高精度な映像解析の鍵は、ディープラーニング

石寺さんはどのような研究開発を行っているのですか。
  • 石寺:
    ディープラーニングを活用して、人物の検知をはじめ、転ぶ・倒れるなど特定の行動を検知する解析エンジンの研究や開発を主に行っています。お客様が求める要件に適したアルゴリズムを自ら開発することもあります。
    データを統計的に解析し、開発者の主観や思い込みによる影響をなくすことで、人間が気づかないような傾向を捉えられることや、膨大な映像データを瞬時に、かつ高精度に解析できることなど、映像解析において、ディープラーニングの活用は重要なカギを握るといえるでしょう。
マネージャーとして、他にはどんな役割を担っているのでしょうか。
  • 石寺:
    ひと言でいうと、私たちの映像解析技術を実際に世の中で活用していただくための活動です。具体的には、お客様のもとへ足を運んで、映像解析の活用ニーズや目的などを伺います。その後、要望に対する実現性や技術的なコンサルティング、コストや運用など実務的なディスカッションを通じてビジネスの案件として成立させることが、マネージャーとしての重要なミッションです。もちろん、社内の開発体制を整え、スムーズにプロジェクト遂行するのも私の役割です。
    若手の人材育成にも力を注いでいます。画像解析の専門書をじっくり読み込む勉強会では、“数式を手作業で計算せよ”、“微分の定義や固有値と固有ベクトルの幾何学的な意味を述べよ”など、まるで大学の研究室のように、和気あいあいとやっています。

苦い経験から学んだ、大切なこと

業務において、石寺さんが心掛けていることを教えてください。
  • 石寺:
    心掛けていることは、3つあります。1つ目は、「これならいける!」という確信が得られるまで、技術やシステムの実現性についてさまざまな角度から徹底的に想像力を働かせて思考実験を重ねることです。これによって、本当に必要なシミュレーションにリソースを集中することができます。
    2つ目は、二重・三重のセーフティネットを用意すること。画像認識においては、検知対象に必ず例外が現れてきます。こうした例外を見逃さず、しっかり検知するために、1つのアルゴリズムや解析手法にこだわることなく、何重もの対応策を講じます。

    3つ目は、お客様や技術に対して正直であることです。 かつて、私が自信を持って臨んでいたプロジェクトが、うまく進まなくなってしまったときのことです。お客様から「プロジェクトが進まない原因は、あなたが開発したソフトウェアにあるのか、それとも画像認識技術そのものが限界なのか?」と質問を受けました。その時、原因は自分が開発したソフトウェアの不具合だろうと、正直にお伝えしました。当然、お叱りを受けるだろうと思っていた私に、お客様の言葉は意外にも「それを聞いて安心しました。ソフトウェアの不具合なら修正すればすむ。もし石寺さんが、画像認識技術の限界だと答えたなら、プロジェクトはこの時点で中止するつもりでした」というものでした。
    この時、正直であることの大切さを心の底から感じました。技術やお客様と真剣に向き合っているからこそ、正直になれる。その思いを忘れずに、いまも仕事に取り組んでいます。

仕事の歩みは、文字認識から映像認識へ

石寺さんのこれまでの歩みについて、聞かせてください。
  • 石寺:

    大学時代は、第2次AIブームとして注目されたニューラルネットワーク(神経回路網)を用いた文字認識の研究を行っていました。自分で研究してきた文字認識技術を世の中のために役立てたいという気持ちから、卒業後の進路として選んだのが、当時この分野において、最も先進的な取り組みを行っていたNECでした。

    入社後は、文字認識技術を活用して手書きの宛名・住所の読み取りを行う、郵便区分機のソフトウェア開発に関わりました。この郵便区分機は業界でも高く評価され、学会などへ出席する機会も増えました。そうした場で知り合った各企業の技術者と、活発な意見交換や交流ができたことは、私にとって大きな刺激となり、大切な財産になりました。

    2004年頃からは映像解析の業務が中心となりました。開発当初は、モノの影や風に揺れる木の葉、カメラのブレを人物と誤認識するなどの課題もありましたが、ハードウェア環境の進化やAIの実用化によって、いまでは高精度な検知を実現できるようになりました。いまこの業務で活用しているディープラーニングというAIは、実はかつて私が大学で研究していたニューラルネットワークの発展形なのです。

    文字認識の仕事では研究者として成長させてもらいました。その後の映像解析の仕事ではビジネスの醍醐味を学びました。現在、お客様に映像解析の説明や提案を行う中で、自分たちの技術が認められ、ビジネスにつながることにやりがいや喜びを感じます。

安全・安心に加え、便利や効率という価値も拡大

映像解析におけるNECグループの強みとは何ですか。
  • 石寺:
    NECグループは、文字認識やパターン認識の研究において長い歴史があるため、お客様の要求に対して、技術的な観点での実現性やシステムの可能性についてすばやく的確にお答えすることができます。また、ディープラーニング研究での経験や実績をベースに、自分たちでアルゴリズムを開発するなど、AI活用の手法について精通していることが強みだと思っています。
映像解析の導入実績や事例を教えてください。
  • 石寺:
    東京都の豊島区役所には、東日本大震災を経験したのを機に、群衆の行動を解析する「総合防災システム」を導入いただきました。巨大ターミナル駅である池袋駅周辺に集まる人々の動きを検知することで、再び大地震が起きた時など、混乱を抑えて安全に避難誘導するのが目的です。それ以外にも、大型公共施設のロビーでの不審物検知、施設の入退場ゲートにおける不審者検知など、さまざまな活用事例があります。またシンガポールやアルゼンチンの街中映像監視など、グローバルにおいても安全・安心に貢献しています。

豊島区の総合防災システム(画面イメージ)

映像解析の今後の展望について聞かせてください。
  • 石寺:
    現在は、検知したい条件や定義を人間が設定し、それに従って機械が認識しています。今後は、人間が細かな指示や設定をしなくても、機械が自律的に判断して検知を行えるよう、技術を高めていきたいと考えています。活用分野については、工場の防災や操業の安全管理、スタジアムやイベント会場における快適で効率的な誘導サービスに役立てるなど、活用範囲をもっと拡大したいと思っています。
最後に、映像解析に対する石寺さんの思いを聞かせてください。

  • 石寺:
    映像解析によって解決できる課題は、世の中にたくさんあると思います。人手に頼っていた作業を映像解析によって機械に置き換えることで、人の負担を減らしたり、安全や安心をさらに向上したり、私たちの技術を社会の課題解決や新たな価値の創造に幅広くつなげていきたいですね。

(2018年12月20日)