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仮想空間に入り込んでさまざまな体験ができるVR(バーチャル・リアリティ)。最近ではエンターテインメント領域だけでなく、製造業や建設業といった、ビジネス領域にもその活用が広がっています。VRの世界では何ができるのか、どれくらい進化しているのか。VRのプロフェッショナルが、さまざまな活用法や先進の技術について語ります。

ヘッドマウントディスプレイの中に広がる仮想世界

VRやARとは、そもそもどのような技術ですか。

  • 大塚:
    VRとは、装着したヘッドマウントディスプレイの中に広がる仮想空間に入り込める技術です。立体視と呼ばれる右目・左目用の映像を用いて、360°視界の別世界を表現することができます。2012年に手軽な開発ツールが登場してからブームが広がり、現在はゲームや動画などのエンターテインメント領域をはじめ、トレーニングや教育など幅広い領域で活用されています。
    また、VRの類似技術であるARは、現実空間の中に仮想の物体などを重ねて映し出す技術で、スマホ用のゲームアプリがよく知られています。最近では、家具や大型家電などの製品CGを実際の部屋に映し出してサイズやイメージを確認したり、技術者の業務を遠隔支援するなど、日常生活からビジネス分野まで活用が広がり始めています。 

NECソリューションイノベータのVRへの取り組みについて教えてください。
  • 大塚:
    安価なデバイスや新しいハードの出現によって、さまざまな作業が2Dから3Dに変わっていく。そんな3Dの時代に必要なヒューマンインターフェースとは何かという点に着目して、当社では7年程前から研究がスタートしました。
    その後VRが急速に広まる中、事業化に向け、技術やソリューションの開発、体制強化に取り組んできました。現在は、人間中心設計/人間工学の研究実績と、力覚や触覚など様々なセンサーを組み合わせ、先進のVRソリューションを提供しています 。
大塚さんが所属するグループでは何を開発しているのですか
  • 大塚:
    私たちは、VRやAR(オーグメンテッド・リアリティ)技術を活用したソリューション開発の他、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)や防災情報システムなどにおいて、ヒューマンインターフェースに関わるアプリケーション開発を中心に取り組んでいます。様々なセンサーを活用したIoTアプリケーションの開発によって、お客様や社会の課題解決に向けたソリューションの提供を行っています。

転落の瞬間、火災の現場をVR空間でリアルに体験

提供しているVRソリューションは、どんなシーンで活用されるのでしょうか。
  • 大塚:
    近年、建設や製造の現場などでは、熟練技術者の高齢化による人手不足や技術の伝承が大きな課題となっています。一方で、事故発生を防止する安全教育や労働環境の向上も求められています。こうした課題解決に役立つ対策として注目されているのが、私たちのVRソリューションです。

    代表的な活用シーンに、「教育訓練」があります。スキルアップのための技術訓練として、生産工程の作業、メンテナンスの手順、AEDや消火器といった機器の使い方など、よりリアルに業務や操作を繰り返し学ぶことができます。失敗を経験しながら何度もトレーニングすることで、技術の向上や作業の効率化が図れるので、導入企業では生産性の向上が期待できます。
    また、実際の現場では起こってはならない危険の疑似体験にも活用できます。転落事故、火災現場の炎や煙の動きなどをVRで体験し、適切な対応をシナリオ化し体感訓練することで、労働災害防止や安全教育などに役立てることができます。
教育訓練以外では、どのように活用されていますか。

  • 大塚:
    「検証レビュー」でも、VRソリューションは効果を発揮します。工場の生産ラインの改良や物流センターの設備の見直しなど、実際の工事を行う前にVR空間の中でそのイメージ、ユーザビリティを確認することができます。

    また、新製品のデジタルモックアップなども、手間とコストをかけることなく、VR空間で容易に確認できます。さらに、遠く離れた複数の関係者が同一のVR空間で製品設計の検証作業を行うことも可能となります。これにより設計業務の期間短縮、後戻り工数の低減、コスト低削減などの導入効果が見込まれます。

モノをつかんだ感触や事故の手の痛みまで体感

VR/AR事業におけるNECソリューションイノベータの強みを聞かせてください。
  • 大塚:
    当社では、ヘッドマウントディスプレイと各種デバイスを組みあわせて、視覚・聴覚に限らずインタラクティブな体験ができるVRコンテンツを提供できます。例えば、モーションセンサーとの連動によって、自分の手でVR空間の機械を操作する、モノを動かすといった体験ができます。また、力覚・触覚デバイスとの組み合わせにより、VR空間でモノに触れた時に手や指に振動を与え、実際にモノをつかんだり、触ったりしたような感覚のほか、操作に失敗した時には、ケガによる手の痛みを感じるようなリアルなVR体験が可能です。
作業トレーニングのイメージ(中央(緑色)は対象物をつかんだ状態)

こうした人間中心設計/人間工学の研究実績やノウハウにもとづく、次世代ヒューマンインタラクション技術が当社の大きな強みです。さらに、VRによるトレーニングデータやノウハウを可視化できることも強みです。それにより作業の問題点を抽出したり、熟練者と非熟練者の動きを比較ができ、作業の成熟度チェックが可能になります。

先進的で、費用対効果の高いVRソリューションを提案

大塚さんはVRにどのように関わっていますか。
  • 大塚:
    お客様に向け、VR/ARソリューションの提案から、コンテンツの開発管理までを一貫して行っています。
    まずはお客様の課題や用途、要望など、ヒアリングを行います。VRのイメージを具体的に把握いただくため、お客様にデモを体験していただくこともあります。そうした上で、これまでの提供実績を踏まえ、VRの効果的な使い方や費用対効果を検討し、お客様の目的に応じたVRソリューションをご提案します。さらに、コンテンツの制作や進行管理など、開発メンバーや営業部門と調整を図りながら、プロジェクト全体のマネジメントも行います。
VRの提案の際に、心掛けていることは何ですか。
  • 大塚:
    お客様が抱えている課題を正確に捉え、お客様の立場に立って最適な解決策を提案すること、VRソリューションを実際に活用する現場の人たちの声を大切にすることを常に心掛けています。
    ソリューション導入にあたり、お客様からコンテンツ全般に高精細な表現を求められることもありますが、費用対効果を考えると、それは必ずしも必要ではありません。例えば、ビル建築現場における転落体験のVRの場合、現場の景色や背景なども含めた3D空間のすべてではなく、転落の危険性や危機感をリアルに再現する方にコストをかけた方が、結果としてお客様に喜んでいただけるコンテンツに仕上がるからです。

    このように、お客様のご要望をそのまま受け入れるのでなく、VRのプロフェッショナルとして、よりよい提案や意見を積極的にお伝えするよう努力しています。完成したコンテンツに対して、お客様から「まるで本物の現場みたいだ」という声をいただいた時などは、大きなやりがいを感じます。
VRビジネスを進める上で、どんな苦労がありますか。

  • 大塚:
    建設現場を実感するために、私自身がお客様の会社に伺い、建設現場を模して組んだ足場に上がることがあります。実際に上がってみると、現場の作業員の気持ちがよくわかるのですが、その臨場感や緊張感を開発メンバーにどう伝えたらいいのか、その点に難しさを感じます。また、お客様から追加要望や仕様変更などがあった場合は、お客様と開発メンバーとの間に立って、スケジュール調整やコストの折衝など、落としどころを懸命に探し出す作業も結構大変ですね。

NECソリューションイノベータのVR/ARソリューションは、どんなお客様にご利用いただいているのでしょうか。
  • 大塚:
    ここまでのお話の中でも触れたように、現在は、建設業や製造業のお客様が中心です。
    VRソリューションでご要望がいちばん多いのは、建設現場における足場からの転落事故やオフィスの火災発生など、危険体験による安全教育のためのコンテンツです。その他、新入社員や外国人労働者に対する作業トレーニング、工場で使う機械の3D検証などにもご利用いただいています。

    ARソリューションでは、現場作業者と遠隔地にいる支援者が映像と音声を共有して、リアルタイムで現場作業をサポートする遠隔業務支援システムを提供しています。最新のAR技術とスマートグラスの組み合わせによるハンズフリーのシンプルな操作性が特長で、製造機器の操作や工場設備のメンテナンス作業支援などの需要が増えています。

お客様のビジネスを加速、事業の成長に直結する価値創造を目指す

VR/ARソリューションの今後の展望について聞かせてください。
  • 大塚:
    VRやAR体験のリアリティをさらに追求していきます。例えば、匂いセンサーとVRの組み合わせなど、新たな試みにも取り組んでいます。また、繰り返しのトレーニングとしての活用をさらに広げるために、コンテンツに分岐性やランダム性を持たせるなどマルチシナリオへの対応も強化しています。さらに、離れた場所にいる複数の人が同じVR空間で作業するマルチユーザや、仮想世界と現実世界を重ね合わせて体験できるMR(ミックスド・リアリティ)にも力を注いでいく予定です。
    今後は、医療、農業、運輸業、 eコマースなど、多様なお客様に、ヒューマンインタラクション技術、体験データの可視化などの当社の強みを活かしたVR/ARソリューションを提供することで、お客様のビジネスを加速し、事業の成長に直結するような価値を創出していきたいと考えています。
最後に、大塚さん自身の今後の展望を教えてください 。

  • 大塚:
    私はもともとネットワーク関連機器のソフトウェアやWebアプリケーションの開発者でしたが、3Dを用いたヒューマンインターフェースの研究チームに参加したことがきっかけで、VRに関わるようになりました。
    今後も開発者としての 経験や研究で得た知見を活かしながら、お客様と接する提案活動などの経験をさらに積み重ねていきたいと思います。お客様の課題と真摯に向き合い、「この人なら、安心して任せられる」と、お客様からパートナーとして信頼していただけるよう、成長に向けた努力を続けていきます。

(2019年3月14日)