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学会・研究成果発表

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の複数の変異株と結合する人工DNAアプタマーの開発研究が論文掲載されました。

DATE:2022.08.03
研究テーマ:バイオセンシング

デザイン・ラボでは、北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所の澤 洋文教授らと共同で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と結合する人工DNAアプタマー(以下 アプタマー)を開発しました。
新型コロナウイルスは、ウイルス表面にあるSタンパク質のRBD(受容体結合ドメイン、注1)がヒト細胞の表面にある受容体であるACE2(注2)に結合することで、ヒトの細胞に侵入します。
このRBDを標的としたアプタマーは、Base appended Baseという特徴を持った修飾塩基(注3、特許第6763551号)を用いており、スパイクタンパク質に対して強く結合し、解離定数は数百pMです(注4)。
今回開発したアプタマーに対し、新型コロナウイルスのオリジナル株(WK521)、変異株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株)の全5株のウイルス、および人間に季節性の感染(いわゆる風邪)をもたらすHCoV-OC43株のウイルスを用いて、結合評価試験を実施しました。

結合評価試験は、ウイルスを96穴のプレスチックプレートに直接吸着させ、酵素標識したアプタマーで検出するDirect ELAA法で行いました。その結果、新型コロナウイルス全5株に対しアプタマーとの結合が認められ、一般的な風邪のウイルスであるHCoV-OC43株には結合しないことが確認できました(図1)。
今後、このアプタマーをSARS-CoV-2の検出や創薬の領域で活用可能か、関係部門と連携して検証を進めていきます。

Direct ELAA法によるアプタマーと新型コロナウイルスとの結合評価

図1 Direct ELAA法によるアプタマーと新型コロナウイルスとの結合評価

  • (注1)
    RBD:Receptor Binding Domainの略
    SARS-CoV-2 のSタンパク質上のACE2結合部位を含む領域のこと。
  • (注2)
    ACE2:
    ACE2(Angiotensin-converting enzyme 2、アンジオテンシン変換酵素II)は、血管収縮やホルモン分泌による血圧上昇に寄与する人体に重要な酵素である。その一方で、ヒトコロナウイルスSARS-CoVおよびSARS-CoV-2がACE2に接着することで細胞内に侵入することが報告されており、これらのウイルスの宿主受容体になっている。
  • (注3)
    特許第6763551号:
    DNAの反応性や構造多様性を高めるため、天然型のDNA塩基にさらに塩基を付加した新しい修飾塩基
  • (注4)
    解離定数と単位:
    解離定数は濃度単位(M)を持ち、解離定数が小さいことは、リガンド(生体分子と複合体を形成して生物学的な目的を果たす物質のこと。薬剤など表す)はよりしっかりと結合することを表す。例えば、ナノモーラー[10-9(nM)]オーダーの解離定数を有するリガンドは、マイクロモーラー[10-6(μM)]オーダーの解離定数を有するリガンドよりも特定のタンパク質によりしっかりと結合することを示す。ピコモーラー[10-12(pM)]より小さい解離定数は稀である。

担当者紹介

研究テーマ:アプタマーによる簡易測定法の研究開発
担当者:皆川 宏貴
コメント:アプタマーおよびアプタマーを用いた検出法の研究開発を担当しています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部 デザイン・ラボ2
bio-contact@nes.jp.nec.com