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学会・研究成果発表

第88回日本心理学会でウェルビーイング経営に関する研究結果を発表しました。

DATE:2024.10.28
研究テーマ:ウェルビーイング

こんにちは。ウェルビーイング経営について研究をしている菅原です。

2024年9月6日(金)~8日(日)にかけて開催された第88回日本心理学会で、山本と菅原の2名でウェルビーイング経営に関する研究成果を発表しました。

発表タイトルは、「会社への恩がウェルビーイング経営に与える影響の予備調査」および「経営理念浸透が従業員のウェルビーイングに与える影響 構造方程式モデリングを用いた因果分析」の2件です。私たちは、以前にウェルビーイング企業をいくつか視察してきた結果から、会社に対する恩感情や経営理念の浸透とウェルビーイング経営の関係に関する仮説検証の結果を発表しました。

本記事では、今回発表した2つの研究結果の概要を簡単にご紹介したいと思います。

発表1:会社への恩とウェルビーイング経営

私たちがウェルビーイング企業5社を視察した際、ある社員の方の「会社に恩を感じている」という発言から、会社が従業員を大切にすることが恩の感情を生み、より会社に貢献しようとすることで、会社は従業員をさらに大切にすることが出来る好循環を生むという仮説を立てました。
「恩」と「感謝」は似たような概念と考えられますが、感謝の研究はよく行われている一方で、恩に関する研究はほとんどされていません。

私たちは、情報通信業の会社員188名を対象としたWEBアンケート調査の結果から、会社への恩感情の構造とエンゲージメントやウェルビーイングに与える影響について評価しました。

調査の結果、会社への恩感情と感謝感情を比較すると相関係数は0.55と中程度であり、会社に恩を感じることと感謝を感じることは、ある程度似ているものの別の感情と考えられそうです。

恩感情のプロセスを分析すると、恩感情は返報意欲と返報義務に影響し、返報行動(全体・仕事)を促すモデルが支持されました(図1)。

図1.恩感情のプロセスモデル

また、これらの恩感情に関連する要因が組織エンゲージメントや仕事のウェルビーイングに与える影響を重回帰分析により評価しました(図2)。組織エンゲージメントに対しては返報行動(全体)と恩感情が有意に作用し、仕事のウェルビーイングに対しては返報意欲が作用することが示唆されました。

図2.組織エンゲージメントと仕事のウェルビーイングへの重回帰分析

つまり、会社に恩を感じ会社のために活動するほど、組織に対する愛着は高まり、会社に恩返ししたいと感じるほど、会社で働けることに幸せを感じる傾向にあると考えられます。これまで恩の感情を研究した例はあまりないため、今後さらに精緻化しウェルビーイング経営に生かせる知見となるように研究を深めていきたいところです。

発表2:経営理念の浸透とウェルビーイング経営

上記の研究と同様に、ウェルビーイング企業を視察した結果から、従業員が経営理念やパーパスに共感して行動することが、従業員のエンゲージメントやウェルビーイングにとっても良い効果があるのではないかという仮説を得ました。経営理念の浸透に関して、先行研究では「認知」「共感的理解」「行動」の3つの段階で経営理念の浸透度合いを捉えています。

私たちは、就業者5,000名を対象にした調査の結果から、経営理念の浸透が従業員のウェルビーイングにどのような影響を与えうるかを検証しました。また、会社が提供する経営理念の学習機会(「経営理念やパーパスを学ぶ機会が設けられている」等)が、経営理念の浸透の段階にどのように作用するかを確かめました。

分析の結果、経営理念の学習機会と経営理念浸透の各段階は高い相関を示し、また経営理念浸透の3つの段階はそれぞれウェルビーイングの指標(人生満足度および協調的幸福感)と弱から中程度の相関を示しました。

経営理念の学習機会が経営理念の浸透に、経営理念の浸透が従業員のウェルビーイングに与える影響を評価した結果、以下のモデルが得られました(図3)。経営理念の学習機会は、主に経営理念の「認知」に影響し、「共感的理解」「行動」へと段階的に浸透度合いが深まることが示唆されました。また、経営理念浸透の段階のうち「共感的理解」は協調的幸福感へとポジティブな影響を示し、「行動」は人生満足度へとポジティブな影響と示しました。

図3.経営理念浸透と従業員ウェルビーイングのモデル

結果を整理すると、会社が経営理念を従業員に広めようとする行動は、経営理念を認知するところから始まり、共感して納得することや経営理念をもとに行動するまで段階的に効果があると考えられます。また、従業員が経営理念に共感して理解することは調和や平穏を伴う幸福感を高め、経営理念をもとに行動することは人生に対する満足感の向上に寄与すると考えられます。

パーパス経営などをはじめ、企業において経営理念やパーパスは重要視される要素の一つです。ウェルビーイング経営の観点からも、経営理念やパーパスがどのように機能するか、今後も研究を発展させていきたいと思います。

まとめ

今回、第88回日本心理学会で発表したウェルビーイング経営に関連した研究をご紹介しました。私たちの発表の他にも、ウェルビーイングや幸福感などに着目した研究にも触れることが出来て良かったです。

また、今年の日本心理学会は去年に比べて、AIをはじめとしたテクノロジーを心理学研究や臨床心理に活用する具体的な研究も多くあり、心理領域においても注目度が高いテーマなんだと改めて感じられました。

私たちは、今後も心理学の知見から、ウェルビーイング経営につながる知見を集めていきたいと思います。ウェルビーイング経営について、お悩みのことなどあればぜひ一緒に取り組ませていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

担当者紹介

研究テーマ:ウェルビーイング
担当者:菅原 収吾
コメント:心理学的な観点を織り交ぜながら組織のウェルビーイングや感謝などについて研究をしています。学生時代はバイオ研究をしていました。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
wb-research@mlsig.jp.nec.com