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学会・研究成果発表

日本心理学会第88回大会にて、Intimate Partner Violence 被害経験からの援助要請に着目した研究のポスター発表を行いました

DATE:2024.11.11
研究テーマ:心理学的行動変容

行動変容支援を研究している鈴木です。
2024年9月6日から8日に開催された日本心理学会第88回大会にて、親密な関係における暴力(Intimate Partner Violence)の被害経験からの援助要請に着目し、援助要請を抑制する要因の性差を検討した研究の結果についてポスター発表を行いました。本記事では発表内容についてご紹介いたします。

IPV被害における性差

親密な関係における暴力(Intimate Partner Violence:以下IPV)とは、現在もしくは元の配偶者や交際相手などによる身体的・心理的・性的な暴力のことを指します。

内閣府男女共同参画局の調査によると日本では配偶者からの暴力(DV)による被害経験率は22.5%とされ、約4人に1人は配偶者から暴力を受けたことがあると示されています[1]。被害者像としては女性をイメージされることが多いかもしれませんが、同調査によると男性の被害経験率は18.4%にも上ります。また、女性に比べ男性の方が暴力被害の頻度を高く評価した先行研究[2]も見られ、男性の暴力被害にも着目していく必要があると考えられます。

さらに、パートナーからの暴力被害については、被害が繰り返し起きることやそれが当たり前になってしまうことが問題視されており[3]、被害から逃れるための一歩として被害者が被害を相談しやすくなるための支援が重要です。
しかし、男性は女性に比べて援助要請行動を取りにくい傾向があるといわれており[4]、実際に支援センターに相談した男性の割合は相談件数の2.6%程度であったことが報告されています[5]

これらのことから、男性はIPV被害を受けているにもかかわらず、他者に援助を求めること(援助要請)が出来ていない可能性があるといえます。そこで我々は、援助要請と関連する要因の性差を検討することで、新たに男性の援助要請が抑制されるメカニズムを明らかにすることが出来ないかと考えました。

調査方法

調査会社の登録モニターのうち、現在配偶者やパートナー、恋人がいる20-39歳の男性719名(平均31.0±5.1歳)及び女性777名(平均30.7±5.2歳)を対象にweb調査を実施しました。今回の調査に使用した心理尺度は以下の表の通りです。IPV被害の実態を把握するためにデートバイオレンス・ハラスメント尺度及び被支配感尺度を、援助要請については実際に行動が促進/抑制されるかを尋ねるメンタルヘルスリテラシー項目と援助に対する偏見を尋ねる心理的援助への偏見尺度を用いました。さらに、援助要請に関わる要因として恋愛依存、孤独感、悲しい気分や憂鬱な気分を感じた時の反応について尋ねる反応スタイル尺度も使用しました。

表.使用した心理尺度

分析結果から分かったこと

まず始めに、調査の結果から各変数における性差を確認したところ、女性に比べ男性は暴力被害の頻度を高く、恋人による被支配感や孤独感を強く報告する傾向が見られました。さらに恋愛依存の傾向に関して、女性に比べ男性はパートナー関係においてパートナーを中心に考え、孤独になることを恐れている傾向も示されました。
次に、性差が確認された要因について、援助要請の促進要因あるいは抑制要因として機能するかを検証するために、重回帰分析を実施しました。その結果、男性は孤独への恐れによって、女性はパートナー中心の考えによって援助要請が抑制される傾向が見られました。上記の結果と併せて考えると、女性に比べ男性の方が援助要請を抑制する要因を高く有しやすいといえます。
これらのことから、男性の恋愛依存の傾向が援助資源へのたどり着きにくさを招き、ひいては男性における被害からの逃れにくさに繋がる可能性があるといえます。
そこで、援助要請を抑制する要因の一つであった孤独への恐れに着目し、孤独を恐れず向き合うための支援を行うことによって、パートナーとの関係性を適切に評価できる可能性があるのではないかと考察しました。

おわりに

昨年に引き続きIPV被害からの離脱に着目した内容となりましたが、今年も多くの方にご質問やアドバイスをいただき、大変勉強になりました。お忙しい中お時間を割いてくださった皆様、ありがとうございました。今後も行動変容支援技術の様々な可能性を考え、検討を続けてまいります。

参考:

  • [1]
    内閣府. (2021). 男女間における暴力に関する調査報告書.
  • [2]
    越智啓太・喜入暁・甲斐恵利奈・佐山七生・長沼里美. (2015). 改訂版デートバイオレンス・ハラスメント尺度の作成と分析 (1): 被害に焦点を当てた分析. 法政大学文学部紀要, 71, 135-147.
  • [3]
    Young, B. J., & Furman, W. (2008). Interpersonal factors in the risk for sexual victimization and its recurrence during adolescence. Journal of Youth and Adolescence, 37, 297-309.
  • [4]
    山口智子・西川正之. (1991). 援助要請行動に及ぼす援助者の性, 要請者の性, 対人魅力, および自尊心の影響について. 大阪教育大学紀要 第IV部門: 教育科学, 40(1), 21-28.
  • [5]
    内閣府. (2023). 配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和4年度分).

担当者紹介

研究テーマ:心理学的行動変容
担当者:鈴木 美穂
コメント:行動変容支援の応用としてジェンダーやニューロダイバーシティに関する研究をしています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
bt-design-contact@nes.jp.nec.com