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学会・研究成果発表

日本認知・行動療法学会第50回記念大会にて、アクセプタンス&コミットメント・セラピーを用いた介入アプリの開発と効果検証について成果を発表しました

DATE:2024.11.15
研究テーマ:心理学的行動変容

2024年9月22日~24日にパシフィコ横浜で開催された日本認知・行動療法学会第50回記念大会において、「アクセプタンス&コミットメント・セラピーを用いた介入アプリの開発と効果検証―思考整理サポートアプリを用いたパイロットスタディ―」というタイトルでポスター発表を行いました。今回はその発表内容についてご紹介します。

思考整理サポートアプリとは

思考整理サポートアプリは、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy; 以下、ACT)という心理療法を元に研究開発したwebアプリです。ACTの理論に基づいた日替わりのコラムを読み、自分の考えや生活を振り返って記録することで内省を深めるプログラムを提供します。プログラムは、ユーザーが自身のありたい姿や目指したい方向性に気づくこと(ACTの理論では「価値の明確化」と呼びます)に焦点を置いたもので、ユーザー個人のビジョンを明確にしたり、ありたい自分の姿に近づくための目標設定をしたりする際に役立つことを目指しています。つまり、アプリを利用することでユーザー自身の「価値が明確に」なり、「価値」に近づくための行動を取りやすくなったり、「価値」から遠ざかる行動をしたときに感じる“イライラ”や“もやもや”に対処できるようになったりすることが期待できます。

図1 思考整理サポートアプリの機能

ACTとは

ACTとは、心理的柔軟性を高めることを目的とする心理社会的介入手法の一つです[1]。心理的柔軟性とは「今、ここに存在し、心を開き、大切なことをする」能力[2]であり、心理的柔軟性を高めることで将来の心配や過去の失敗にとらわれることなく「今」に意識を向けられるようになり、自分のありたい姿に向かって行動できるようになるとされています。ACTはうつ病や不安症などに対する治療の一環として用いられることが多いですが、疾患治療のみを目的としていないこと[1]や行動変容におけるエビデンスが支持されていること[3]などからその適用範囲は広く、職場における生産性の向上や組織の問題解決などにも活用できるとされています[4]。近年ではヘルスケアアプリケーションやセルフヘルプのためのwebツールなどにも応用されており[5]、今後の幅広い活用が期待されています。

実験の方法

開発した思考整理サポートアプリの心理的効果と使用感を調査するため、実証実験を行いました。実証実験では、アプリの利用により研究参加者の心理的柔軟性が向上するか、また副次的にストレス低減や生産性向上などが目指せるか検討しました。
NEC-G内にて実験参加者を募り、50名の方にエントリーしていただきました。参加者の方にはアプリを4週間使用していただき1日10分程度のワークに取り組んでいただきました。また、アプリ利用期間の前後と利用終了1ヶ月後にアンケート(表1)にご協力いただきました。結果の分析には、すべてのアンケートに回答いただいた28名のデータを使用しました。

表1 アンケートに用いた指標

実験の結果と考察

4週間のプログラム完遂率は61%でした。また、アプリ利用前後と利用終了1ヶ月後のアンケート結果を比較したところ、アプリ利用後に二次元レジリエンス要因尺度の自己理解得点が向上し、1ヶ月後にはさらに向上することが明らかとなりました。また、主観的生産性尺度の仕事のパフォーマンス得点は1ヶ月後に向上し、価値に基づく選択行動を測定する尺度の積極性得点は介入直後に一時的に低下するものの、1ヶ月後に向上することが確認されました。因果関係の検討結果も踏まえると、アプリの利用によって自己理解が向上した結果、自らの「価値」を意識する機会が増え、価値に向かう行動を自主的に選択できるようになることで、副次的に仕事のパフォーマンスを向上させる可能性が考えられました。本アプリはACTのプロセスについて学びながら、価値を含め自己について内省を深めることができるプログラムであり、長期的に利用することで自らの価値への積極的なコミットメントや仕事のパフォーマンスの向上が期待できると考えられます。

おわりに

発表当日はポスターを見に来てくださる方が途切れず、しゃべりっぱなしの1時間でした。ユーザー目線のご意見をいただいたり、より良い効果を出すための改善ポイントを一緒に考えていただいたりと、有意義な時間を過ごすことができました。今回の学会では、オンラインカウンセリングの症例報告や心理療法をweb化した研究などを以前よりも多く見かけたように思います。そんなトレンドに後押しされたからか、私たちの発表も多くの方々に関心を持っていただけたのかもしれません。今後はいただいたご意見を参考にしながら、より使いやすく効果的なアプリとなるよう改修に取り組んでいきたいと考えています。

引用文献

  • [1]
    Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (2011). Acceptance and commitment therapy: The process and practice of mindful change. Guilford press.
  • [2]
    ラス・ハリス他 (2012). よくわかるACT――明日から使えるACT入門―― 星和書店.
  • [3]
    谷 晋二 (2016). 先延ばし行動を持つ大学生にアクセプタンス&コミットメント・セラピーの心理教育を実施した症例報告 行動療法研究, 42(2), 147-158.
  • [4]
    伊井 俊貴 (2023). アクセプタンス&コミットメント・セラピーの職場での活用の可能性 産業精神保健, 31(3), 127-131.
  • [5]
    高階 光梨他 (2021). 日本における抑うつ症状に対する心理学的支援を目的としたスマートフォン用アプリケーション・プログラムのレビュー 認知行動療法研究, 47(1), 1-10.

担当者紹介

研究テーマ:心理学的行動変容
担当者:谷沢 典子
コメント:心理学に関する研究業務を担当しています。臨床心理士・公認心理師です。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
bt-design-contact@nes.jp.nec.com