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学会・研究成果発表
情報処理学会第87回全国大会にて、大規模言語モデルを利用した目標行動設定の支援技術についての研究発表を行いました
DATE:2025.03.25
研究テーマ:心理学的行動変容
2025年3月13~15日に開催された情報処理学会第87回全国大会にて、「大規模言語モデルを利用した目標行動設定の支援技術の検討」という題目で発表いたしました。

イノベーションラボラトリでは、セルフモニタリングを利用した「自分日誌」アプリを開発しております。目標に向かう日々の行動や出来事を毎日記録することで、行動を自己管理する習慣を身につけながら、掲げた目標の達成を目指していくアプリです。このアプリでは、記録する行動や出来事は目標に合わせて自分で自由に設定できるようになっており、目標の種別に合わせた記録セットも用意しています。本発表では、記録する行動をもっと楽に設定できるようにするために、大規模言語モデル(LLM)を利用して目標から日々の行動へ落とし込むことで、行動の設定を支援する仕組みについて検討いたしました(図1)。

この仕組みでは、LLMとの対話に慣れていない人でも利用しやすいように、行動を理由と共に端的に提示し、基本的に入力は選択操作のみとしています。また、ユーザが行動を継続・習慣化しやすくするために、簡単な運動や短時間の学習など、日々無理なく実施できる行動を提案するような工夫をしています。
ユーザがシステムに目標を入力すると、システムはLLMを用いて目標達成に向けて日々取り組むべき行動を理由と共に提案します。ユーザはこの提案を参考にして取り組む行動を決定していきます。提示された行動が不明確な場合には、「詳細化」の指示を選択することでより具体的な行動が提示され、行動の内容(時間や場所、頻度、行動の種類など)を変更したい場合には、「一部変更」の指示を選択することで部分的に変更された行動が提示されます。このプロセスをユーザが納得するまで繰り返して、取り組む行動を決定していきます。
この仕組みのシステム化に向けて、まずはプロンプトを用いて試作し、試作を用いた評価実験を行いました(LLMはGPT-4oを使用)。
最初に、設定した目標に沿った妥当な回答が得られるかを評価しました。「新事業を創出する人材になる」という目標を設定すると、創造性や情報収集能力や人脈構築力など、新事業創出に必要な能力を鍛えるための提案がされました(図2)。続けて「自己啓発や専門知識を深めるために学ぶ」の「詳細化」を指示した際には、具体的な学習方法が提示され、妥当な回答が得られていることを確認できました(図3)。


次に、弊社の従業員5名に試作を使用してもらい、アンケート調査により評価を行いました(図4)。その結果、全体的に高い評価が得られており、あまりストレスなく使えること、期待する結果が簡単に得られること、自分では到達できない観点が提示され有益であることが確認できました。一方で、詳細化を続けていくと目標から逸れた行動が提案される、ユーザの指示を待たずに想定外に終了する、期待する内容がなかなか提示されないなど、回答の精度や個別化に関する課題も見られました。

本発表では、目標に向かって日々取り組むべき行動を提案する仕組みを検討いたしました。プロンプトを用いて試作と評価を行い、簡単な操作で妥当な行動と新たな視点が得られることを確認しました。今後は、回答の精度や個別化などの課題を解決しつつシステムを構築し、ユーザが実際に記録したデータに基づいて、システム利用がユーザの習慣化と行動変容に繋がるのかを検証していきたいと考えています。
担当者紹介
研究テーマ:心理学的行動変容
担当者:小泉 博一
コメント:AIを利用した行動変容技術の研究をしています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
bt-design-contact@mlsig.jp.nec.com
