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学会・研究成果発表
第三回ウェルビーイング学会学術集会で発表しました
DATE:2025.05.29
研究テーマ:ウェルビーイング
はじめに
ウェルビーイングの研究をしている丸山と申します。2025年3月20日に、武蔵野大学にて

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日経統合ウェルビーイング調査(伊藤版Well-beingスコア)の因果関係モデル
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日本人の心の拠り所感と協調的幸福感の関係
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生成AI受容と幸福感の関係

日本人の心の拠り所感と協調的幸福感の関係
私たちの研究テーマの一つは、“日本人に適したウェルビーイングの要素”を明らかにすることです。本研究は、そのテーマに即し行った調査結果の一部を報告するものです。
※本研究は、武蔵野大学の浦谷裕樹先生との共同研究となります。
研究の経緯
私たちは、“日本人に適したウェルビーイングの要素”のヒントを得るために、武蔵野大学ウェルビーイング学部の先生方にインタビュー調査を行いました。そこで、日本人の幸福感に「いつも通りの日常への安心感」が関与しているという仮説が得られました。具体的には、「いつも通りの景色に戻ってきたとき」や「カーテンを開けて朝日を浴びるとき」など、ホッする感じが日本人の幸福感に関係するのではないか、という仮説です。私たちはこの安心感を「心の拠り所感」と呼ぶことにしました。
日本人の幸福感をもとに開発された尺度として、協調的幸福感尺度(IHS)があります。協調的幸福感は、他者との調和や平穏、人並み感など、集合的なウェルビーイングの在り方とつながりに関する主観的な評価のことを指します[1]。日本人は、ウェルビーイング測定によく用いられる人生満足度よりも協調的幸福感を志向する傾向があると報告されています[2]。しかし、人生満足度に比べ、協調的幸福感の位置付けや関連要因を明らかにするような研究はまだあまり見られません。
そこで本研究では、「心の拠り所感」の測定を試みること、そして協調的幸福感との関連を調べることを目的としました。
調査概要と調査の結果
調査は2024年12月に日本人800人を対象とし、オンラインで実施しました。心の拠り所感、協調的幸福感に加え、人生満足度についても測定項目を設けました。
調査の結果、心の拠り所感は3つの因子で構成されることが示されました。1つ目は「環境」に関するもので、2つ目は「関係性」に関するもので、3つ目は「習慣」に関するものです。
それぞれの設問分の一部を以下に例示します。
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環境
- 住み慣れた町に帰ってくると、ホッとする
- 帰る場所があることで、心に平穏を感じられる
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関係性
- 親しい人たちと過ごすことで、日常に安心感が生まれる
- 知り合いの多い場所にいると、ほっとした気持ちになる
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習慣
- いつも通りのルーティンを過ごすことで、心に安心感が生まれる
- 同じ時間に同じことをすることが落ち着きを与えてくれる
これらの因子と協調的幸福感および人生満足度の相関分析を行った結果、心の拠り所感の3因子はいずれも協調的幸福感と中程度の正の相関が見られ、相関係数は人生満足度よりも大きな値を示しました。さらに、重回帰分析を行った結果、心の拠り所感のうち「関係性」と「習慣」の2因子は、人生満足度よりも協調的幸福感に強く影響する可能性が示されました。
今回の調査では、尺度としての弁別性の検証や国際比較を行っていませんので、心の拠り所感が“日本人に適したウェルビーイングの要素”なのかどうか、まだ分かりません。しかし、協調的幸福感の関連要因として新たな因子を提案することができました。今後は、尺度化や心の拠り所感をもとにした介入方法についても検討していく予定です。
生成AI受容と幸福感の関係
続いてご紹介するのは、生成AIの受容性と幸福感の関係に注目した研究です。
※本研究は、関西福祉科学大学の島井哲志先生、大阪大学の浦田悠先生との共同研究になります。
研究の経緯
近年、AI技術が様々な分野で活用されるようになりましたが、その中でも生成型人工知能(以下、生成AI)の広がりには目を見張るものがあります。生成AI利用にはリスクもあるものの、利用者の専門知識を必要としないことから、ビジネスでも多く利用されるようになっています。しかし、実際に生成AIを業務で使うことになる従業員の受容性に関する研究はあまり見られず、“どのような人が生成AIを受け入れやすいか”、“生成AI導入にどのようなアプローチをするのがよいか”といった知見が少ないのが現状です。
さらに、従業員の幸福感はビジネスにおける成功と相関があることが示されているため[3]、ただ生成AIをツールとして導入するだけではなく、それが従業員の幸福にもつながることが望ましいと考えられます。
そこで本研究では、新技術の受容性に関する理論「総合技術受容理論(以下、UTAUT)[4]」を応用した生成AI受け入れ尺度のパイロット版を用いて、従業員の生成AI受容と幸福感について調査・分析を行いました。
調査概要と調査の結果
調査は2024年10月に弊社グループ社員を対象に行い、224人から回答を得ました。調査項目として、島井先生、浦田先生により作成された生成AI受け入れ尺度のパイロット版に加え、日本版主観的幸福感尺度、基本的心理欲求、強みなどの幸福感に関連する尺度を用いました。
まず、どのような従業員が生成AIの業務活用を前向きにとらえているかを把握するために、生成AIに対する行動意図(これからも生成AIを使い続けるという意図)および、利用行動(生成AI活用しているという事実)の双方が高い回答者群を探しました。クラスタ分析の結果、回答者は13のクラスタに分かれ、そのうち行動意図および利用行動の双方が高いクラスタは2群ありました。そのうち1群は、本研究で測定した項目において特徴が見られ、強み尺度の「好奇心」が高く、有意ではないものの男性率も高くなっていました(図1)。

続いて、UTAUTをベースとした生成AI受容と幸福感関連の指標の関係を示すモデルを検討しました。その結果、適合度としては改善の余地があるものの、生成AIの利用行動から幸福感やエンゲージメントなどにパスが伸びるモデルが得られました(図2)。

これらの結果から、生成AIを前向きに捉える人の特徴として「好奇心」が関連することが示されました。また、生成AI受容と幸福感の関係についても示唆されました。一方、別の分析の結果、幸福感は生成AI受容の説明変数や調整変数ともなり得ることが示唆されたため、モデルについてはさらなる検討が必要だと考えられました。
おわりに
今回のウェルビーイング学会学術大会では、研究者だけではなく実務家による発表も多く見られました。そういったアカデミックな発表や企業や組織での実践事例などから得られた学びを活かし、今後も研究を続けていく所存です。
今回の私たちの発表内容についてご興味ある方は、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
- [1]Krys, K., Haas, B.W., Igou, E.R. et al. Introduction to a Culturally Sensitive Measure of Well-Being: Combining Life Satisfaction and Interdependent Happiness Across 49 Different Cultures. J Happiness Stud 24, 607–627 (2023).
- [2]Hitokoto, H., & Uchida, Y. (2015). Interdependent happiness: Theoretical importance and measurement validity. Journal of Happiness Studies, 16, 211-239.
- [3]Lyubomirsky, S., King, L., & Diener, E. (2005). The benefits of frequent positive affect: Does happiness lead to success?. Psychological bulletin, 131(6), 803.
- [4]Venkatesh, V., Morris, M. G., Davis, G. B., & Davis, F. D. (2003). User acceptance of information technology: Toward a unified view. MIS quarterly, 425-478.
担当者紹介
研究テーマ:ウェルビーイング
担当者:丸山 佳織
コメント:ウェルビーイング経営や推しとウェルビーイングの関係に着目した研究を担当しています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
wb-research@mlsig.jp.nec.com
