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学会・研究成果発表
研究開発した「睡眠習慣改善アプリ」を用いた睡眠習慣改善による心理的効果についての論文が採択されました
DATE:2025.10.24
研究テーマ:睡眠日誌
我々の研究グループと東京家政大学の岡島義教授の共同研究によって開発された「睡眠習慣改善アプリ」の効果検証についての論文が、BioPsychoSocial Medicine誌に採択されました。「睡眠習慣改善アプリ」は、不眠症状に対する認知行動療法の考え方を援用し、睡眠習慣の改善と睡眠に関する知識の定着を目指すツールです。

背景
不眠症は一般人口の5分の1から2分の1が経験し、さらにそのうちの5分の1が慢性的な不眠症を発症すると報告されています[1]。慢性的な不眠症に対する初期の介入において不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)は一定の効果が得られることが確認されており[2]、抑うつ症状の改善につながることも知られています[3]。しかし、これまでの研究では症状の改善が健康なレベルに至るかどうかまでは検証されてきませんでした。そこで、本研究ではデジタルCBT-Iが労働者の不眠症状及び抑うつ症状を健康レベルまで改善できるかどうかを検証することとしました。
方法
NECグループで働く752名の労働者を対象とし、2週間にわたって睡眠習慣改善アプリによる介入実験を行いました。参加者は不眠の重症度を示すアテネ不眠尺度[4]及び抑うつ症状を示すKessler 6 Scale[5]のカットオフ値によって、不眠群、抑うつ群、不眠と抑うつの併発群、健常群の4群に分けられ、全員が参加者ごとにカスタマイズされたデジタルCBT-Iによる介入を受けました。そして、介入前、介入直後、介入終了の1ヶ月後、介入終了の3ヶ月後の4時点の不眠得点および抑うつ得点を比較検証しました。
結果と考察
まず、介入前から介入直後、及び1か月から3ヵ月後の追跡調査において不眠群と併発群での不眠症の重症度が有意に減少し、併発群での抑うつ症状が有意に減少したことが認められました(図1)。しかし、不眠症の重症度も抑うつ症状も、治療後は健常群よりも高い値のままとなりました。本研究では追跡調査期間を3か月と設定しましたが、期間内で改善効果が持続し、健康レベルとの差が縮まった傾向が見られたことから、より長い期間の追跡調査を実施した場合には健康レベルへの改善も期待できる可能性があります。
一方で、抑うつ群では不眠症の重症度も抑うつ症状も改善しませんでした。しかし、CBT-Iが不眠症状を緩和することで抑うつ症状を軽減する[6]といった先行研究も見られることから、CBT-Iによる介入は不眠症状を直接改善し、その後抑うつ症状を改善する可能性も考えられます。

おわりに
この研究によって、不眠症状および抑うつ症状について、デジタルCBT-Iによる介入では健康レベルまでの得点の低下を確認することは出来ませんでしたが、介入後も時間とともに効果が持続することが示されました。
本論文はすでにオンライン上で全文が公開されております[7]。どなたでもご覧いただけますので、ぜひご参照ください。また、本研究で利用した睡眠習慣改善アプリをベースに開発された、企業で働く従業員の睡眠習慣改善を支援するWebアプリサービス「NECパーソナル睡眠コーチ」を提供しております[8]。興味を持っていただいた方は下記連絡先にお問い合わせください。
- [1]Morin, C. M., Jarrin, D. C., Ivers, H., Mérette, C., LeBlanc, M., & Savard, J. (2020). Incidence, persistence, and remission rates of insomnia over 5 years. JAMA Network Open, 3(11), e2018782-e2018782.
- [2]Edinger, J. D., Arnedt, J. T., Bertisch, S. M., Carney, C. E., Harrington, J. J., Lichstein, K. L., ... & Martin, J. L. (2021). Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: An American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. Journal of Clinical Sleep Medicine, 17(2), 255-262.
- [3]Manber, R., Edinger, J. D., Gress, J. L., Pedro-Salcedo, M. G. S., Kuo, T. F., & Kalista, T. (2008). Cognitive behavioral therapy for insomnia enhances depression outcome in patients with comorbid major depressive disorder and insomnia. Sleep, 31(4), 489-495.
- [4]Okajima, I., Nakajima, S., Kobayashi, M., & Inoue, Y. (2013). Development and validation of the Japanese version of the Athens Insomnia Scale. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 67(6), 420-425.
- [5]Kessler, R. C., Andrews, G., Colpe, L. J., Hiripi, E., Mroczek, D. K., Normand, S. L., ... & Zaslavsky, A. M. (2002). Short screening scales to monitor population prevalences and trends in non-specific psychological distress. Psychological Medicine, 32(6), 959-976.
- [6]Manber, R., Buysse, D. J., Edinger, J., Krystal, A., Luther, J. F., Wisniewski, S. R., ... & Thase, M. E. (2016). Efficacy of cognitive-behavioral therapy for insomnia combined with antidepressant pharmacotherapy in patients with comorbid depression and insomnia: A randomized controlled trial. The Journal of Clinical Psychiatry, 77(10), 2446.
- [7]
- [8]
担当者紹介
研究テーマ:心理学的行動変容
担当者:鈴木 美穂
コメント:行動変容支援の応用としてジェンダーやニューロダイバーシティに関する研究をしています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
bt-design-contact@nes.jp.nec.com

https://doi.org/10.1186/s13030-025-00334-y