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胸部X線画像のオープンデータを用いた画像認識でCOVID-19の判定をやってみました
1.はじめに
DATE:2020.05.26
研究テーマ:新テーマ探索
皆さん、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたでしょうか。今年は外出自粛が広く呼び掛けられる異様なゴールデンウィークで、私も帰省のために早期予約した飛行機を泣く泣くキャンセルし、ほぼ自宅で巣ごもりする毎日でした。
さて、直近の新型コロナウイルス(COVID-19)に関する様々な問題の解決に貢献するため、各地で様々なオープンデータが公開されているのはご存知でしょうか?その中の一つに、COVID-19の胸部X線画像・CTスキャン画像のオープンデータセット 1 があります。世の中の問題としてCOVID-19感染を確認するためのPCR検査に時間がかかっていること 2, 3、私が画像認識関連に従事していたこともあり、試しにこのオープンデータを用いた画像認識で、COVID-19の判定実験をやってみました。

- 1.
- 2.PCR検査「全然受けられない人」を続出させる闇
https://toyokeizai.net/articles/-/347451
- 3.「結果が判明するまでの期間は状況によりますが、1日から数日かかります。」
https://h-crisis.niph.go.jp/?p=135175#Q4
2.実験結果
深層学習の手法の一つDenseNet 4で、X線胸部画像からの2クラス識別(COVID-19/非COVID-19)を学習し、10-foldの交差検証で結果を確認してみました(177人分の胸部立位正面画像(PA)を使用した結果。「非COVID19」には、SARS、Pneumocystis肺炎など他の疾患に関するものが含まれます。)。
推定 | 正解率 | |||
---|---|---|---|---|
非COVID19 | COVID19 | |||
正解 | 非COVID19 | 33 | 19 | 63.5% |
COVID19 | 22 | 103 | 82.4% |
再現率(感度) | 適合率 | F値 | (特異度) |
---|---|---|---|
82.4% | 84.4% | 83.4% | 63.5% |
この結果を、日本国内のPCR検査の状況と比べてみましょう。
PCR検査結果 | 正解率 | |||
---|---|---|---|---|
非COVID19 | COVID19 | |||
正解 | 非COVID19 | 1449 | 15 | 99.0% |
COVID19 | 67 | 157 | 70.1% |
再現率(感度) | 適合率 | F値 | (特異度) |
---|---|---|---|
70.1% | 91.3% | 79.3% | 99.0% |
再現率、適合率、F値の数値だけを見ると、PCR検査の状況と遜色ない結果でした。しかも、画像認識によるCOVID-19判定の処理速度が画像1枚あたり1.3秒なので、物理的制約(サンプルの採取・運搬など)、時間的制約(結果が出るまで待たされる)の多いPCR検査に比べると、医療機関の既存の設備だけで迅速に結果を出せるであろう画像判定の可能性が見えてきませんでしょうか。
ただし、この結果にはいくつか注意点があります。
- 検査を受ける人の症状などの前提条件がPCR検査の場合と比べてどのくらい差異があるのか、よく分からない(オープンデータの方がCOVID-19感染者の割合が圧倒的に多い)。また、今回の実験で使用したデータはほとんどが海外のもので、日本人と比べて体格などの状況が異なる可能性もあり得る。
- 画像認識による判定結果は、PCR検査と比べて特異度が低い。当然事後確率(陽性の結果が出たときに、被験者が真に陽性である確率)が下がってきます。この点については、今後利用可能な胸部X線画像サンプル数が増えるにつれて改善されることを期待しております。
- 4.
G.Huang, Z.Liu, L.van der Maaten, K.Q.Weinberger. Densely Connected Convolutional Networks. IEEE Conference on Pattern Recognition and Computer Vision (CVPR), 2016.
https://arxiv.org/abs/1608.06993
3.終わりに
少数のサンプルによる簡単な結果ではありましたが、画像認識によるCOVID-19の判定実験の結果を紹介させて頂きました。現状、世界で共有されているCOVID-19の胸部X線画像は未だ少ないと思われますが、これらの画像が広く共有されるようになれば、画像判定がCOVID-19感染対策に貢献する可能性が出てくるかもしれません。もちろん、COVID-19感染の判定以外にも、解決すべき問題は山ほどあります。最後に、COVID-19感染の一日も早い収束と、皆さまのご健康を願ってやみません。
担当者紹介
研究テーマ:新テーマ探索
担当者:伊原 康行
コメント:新テーマ探索を担当しています。これまで手掛けてきた主な研究領域は、画像認識、機械学習、暗号、数理科学。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部第一グループ ラボラトリ第一グループ
ilab-contact@nes.jp.nec.com
