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量子コンピュータを活用した交通流計測の実証実験を開始しました!

DATE:2021.09.02
研究テーマ:量子コンピューティング

1. はじめに

先日、川崎市内での量子コンピュータを用いた交通流解析の実証実験開始のプレスリリース(*1)をさせて頂きましたが、ここでは、実証実験に至った経緯や、実験の内容について、紹介させて頂きます。

道路交通渋滞は、皆さんにとっても身近な問題であるかと思いますが、渋滞がどの程度の社会的影響を及ぼしているかご存知でしょうか。国土交通省の統計によると、全国の渋滞による損失は年間12兆円に上り、1人あたり年間42時間の時間損失があると言われています(*2)。また、自動車排出ガス規制が進んでいるとは言え、渋滞による加速、減速の繰り返しが大気汚染や地球温暖化の原因であることも指摘されています(*3)。

2. 実証実験までの経緯

我々は、このような社会問題の解決に取組むため、緊急渋滞対策を何度か行っている川崎市に、交通状況や過去に実施した対策、課題感などをヒアリングさせて頂きました。川崎市は、今世紀に入っても人口増加傾向にあり、平成29年に人口が150万人を突破(*4)する一方、東京都、横浜市といった大都市に挟まれた南北に細長い市域、新たな用地取得が困難といった地域事情(*5)などから、道路交通の渋滞の慢性化といった社会問題を抱えているそうです。川崎市が昨年度実証フィールドの提供先を公募されていたこともあり、我々の想定しているICT技術が、渋滞解消に役立つことを検証すべく、今回の実証実験に応募させて頂きました。

実験候補地を選定するにあたり、川崎市や交通情報の提供業者からの提供事業者からの情報、川崎市内在住・在勤の社員のアンケート回答を参考にさせて頂いた上で、川崎市全7区18箇所の交差点を現地視察し、最終的にはJR浜川崎駅付近の鋼管通り交差点を選定しました。この交差点は、東京~横浜を結ぶ産業道路の交差点であるだけでなく、複雑な形状の六差路であるほか、近くに首都高速湾岸線のICがある、交通量の非常に多い交差点であるのが特徴です。工業地帯に面していることから大型車の通行量が多く、特に夕方に渋滞が起きやすいです。また、日本損害保険協会の近年の調査でも、神奈川県内の交通事故発生件数ワーストランキング上位に挙げられている(*6)ことからも、交通事情が激しいことが伺えます。

3. 実証実験の内容

本実証実験では、交差点を行きかう自動車をとらえるためにカメラを設置し、画像認識や量子コンピュータなどによる、渋滞緩和対策の第一歩として交通流計測を行います。具体的には、どのレーンをどのくらいの自動車が走行したかを時間帯ごとに把握することにより、従来の手動での計測調査に比べ統計的に信憑性の高い(正確かつ1日24時間の計測)交通流データを収集でき、渋滞緩和の効果的な施策が打てるようになります。

ただ、従来の画像認識技術には1つ課題があります。多数の車両の流れを測るには、数理最適化技術が用いられることが多いのですが、多項式時間アルゴリズムになるため、検出した車両の台数が増加するほど、処理時間が増大してしまいます。そのため、例えば、検出車両台数が約20~30台以上になった場合、実際の映像の進行速度に対し、処理速度が追い付かなくなってしまう懸念が生じます。そこで、量子トンネル効果により組合せ最適化問題を迅速に解ける量子アニーリング技術を、本実証実験で活用します。量子コンピュータ活用の有効性が確認できれば、ドライバーへの迂回路の提案、交通事情に柔軟に対応した信号機制御といった、様々な渋滞緩和対策システムが、リアルタイムで実現できるようになると期待されます。

今回の実験は、渋滞を中心とした様々な社会問題解決の第一歩にすぎませんが、本研究に関するご意見やご関心、先端技術を用いた渋滞緩和のアイデアなどがありましたら、下記までご連絡ください。

担当者紹介

研究テーマ:量子コンピューティング
担当者:伊原 康行
コメント:新規研究の立ち上げを担当しています。これまで手掛けてきた主な研究領域は、画像認識、機械学習、トポロジカルデータ解析、暗号、数理科学。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部
ipd-traffic_ai@nes.jp.nec.com