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【SXSW2024レポート】SXSW2024から考えるこれからの働き方

DATE:2024.6.27
研究テーマ:ウェルビーイング

こんにちは。ウェルビーイング経営や感謝などの研究をしている菅原です。

先日、2024年3月8日から3月16日にかけてアメリカのオースティンで開催されたSXSW2024へ視察に行ってきました。今回は、私が現地で見てきたものについてご紹介します。

SXSWとは

SXSWはSouth by South Westの略で、毎年3月にオースティンで開催される音楽・映画・インタラクティブを中心とした大規模イベントです。もともとは1987年に音楽祭として始まり、今では映画やアート、テクノロジー、教育など、さまざまな分野が融合した祭典となっています。

さまざまなテクノロジー情報が集まるインタラクティブ部門は、2007年にTwitterがブログ領域で表彰されたことがきっかけとなり、世界から注目されるテックイベントの一つとなりました。2011年にはAirbnb、2012年にはPinterestが表彰されるなど、新しい事業や技術、アイデアが発掘されるイベントとして注目されています。

SXSW2024では、キーノート・セッションやプレゼンテーションに加え、展示ブースやピッチ大会、ネットワーキング・イベントなどが開催されました。メイン会場のコンベンションセンターのほか、周辺のホテルや公園などにもブースが設けられ、オースティンの中心地一帯がSXSWムードで賑わいました。

SXSW2024の映画祭会場に集まる人々

これからの働き方はどう変化するか

SXSW2024では、「Artificial Intelligence(AI)」「Culture」「Workplace」などさまざまなトラックが用意されました。今回、私はウェルビーイング経営の観点から「働き方」や「ウェルビーイング」に関わるセッションを中心に視察してきました。セッションへの参加を通して、「これからの働き方」について整理されてきたので、ご紹介します。

SXSW2024において、「これからの働き方」について語られていたことを大きく分類すると、以下の2つが挙げられます。

  • AI時代の私たちのビジネス創出
  • 心・脳と上手く付き合う方法
それぞれどのようなことが語られたのか、ご紹介していきます。

AI時代の私たちのビジネス創出

2023年から2024年のビジネス・トレンドとして、AI(人工知能)の発展については絶対に外せない話題です。Chat GPTをはじめとした様々な生成AIが誕生し、私たちの職場や教育現場、日常生活などで活用が広まっています。

Sandy Carter氏は、AIに関連した7大トレンドを紹介し、私たちがAIと共に成果を発揮するために持つべきマインドについて語りました。紹介された7大トレンドは以下の通りです。

このようなAIを取り巻く指数関数的な発展に対して、私たちが追随して成果を発揮するには新しいテクノロジーについて「とにかく触り、遊び、学び、実験する」ことが重要と語ります。同時に、私たち人間の持つ洞察力を大切にし、適切な問いや仮説を立てることで、私たちはAI時代で能力を発揮できるかもしれません。

また、現在、世の中ではAIを活用したサービスや製品が次々と考案されていますが、その多くは失敗に終わっており、AIを活用したプロジェクトの約85%が失敗しているとも言われています。

これらの失敗は、十分なモデル性能が達成できないなど技術的な課題もあれば、ユーザーが十分な価値を見出せず収益を生み出せないといったビジネスにおける課題、偏見やプライバシー侵害を含む結果が出てしまう社会適応上の課題など、さまざまな課題によって引き起こされています。

カーネギー・メロン大学のNur Yildim氏とJohn Zimmerman氏は、これらの失敗の原因として「データサイエンティストとデザイナーの連携不足」を挙げています。

データサイエンティストだけでは消費者の欲しがるものにならず、デザイナーだけでは作り上げることが出来ません。またデータサイエンティストはつい技術的に有意義であるかを考えてしまいますし、デザイナーはAIを活用すればなんでもできると思いがちです。社会的に価値があり、普及するAIサービスを生み出すためには、「顧客中心的(User-centered)」と「AI中心的(AI-centered)」の重なる部分を導き出さなくてはいけません

今後、AI時代の中で私たちが新しいビジネスを生み出すためには、日々登場する新しいソリューションに積極的に触れながら、AIなどの技術には「何ができて」「何ができない」のか知る必要があるでしょう。また、技術だけではユーザーの価値にはならないこと意識し、自分の取り組む顧客課題・社会課題にきちんと目を向けることも大切です。

心・脳と上手く付き合う方法

AIなどの技術に関連したセッションが目を引く一方で、私たちの心や脳に焦点を当てたセッションも多く見受けられました。

イェール大学のLaurie Santos氏は、認知科学・心理学の観点から、職場におけるウェルビーイングを改善する5つの方法を紹介しました。

感情認知」「時間的豊かさ」「セルフ・コンパッション」「仕事の意味」「関係性・社交性」を意識することで、私たち働く人々のウェルビーイングは向上し、私たち自身の潜在能力も最大限に発揮できるようになると言います。

また、どのような働き方・働く場所をつくるべきか、脳科学の観点からも語られました。
デザイン会社であるHOKのTom Polucci氏とKay Sargent氏は、「ニューロダイバーシティ」をキーワードに、職場環境のあり方について紹介しました。ニューロダイバーシティとは、個人ごとに脳や神経による情報処理が異なる多様性を捉え、相互に尊重しようという考え方です。私たちの情報処理の仕方は一人ひとり異なり、非常に多様です。また、ASDやADHDなどのニューロマイノリティを抱える人々は、全体の約22%に上ると推定されています。

職場において「音」「光」「温度」などの要因が、刺激に鋭敏な人々のパフォーマンスを低下させ、疲弊させます。ニューロマイノリティの人々が働きやすい環境をつくるためには、刺激に配慮したデザイン設計が必要となります。

このような働きやすい環境の恩恵を受けるのは、ニューロマイノリティをもつ人々だけではありません。彼らが不快だと感じる刺激は、多くの場合、典型的な神経特性を持つ人々にとっても悪影響を与え、パフォーマンスを低下させる証拠が見つかってきています。22%のニューロマイノリティの人々のためのデザインは、100%の人々に恩恵を与えることになるかもしれません。

また、私たちが脳のパフォーマンスを最大限発揮するためには、仕事の内容によって空間的・時間的に切り分ける必要があります。Liz Fallon氏らはリサーチの結果、「集中する時間」「コラボレーションの時間」「創造と革新の時間」の3つの仕事の時間を分けるのが理想だと導き出しました。

従来型のパネルで区切られた職場だけでも、現在増えているオープンオフィスだけでも、さまざまな仕事で最大のパフォーマンスを発揮することは困難です。必要な仕事内容を整理し、必要な職場を考えることが、脳科学の面から私たちのパフォーマンスとウェルビーイングを最大化するには重要かもしれません。

まとめ

今回、SXSW2024を通して語られた「これからの働き方」について、ご紹介しました。

AIをはじめとする先端技術が次々と登場する中で、私たちは日々の仕事の中でどう対応するか考える必要性が高まっています。また、私たちのパフォーマンスを最大限に発揮するために、心や脳に焦点を当てたアプローチも増えています。みなさんの仕事のなかでも、最新技術をどう扱うことができるか、心や脳に向き合ってどうパフォーマンスを向上できるか、考えてみるとよいかもしれません。

SXSWでは、他にもさまざまなトピックに関して、欧米でホットな話題に触れられるので、ご興味がある方はぜひ現地に行って参加してみてください。

担当者紹介

研究テーマ:ウェルビーイング
担当者:菅原 収吾
コメント:心理学的な観点を織り交ぜながら組織のウェルビーイングや感謝などについて研究をしています。学生時代はバイオ研究をしていました。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ