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【SXSW2025レポート】AI Nativeな世界-そして、その先へ-
DATE:2025.5.15
研究テーマ:ウェルビーイング
こんにちは。ウェルビーイング経営デザインの研究をしている菅原です。
先日、2025年3月7日~15日にかけて、アメリカ・テキサス州のオースティンで行われたSXSW2025に参加してきました。2023年・2024年に続けて3度目の参加となり、どのような変化があったのかも注目です。今回は、テクノジーに関するセッションに加えて、企業のあり方や働き方に関連したセッションを中心に聴講してきました。

SXSWの概要
SXSWはSouth by South Westの略で、毎年3月にオースティンで開催される音楽・映画・インタラクティブを中心とした大規模イベントです。もともとは1987年に音楽祭として始まり、今では映画やアート、テクノロジー、教育など、さまざまな分野が融合した祭典となっています。
さまざまなテクノロジー情報が集まるインタラクティブ部門は、2007年にTwitterがブログ領域で表彰されたことがきっかけとなり、世界から注目されるテックイベントの一つとなりました。2011年にはAirbnb、2012年にはPinterestが表彰されるなど、新しい事業や技術、アイデアが発掘されるイベントとして注目されています。
SXSW2025では、プレゼンテーションやキーノート・セッションに加え、展示やピッチ大会、ネットワーキング・イベントなどが開催されました。メイン会場のコンベンションセンターのほか、周辺のホテルや公園などにもブースが設けられ、オースティンの中心地一帯がSXSWムードで賑わいました。

AIの現在とこれから
この数年間で、生成AIをはじめとしたAI市場は大きな成長を見せました。AI領域における発展の勢いはすさまじく、非常に短いスパンで新たなAIモデルやサービスが展開され、最新の動向を捉えるだけでも困難です。このようなAIを取り巻く動向の変化について、SXSWではどのようなことが語られていたかご紹介します。
現在のAIモデルのメリットとデメリット
AIの現在と未来について議論されたパネルセッションでは、現在の生成AIに用いられている深層学習やトランスフォーマーモデルの強みと弱みが整理されました。これらのAIモデルでは、大規模なデータから高精度の予測やコンテンツ生成が実現され、画像・音声・テキストなどの分野ですでに幅広く活用されています。
一方で、これらのAIモデルには課題もあります。1つは、リアルタイムの情報に適応できないことです。学習されたこれらのAIモデルは静的で、新しい情報をすぐに学習・適応することは困難です。2つ目は、エネルギー効率が悪いことです。大規模データを学習するために、膨大な計算リソースを必要としており、持続可能性の点で懸念されています。加えて、因果推論が難しいことも課題として挙げられます。現在のAIは、パターン認識による相関関係は認識できても、原因と結果からなる因果関係を捉えることは困難であると考えられています。
これらの課題に対応するものとして、能動的推論(Active Inference)やニューロシンボリックAI(Neuro-Sybolic AI)などが期待されています。能動的推論は、事前に大規模データセットを学習する必要がなく、センサーやIoTによって得られたデータをリアルタイムに処理・理解できます。ニューロシンボリックAIは、単なるパターン認識ではなく、因果関係を認識・説明できるモデルとして注目されています。
今後は、現在の大規模データによる機械学習だけでなく、リアルタイム性・エネルギー効率・因果推論などに優れたモデルが統合されたAIが普及していくと予想されていました。
知覚や感情をサポートするAI
Google Empathy Labの創設者であるDanielle Krettek氏らによるパネルディスカッションでは、人間の知覚や感情にアプローチするEmotional AIについての議論がされました。神経科学の研究結果によれば、私たちの意思決定や知性において、“感情”が大きな役割を担っている可能性があります。一方で、現在の社会では認知的・論理的な知性が優先され、感情や直感は軽視されがちです。
Danielle Krettek氏は、「AIは単なる道具ではなく、人間の知覚や感情を拡張できるものだ」と提案します。例えば、地面の湿度や温度、電磁場を感知し身体にフィードバックするAI内臓の靴下があれば、AIは「第二の皮膚」として機能し、気候変動や環境汚染を身体で感じられるようになるかもしれません。
また、知覚の拡張は外界に対してだけでなく、自分の内側に向けることもできます。自分の呼吸や心拍、筋肉の緊張などの知覚をサポートすることが出来れば、自律神経や感情のコントロールを助けるAIの可能性が見えてきます。
これからは、私たちの知識やスキル、生産性だけでなく、知覚や感情の側面についてサポートしてくれるAIも登場してくるかもしれません。
テクノロジー融合の先にある「Living Intelligence」
未来学者であるAmy Webb氏は、AIが他のテクノロジーと融合した先に、生きた知性である「Living Intelligence」が待っていると予測しています。高度なセンサーやバイオテクノロジー、マテリアルなどがAIとかけ合わされ、感知・学習・適応・進化できるシステムがLiving Intelligenceです。
センシング技術の高度化によって、私たちの行動データがより大規模かつ詳細に得られるようになると、大規模行動モデル(Large Action Model, LAM)が登場してくると予想されます。LAMは、ユーザーの生活行動から得られるデータを学習することで、私たちの行動や健康の最適化をサポートできるようになるでしょう。
バイオテクノロジーの分野では、AIを活用して機能性タンパク質などを自由にデザインできるようになりつつあります。これにより、特定の機能を持つスマート素材がつくられるようになりました。実際、バクテリアを活用してひび割れを自己修復するコンクリートなどが、すでに開発・実用化されています。
テキストや画像だけでなく、さまざまな行動・環境・生体データを学習したAIが、バイオテクノロジーやマテリアル技術と融合し、自ら感知・学習・適応・進化する“生きる知性”として実世界に存在する時代が待っているかもしれません。
変化し続ける世界における働き方
生成AIをはじめ多様なテクノロジーが高速で進化し続ける社会の現状は、私たちのビジネスや働き方にも大きな影響を与えつつあります。SXSWでも今後のビジネスのあり方や働き方についてのセッションが多くあったのでご紹介します。
AI Native企業の台頭
現在、多くの企業がAIの活用を試みていますが、AIをただの効率化の道具として捉えるだけでは淘汰されてしまうことが危惧されます。AIが広く普及してきた現在、AIを根底に置いてビジネスを考案・展開するAI Native企業が勝ち残っていくと予想されます。
過去にインターネットが普及した頃を振り返ると、当時アメリカの大手書店販売店だったBarnes & Nobleは、インターネットをただの販売チャネルの一つとして捉えていたため、Amazonに後れを取ったと考えられます。Amazonはインターネットをプラットフォームとして捉え、eコマースの根底からビジネスを構築したことで、大きな成功を収めました。
AIにおいても、同様のことが起ころうとしています。AIを単なる業務効率化のツールやオプションとして捉えるだけでは不十分です。ビジネスの根幹にAIを組み込むとどうなるか考え、ビジネスを再構築することが必要となってくるでしょう。
求められるのは「適応力」
今回、多くのセッションで言及されていたのは、「知識」が陳腐化です。Chat-GPTやGemini、Perplexityなど高精度の生成AIが登場し、多様な専門知識に対して、従来よりも簡単にアクセスできるようになりました。そのため、特定の専門知識を持っているだけでは、労働市場のなかで価値を発揮することは難しくなっています。
Signal and CipherのCEOであるIan Beacraft氏は、かつては1つの知識やスキルが30年通用したが、現在は2.5年程度で陳腐化しており、今後、さらに短縮される可能性があると分析しています。このような労働市場における成功のカギとなるは、「適応力(Adaptability)」であると主張しました。
これまでのような「教育→就職→仕事→引退」の流れは崩壊しつつあり、今後は生涯に渡る継続的な学習が不可欠です。特定の知識やスキルに固執せず、変化に適応する力が重要となってきそうです。
まとめ
SXSW2025で語られたAIを中心とした技術トレンド動向と、ビジネスや働き方に与える影響の予測をご紹介しました。SXSW2025は、昨年度と比較して、生成AIについてより具体的で将来を見据えたセッションが多かった印象です。
生成AIをはじめとして、テクノロジーが日々進化し続ける現状において、あらためて、目先の変化だけに囚われず、長期的な目線から企業・事業・働き方をどのようにアップデートしていくべきか考えさせられるイベントだったと思います。
みなさんも一度、自分たちの企業・事業・働き方にどのようなテクノロジーが関与するか整理して、再考してみる機会をもってみてはいかがでしょうか。
担当者紹介
研究テーマ:ウェルビーイング
担当者:菅原 収吾
コメント:心理学的な観点を織り交ぜながら組織のウェルビーイングや感謝などについて研究をしています。学生時代はバイオ研究をしていました。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
wb-research@mlsig.jp.nec.com
