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武蔵野大学で講義をしてきました

DATE:2025.6.4
研究テーマ:ウェルビーイング

はじめに

2025年5月8日、武蔵野大学ウェルビーイング学部の2年生向けの講座「ビジネス基礎(A)」の中の1コマをお借りして、「ウェルビーイングと企業経営」という講義をさせていただきました。

講義内容は、大きく分けて以下の3つのお話をさせてもらいました。
  1. ウェルビーイング経営の基礎
  2. ウェルビーイング経営の特徴
  3. グループワーク

ウェルビーイング経営の基礎

まず、「ウェルビーイング」という言葉は、世間一般には「健康」「幸せ」「福祉」の意味で使われていることを紹介しました。心理学(特に、ポジティブ心理学)では主に「幸せ」の意味で使われますが、ギリシャ哲学では「へドニア(楽しさ等)」と「ユーダイモニア(充実さ等)」の2つの「幸せ」があります。これに合わせて、心理学では、へドニア的な主観的ウェルビーイング(Diener, et al., 1985)とユーダイモニア的な心理的ウェルビーイング(Ryff, 1989)がウェルビーイングの測定によく用いられます。

次に、「ウェルビーイング」の分類に合わせた「ウェルビーイング経営」の分類を紹介しました。

「健康」の経営版は「健康経営」になりますし、「福祉」の経営版は「福利厚生」になるでしょう。同様に考えれば、「幸せ」の経営版は「幸せ経営」になるはずです。「幸せ経営」をさらに、へドニアとユーダイモニアに分けるとすると、「わくわく経営(へドニア的経営)」と「やりがい経営(ユーダイモニア的経営)」になるのではなないでしょうか?しかし、「幸せ経営」は、まだ一般的ではありません。

一方で、企業は利益を出し続けなければなりません。Reichheld(2006)によれば、利益には良い利益と悪い利益があります。悪い利益とは、お客様や協力者を騙して得る利益のことです。騙されたお客様や協力者は不幸になるため、悪い利益で稼ぐ経営はウェルビーイング経営とは呼べません。この考え方を拡張すれば、経営に関わる全ての要素がウェルビーイングでなければ、ウェルビーイング経営とは呼べないことになります。ここから、ウェルビーイング経営の必要条件として、「経営に関わる全ての要素のウェルビーイングを維持しながら利益を出すこと」があることが分かります。なお、経営に関わる全ての要素には、お客様だけでなく、従業員、株主や銀行、サプライヤーや協力会社、地域や社会、事業環境、自然環境なども含まれます。このように考えると、どの要素も犠牲にせずにバランスよく経営するのは、至難の業に思えますね。

ウェルビーイング経営の特徴

至難の業のウェルビーイング経営ですが、実現できている企業もあります。しかも、ウェルビーイング経営を始めた後、なぜか業績が回復していった企業が多いです。何故なのでしょうか?

私たちは、この謎の解明のヒントを得るために、実際にウェルビーイング経営をしていると評価されている企業をいくつか見学させてもらい、その特徴について考えました。

講義では、私たちが見つけた8つの共通点を「ウェルビーイング経営の特徴(仮)」として紹介させていただきました。

これらの共通点は、資本主義経済の中ではあまり注目されない特徴になっています。例えば、資本主義経済では企業は「成長」を求められますが、ウェルビーイング経営をしている企業の社長は「100年先まで続くこと」等を究極の目的にしていたりします。つまり、「成長」よりも上位の目的に「永続」が設定されているのです。

グループワーク

最後に、上記で紹介したウェルビーイング経営の特徴を参考にして、ウェルビーイング経営をしている企業を探すグループワークを実施しました。お題は、「ウェルビーイング経営をしていると思うお気に入りの企業を1社見つけて、紹介してください」という1問だけにしました。

このグループワークの狙いは、大学2年生の皆さんに企業を探す方法を学んでもらい、来年からの就職活動に活かしてもらうことです。お勧めの方法として、①ウェルビーイング関連受賞企業を調べる、②LLMに企業の実態を尋ねる、③(LLMはたまに不正確なので)公式ウェブサイト等を調べる、という手順を紹介しました。

グループワーク後に、いくつかのグループに調べた企業を紹介してもらいました。私たちが、よく知らない企業を見つけたグループもあり、こちらの学びにもなりました。

おわりに

大学2年生だと就職活動はしておらず、まだ業界研究も企業研究もしていない学生がほとんどでしょう。講義後にいただいた感想を読むと、①ウェルビーイングを目指す企業が意外と存在する、②自分と企業や仕事を考える切っ掛けになった、といった感想が多かったです。いただいた感想をもとに作成したワードクラウド(図)でも、「企業」と「自分」について考えた方が多かったようですね。

今回の講義が、学生のみなさんのより良い人生の選択に役立つことを願っています。

参考文献
Diener, E. D., Emmons, R. A., Larsen, R. J., & Griffin, S. (1985). The satisfaction with life scale. Journal of personality assessment, 49(1), 71-75.
Ryff, C. D. (1989). Happiness is everything, or is it? Explorations on the meaning of psychological well-being. Journal of personality and social psychology, 57(6), 1069.
Reichheld, F. (2006). The ultimate question: Driving good profits and true growth. Boston, MA.

担当者紹介

研究テーマ:ウェルビーイング
担当者:山本 純一 Ph.D.
コメント:科学と技術と経営学と心理学と組織開発の融合分野を研究しています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
wb-research@mlsig.jp.nec.com