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日本パーソナリティ心理学会第35回大会にて、
実行機能と自己理解が職務遂行能力とどのように関連するかについての
研究発表を行いました
DATE:2026.9.1
研究テーマ:AIネイティブ時代における「人間らしさ」の心理学的研究
2026年8月20日~21日に早稲田大学戸山キャンパスで開催された日本パーソナリティ心理学会第35回大会において、「職務遂行に対する実行機能と自己理解の交互作用効果の検討」というタイトルでポスター発表を行いました。本記事では、こちらの発表内容についてご紹介します。

多様な人材の能力発揮を求めて
近年、将来的な労働需要の増加と生産年齢人口の減少を鑑み、多様な人材の能力発揮と労働参加を促す社会の実現が求められています[1]。
その一つの切り口として、神経発達特性などの個人差への理解と職場での適応支援の推進が勧奨されています。この視点に立ち、ダイバーシティ&インクルージョン推進の一環として、ニューロダイバーシティ(neurodiversity: 神経多様性)という概念が提唱されました。これは、多様な人材の活躍機会の創出に取り組むための「脳や神経に由来する個人レベルでの様々な特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で活かしていこう」という考え方のことです[2]。
神経発達特性と実行機能の関連
しかし、ニューロダイバーシティの視点が特に着目している自閉症スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)の傾向を有する人は、診断の有無によらず、就業においてさまざまな困難を示します[3][4]。これは、ASDやADHDに特徴的な、「実行機能」と呼ばれる脳の制御機能の個人差によって引き起こされると考えられています[5]。
実行機能とは、「集中力と注意力が必要で、自動的な行動や直感に頼ることが不適切または不可能な時に必要なトップダウンの精神的プロセス群」と定義されています[6]。要するに、順序立てて考えたり、複雑な思考が必要とされたり、柔軟に対応することが求められたりするタスクにおいて必要とされる、多様な認知活動や行動をコントロールするための能力の総称のことです。
特に、ADHDの傾向を有する人は、そうでない人よりも、実行機能が必要とされるタスクの成績が低いことが繰り返し示されています[7]。それだけでなく、ADHDの傾向を有する人は、自分の実行機能に関する困難を客観評価よりも少なく認識する傾向があること[8]や、自分の特性に対する理解が限定的である傾向[9]も示唆されています。つまり、ADHDの傾向を有する人は、実行機能が相対的に低いことに加え、そのことを自覚し、困難を上手くカバーすることも苦手であるため、就業上の困難が生じやすい可能性があります。
実行機能と職務遂行能力の関連
実行機能のうち、行動を適切に抑制する機能や、短期的な記憶を用いて複雑なタスクを行う機能、認知や行動を適切に切り替える機能といった側面は、意思決定、計画、管理、問題解決、交渉といった職務遂行に必要なタスクと関連することが示されています[10]。職務遂行能力は、一般的な知能の高さや職務知識とも関連しますが、それだけでは説明できない部分を実行機能が説明することも明らかにされています[10]。
このメカニズムの一つの説として、実行機能は、自分の認知の特徴(≒自己理解)や目の前のタスクの特徴を理解し、その内容に応じて方略を柔軟に調整することを可能にするため、パフォーマンスを向上させる可能性があります[11]。もしそうであれば、訓練で向上させることが難しいとされる[12]実行機能に直接アプローチするのではなく、「自分の認知の特徴や目の前のタスクの特徴をモニタリングし、その結果に応じて方略を柔軟に調整すること」をサポートすることで、パフォーマンスを向上させられることが期待できます。
本研究のリサーチクエスチョンと目的
しかし、実行機能と自分の特徴に対する理解の深さが職務パフォーマンスに与える影響については、十分に検討されていません。もしこれらの関連が詳細に明らかにされれば、その結果によっては、実行機能が低い人がよりよい職務パフォーマンスを収めるための支援策を新たに提案できる可能性があります。
そこで今回発表した研究では、職務遂行能力に対して実行機能と自己理解(自分の特徴に対する理解の深さ)がどのように関連するかを検討しました。診断の有無にかかわらず、ADHDの傾向や実行機能の個人差が職務適応に影響を及ぼすこと[13][14]を踏まえ、今回の研究では一般就労者を対象とした基礎的検討を行いました。
研究の方法――Web調査による量的研究――
調査会社の登録モニターのうち、回答時に正社員・正規職員として通常勤務ができていた20~59歳の男女計1,200名(男女同数; 平均年齢40.03歳、SD=10.87)を対象にWeb調査を実施しました。
今回の分析に使用した心理尺度は表1の通りです。今回は、職務遂行能力を多面的に測定するために、全般的な職務パフォーマンスの高さを測定する「仕事のパフォーマンス」尺度と、職務遂行に求められる目標志向性や自己調整[15]の個人差を測定する「目標の存在と自信」尺度および「時間管理」尺度を使用しました。
表1 今回の調査研究で使用した心理指標

分析の結果と考察
まず、各得点間の相関関係を分析しました。分析結果の一部を表2に示します。
表2 各得点間の相関係数行列

実行機能質問紙の「自己意識」と目標意識尺度の「目標の存在と自信」の相関(r = .05)を除き、実行機能質問紙の各下位尺度と「自己理解」得点は職務遂行能力の各得点と有意な正の相関(rs = .11―.65, ps < .001)が見られました。これらの結果は、実行機能と、適切な行動制御に必要な自己の特性への理解[9]が、いずれも職務パフォーマンスの高さと関連することを示唆しています。
相関分析だけでは、実行機能と自己理解が互いに影響し合っているのか、それぞれ独立して影響を及ぼしているのかがわかりません。そこで、重回帰分析を用いて、職務遂行に対する実行機能と自己理解の交互作用を検討しました。有意な交互作用が見られた組み合わせについて、その交互作用効果を図示したグラフ群が図1です。

いずれの交互作用のパターンも、実行機能の高低によらず、自己理解が高いほど職務遂行に関する各得点が高いことを示しています。もちろん、「注意の維持」が高いほど「仕事のパフォーマンス」が高い(上段左)ことなども示されていますが、各グラフの左端(つまり、実行機能が低い場合)においても、自己理解highと自己理解lowで職務遂行に関する得点に大きな差があることがわかります。
まとめ
これらの結果から、実行機能の一部の下位側面と自己理解がいずれも職務パフォーマンスと関連することに加え、実行機能が低い場合も自己理解が高いほど職務パフォーマンスが促進される可能性が示されました。本研究は、一般就労者を対象とした一時点の自己報告調査ですので、因果関係の推定やADHD当事者への直接的な一般化には限界がありますが、今後の検討に向けた仮説生成の点で意義があったと考えることができます。今後は、本研究で得られた仮説を詳細に検証し、自己の特性に対する理解を深めることで、実行機能の低さによる職務遂行上の困難を緩衝する仕組みの確立と応用可能性を探っていきます。
さいごに
今回のポスター発表にも多くの先生方にお越しいただき、今後のさらなる研究に向けたよりよい測定方法や臨床応用の方向性などについて、非常に有意義な議論をさせていただきました。いただいたご意見を参考に、本研究で得られた知見についてさらに考察を深め、新たな研究の立案や施策の提言に繋げていきたいと考えております。
引用文献
- [1]厚生労働省 (2024). 令和6年版労働経済の分析――人手不足への対応――
- [2]経済産業省 (2023). イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査 調査結果レポート(令和5年3月改訂)
- [3]木内 敬太 (2016). 成人の発達障害者のためのコーチングの可能性――高等教育と職域の架け橋として―― 支援対話研究, 3, 15-29.
https://doi.org/10.20761/jadcs.3.0_15 - [4]梅永 雄二 (2017). 発達障害者の就労上の困難性と具体的対策――ASD者を中心に―― 日本労働研究雑誌, 8, 58-59.
- [5]Hill, E. L. (2004). Executive dysfunction in autism. TRENDS in Cognitive Sciences, 8, 26-32.
https://doi.org/10.1016/j.tics.2003.11.003 - [6]Diamond, A. (2013). Executive functions. Annual Review of Psychology, 64, 135-168.
https://doi.org/10.1146/annurev-psych-113011-143750 - [7]岡崎 慎治 (2011). ADHDへの認知科学的接近 心理学評論, 54, 64-72.
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https://doi.org/10.1177/1087054714530782 - [9]Ben-Dor Cohen, M., Nahum, M., Traub Bar-Ilan, R., Eldar, E., & Maeir, A. (2024). Coping with emotional dysregulation among young adults with ADHD: A mixed-method study of self-awareness and strategies in daily life. Neuropsychological Rehabilitation, 34, 1161-1185.
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- [13]Barkley, R. A., & Murphy, K. R. (2010). Impairment in occupational functioning and adult ADHD: The predictive utility of executive function (EF) ratings versus EF tests. Archives of Clinical Neuropsychology, 25(3), 157-173.
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https://doi.org/10.6033/tokkyou.59.11
担当者紹介
研究テーマ:AIネイティブ時代における「人間らしさ」の心理学的研究
担当者:市川 玲子
コメント:心理学に関する研究業務全般を担当しています。博士(心理学)・公認心理師です。もともとはパーソナリティ心理学や異常心理学の研究をしていました。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
ai-psych-research@mlsig.jp.nec.com
