コロナ禍で加速する企業の本社移転 その狙いとは? | NECソリューションイノベータ

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コロナ禍で加速する企業の本社移転 その狙いとは?

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新型コロナの影響が長期化する中、大企業を中心とした“脱・東京”の動きが加速しています。コロナ禍はビジネスの世界にいくつものムーブメントを引き起こしました。そのひとつがパソナグループの淡路島への移転などに代表される、企業の本社機能移転です。そこにはどんな狙いがあるのでしょうか?本社移転の事例を紹介しながら、今企業に求められることを考察します。

INDEX

加速する大企業の地方移転
自分たちには関係ない?

新型コロナ感染拡大の影響が長期化し、働き方やオフィスに対する考え方が大きく変化しました。テレワークやオンライン会議が浸透しつつある中、大企業を中心に本社機能移転が加速しています。しかも移転先は首都圏外、都心から数時間以上かかる地方を選択した企業も少なくありません。

帝国データバンクの調査によると、2021年1月から6月の半年間で、首都圏から地方へ本社を移転した企業数は186社。6月の時点で150社を超えるのは過去10年間で初とのことです。通年では1990年以降で最多の1994年328社を超えると予想されています。

首都圏・本社移転数 推移 帝国データバンク 首都圏・本社移転社数推移をもとに作成

地方へ本社機能移転した企業の代表例とも言えるのは、あのパソナグループ。登記上の本社こそ東京のままですが、2024年5月までに本社勤務の管理部門約1800名のうち、約1200名を兵庫県の淡路島へ異動させる予定とされています(営業部門約3400名は東京に“残留”)。すでに東京や大阪などの都市から約230人が移住、地元や近隣地区から採用された社員など約600人が勤務しているそうです。(2021年10月時点)

首都圏外へ本社移転を実行や計画しているのはパソナだけではありません。すでに多くの大企業が同様の動きをしており(後述)、取引先の地方移転に伴い、中小企業の移転も相次ぐと言われています。これは、その会社に勤務する社員はもちろん、周辺の中堅・中小企業にとっても他人ごとではありません。

多くの働く人にとって、脱・東京、脱・首都圏が具体的なものになりつつあるのです。

企業側にも社員側にも良いことずくめ
地方移転にデメリットなし?

では、なぜ本社移転が相次いでいるのでしょうか?それは都心からの本社移転に明確なメリットがあるからです。

最も直接的で大きなメリットと言えるのが本社オフィスの賃料カット。パソナグループは東京オフィスを継続していますが、日本で最も賃料が高いと言われるエリアの1つ、東京都千代田区大手町と淡路島ではオフィス賃料が大きく異なり、なんと約10分の1になるのだとか。これはあまりに極端なケースですが、2021年12月度の全国6大都市圏のオフィス賃料の相場は以下の通りです。

2021年12月度の全国6大都市圏のオフィス賃料の相場

政令指定都市クラスの地方都市でも、東京都内と比べて、賃料を半額近くにまで抑えることができるのです。なお、シービーアールイーの賃貸不動産市場によると、例えば日本海側の金沢市などの賃料は坪単価1万円以下。政令指定都市以外では、賃貸オフィスの坪単価が1万円を大きく下回るエリアは少なくありませんでした。

また、地方への本社移転により通勤手当・住宅手当の削減も現実的になるでしょう。さらに地方拠点強化税制(オフィス減税、雇用促進税制)によって、当面は税制的にも有利。地方創生に積極的というポジティブなイメージを得ることもできます。

かつては地方=人材の確保が大変というイメージがありましたが、近年は若者の地元志向が強まっていることなどもあり、むしろ優秀な人材を確保しやすいという声もあります。取引先とのコミュニケーションが低下するリスクについても、ビジネスの現場でも浸透したオンライン会議を駆使することで十分に解決できるでしょう。

メリットは企業側だけのものではありません。社員の側も、通勤時間が短くなることや同じ家賃でより広い部屋に住むことができます。移転した企業の社員からは、東京に比べ生活費が低く抑えられる、自然豊かな環境で生活できプライベートが充実する、なども大きなメリットだという声が挙がっています。

誰もが知っているあの企業が
脱・東京の本社移転

こうした流れを受けて、パソナグループ以外にも多くの企業が東京の外へ本社あるいは本社機能の移転を進めています。

日本ミシュランタイヤは群馬県太田市へ本社機能を移転

仏タイヤメーカー大手の日本法人である日本ミシュランタイヤは、2023年8月までに東京都新宿にある本社を群馬県太田市に移転すると発表しました。太田市にはこれまでも研究開発拠点があり約250人が勤務していますが、東京の拠点を縮小し主要部門などの機能を移す予定です。勤務場所が変わる社員については転居するか、または在宅中心の勤務体制に変更するとしています。移転にあたり同社は「ワークライフバランスと、より健全な財務べースの両立を鑑みた結果である」と述べました。

ジャパネットは人事・経理・経営管理などの12部門を福岡県天神へ

通販大手のジャパネットホールディングスは、これまで東京都六本木にあったグループの人事・経理・経営管理や媒体制作などの主要部門を、2021年12月に福岡県福岡市天神の新オフィスへ移転。東京から異動した勤務者を含め215人体制でスタートしました。ジャパネットグループの本社は長崎県佐世保市ですが、スピード感などを鑑み東京に本社機能を移していました。しかし、コロナ禍を機に「コロナ時代の会社のあるべき姿を考えた結果」福岡への移転を決定したそうです。今後もさらに50人程度の採用を行い、同社グループの主要拠点としていくと発表しています。

アミューズは山梨県富士河口湖町へ本社移転

サザンオールスターズや俳優の福山雅治さんなどが所属する大手芸能事務所のアミューズは、本社機能を2021年7月に東京都渋谷区のオフィスから山梨県富士河口湖町へ移転しました。富士山麓の西湖にあるホテルを改修し、執務スペースのほか撮影やレッスン用のスペース、宿泊施設なども完備するとしています。同社は「東京都のオフィスと並行して創造的な再構築を目指して参ります」と掲げ、富士河口湖町の本社と東京の2拠点で事業を展開していくとみられます。

KADOKAWAは東京と所沢の本社2拠点体制

出版、映画、ゲームなどの総合エンターテインメント企業KADOKAWAグループは、2020年11月に東京都千代田区にあった本社機能の一部を埼玉県所沢市へ移転しました。首都圏内の移転ではあるものの、出版社の多い東京・飯田橋エリアから埼玉へ移るというニュースは注目を集めました。同社は「有事に備えてオフィスや本社機能を分散させる必要性」や「新しい働き方を目指した」ことなどから、都心と近郊外の2拠点体制をスタートさせています。

ルピシアは本社を北海道ニセコ町へ

茶類販売で女性を中心に支持を集めるルピシアも、2020年7月に本社(およびグループ2社)を東京都渋谷区から地方へ移転。移転先が大きなビジネス基盤を持たない北海道虻田郡のニセコ町ということで大きな話題となりました。同社は2005年にニセコ町に保養所を作った後、2017年、2020年に自社工場も建設しており、その流れの中の本社移転でした。移転後の初年度である21年6月期の通信販売の売り上げは、コロナ禍以前の19年6月期に比べ1.7倍を記録したと言います。

東京本社廃止や創業の地への回帰なども

このほかにも「スパリゾートハワイアンズ」で有名な常磐興産が、2021年2月に東京本社を廃止(本社機能は福島県いわき市へ)。医薬品製造の森田薬品工業は本社を創業の地、広島県福山に回帰(旧・東京本社と福山事業所を統合)しています。システム・ソフトウェア開発大手のインフォメーション・ディベロプメントが本社機能の一部を2020年10月から鳥取県米子市に移転しています。

東京+地方の“多拠点化”時代には
スマートワークがカギ

大きなムーブメントの一つとなりつつあり注目を集める本社移転ですが、完全に移転するのではなく、東京と地方など複数拠点に本社機能を持つ企業も少なくなさそうです。また、ヤフーやメルカリ、LINEなどの大手IT企業が社員の居住地制限を撤廃して国内どこでも居住可能といった人事制度を導入したり、多くの企業で在宅勤務が定着してきていたり、と働き方が大きく変化しています。

本社機能の2拠点化や、オフィスに限らずさまざまな場所で社員が働く “多拠点化”の時代にカギとなるのが、ICTを活用し場所に制限されない柔軟な働き方が可能になる「スマートワーク」です。帝国データバンクの景気動向調査(2021年9月)によると、オンライン会議を導入した企業は49.4%と半数近くにのぼり、オンライン会議はコロナ禍を機に浸透してきたと言えます。しかしながら、「オンライン商談の導入」は34.2%、在宅勤務の導入は32.9%と発展途上ということが伺えます。

スマートワークはオンライン会議だけではありません。リモートでの共同作業から、総務、会計、法務などといったバックオフィス業務の電子化など、全ての職種の業務をリモートで問題なく遂行していくことが求められていくでしょう。都心のオフィスに通勤して働く時代から、場所に縛られない多拠点での働き方へ。生産性向上や優秀な人材の確保、また事業継続計画(BCP)といった面においても、スマートワークの環境構築が重要と言えるでしょう。

まとめ

大企業を中心とした本社機能の移転。加速する背景には、場所に縛られない働き方が実現できる環境が整ったことが挙げられます。地方への本社移転に適していない企業もありますが、多拠点化や働き方の多様化の潮流は続くでしょう。これからの企業活動において、リモートで問題なく業務ができる環境を整えることは不可欠です。