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コラム
作成は必須!年次有給休暇管理簿とは?
作成や管理について解説
UPDATE : 2022.02.08
「年次有給休暇管理簿」の作成と保存は、2019年4月から労働基準法によって義務化されました。すべての企業が対象であるため、人事労務担当者はそれらの実施に必要な知識を必ず身につけなければなりません。そこで今回は、まず年次有給休暇管理簿がどのようなものか紹介し、その後に作成や管理の具体的な方法を説明していきます。
INDEX
年次有給休暇管理簿とは?まずは概要を押さえよう
継続的に6カ月以上雇用されるなど、いくつかの条件を満たすことで年次有給休暇は付与されます。年次有給休暇管理簿とは、従業員ごとに有給休暇の取得状況を把握するための帳簿です。基準日や時季、日数などが具体的な項目であり、そこに該当する事実を記載して管理していきます。以前は、単純に有給休暇の残日数をカウントして管理している企業が多く見受けられました。大雑把な方法ですが、法的に細かなルールが設けられていなかったので、それでも問題はなかったというわけです。
しかし、労働基準法が改正されたことにより、この方法は認められなくなったので気を付けましょう。2019年4月1日から、年次有給休暇管理簿を作成して保存することが義務になりました。
年次有給休暇管理簿が導入された理由とは
有給休暇の日数は勤続年数や労働時間によって異なり、年間で最大で20日と定められています。しかし、付与された日数を十分に取得できる労働者は少ないという実情がありました。その背景として挙げられるのは、周囲が気になって休みにくいという日本人の気質や、長時間労働を美徳とするような日本の文化と言われています。また、業務の量が多すぎて休めないというケースも。
いずれにせよ、未取得のまま消滅する有給休暇の多さが課題だったので、解決のために働き方改革の一環として新たなルールができたのです。年間に付与される有給休暇が10日以上ある場合、少なくとも5日は取得させなければならないことが義務化されました。
そして、年5回以上の取得が正しく行われているか確認する必要もあるため、年次有給休暇管理簿の作成も義務づけられたという経緯があります。これからの日本はますます少子高齢化が進むので、労働者人口の減少に歯止めをかけるのは容易ではありません。対策として外国人労働者の雇用なども推進されていますが、企業が労働力を維持するには、個々の労働者がモチベーションを保って能力を発揮していくことも重要です。そのために、休みをしっかり取ることも欠かせないと国は考えており、具体的な施策として上記のルールを設けることになりました。
年次有給休暇管理簿の対象になる労働者は?
義務化されたからといって、すべての労働者が年次有給休暇管理簿の対象になるわけではありません。正規雇用と非正規雇用の区別はなく、年間10日以上の有給休暇を付与された場合に該当します。つまり、まだ長く働いておらず、有給休暇が発生していない新入社員などは対象外ということです。正社員や契約社員として入社した場合、半年が経過すると初めて10日の有給休暇が付与され、年次有給休暇管理簿に登録されます。ただし、半年が過ぎても、それまでに2割を超える欠勤があるようなケースは対象になりません。
また、パートタイムの労働者については、勤務時間や出勤率が有給休暇の発生に大きく関係します。たとえば、週の勤務時間が30時間以上であり、出勤率が8割以上であれば、入社して半年後に10日の有給休暇が付与されます。一方、週の勤務時間が30時間未満の場合は付与までの期間がもっと長いです。週4日勤務なら入社して3年半後、週3日勤務なら5年半後に対象になります。なお、いずれのケースでも、8割以上の出勤率が重要な条件である点は変わりません。
何を書いたらよい?年次有給休暇管理簿の作成方法
これから年次有給休暇管理簿を作成するなら、記載を求められる内容を知っている必要があります。具体的な項目として「基準日」「時季」「日数」があるので、それぞれ何を指すのかチェックしておきましょう。以下に、これらの項目を詳しく解説していきます。
基準日
有給休暇を取得する権利が発生した日付を基準日といい、年次有給休暇管理簿の項目として記載が必須です。企業からその権利を付与された従業員は、そこから1年が経過するまでに5日以上の有給休暇を取らなければなりません。また、基準日は1年ごとに新しく設定されることを覚えておきましょう。有給休暇も新たに付与され、そこを起点として1年以内に所定の日数分を取れるようになります。この場合でも、最低5日の取得が必要というルールは変わらないので順守が必要です。
なお、基準日が2つあるような従業員に関しては、新しいほうだけでなく古いほうも書くように決められています。たとえば、前年度分の有給休暇が残っており、今年度に繰り越されているなら、どちらの年度に関しても基準日を記載しましょう。
時季
実際に有給休暇を取得した日付も記さなければなりません。その日付は時季と表現され、年次有給休暇管理簿における必須の項目となっています。基準日とは異なり、従業員が有給休暇を取るたびに追記が必要です。「5月1日」「7月7日」といった一般的な書式で記述し、連続して2日以上取得した場合は「6月3日~6月5日」のようにまとめて書きましょう。なお、全休と半休を区別できるように記録しておくこともポイントです。「8月5日(全休)」「9月10日(半休)」のように、日付の後ろに言葉を添えておくと分かりやすくなります。
日数
日数の項目には、文字どおり従業員が取得した有給休暇の日数を書きます。入社からの累積ではなく、基準日から見て1年以内に取った分の合計のみです。また、1日未満半日以上の取得なら半休の扱いになります。日数としては0.5日であり、2回取得することで全休と同じように1日としてカウントされるのです。なお、働き方改革の影響もあり、休みに関しても多様化していく傾向が見られます。たとえば、全休と半休だけでなく、時間単位で休める企業も増えました。
こちらに関しては、労働基準法で定める有給休暇ではないため、年次有給休暇管理簿に記してはいけません。つまり、年間5日以上の有給休暇を取得しなければならないというルールに無関係です。また、企業が独自に設けている特別休暇も同様であり、どれだけ休んでも日数に加えられないので気を付けましょう。なお、年間5日を超えて取得する有給休暇に関しても、取得事由を記載しなければならないような規定はありません。
フォーマットは自由!年次有給休暇管理簿は何で作るべきか
年次有給休暇管理簿のフォーマットは特に定められていないので、どのように作れば良いのか迷ってしまうこともあるでしょう。しかし、こだわりすぎる必要はなく、基本的には「基準日」「時季」「日数」を把握しやすいように書いておけば大丈夫です。ここでは、年次有給休暇管理簿の代表的な作成様式を3つ紹介します。
エクセルで作成
表計算ソフトであるエクセルでも年次有給休暇管理簿の作成は可能です。エクセルは企業や大学などで広く用いられているので、使い慣れている人も多いでしょう。自分がそうであれば簡単に作り始められますし、関数やマクロのような機能も使えるなら、効率化の仕組みを盛り込むことも難しくありません。さらに、従業員のパソコンやタブレットにもインストールされているのが一般的なので、各自に入力してもらいやすいというメリットもあります。
もともとエクセルを導入している企業なら、年次有給休暇管理簿の作成にかけるコストを節約できます。また、エクセルで作っている企業はたくさんあるため、それらが利用できるテンプレートもインターネット上に多く公開されているのです。テンプレートにはあらかじめ関数やマクロも組み込まれているので、うまく活用すれば自分で作るより負担が少なくなります。ただし、いずれにせよ、エクセルは年次有給休暇管理簿に特化したソフトではなく、対象となる従業員が増えるほど管理が難しくなる点に注意が必要です。多くの人が気軽に操作できるため、誤った情報に書き換えられやすいというリスクもあります。
クラウド導入
クラウドで年次有給休暇管理簿を用意する企業も多くなりました。こちらは他社が提供しているシステムを使うため、作成の労力をカットできるというメリットがあります。システムは年次有給休暇管理簿用に構築されており、自社に必要な設定を行うだけで利用が可能です。基準日に自動で有給休暇が付与されるなど、便利な機能が備わっているので日々の管理が楽になります。大企業に導入されることも想定して設計されており、自社の従業員が多くなっても使い勝手が悪くなることはありません。さらに、有給休暇に関する法改正があっても、それを踏まえてシステムがバージョンアップされるのでスムーズに対応できるでしょう。
ただし、導入にあたり費用が発生するというデメリットもあります。初期費用だけでなく、継続的に月額費用も支払わなければならないため、あらかじめ予算を確保しておくなどの準備が必要です。また、データを社外で保管することになるので、セキュリティに関するリスクがある点も把握しておきましょう。
紙で作成
年次有給休暇管理簿は、筆記用具を使って紙で作っても構いません。この方法のメリットは、エクセルやクラウドを使わないので、ITに疎い人でも担当できることです。パソコンなどの情報端末も不要ですし、ネットワークやシステムが不調でも影響を受けません。空いたスペースに関連情報をメモしやすいといったメリットもあります。しかし、常に手作業で進めなければならず、従業員の数や修正の量などによっては、膨大な時間を要することもあるでしょう。このように業務効率の低下を招きやすく、紙を保管しておくスペースの確保も必須です。また、知りたい情報があるときは、目視のみで探す必要があるので手間がかかってしまいます。
作成だけでは不十分!年次有給休暇管理簿の保存について
しっかり年次有給休暇管理簿を作っても、安心するのはまだ早いです。作成だけでなく、適切に保存していくことも企業に与えられた重要な義務だからです。とはいえ、すべての年次有給休暇管理簿をいつまでも置いておく必要はありません。最初の基準日から3年間という期間が定められているのです。それを過ぎた分に関してはデータの破棄が認められているため、際限なく増えていくような事態は避けられます。それを踏まえて、少なくとも3年を目安として保存するようにしましょう。
なお、上記の義務を守らず、3年以内に廃棄したとしても罰則はありません。なぜなら、本来の目的は従業員に正しく有給休暇を取得させることであり、年次有給休暇管理簿の保存はあくまでも手段に過ぎないからです。保存を義務化することにより、企業にその目的を見失わないようにさせることが国の狙いとなっています。そう言われると、あまり厳密に保存しなくても良いように感じる人もいるでしょう。しかし、労働基準監督署などが有給休暇の取得状況を調査するにあたり、年次有給休暇管理簿の開示を求めてくる可能性もあります。したがって、すみやかに見せられるように準備をしておいたほうが安心です。
年次有給休暇管理簿をもし作らなかったらどうなるのか
年次有給休暇管理簿を作らないことにはデメリットがあります。たとえば、有給休暇を各従業員がどれくらい取得しているのか把握しづらいこともその一つです。あまり取っていない従業員がいても気付かず、最低取得回数の5回に達していないことが後から分かるケースも発生しかねません。そのような事態が発覚すると、労働基準監督署による指摘の対象になってしまいます。こちらに関しては保存のケースとは異なり、罰則が設けられているので注意しましょう。具体的には、従業員1人につき最高で30万円の罰金を科せられます。たとえば、20人の取得が5回未満だった場合は、最高で600万円もの罰金刑を受けるリスクがあるのです。
また、労働基準法違反に該当すると判断されれば、国からの助成金を支給してもらえない可能性もあります。経営状態が厳しいときに、罰金刑や助成金の不支給は大きな痛手になりかねません。そのような問題を回避するためにも、年次有給休暇管理簿の作成を怠らないようにしましょう。
まとめ
働き方改革により、企業を取り巻く状況に多くの変化が起こっています。有給休暇の未取得に対して厳しくなったこともそうであり、これまで以上に人事労務担当者の役目は大切になっているのです。必達の使命として、年次有給休暇管理簿を作り、従業員の取得状況を管理しなければなりません。労働基準監督署から指摘されないようにルールを順守する意識を持つことが大事です。それだけでなく、働きやすい企業を目指して、従業員がしっかり有給休暇を取れる環境も整えていきましょう。