4年後に訪れる12兆円経済損失の危機 データサイエンティストが救う日本の未来 | NECソリューションイノベータ

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インタビュー

4年後に訪れる12兆円経済損失の危機
データサイエンティストが救う日本の未来

UPDATE : 2021.02.12

日本のデジタルシフトは遅れています。

その原因は、レガシーシステム(多くの企業で使い続けられている、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した旧来システム)。これによって最大12兆円/年の経済損失が発生するとの試算も。

デジタルシフトを効果的に推進するためには、データ活用の専門家であるデータサイエンティストの適切な活用が必要です。ある企業ではウェブマーケティングに外部データサイエンティストを登用した結果、コンバージョンレート(CVR)を約8倍にまで高めることに成功しました。

しかし、優秀なデータサイエンティストを獲得すれば全て上手くいくという簡単な話ではないと専門家は言います。「多様なスキルが求められるデータサイエンティストは獲得が難しく、外部に頼るのが一般的ですが、まずは社内でデータ活用をしてスモールスタートで段階的に推進していくのが良い」というその理由について、専門家にお伺いしました。

日本のデジタルシフトは遅れている?
“レガシー”放置で年間12兆円の経済損失へ

このまま日本でデジタルシフトが進まない場合、経済産業省は「2025年以降、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある」としています。

国内におけるデジタルシフトが進まない大きな理由の1つとされているのが、多くの企業で長らく使い続けられている「レガシーシステム」。多額の投資で築いた旧来システムをさまざまな理由で刷新することができず、それがデジタルシフトを大きく阻害しているのです。

この問題を取り上げた経済産業省『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(2018年9月7日公開)では、これを克服できない場合、現在約4兆円と試算されているレガシーシステム起因の経済損失が増大し、「2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性」と算出しています。

参考:経済産業省ニュースリリースアーカイブ
https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010.html

実際に、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2020年9月に発表した「世界デジタル競争力ランキング2020(63の国と地域を対象としたデジタル技術の活用能力評価)」でも、日本の順位は27位で、前年から4つも順位を落とす結果となってしまいました。

ランクダウンの要因となったのが、人材の「International experience(国際経験)」および、未来展望における「Agility of companies(企業の迅速性)」「Use of big data and analytics(ビッグデータ活用)」で最下位と評価されてしまったこと(反面、高等教育における教師数やモバイルインターネット利用者数では1位をマークしています)。全体としては企業におけるデジタルシフトが進んでいないことが厳しく評価されてしまったのです。

参考:The IMD World Digital Competitiveness Ranking 2020 results
https://www.imd.org/wcc/world-competitiveness-center-rankings/world-digital-competitiveness-rankings-2020/

経済産業省はこれらの危機を「2025年の崖」と呼び警告。今やデジタルシフトの推進は国家レベルの緊急課題となっているのです。

データサイエンティストがデジタルシフトを牽引
ウェブ行動ログを軸としたビッグデータ分析で
CVRが約8倍になった事例も

そんな中、デジタルシフト推進のカギを握っているのが、企業の保有するビッグデータの中から深いインサイトを取り出し、デジタルシフトの正しい方向性を示す「データサイエンティスト」です。

その重要性が今後、あらゆる業界で高まっていくだろうと語るのは、株式会社ジェイアール東日本企画(jeki)がデータ活用推進を高めるために設立した「株式会社jeki Data-Driven Lab」の取締役にしてデータプロデューサーの於保真一朗氏。

於保氏は、「これまで企業の経営資源は『ヒト・モノ・カネ』でしたが、これからはそこに『データ・キカイ(AI技術)』が加わります。先駆けてeコマースや検索エンジン、デジタル広告、ソーシャルといった『データ・キカイ』に強い業界からデータの活用が始まり、現在は、製造業、流通業、農業などの分野でも本格的なデータ活用が始まりつつあるところ。今後はさらにより多くの分野でデータ活用が進んでいくでしょう。その中で、たとえばUberEatsのような、デジタル技術とデータを駆使して、これまでにない全く新しいビジネスを生み出していく企業も生まれてくるはずです」と語ります。

於保氏が自ら関わった事例でも、多くの企業がデータサイエンティストの活躍によってデジタルシフトに成功。たとえば、ある自動車メーカーでは、ウェブサイトの訪問者ログを軸としていくつかのデータと掛け合わせてデータサイエンティストが分析し、それを元に最適な人に最適なタイミングで最適な情報を提供する施策を効果的に打ったことでコンバージョンレート(CVR)を何と最大8倍にまで高めることができたのだそうです。

「そもそも私の所属するjeki Data-Driven Labも、jekiがデータ活用を積極的に推し進めていく中で生まれた会社。まだできて間もない会社ですが、データ分析業務支援に加え、データ活用組織構築支援など、JRグループ内外で実績を上げており、今期は約2億円の売上を達成できる見込みです」(於保氏)

両者に共通するのは、データサイエンティストが参画するまで、手探りや実証実験は進めていたものの決定打がなく、ビジネス活用までの展開がなかなか進められていない状態だったこと。まずは、指揮者がビジネス視点からプランを作成し、データサイエンティストがビッグデータを分析し、正しい方向性を導き出したことが成功への道筋を作り出したのです。

データサイエンティストの活用も
デジタルシフトも一歩ずつ着実に

では、どうやって社内で体制を整えて、データ活用を推進させていけばよいのでしょうか?於保氏曰く、「例えば統計や機械学習ができるスキルの高いデータサイエンティストをいきなり登用するのではなく、現状の課題に即して、適切な人員を配置する必要があります」とのこと。その場合、「その組織の成熟度レベルに合わせて、人材要件を設計し、正社員登用する必要がありますが、まずは業務委託でリソース確保を検討するのが良いかと。また、外部の専門家に頼る前に、自分たちでデータの活用方法を検討するのも大事」と語ります。

その理由として「データ分析とひとくちでいっても、ウェブ解析、BIダッシュボード開発、統計、機械学習などさまざまな領域にわたって使い方が異なります。また、取り扱うデータの種類や量も事業や成長度合いによって様々」。必要なタイミングで最適なリソース確保をするためには、柔軟にいくつかの選択肢を検討すべきということです。

「まずは現状の事業でどのようなデータがあるのか、どのような課題を解決したいのか、きちんと整理して見極めることが必要」と、いきなりデータに向き合う前に、ビジネス観点での企画設計が大事な業務だという於保氏。「分析といっても、難易度の高い機械学習のロジックをつくるような理想を掲げる前に、まずは手元にあるデータを使って、現状把握のための基礎的な可視化からはじめることがおすすめ」という。

その過程として、「データ活用をするためにはデータの収集と整備が重要となるが、実はこのエンジニアの業務にも注力しなければなりません」(於保氏)

このように、「一人のデータサイエンティストを入れたから安心というものではなく、チームを組成して指揮していくことが重要です。データサイエンティストには次のような幅広い能力が求められており、一人がスーパースターとして活躍することは世界的にもほとんど稀で、それゆえに人材の組み合わせも大事です」と於保氏は指摘します。

「データサイエンティストには、ビジネスの背景を理解した上で課題を整理して解決する『ビジネス力』、データを意味のある、使える形に整える『データエンジニアリング力』、そして情報処理、人工知能、統計学など、情報科学系の知見を使いこなす『データサイエンス力』、3つのスキルセットが求められます。とはいえ実際にはこれらを全て併せ持つ人はほとんどおらず、それぞれのスキルを持ち寄ったチームでデジタルシフトを推進しているというのが実情です。しかし、それでもなお人材が不足しており、特にビジネス力に強い人材は枯渇していると言っても過言ではありません」(於保氏)

そうした中、注目を集めているのがjeki Data-Driven Labのような外部のデータサイエンティスト集団ということになるのですが、於保氏は、まずは自分たちのデータがどのようなものがあるか確認をすることを勧めます。また、データサイエンティストの育成・活用も、データ活用によるデジタルシフトも、スモールスタートで段階的に進めていくことが大事だと言う於保氏。

「外部の専門家に頼る前に、まず自分たちでデータの活用方法を検討してみる。その上でデータ活用を社内で回していくのが難しくなってきたら、迷わず外部の専門家を頼ってください。実際、先にお話しした事例はどちらも社内での活用が行き詰まったところから始まっています。ここで大事なのは、社内の担当者(推進者)には、他部署との調整ができる人材をあてること。デジタルシフトは段階を追ってより多くの部署との折衝が必要になり、最終的には組織全体を巻き込んでいくかたちとなります。データ活用の重要性を理解してもらい、経営層を巻き込むことも大事です。我々は、データ分析の実務については外部の専門家に任せ、社内の担当者にはプロジェクト管理や企画推進に集中してほしいと考えています。大きな組織では、“社内の推進者”と“社外の実務者”という組み合わせが最も機能しやすいんですよ」(於保氏)

まとめ

データ活用を軸とした企業のデジタルシフトにはデータサイエンティストの存在が欠かせません。しかし、デジタルシフトは一日にして成らず。まずはBIツールでデータ活用をスモールスタートし、規模の拡大に合わせて外部の専門家に助力を請い、自社のデジタルシフトを着実に進めていくようにしましょう。

インタビューイプロフィール

株式会社jeki Data-Driven Lab
取締役 / データプロデューサー
於保 真一朗(おほ しんいちろう)

株式会社クリーク・アンド・リバー社にて、特にデータ活用を中心としたデジタルマーケティングの業務遂行におけるプランニングおよび実行支援を推進。2019年9月に設立されたjekiとクリーク・アンド・リバー社の合弁企業、株式会社jeki Data-Driven Labでは、取締役として経営・事業推進にも携わる。データサイエンティスト協会スキル定義委員会会員。