フォークリフトでの事故について
フォークリフトは便利な産業車両である一方、運転時の事故が後を絶ちません。年間に数多くの事故が報告されており、なかには死亡例も含まれています。対策を学ぶ前に、事故の内容や原因を把握しておきましょう。
どんな事故が多いのか
厚生労働省が公表した労働災害統計「『死亡災害報告』による死亡災害発生状況(令和3年確定値)」によれば、フォークリフトに起因する死亡災害は年間21件発生しています。また、「『労働者死傷病報告』による死傷災害発生状況(令和3年確定値)」によると、年間2,028件の死傷病災害が発生しているとの結果でした。
令和3年に限った話ではなく、ここ数年は死亡災害が30件前後、事故件数は2,000件前後で推移しています。なお、事故の原因として多いのは、墜落や転落、挟まれ、巻き込まれ、激突などが挙げられます。資料からわかるように、フォークリフトに起因する事故は決して少なくありません。毎年のように事故でケガをする方、命を失う方が出ているのが現実です。フォークリフトの事故が発生すると、大切な人材を失うリスクをはじめ、業務停止に伴う損失も生じます。特に、人命にかかわるような大きな事故が発生した場合には、企業としての信頼も地に墜ちてしまいます。このようなリスクを避けるため、フォークリフトを扱う企業は徹底した対策を講じなくてはなりません。
フォークリフト事故の事例と主な原因
よくある事故の事例として、荷下ろしをしているフォークリフトの後ろにいた人が、後退してきた車両に接触して死亡するケースが挙げられます。運転者が後方をしっかり確認しなかったこと、被害者が作業している車両の後ろへうかつに入ってしまったことが原因として挙げられます。また、岸壁へフォークリフトを誘導していたスタッフが、別のフォークリフトと接触して死亡した事例もあります。スタッフに接触したフォークリフトを運転していた運転手が、注意確認を怠ったことが原因です。作業中に落下した荷物の下敷きになって死亡したケースもあります。このような事故は、フォーク(荷物を載せる爪部分)に正しく荷物を載せていなかった、重量がオーバーしていた、などが原因として考えられます。走行中のフォークリフトが転倒し、運転手がケガをする事故もよくあるため注意が必要です。車両が転倒すると、運転手は投げ出されてしまい、フォークリフトの下敷きになるおそれがあります。旋回時のスピード出しすぎ、荷物を高く持ち上げた状態で坂道を走行した、などが原因です。ほとんどの事故は人為的なミスにより発生しており、正しく扱えば事故の回避は可能と考えられます。
フォークリフトの運転時に気を付けるべきこと
フォークリフトを正しく安全に扱うには、性質を理解しておかなければなりません。また、ヒヤリハット事例から学ぶことで、事故の予見が可能です。
フォークリフトの性質を理解しておく
フォークリフトの車体後方には、ウエイトが搭載されています。車体前方のフォークで荷物を持ち上げたとき、車両が前に転倒するのを防ぐためです。ウエイトを搭載しているため、車体が後方へ出っ張る設計になっており、走行時に死角が生まれやすい性質がある点を運転手は覚えておかなければなりません。また、マストと呼ばれるフォークのレールとして機能する部分が、死角を生むため注意が必要です。何も積載していない状態でも視界を遮られ、荷物を持ち上げるとさらに見えにくくなってしまいます。フロアデッキに立ち乗りして操作するリーチタイプのフォークリフトは、右後方に死角が生まれやすいため注意が必要です。特に、バック走行時には右後方が見えにくくなるため、事故につながりかねません。坂道を走行する際にも注意が必要です。荷物を載せて坂道をのぼるとき、後ろに転倒してしまう場合があります。車体後部のウエイトにより重心が後ろにかかり、しかも荷物を持ち上げているとバランスを崩しやすくなるためです。
ヒヤリハット事例から学び、予見できるようにする
ヒヤリハット事例を学べば、どのようなリスクがあるのか理解でき、事故防止につながります。インターネット上でも、フォークリフト関連のヒヤリハット事例は見つかるため、従業員の指導に活用してみてはいかがでしょうか。ヒヤリハット事例として、フォークリフトでほかの産業車両の隣を走り抜けようとしたところ、車体の下に潜り込んでいた作業員が突然出てきて、ぶつかりそうになった、といった事例があります。原因としては、「誰も出てこないだろう」といった運転手の思い込みが挙げられます。対策は、思い込みをなくす、産業車両のそばを通るときは最徐行する、クラクションを鳴らしてみる、などが考えられます。次は、荷物の積み込みをしようとしたとき、床に油が広がっているのに気付き、避けようと急旋回しようとして転倒しそうになった、という事例です。原因は状況判断の遅さと急なハンドル操作です。対策としては、進路の障害を早めにチェックする、急旋回や急発進など「急」がつく操作をしない、といったことが考えられます。フォークを挿し込んだパレットに乗り、高いところまで持ち上げてもらい作業しているときに、バランスを崩して地上へ転落しそうになった、という事例もあります。原因は、パレットの上で作業していたこと、安全帯を使用していなかったことです。対策としては原則パレットの上に乗って作業をしない、どうしても必要なときは安全帯を使用するなどが挙げられます。
事故を減らすための対策とは?
安全を意識するよう運転手に呼びかけるだけでなく、事故の減少につながる対策が企業には求められます。具体的な取り組みを決め、事故防止に役立つ安全ツールの導入も検討しましょう。
具体的な取り組み策を決める
フォークリフトの動線にほかの作業員が入り込んでしまうと、接触事故につながりかねません。このようなリスクを避けるには、フォークリフト専用通路の設置が有効です。フォークリフトのみが走行できる通路を設ければ、ほかの作業員と動線が重ならず、事故の発生を抑制できます。
指差し呼称を徹底させるのも有効です。声を出しながら指差しすることできちんと注意を向けられ、安全意識も高まります。また、車両の点検やメンテナンスは定期的に行いましょう。メンテナンス不足によって車両がトラブルを起こし、事故が発生する可能性があるためです。安全にフォークリフトを使用できるよう、指導とルール化も必要です。管理者が普段からチェックするのはもちろん、安全な運転や荷物の積み方ができているか、定期的にテストをするのもよいでしょう。また、本来の用途以外に使用しないよう、指導を徹底しましょう。たとえば、フォークの上に人を乗せて持ち上げる、フォークの先で重量のある荷物を押し出す、などが挙げられます。本来の用途以外に使用するのは事故のもとなので、日ごろからきちんと指導を行いましょう。
安全ツールを導入する
フォークリフトを安全に運用できる、さまざまな安全ツールがリリースされています。導入に費用はかかるものの、コストに見合ったメリットを得られるため、検討してみてはいかがでしょうか。近年では、運転手の操作をサポートする技術が進歩し、実用化されています。このような技術を投入したフォークリフトの開発も進んでいるため、今後目にする機会も増えるでしょう。フォークリフトにおすすめの安全ツールとして、ドライブレコーダーが挙げられます。現在では、フォークリフト専用のドライブレコーダーがリリースされており、作業状況を映像で記録できます。万が一事故が起きたときは原因究明に役立ち、再発防止が可能です。フォークリフトの安全な運用に役立つ、IoTサービスも登場しています。稼働状況のモニタリングや、危険運転時における管理者への自動報告などが可能です。スピード警告装置を導入するのもひとつの手です。スピードを出しすぎたとき、車両に設置した赤色灯が点灯して運転手や周囲の人に知らせる製品もあります。スピードの出しすぎによる転倒や、人との接触などの事故を回避できます。ただ、どれほど高機能なシステムや装置を導入しても、運転手の安全意識が低ければ効果は期待できません。安全ツールや技術を妄信せず、運転手の意識向上に努めることが大切です。
フォークリフトの事故防止にNEC 車両周辺監視ソフトウェア
近年では、最新のテクノロジーを投入した安全ツールも登場しています。当該安全ツールに搭載される技術として「NEC 車両周辺監視ソフトウェア」があります。さまざまな最新技術によって同ソフトウェアは、移動体の接近を検知できる点が特徴です。実際の運用では、ソフトウェアを導入して車体にカメラを搭載します。カメラが周辺の移動体を認識し、近づきすぎたときに通知してくれる仕組みです。ソフトウェアの導入により、フォークリフトの事故発生原因となる死角をなくせます。仮に、死角となるところに人が入り込んだとしても、カメラが認識し運転手に伝えてくれるため、接触事故の回避が可能です。特に、フォークリフトの後方は死角が生まれやすく、事故も頻繁に起きています。車体の後方でしゃがんだまま作業している人がいると、気付かないままバックしてしまい、はねてしまうといったことも起こり得ます。
同ソフトウェアを活用すれば、そのようなリスクを排除できます。詳しい情報は、以下のWebページで紹介しておりますので是非ご覧ください。
まとめ
フォークリフトによる事故は、挟まれや転倒、衝突などが多く、さまざまな原因で引き起こされます。運転手にフォークリフトの性質を理解させる、ヒヤリハット事例で学ばせるなど、安全に運用できるよう適切な対策を講じましょう。安全ツールの導入も有効なので、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。導入コストは発生するものの、事故の抑制につながり、従業員の安全や組織の評判も守れます。