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CNCJ設立メンバーインタビュー
「未来に期待が持てる」
Kubernetesの第一人者が語るクラウドネイティブへの課題と手ごたえ


NECグループはこれまでもLinuxカーネルをはじめ、さまざまなOSS(Open Source Software)コミュニティに貢献してきました。そうした中、2023年11月に設立されたKubernetes(クバネティス)などのクラウドネイティブ技術活用を促進する国内コミュニティ「Cloud Native Community Japan」(CNCJ)設立にNECソリューションイノベータ社員である武藤周が参加。そこに込めた思いと狙いについて聞いてきました。
CNCJを立ち上げ、日本のOSSコントリビューションを活性化させる
仮想化技術を駆使してOS上に個々の独立したアプリケーション実行環境を構築する「コンテナ」技術は、今やクラウドコンピューティングにおいてなくてはならないものになっています。「Kubernetes」は、それらコンテナ群の管理を自動化するコンテナ管理ツールのデファクトスタンダード。2015年、Kubernetesの誕生(Kubernetes 1.0の発表)と同時に発足したLinux Foundationの下部組織「Cloud Native Computing Foundation(CNCF)」は、コンテナ技術の健全な発展のために創設されました。現在では開発元であるGoogleをはじめとする850を超える企業・団体によって構成されています。NECグループもCNCFに加盟しており、2018年からはゴールドメンバーとして、オープンなクラウドネイティブインフラの構築を支援してきました。
そうしたなか、2023年11月7日にCNCFのJapan Chapterとして「Cloud Native Community Japan(CNCJ)」が設立されました。その背景について、基幹メンバーの一人としてCNCJの立ち上げに携わったNECソリューションイノベータ プラットフォームサービス事業部 プロフェッショナルの武藤周は次のように説明します。
「まず、大前提として日本のコントリビューション(貢献活動)が少なく、オープンイノベーションの流れから取り残されるのではないかという課題がありました。グローバルな情報や技術への追随のために、外部とのコラボレーションが不可欠と感じていました。もちろん、なかには精力的に活動されている方々もいらっしゃるのですが、言語の壁などもあって、なかなかそうした動きが広がっていかなかったのです。CNCFと連携している日本のコミュニティもありませんでした。このことに危機感を感じた日立製作所の中村雄一氏が発起人となって立ち上げたのがCNCJです。CNCJはベンダー中立な場としてCNCFと日本の開発者コミュニティ、企業・団体をつなぐハブとなり、国内からのコントリビューションおよびイノベーション(技術革新)を促すことを目的として活動していきます」
武藤はKubernetesが今ほど注目されていなかった頃からこの技術に注目しており、積極的なコントリビューションによって、2019年にKubernetes Dashboardのメンテナー(保守管理者)に就任。2021年には日本人として初めて、SIG Chair(SIG UI Chair=UI分野における議長)に任命されるなど、日本を代表するKubernetesコミュニティリーダーの一人として機能開発や国際化、セキュリティ対応などに多大な貢献をしてきました。2023年5月現在、NECグループのKubernetes開発貢献は、直近1年で国内1位、グローバル10位という優れた成績をマークしています。武藤はNECソリューションイノベータ社内におけるKubernetesのコントリビューターとして、Kubernetesの普及に務めています。こうした活動はお客様からも高く評価されており、多くの案件に貢献しています。

今後さらに重要性を増していくクラウドネイティブ技術
Kubernetesの登場と同時に発足したCNCFですが、取り扱う技術はKubernetesだけではありません。広く「クラウドネイティブ」なOSS全般を対象に、その活動の幅を拡大しています。
「クラウドネイティブの定義は明確には定まっていないのですが、私は、単にクラウドベンダーの提供するサービスを使えるだけでなく、そのベースにある技術を知り、使いこなせることが肝要だと考えています。たとえば、昨今は企業システムやサービスのクラウドシフトが盛んですが、VM(Virtual Machine)上にそれまでオンプレミスで動かしていた既存のモノリスアプリケーションを持っていっただけでは、その先の展開がありませんよね。コンテナ技術などを駆使してきちんと作り替え、どこのクラウドに持っていってもきちんと動くポータビリティを持ち、スケールアウト・インも自由自在。それによってさまざまな可能性を生み出すことがクラウドネイティブ技術の要なのだと私は考えています」
さらに、クラウドネイティブを実現する技術の中で大きな役割を担っているのがコンテナ化(コンテナライゼーション)であり、それを効率的に運用するためのベースとなるのがKubernetesなのだと武藤は話します。
「コンテナ化することによってアプリケーションだけでなく、実行環境や依存関係などを1つのパッケージにしてリリースすることができます。すると必然的に大量のコンテナ化されたアプリケーションが1つのサーバーに同居することになりますから、それらを管理できるKubernetesのようなソリューションが必要不可欠となるわけです。現在はゲーム業界や通信業界、ECなどで特に活用されているKubernetesですが、今後は医療分野など、ミッションクリティカルな領域へも利用が拡大されていく見込みです」

NECソリューションイノベータはこれまでもクラウドネイティブ技術の開発・普及に貢献し続けてきた
NECソリューションイノベータでは、これまでもKubernetesおよびクラウドネイティブ技術を普及するために積極的に取り組んできました。特に内外から高く評価されているのが「Kubernetes Upstream Training」です。
「Kubernetes Upstream TrainingはKubernetesの開発コミュニティ(アップストリームコミュニティ)でコントリビューションするために必要な作業や手順、そして考え方を紹介し、コミュニティとのやり取りや、ソース、ドキュメントの修正など、実際のコントリビューション作業をハンズオンで体験できるトレーニングです。元々はCNCFのコンテンツなのですが、それを私たちのチームで日本人向けにアレンジし、国内のクラウドネイティブ関連イベントやカンファレンスで提供してきました。今回私がCNCJの設立メンバーに選ばれたのは、CNCJの目的の一つが国内コントリビューターを増やすことであり、それがこれまでの活動に合致していたからだと理解しています」
武藤のこうした活動はグローバルでも高く評価されており、2023年11月、当時まだ国内に1人のみだったCNCF Ambassadorに就任(同時期にほか3名が就任)。CNCF Ambassadorは、クラウドネイティブ技術について学ぶ機会を積極的に提供してきた専門家(全世界で200名程度)に与えられる称号です。
「CNCF Ambassadorの役割は、日本の開発者コミュニティとグローバルのCNCFとの架け橋になること。日本人開発者が単に技術を使うだけでなく、開発に携わっていく、協力していくことで、オープンイノベーションを自ら実践していく。そういったOSSの文化を広めていくことに今、心血を注いでいます。」
国内開発者や企業と手を取り合ってオープンイノベーションを実現していきたい
2023年11月の発足後、CNCJ最初の取り組みとして12月1日に行われた「Cloud Native Community Japan Kickoff meetup」には140名の開発者が参加。海外で学びたい若手エンジニアから、講師としてアップストリームトレーニングに協力したいというベテランエンジニアまで、幅広い層から熱意を感じる声が上がっているとのこと。「未来に期待が持てる」と、武藤はCNCJ立ち上げの確かな手応えを感じています。
「営利企業において、OSSへの貢献を続けることは並大抵の苦労ではありません。しかし、開発者がコントリビューターとしての活動を通して得られるもの、素晴らしい学びと刺激、なによりグローバルに実績を残せるということは、これ以上ない喜びです。もちろん、それは企業にとっても大きなメリットになります。レピュテーション(評判)が高まるのはもちろんのこと、企業全体のスキルアップや意識改革にもつながっていくはず。まずは日本の仲間たちを集め、手を取り合い、オープンなイノベーションを目指して一緒に頑張って行きたいなと思っています。我こそはという個人、あるいは企業の皆さんには、ぜひお気軽にお声がけいただきたいですね!」
また、CNCJの活動はNECソリューションイノベータや、当社の社員にとってもチャンスであると語ります。
「CNCJは、CNCFと日本との架け橋になることが目的です。もちろんそれは、CNCFとNECソリューションイノベータとの関係にも当てはまります。CNCFには本当に優秀な開発者がそろっていて、彼らと日々やり取りする中で大きな刺激を受けています。その刺激を、社内の方々にも伝えたいのです。私も若いころは英語が苦手で、日本の外に出ること、外国の方と接することに苦手意識がありましたが、それをひとつ乗り越えたときにまったく別の世界を開くことができました。会社の外には、日本の外には、自分を高められる環境があります。若い方に限らず、外に出て新しい知見を得て、それをNECソリューションイノベータに持ち帰ってほしいと思います。私はその手助けをしたいと考えています」

<プロフィール>
武藤 周
プラットフォーム事業部 プロフェッショナル
1998年 NECソリューションイノベータに入社。コールセンター向け、植物研究室向け、警備業向けWebテレビ通話機能など、各種Webアプリケーションを開発。
2018年 Kubernetesコミュニティ活動にシフト。
2019年 Kubernetes Dashboardのメンテナー
2021年 Kubernetes SIG UI Chair
2023年 Cloud Native Computing Foundation Ambassador、Cloud Native Community Japan設立メンバー
<参考リンク>
Cloud Native Community Japan:https://community.cncf.io/cloud-native-community-japan/
UPDATE:2024.1.16