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会社と社員の信頼関係で兼職を実現

働き方の選択肢を増やして、より豊かな人生を

政府が、働き方改革の一環として兼職を解禁した2018年の「兼職元年」から6年が経ちます。NECソリューションイノベータでも、「社員の人生が豊かになる」「兼職をすることで経験値や視座が高まり、本業に好循環がもたらされる」という理念のもと、2020年から兼職制度を導入。兼職を希望する社員のサポートに当たっています。社内の兼職制度の現状について、人財企画部プロフェッショナルの安藤かよと実際に兼職を行っている社員2名に話を聞きました。

時代の流れに乗れなければ優秀な人材を逸してしまう

兼職を認める企業は徐々に増えていますが、1万2000人以上の従業員を抱えるNECソリューションイノベータで兼職制度を導入することは簡単ではありませんでした。安藤は、当社で兼職制度を導入するに至った理由を次のように語ります。

「人生100年時代です。働き方の選択肢を増やし、より豊かな人生を送ってもらうことや、知見を増やして仕事にも活かしていただきたいという思いから、兼職制度を導入するに至りました。ただ、兼職制度導入の検討をはじめた当初は、管理職から『どう管理していいかわからない』という声が聞かれました。コロナ禍にリモートワークが急速に広がり、ただでさえ部下がどのように働いているのかが見えにくくなっていた中で、『本当に会社の仕事をしているのか?』という不安があるとのこと。そのため、管理職の方々へは『縛るのではなく、部下を信頼して見守ってほしい』とメッセージを発信し続けています」(安藤)

人財企画部 プロフェッショナル 安藤かよ

なぜ兼職を認めることが必要だったのでしょうか。安藤自身も若い世代の変化を肌で感じていました。

「私には高校3年生の娘がいるのですが、娘の友人はインフルエンサーとして活動しています。自治体と連携して、子どもの立場から親子関係や教育について提言する仕事です。また娘自身も、自作の小説をアプリで販売しています。彼女たちのように、10代でビジネスを生み出す世代がやがて入社してきます。世の中に兼職制度が広がりつつある中で、当社が『うちは兼職ダメなので』と言ってしまえば、優秀な人材を確保する機会を逸してしまうリスクがあります」(安藤)

兼職の経験が本業にも生きた

実際に兼職を行っている社員は、どのような手ごたえを得ているのでしょうか。鈴木愛(東北支社)は、インフルエンサーとして、仙台・宮城の飲食店の情報を発信したり、企業や自治体のPRを行っています。

「2年前になにか兼職ができないかと考えて、まずブログの執筆を始めました。ただ、立ち上げ当初はテーマを絞り切れず、読者の反応もまったく得られなくて、1年間は収益ゼロ。現実は厳しかったです。経済的に余裕がほしくて始めた兼職だったのに、ただ時間と労力が奪われるばかり。そんななか、SNSを使った兼業の例をネットで見かけ、ブログのほかにSNSも始めました。今度は立ち上げからテーマとペルソナを設定することを意識しました。また、一人では行き詰まったり、自分自身の気分でやる気がなくなったりするので、実際に活躍しているインフルエンサーの人たちとコンタクトを取って、情報交換をしつつ、モチベーションを保ちながら事業として育てていきました。その結果、『地域の魅力を発信するインフルエンサー』と『SNSを運用したい自治体や個人事業主の方に向けたコンサル』という2つの軸を見つけることができました」(鈴木)

東北支社 鈴木愛

自分から連絡をとり、実際に会いに行くというアクションは、簡単なようでなかなかできないこと。兼職での経験が、当社での業務にも生きているといいます。

「カフェや居酒屋さんなど、業態を問わずお取引しており、私がPRに携わったことで売り上げが伸びたとお聞きすることがありました。こうした反響は本当にうれしいですし、やりがいを感じます。兼職はすべて自分で考えて解決して、取引先に納品しなければいけないので、自然と実行力がつきました。その体験は本業でも生きていて、直近のプロジェクトでリーダーを務めた時、上司から『推進力があるね』とほめてもらいました。兼職で身につけた力だと思っています」(鈴木)

ちなみに兼職での収入は、「去年、海外旅行に5か国行った」くらいとのこと。経済的な余裕がほしいというそもそもの目的も、ある程度達成されたといえそうです。

行政と民間の橋渡しを行う兼職

嘉藤一仁(公共地域DXソリューション事業部 主任)は、2022年にNECソリューションイノベータに入社。以前は東京都庁に勤めていました。原則として公務員は兼職を禁止されているので、兼職は当社に入社してからが初めてです。

「兼職は2023年11月に始めたばかりです。きっかけは、他業種の方と関わることで知見を深めたいと思ったからでした。10年以上、自治体に勤めていたので、官民両方の視点から企業と自治体の橋渡しや、改善点やノウハウをアドバイスできるのではないか、と。また、当社では大きな自治体と関わる業務を担当していますが、もっと小さな自治体を支援していきたいと感じたことも大きかったです。兼職ではデジタル関係ではなく、計画の策定や営業支援など、分野的にはまったく違うことをしています」(嘉藤)

自治体の業務でもっとも魅力を感じるのはどんなところでしょうか。

「住民が5万人以下の自治体は、都道府県や政令都市と比べて人、資産、情報が圧倒的に足りていません。最終的に行政の政策にいい形でアウトプットされるように、私自身がソリューション提案や課題抽出をして、ノウハウを持つ民間企業とつなげる役をしています。魅力的なのは、クライアントのすぐ向こう側に住民の方がいらっしゃることでしょうか。距離が近い分、要望や反応もダイレクトです。これは前職や本業だけでは気づくことができなかったし、味わえない醍醐味です」(嘉藤)

公共地域DXソリューション事業部 主任 嘉藤一仁

課題は時間と労力のやりくり

兼職が認められているとはいえ、本業に支障をきたさないことが大前提です。フレックス制度や時間休を含む有給制度などを活用して、当社の就業時間内に兼職の業務を行うことも可能ですが、必然的に平日の夜や、土日祝日を兼職に費やす場合も多くなります。

「私の場合、兼職業務に取り掛かれるのは夜や休日が多くなります。家族との時間もあるので、夜や休日の数時間で対応できる範囲という仕事量の制限もあります。そうした時間のやりくりは今後の課題ですね」(嘉藤)

「私は、乾燥機付きの洗濯機やロボット掃除機など、時短家電をフル活用して家事をいくつか手放しました。また、経理を知人の税理士に、記事をライターさんにそれぞれ依頼して、うまく人に頼って時間を捻出しています。その分、企画のコンセプトといった事業のコアとなる部分に注力しています。こうした時間の使い方は本業にも生きると思います」(鈴木)

「時間と労力のやりくり」について、兼職を行っている社員の上司はどのように感じているのでしょうか。

「実際に、管理職から『兼職のボリュームが大きすぎてキャパオーバーではないか』という相談が入ることもありました。何より心配なのは健康面です。せっかく『働き方改革』が進んで残業を減らす機運が高まっているのに、兼職でがんばりすぎて体を壊してしまった、となっては本末転倒です。管理職にも『部下の健康にはくれぐれも気をつけてあげてください』と声掛けをしています」(安藤)

会社が社員への信頼を示すことが大事

兼職が社員にとっても会社にとってもメリットが大きい一方で、リモートワークでの就業中に兼職業務を行う、本業よりも兼職の収入が大きくなって結果的に離職につながるかもしれないなど、懸念点もいくつかあります。

「兼職を行うにあたって会社が示している条件は大きく2つ。1つ目は、競業避止義務と情報漏洩の観点から、当社と競合に値する企業に属したり、起業したりしないこと。2つ目は他社と雇用契約を結ぶことができないことです。個人経営やNPO、家族経営の会社、団体で役目を担ったり、他社と業務委託契約を結ぶのは問題ありませんが、雇用契約を結ぶことはできません。逆に言えば、この2つをクリアし、直属の上司の許可を得れば、自由に兼職してもらってかまいません。もちろん兼職によるデメリットやトラブルは今後も発生すると思いますが、まずは会社が社員への信頼を示すことが、当社と社員にとって最適な兼職の形を作る第一歩だと考えています」(安藤)

最後に、兼職制度を導入して会社として起こった変化と、これからについて聞きました。

「数でみれば多いとはいえませんが、兼職を導入した2018年と比較すると、現時点(2024年3月現在)で倍以上の社員が兼職を行っています。当社で兼職をしたいと考える人は、鈴木や嘉藤のように、『自分を成長させたい』という意欲を持っている人がほとんどです。もちろん経済的な面もあると思いますが、視座を高く持って会社の外でも研鑽を積むことが、まわりまわって当社に還元されていくことにつながると思います」(安藤)

UPDATE:2024.03.21