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50年の歴史を刷新。セブン-イレブンとNECソリューションイノベータが挑んだ次世代店舗システム


小売企業にとって、店舗システムはまさに“ビジネスの生命線”です。もちろんそれは国内最大手のコンビニエンスストアチェーン、セブン-イレブン・ジャパンも例外ではありません。しかし、事業やシステムの規模が大きくなればなるほど、その開発の難易度は格段に高くなります。
同社が約50年にわたり改修を重ねて使い続けてきた店舗システムをどのように進化させたのか。そして、その挑戦にNECソリューションイノベータがどのように貢献したのか。新システム開発を共に担った両社の中核メンバーに、その舞台裏を聞きました。
既存システムを全面刷新。マイクロサービス&クラウド化でビジネスを加速する
国内コンビニエンスストア業界のトップランナーとして、店舗数(21,787店舗/2025年8月末現在)、売上高(約5.3兆円/2024年度)、営業利益(約2,510億円/2024年度)など、数字の面でも圧倒的な実力を誇るセブン-イレブン・ジャパン。NECグループとの関係は長く、1978年に導入された第一次店舗システムから続くパートナーシップは、今日まで途切れることなく続いています。
その同社が直面していた大きな課題が、約50年にわたり改修を重ねてきた店舗システムの全面刷新でした。その背景について、次世代店舗システムプロジェクトにおいてテックリードを務めたセブン-イレブン・ジャパン システム本部の佐藤毅氏はこう振り返ります。
「事業面では労働人口の減少、オーナー様の高齢化、人件費の高騰など、オーナー様の業務負荷が個人では対応しきれないほど増大している状況です。システム面でも、約50年前に導入して以降、7回に渡って大規模改修をしてきた結果、店舗システムはソフト面、ハード面ともに複雑化・独自化が進み、開発スピードの鈍化や改修コストの高騰を招いていました」(佐藤氏)

セブン-イレブン・ジャパン システム本部 システム企画部 エキスパート
そこでセブン-イレブン・ジャパンは、その解決策として、すべての仕組みをマイクロサービス化し、パブリッククラウド上で運用する「次世代店舗システム」の開発を決断。5つの目標として、顧客満足度・ロイヤリティの向上、店舗従業員の業務高度化と生産性向上、オーナー様の経営管理高度化、本部社員の支援力向上、取引先との生産性効率化を掲げ、プロジェクトをスタートさせました。
この開発に伴走したのがNECソリューションイノベータです。佐藤氏のパートナーとして深くプロジェクトに携わったビジネスPF統括部の石川竜矢は、従来システムに引き続きNECグループが開発を主導することになった理由をこう説明します。
「NECグループが選ばれた最大の理由は、過去のクラウド化プロジェクトでの成功実績と、そこから生まれた信頼感であると考えています。また、従来システムを長年担当してきたNECグループだからこその知見についても期待されていました」(石川)

ビジネスPF統括部 シニアプロフェッショナル
常時1,500名ものメンバーが携わったこのプロジェクトには、NECグループ以外にも多くの企業が参画し、各社がそれぞれの得意分野を担当。石川はその全体を取りまとめる役割を担い、前例のない大規模プロジェクトに挑みました。
「これまで多くのプロジェクトに参加してきましたが、これほどの規模の案件はさすがに初めてでした。ただ、不安よりも楽しみに感じる気持ちが勝りました。長年一緒に取り組んできた佐藤さんとのパートナーシップがあれば、必ずや乗り越えられるだろうという確信がありました」(石川)
石川にはひとつ、強い信念があったといいます。それは、「NECソリューションイノベータの立場ではなく、セブン-イレブン・ジャパンの立場でプロジェクトを支援する」ということ。顧客視点で取り組んでこそ、最良の成果を生み出せると考えたのです。
既存システムと徹底的に向き合い、約1500万行ものコードを約280万行まで圧縮
従来の店舗システムはそれぞれの機能が密結合になっており、1つの修正が全体に波及するため、影響範囲の特定が難しく、開発コストとスケジュールにも大きな影響を及ぼしていました。そこで次世代店舗システムではマイクロサービスの仕組みを採用。マイクロサービスでは個々のコンポーネントの接続が疎結合となるため、それぞれの修正が他に影響を及ぼすことがありません。これにより、毎日2,000万人以上が利用するコンビニエンスストアの店舗システムを安定して運用できる仕組みを目指しました。
この転換は大きな挑戦でした。プロジェクトメンバーの中には実現を危ぶむ声や懐疑的な意見もあったといいます。しかし佐藤氏と石川はメンバーを粘り強く説得。「必ずやり遂げる」という強いモチベーションでチームをまとめ上げ、実現へと導きました。
「マイクロサービス化の恩恵はメンテナンス性の向上だけではありません。API化を進めて処理の再利用性を高め、複雑に入り組んでいた仕組みを整理し、機能を最適化した結果、従来約1,500万行もあったコードを約280万行にまでスリム化できました。これにより修正スピード、障害特定、運用難易度が劇的に改善されています」(石川)
もちろん、マイクロサービス化は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。特に初期フェーズを重視し、既存システムをどのようにマイクロサービスの思想で組み立てていくか、業務やデータの境界を正しく見極めるべく、チーム横断で3〜4カ月をかけて、じっくりと調査および方針決定を進めていったといいます。
「既存システムをそのまま移行すると、巨大なマイクロサービスが生まれてしまう恐れがありました。そうした場合は機能をさらに分割して、将来のメンテナンス性や運用保守性を損なわないように工夫しました。一方、ある特定の領域では業務単位で細かく作り込んでいくと、100〜200ものマイクロサービスになってしまうため、似た機能を統合して、マイクロサービスの数が増えすぎないように調整しています」(石川)

そのうえで、現場の従業員に大きな変化を感じさせないことにもこだわりました。基本方針は「現行保証プラスアルファ」。既存システムでできていたことを諦めることなく、さらに利便性を高める方針を徹底しました。
また、マイクロサービス化に伴い注意すべき点とされるAPIコール数の増大にもしっかりと対応。プロジェクト初期のフェーズで全てのAPIとコール数を詳細に分析し、外部からの課金対象となるAPI呼び出しと、内部での課金が発生しないAPI呼び出しを明確に使い分けるルールを策定しました。これによりコスト対策も万全に行っています。
現場の評価は上々。半永久的に進化する店舗システムが未来を切り拓く
こうして完成した次世代店舗システムが現場に導入されたのは、2025年2月。現在はまだ全店舗への展開途中ですが、その手応えについて佐藤氏と石川はこう説明します。

「導入により、店舗従業員の働き方が大きく変わったことを実感しています。これまでは、 バックヤードのストアコンピューターでしかできなかった勤怠登録や商品の検索といった業務が、クラウドシフトによって一般的なタブレットやスマートフォンで売り場にいながら行えるようになりました。
これにより、従業員はお客様の近くで作業できるようになったため、レジや品出しの合間を有効活用でき、利便性が大幅に向上しています。もちろんコスト面でも高価な専用機と比べて大きなメリットがあります」(佐藤氏)
「このシステム改革により、セブン-イレブン・ジャパン様が今後新たに事業的なチャレンジをする際、大規模なシステム改修をせずとも、タブレットやスマートフォンにアプリを配布するだけで済むようになりました。これにより事業スピードは格段に向上します。2026年には第2弾となる新POSシステムの導入が控えているのですが、それも必要なアプリを配布するかたちで実現されます」(石川)
現在は、先行導入で明らかになった問題点の解消に取り組んでおり、従来システムと比べてはるかにメンテナンス性が高いことも確認できています。障害箇所の特定から対応までをスムーズに進められている状況です。
「11月からは全国展開も始まる予定です。その後に予定しているPOSレジ機能の追加後も、マイクロサービスならではの拡張性の高さを活かし、新機能を半永久的に追加していく計画です。もちろん我々、NECソリューションイノベータもこの取り組みに伴走し続けたいと考えています」(石川)
「苦労の多いプロジェクトではありましたが、終わってみれば『楽しかった』という感想しかありません(笑)。今後は、生成AIなど最新技術も取り入れ、さらに高性能なシステムへとアップデートしていきたいです。その際にはぜひNECソリューションイノベータの皆さんにご協力いただきたいと思っています」(佐藤氏)

UPDATE:2025.10.21