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“多機能で複雑なPOS”をクラウドへ。蔦屋書店とNECグループが挑んだ次世代店舗システム刷新の舞台裏

書籍を中心に豊かなライフスタイルを提案する「蔦屋書店」、エンタテインメントコンテンツの提供を主軸とする「TSUTAYA」──カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループは、もはや書店という枠を超え幅広い事業を展開しています。近年は「SHARE LOUNGE」に代表される空間ビジネスや、「TSUTAYA Conditioning」などのウェルネス事業にも進出しており、全国に広がるネットワークと9,000万人超の会員基盤を誇ります。

本記事ではTSUTAYA・蔦屋書店の現在を支え、未来を紡ぐ「次世代店舗総合情報システム」の刷新プロジェクトについて、取り組みを牽引した中核メンバーにその狙いと成果、開発の舞台裏を聞きました。

欲しかったのは技術力と、新しいことにチャレンジする情熱

「2010年代後半、我々はレンタルビジネスの市場規模縮小を背景に、全社をあげて業態変革に取り組んでいました。その中で、店舗システムも事業の変化に対応できるものに刷新すべきだと考えたのがこのプロジェクトを立ち上げたきっかけです。当時、全社IT戦略の柱として『クラウドファースト』を掲げており、店舗ごとに設置していたPOSを中心とする業務システムをクラウドへリフト&シフトすることが大きなテーマでした」

そう当時を振り返るのは、責任者として本プロジェクトを牽引してきたカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 奥田二弘氏。奥田氏はこのシステム刷新によって「スマートオペレーションを実現(業務効率化による人手不足の解消)」「デジタルリテールに対応(店舗情報一元化によるデータ活用促進)」「リスクとコストを削減(セキュリティ強化による会員情報保護等)」を目指しました。

奥田 二弘(おくだ・かずひろ)氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 ITソリューション本部 本部長

そこで開発パートナーに選ばれたのが、創業当時から同社のシステム構築を担ってきたNECグループ。全国の店舗が安全かつスムーズに新システムへ移行するには、大規模システム開発・導入に豊富な知見を持つNECグループによる、店舗への展開までを含めたトータルなコーディネートが不可欠だったのです。

「開発チームをリードするプロジェクトマネージャー(PM)にはWebアーキテクチャーでシステム構築の経験があり、難しいことにチャレンジできる若さと情熱を持った人をアサインしてほしいと要望しました」(奥田氏)

この条件に応え、NECソリューションイノベータは、当時、大きなシステム開発を成功に導き、次なる挑戦に備えていた若手PM 岡田大孝(第一リテールソリューション統括部 シニアプロフェッショナル)を抜擢。奥田氏はその第一印象をこう語ります。

「このプロジェクトを成功させるには、我々とベンダーがビジョンやゴールのイメージを共有することが何より重要だと考えていました。我々の夢や展望を、熱意を込めて語ったとき、真剣な目で『やっていきましょう!』と共感してくださったのをよく覚えています。まさに理想的な人材だと感じましたし、その直感は間違っていませんでした。PMを任せるうえで経験以上に重要な、課題を乗り越え一緒に成長していける、その気概を強く感じました」(奥田氏)

もちろん、本プロジェクトはNECグループにとっても大きな挑戦でした。NEC 第二リテールソリューション統括部 プロフェッショナル 細井 源泰は、この取り組みを「日本の小売業の未来を体現するプロジェクト」と評価します。

細井 源泰(ほそい・もとやす)
NEC リテールソリューション事業部門 第二リテールソリューション統括部 プロフェッショナル

蔦屋書店のPOSは「多業種を扱う多機能で複雑なPOS」

2019年5月より開始した本プロジェクト。現場のマネジメントを担当した、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 清水邦朗氏はその開発難易度の高さを次のように説明します。

「我々のPOSは書籍や雑貨の物販、中古品の買い取り、CD・DVDのレンタルに加え、会員入会処理や在庫検索、定期購読契約など多岐にわたる機能を持つため、蔦屋書店のPOSは『業界でも特に多機能で複雑なPOS』と言われていました。さらに、幅広い商品を扱うことから商品マスターも約2,000万件に及び、トランザクションも膨大です。この仕組みをクラウドで安定稼働させるのはNECグループでも非常に難易度が高かったと思います」(清水氏)

清水 邦朗(しみず・くにあき)氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 ITソリューション本部 事業IT企画推進部 部長

この“多機能で複雑なPOS”を刷新するため、NECソリューションイノベータのエンジニアチームは、店舗ごとに分散していたPOSデータベースをクラウドに集約することを決断しました。合計1,000を超えるデータベースを、既存のビジネスロジックを維持したままリフト&シフトする──前例のない挑戦が始まります。

「クラウドネイティブとAPIファーストを軸に、POS・在庫・会員データをリアルタイムで一元管理する“センター化”を実現しました。中でも、Microsoft Azure Hyperscale SQL Databaseを用いた超大規模データベースのクラウド移行は、国内小売業界でも類を見ないチャレンジでした。さらに、APIAppsによるデータベース接続部分のAPI化では、従来アプリケーションから直接データベースにアクセスしていた構造をAPI経由に全面刷新。トランザクション管理や一貫性の担保、パフォーマンス最適化など、極めて高度な設計・実装が求められましたが、これらを乗り越え、高速かつ安定した動作を実現しました。既存業務ロジックをクラウド環境に適合させるという、技術的にも運用的にも大きな挑戦でしたね」(岡田)

岡田 大孝(おかだ・ひろたか)
EA・リテールソリューション事業部門 第一リテールソリューション統括部 シニアプロフェッショナル

これらの複雑な移植作業における生産性向上と品質確保のため、マイグレーション開発フレームワークの活用やテストの自動化にも注力しました。本プロジェクトで岡田とともに開発チームを率いたNECソリューションイノベータ 第一リテールソリューション統括部 主任 景山敏洋は、その成果を次のように話します。

「業務アプリケーションや、ストアドプロシージャなどのソフトウェア資産を新データベース環境に移植・最適化する過程では、既存業務ロジックの継承と新環境への適合を両立させる必要があります。そのため、現行と新環境の比較テストを自動化し、非互換や仕様差を徹底的に洗い出しました。これにより、データベースの移植領域の効率化や、テスト自動化に伴う生産性向上も併せて効率的に実施しています。この取り組みで開発されたツールやノウハウは資産化され、今後のプロジェクトでも活用されます」(景山)

景山 敏洋(かげやま・としひろ)
EA・リテールソリューション事業部門 第一リテールソリューション統括部 主任

旧システムの構造解析には、長年システム開発・改良に携わってきたベテランエンジニアの知見も不可欠でした。移行チームに加わった彼らの存在がなければ、蔦屋書店が積み上げてきた複雑なビジネスロジックを活かした状態でクラウドに移行することは難しかったでしょう。

半年で全国の店舗への移行を完遂──成功に導いた秘策

数々の技術的課題を乗り越え、いよいよ実現が見えてきたクラウド移行ですが、その難所はシステム開発だけではありません。完成したシステムをいかにスムーズに全国の店舗へ導入するか──このプロジェクトにおける高い壁のひとつでした。

「NECグループには、休店せずに閉店後から翌朝までの最大8時間以内に移行作業を完了させること、土日祝の繁忙期は避けて平日夜のみ作業すること、1日あたり数十店舗を移行し、半年で全店を完了させることをお願いしました」(清水氏)

「過去のシステム移行では当社のスーパーバイザーが現地での判断や確認を担当していましたが、今回はコスト削減のため、各店舗とNECグループが直接やり取りして進めていただくようお願いしました。この点も今回の大きな挑戦でした」(奥田氏)

これらの要望に応えるため、NECソリューションイノベータは経験豊富な熟練の移行チームを投入。現地で作業を担うNECグループやパートナー各社と連携し、無事移行を完了させることができました。

「移行に際しては、タブレットで進捗をリモート監視できる仕組みを作り、蔦屋書店様の本社スタッフが各地の状況を把握できるようにしました。また、万一のトラブルに備えてバックアッププランを事前に用意し、問題が起きたときはすぐに元に戻せるよう、どのような状況にも対応できる体制で移行作業に臨みました」(岡田)

こうして2024年4月、全店舗での店舗システム更新が完了。半導体不足によるスケジュール遅延はあったものの、致命的なトラブルは発生せず、店舗スタッフからの評価も上々でした。今後は、本部システムとの連携を進め、全店データを自由に活用できる仕組みなど、加盟店が自走できる環境づくりを進める予定です。

「今回構築した店舗システムをベースとして、AIなどの新技術を活用し、多角化するCCCグループのビジネスに柔軟に対応できる未来志向の統合POS基盤を作りたいと考えています。もちろん、それにはNECグループの協力が必要です。共に理想の未来を目指していきましょう。これからもよろしくお願いいたします」(奥田氏)

未来を共に創るために──NECグループの次なる挑戦

2019年9月の本格稼働から、足かけ6年の長期プロジェクトとなった店舗システム刷新。最後に、この長いプロジェクトをやり遂げた感想を細井と岡田に聞きました。

「多くの苦難があったプロジェクトですが、最終的に店舗の皆様に喜んでいただけたことに胸をなで下ろしています。移行完了後、ある店長様からプロジェクトチーム宛に、『新システムによって現場の生産性が向上した。開発チームに感謝を伝えてほしい』というメールをいただいたと聞きました。こうした声はなかなか私たちの元までは届かないので、本当にうれしく思いましたね。開発チームのモチベーション向上にもつながったと思います」(細井)

「蔦屋書店様のように、事業の目指す方向をしっかり共有してくださるお客様は貴重です。NECグループとしては、そういったお客様に求められ続けるシステムインテグレータ像を模索し、体現し続ける必要があります。そのためにも、今後さらに高度な技術力と伴走力を身につけていきたいです」(岡田)