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次期OA基盤をクラウドで再構築。三井住友信託銀行とNECグループの挑戦

三井住友トラストグループの中核として、信託銀行業務の主要指標で業界をリードする三井住友信託銀行株式会社(以下、三井住友信託銀行)。NECグループは約30年にわたり同行オフィスオートメーション基盤(以下、OA基盤)の構築に携わってきました。予備検討、要件定義を含め2021年から2024年にかけて実行された「大規模OA基盤のモダナイゼーションプロジェクト」は、その歴史の中でも特に重要かつ新たな挑戦です。
プロジェクトを推進したNECソリューションイノベータ金融ソリューション事業部門のメンバーが、金融機関ならではの高度な要件をどのように乗り越えたのか──クラウドシフトを核とした新OA基盤構築の意義と成果について語ります。
働き方のDXを加速する、新時代のOA基盤を構築
コロナ禍以降、社会全体で働き方の前提が大きく変化しました。金融業界も例外ではなく、これまで以上に高度な情報統制とセキュリティを維持しながら、柔軟で生産性の高い働き方を実現する必要がありました。こうした背景のもと、三井住友信託銀行は次世代の働き方を支えるOA基盤の刷新に踏み切ったのです。
では、業界トップクラスの信託銀行にふさわしい“新時代OA基盤”とはどのようなものか。住友信託銀行時代から三井住友信託銀行のOA環境構築に携わってきた、金融ソリューション事業部門 第三金融ソリューション統括部 プロフェッショナル 村田 守啓は、その要点を次の3つの柱に整理します。
「金融業界においては、なによりもまず『セキュリティ』が最優先です。そのうえで、コロナ禍における制約の多い環境でも業務を推進できるようにする『利便性』、そしてコミュニケーションのあり方を進化させる『拡張性』、これら全てを実現することが求められました。これは過去のOA基盤更改と比べても飛び抜けて難易度の高い挑戦でした」(村田)

金融ソリューション事業部門 第三金融ソリューション統括部 プロフェッショナル
その答えとしてプロジェクトチームが選んだのが、金融業界では当時先進的だったOA基盤の「クラウドシフト」です。それまでオンプレミス中心で構成されていたOA基盤をMicrosoft Azure上に移行し、約2万人の行員が利用するPCをシンクライアント化。さらにMicrosoft 365を活用したゼロトラストベースのセキュリティ対策を実装することで、セキュリティ・利便性・拡張性の3つを同時に満たそうと考えたのです。クラウドシフトすることで、近年のOA基盤環境の高度化・複雑化によって増大していた運用・保守の負荷を低減する狙いもありました。
続けて、同プロジェクトの中心メンバーの一人である金融ソリューション事業部門 第三金融ソリューション統括部 プロフェッショナルの茅原 功は、とりわけセキュリティ要件の厳しさと設計の難しさを振り返ります。
「セキュリティリスクを限定するためのクラウドリソースの適切な管理、強度の高い認証・認可制御の実施、リアルタイムかつ網羅的な監視、データアクセスの厳格化などを実施しました。従来のOA基盤にはなかったより高度なアクセス権設定やアクセス経路監視など、権限管理の仕組みを大幅にアップデートし、新たな機能を取り入れています。こうした機能をどのように実現するかはPoC(概念実証)を繰り返しながら実装方法を探る必要がありました。特にネットワークに関しては、既存のソリューションをそのまま使おうとすると銀行特有の要件に対応できない部分があり、それをいかに解決していくかの検討・検証にはかなりの時間をかけました」(茅原)

金融ソリューション事業部門 第三金融ソリューション統括部 プロフェッショナル
PoC を重ねながら要件に合わせた最適な構成を探る一方で、既存システムの保守期限も迫っていました。そのため、設計・構築・テストを含む一連の工程は、16か月というこの規模ではかなりタイトなスケジュールで完遂する必要がありました。
「短期間での実現に向け、OA基盤をシンクライアント環境とOAサービス環境の2つの領域に分け、それぞれの担当チームに専任のリーダーを配置して同時並行で開発を進める体制を構築しました。シンクライアント環境のチームでは、 VDI(仮想デスクトップ)や認証基盤など端末側の基盤を担当し、OAサービス環境のチームはファイルサーバーや Microsoft 365といったクライアント利用アプリケーション側の基盤を担当しました」(村田)
わずか1年半で全国の拠点・営業店のファイルサーバーをクラウドシフト
2023年半ばには新しいOA基盤の実装が完了。しかし、ある意味ではここからが本当の勝負でした。全国の拠点や営業店に散在する旧ファイルサーバーから、クラウド上の新しい環境へデータを移行するという、大規模な作業が始まるためです。対象となる拠点・営業店数は300か所以上、総ファイル容量は約100TBにも及んでいました。さらに、約2万台のシンクライアント端末の展開(VDI環境への切り替え)も並行して進める必要がありました。
「VDI環境がクラウドにあるにもかかわらず、ファイルサーバーのみがオンプレミスに残っていると、通信経路が複雑化し、ネットワーク帯域を大きく圧迫してしまいます。そのため、端末とファイルサーバーの両方をクラウド上に置き、その中で通信を完結させる必要があったのです」(茅原)
さらに、移行対象となる旧ファイルサーバー環境の構成情報の整理を行わないと、移行に支障がでてしまうといった課題も判明します。そこで、設計段階で急遽、データ内容の可視化と精査を追加で実施。拠点ごとのデータ構造を把握したうえで、確実性の高い移行計画を策定しました。2024年2月には先行部署での移行を完了させ、その後は計画に沿って展開を加速。同年11月頃までに全拠点の移行を完遂しました。
「当初、三井住友信託銀行様からは、“この規模をスケジュール通りに終えるのは難しいのでは”と言われていました。しかし、毎日のように関係各所と調整を重ね、緻密な計画を立てて実行したことで、無事やり遂げることができました。お客様から感謝の言葉をいただけたことは、私たちにとっても大きな励みになりました。プロジェクトを通じて、VDI領域も含め多くのノウハウを蓄積できたと思っています」(村田)

今回の移行作業で得られた知見は、後にSIモデルとして標準化され、NECの「BluStellar Modernization 金融機関向けモダナイゼーションプログラム」へと発展しました。三井住友トラストグループ各社だけでなく、DXの機運が高まっている地方銀行などへの提案も始まっており、本領域におけるNECグループのプレゼンス向上にも寄与しています。
運用・保守を担うことで実現したノウハウ継承と新人育成
NECソリューションイノベータにとって、今回のプロジェクトにおけるもう一つの大きな成果は、基盤構築後の運用・保守業務をNECグループが担う体制を確立できたことです。これまでのOA基盤構築プロジェクトでは、構築フェーズが終わると三井住友トラストグループのシステム関係会社へ運用を引き継ぐのが通例でした。その結果、プロジェクト完了のたびにチームが解散し、ノウハウが社内に十分に蓄積・継承されず、属人化してしまう問題を抱えていたのです。
「今回は企画段階から運用・保守をNECグループで行うことを提案しました。クラウドシフトによりリモート制御が可能となり、行内にNECグループ社員を常駐させなくても運用できる環境が整ったことが大きな後押しとなりました。30年越しの我々の課題をついに解決することができたのです。これほど大規模で多岐に渡る技術が求められるプロジェクトはNECグループ内でも稀で、ノウハウの蓄積・継承だけでなく、若手育成の観点でも非常に価値のある経験になりました」(村田)
実際、本プロジェクトには多くの若手メンバーが参画しており、そこから得られた経験がキャリア形成に大きな影響を与えています。その一人が、VDI環境構築のサブリーダーとして参加し、現在も運用メンバーとして活躍している金融ソリューション事業部門 第三金融ソリューション統括部 主任 武石 香菜子です。

金融ソリューション事業部門 第三金融ソリューション統括部 主任
「入社3年目で本プロジェクトに参加し、本当に多くのことを学びました。当初は“OAってなんですか?ドメインコントローラーってなんですか?”というレベルでしたが、今ではAzureの資格を取得するまでに成長し、自身のキャリアの方向性にも大きな影響を受けています。私以外にも多くの若手社員がこのプロジェクトに参加しており、それぞれが成長のきっかけをつかめる重要な場になっていると感じています」(武石)
刷新から広がる次のDX──三井住友信託銀行と共創する未来
三井住友信託銀行のOA基盤が新環境に移行してから既に1年以上が経過しました。高度なセキュリティとガバナンスを維持しながら働き方の変革を進められるようになり、従来は困難だったリモートワークも加速。業務の柔軟性が向上したことで、新OA基盤は行内からも高い評価を得ています。また、クラウド化により、サーバーの保守切れへの対応やメンテナンス作業からも解放され、運用効率の改善を実現しました。
「プロジェクトの成功を受けて、三井住友信託銀行様との新たな取り組みの道筋が明確になりました。今回実装されたMicrosoft 365を活用したさらなる業務効率化を目指すプロジェクトが動き出しているのも、その成果の一つです。また、三井住友トラストグループ全体で進むセキュリティ強化施策に、私たち金融ソリューション事業部門のメンバーが参画する機会も増えています。お客様との関係性が深まったことは、本プロジェクトが次のステップへ進むための重要な土台になったと実感しています」(村田)

今回の取り組みは、単にOA基盤を刷新しただけにとどまりません。長年にわたり築いてきた信頼関係と、本プロジェクトを通じて高まった共創の姿勢が、新たなDX施策へとつながる原動力になっています。業務効率化、セキュリティ強化、そしてクラウド活用の深化──三井住友信託銀行とNECグループの挑戦は、これからも続いていきます。
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