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ネイチャーポジティブに向けて──20 年続くハーブガーデンから広がる“自然との関わり”

NECソリューションイノベータが、行政や地域住民、NPO、NECグループ社員と共に続けてきたチャリティハーブガーデン活動。2006年のプロジェクト発足以来、人と地域、人と自然をつなぐ場として歩みを重ね、2026年に20周年を迎えました。

その節目となる今年、次の挑戦として始まったのが、ガーデン周辺に息づく生き物を調べるという新たな試みです。20年間続けてきた活動は、なぜ今、生物多様性へ視野を広げるのか。地域と共に重ねてきたこれまでの歩みを振り返りながら、その背景を探ります。

20年続くチャリティハーブガーデン活動、地域と共に築いた「循環の仕組み」

チャリティハーブガーデン活動の原点は、2005年から続く社員による社屋周辺の清掃活動でした。地域の景観美化に取り組む中で、社員から「ゴミ拾いだけでなく、花壇づくりを通じて街をもっと美しくしたい」と声が上がったのをきっかけに、社会貢献も視野に入れたコミュニティガーデン構想が生まれました。翌2006年にプロジェクトが発足してからは、ハーブを中心とした植栽を始め、以来「心安らぐハーブのコミュニティガーデン」として、地域住民や特定非営利活動法人Green Worksと共に花壇を維持管理しています。

本活動の特徴は、「育てる」「活用する」「地域へ還元する」という循環型の仕組みと、一年を通じてさまざまな活動がつながっている点にあります。月に一度のガーデニング活動でハーブを育てます。育てたハーブを収穫し、加工品を手づくりする。それらを地域イベントなどでチャリティ販売し、得られた収益を寄付して地域や社会へ還元する──。この基本的な流れを20年間大切に続けてきました。

近年は東京都の生物多様性に関する方針とも連動しながら、地域の緑をどのように守り、育てていくかを模索する活動へと幅を広げつつあります。地域の景観を美しく保つ目的で始まった取り組みは、今では人と自然の関係を考える場へと発展しています。

運営に長年携わってきた共通業務統括部の平野智也は、「社員の業務はデスクワークが中心のため、活動を通じて五感を刺激することで、Well-being向上や環境意識の醸成にもつなげていきたいです」と話します。

「社員が活動を通じて社会とつながり、得られた気づきを業務や価値創出に活かしていくことを目指している」という本活動。20年という長い年月の中で、地域住民やNPO、みどりネットKotoをはじめとした寄付先団体など、多様な立場の人々と関わりながら育んできたコミュニティそのものが、この活動の大きな財産となっています。

都市の緑にも多様な命が息づく。生き物調査という新たな試み

2026年6月14日、チャリティハーブガーデンで、毎年恒例となっているラベンダー摘みが開催されました。当日は、NECグループの社員や家族、地域住民など約80名が参加。辺り一面に広がるラベンダーの香りに包まれながら収穫が行われました。摘み取られたラベンダーの一部は持ち帰ることができ、残りは参加者の手でチャリティ販売用の花束や加工品の材料として仕立てられます。

ラベンダー摘みの様子

活動20周年を迎えた今年、このラベンダー摘みに新たに加わった取り組みが生き物調査です。これまで花やハーブを育ててきたガーデンに、どのような生き物が訪れているのか。それを知ることで、チャリティハーブガーデンの価値をより多面的に捉えていきたい。そうした考えから、環境教育を専門とする立教大学の奇二正彦准教授に共同調査と監修を依頼しました。

生き物調査では、年に4回、季節ごとにガーデン周辺の生態系を調べ、どのような生き物が生息しているのかを記録していきます。調査で得られた情報をデータ化して社内外に共有することで、「ネイチャーポジティブに向けた機運の醸成に貢献し、地域やステークホルダーと共に持続可能な活動へと発展させていきたいです」と平野は話します。 ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止め、自然を回復へ向かわせる考え方を指します。チャリティハーブガーデンでは、その第一歩として、身近な場所に息づく生き物を知り、記録することから始めています。

また、「生き物調査の取り組みに多くの方が関わることで、身近な自然への気づきが生まれ、結果として行動変容につながることも期待しています」とも。この日は子どもたちも参加し、生き物観察アプリなどを使いながら、ガーデン周辺の緑地を散策しました。アプリを通じて記録された情報は蓄積され、参加者一人ひとりの観察が、身近な環境の生物多様性を知るための手がかりになっていきます。

生き物調査の様子

参加した社員の一人は、「普段は見過ごしがちな生き物の存在を知り、さらに普段は接点のない方々とも交流できて有意義な時間だった」と話します。また、家族で参加した社員からは、「都会では虫や植物に触れる機会が少ないので、子どもたちにとっても貴重な体験になった」という声も聞かれました。

生物多様性を知ることから始まる、ネイチャーポジティブへの一歩

チャリティハーブガーデンの取り組みは、もともと人工的な埋め立て地に生き物を呼び寄せるといった狙いもありました。20年間にわたって植物を育て、人と地域とのつながりを育んできた場所に、今度は「どのような生き物が訪れ、生息しているのか」という視点を加える。その第一歩が今回の生き物調査です。

初回の調査を終えた奇二氏は、企業が自然と関わる意義について次のように話します。

「これまで生物多様性は、行政や一部の環境団体が担うテーマとして捉えられがちでした。しかし現在は、企業も自然との関係を見直すことが求められています。その背景にあるのが、世界的に進むネイチャーポジティブの潮流です」(奇二氏)

奇二 正彦(きじ・まさひこ)氏
立教大学スポーツウエルネス学部 准教授

こうした流れの中で注目されている考え方の一つが、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全することを目指す国際目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」です。日本の国立公園などの保護地域は陸域の約20%にとどまっており、保護地域だけでは達成が難しい中、企業や自治体、地域団体などが管理する場所にも期待が寄せられています。 一方で、生物多様性への貢献は企業や専門家だけに限られるものではありません。誰もが生き物調査に参加し、その成果を生物多様性の保全に役立てられる時代になっています。 「AIやアプリの進化によって、今は誰もが調査員になれる時代になりました。研究者が一人でフィールドを回るだけでも多くの発見がありますが、今日のように私自身が見つけられなかった生き物を子どもたちが教えてくれることで、発見できる生き物の幅が広がり、調査の精度も高まります。また、その場で一緒に発見することで臨場感が生まれて調査がより生き生きしたものになります」(奇二氏)

奇二氏は、生物多様性の取り組みを進める上で重要なのは「まず現状を知ること」だと話します。

「企業でも研究でも、計画を立てるためには数値目標が必要です。どんな生き物がいて、どれくらい増えたのか、あるいは減ったのかを知るには、まず記録を残さなければなりません。調査をして、記録をアーカイブ化して、それをもとに計画を立てる。そのような型があるのです」

今回の調査で見えてきたのは、チャリティハーブガーデンが持つポテンシャルです。海辺ならではの鳥類も確認され、都市の中にありながら多様な生き物が行き交う環境であることがうかがえます。また、ラベンダーをはじめとするハーブ類は、多くの昆虫にとって蜜を得るためのレストランのような存在だといいます。
「調査を続けていけば、この場所にどんな生き物がいて、どんな環境が必要なのかも見えてくる」。奇二氏の言葉どおり、記録を積み重ねることは、この場所ならではの自然との関わり方を考える手がかりになるのです。

自然との関係性を可視化する。データが生み出す新たな価値

今回の取り組みの特徴は、生き物を観察して終わりではなく、その記録を次の活動につなげようとしている点にあります。生き物調査では、AIによる生物判定機能を搭載したアプリも活用し、参加者が撮影した写真や観察情報はデータとして蓄積されていきます。

チャリティハーブガーデンの運営に携わる共通業務統括部の小嶋拓男は、その価値についてこう話します。

「収集したデータを可視化することで、私たちがいかに多様な生き物と身近に暮らしているかをより具体的に捉えられるようになります」(小嶋)

さらに小嶋は、「スマートフォンを使って楽しみながら記録を行うことで、参加者の生き物への理解を深めることを目指しています」と話します。

参加者が楽しみながら記録した観察データやアンケート結果は、今後の活動を見直すための材料にもなります。将来的には、これらのデータをAIで分析し、自然に触れる体験が参加者の意識や行動、さらには幸福感にどのような変化をもたらすのかを把握することで、人間理解の促進や新たな研究開発への活用可能性も見据えています。

これまでの活動に、記録やデータ活用という新たな要素が加わる。生き物の存在を可視化し、参加者の意識や行動の変化を捉えることは、自然との関わりをより具体的に考える手がかりになります。地域と共に育ててきた活動にデータの視点を重ねることで、NECソリューションイノベータは、ネイチャーポジティブに向けた関わり方を少しずつ広げています。

次の20年へ向けて、ネイチャーポジティブを「自分ごと」に

「普段デジタルな領域で仕事をしている私たちだからこそ、あえてPCの画面から離れ、自然に触れる時間を共有することに意味があると感じています。社員と地域の方々が一緒に土や植物、生き物に触れる。そのようなオープンな関わり方に、NECソリューションイノベータらしさが表れているのではないでしょうか」(小嶋)

小嶋は、この活動が持つ価値をそう表現します。

チャリティハーブガーデンは、花を育てる場所であると同時に、人と人、人と地域、人と自然をつなぐ場所でもあります。長く続いてきた活動は今、生物多様性という新たなテーマを加え、次のステージへ進もうとしています。

「今回は約80名の方にご参加いただきましたが、来年は100名の参加を目指します。より多くの方に、自然に触れる時間や人とつながる時間の豊かさを感じていただけるような、活気ある活動へとさらに成長させていきたいです」(小嶋)

そうした思いを受け止めながら、平野は今後について「生き物調査で得られたデータを踏まえ、チャリティハーブガーデンとして取り組めるネイチャーポジティブのアクションを検討し、共感いただける皆さまとともに実現を目指していきたい」と語ります。

人と地域、人と自然との関係性を育んできた20年。これからは、そこに息づく生き物を見つめ、記録しながら、この場所ならではの自然との関わり方を探っていく。チャリティハーブガーデンは地域と共に歩んできたこれまでの積み重ねを土台に、次の20年に向けて新たな一歩を踏み出しています。