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NECグループが挑む、ロボット自動点検。フィジカルAIを“現場で使える”形へ

工場やプラントなどの設備を安定して稼働させるには、日々の巡回点検が欠かせません。異常の兆しをいち早く見つけ、トラブルを未然に防ぐ。その積み重ねが現場の安全と事業の継続を支えています。一方で、現場には、腰をかがめなければ入れない狭所や、電気・蒸気・浸水などの危険を伴うエリアもあり、担当者の身体的・心理的な負担は小さくありません。
このような課題に対し、NECグループはロボットとAI技術を活用した設備点検の自動化に取り組んでいます。目指しているのは、単にロボットを動かすことではなく、現場の構造や作業内容に合わせ、実際の業務に組み込み、使えるシステムとして成立させることです。

本記事では、技術戦略タスクフォースでこの取り組みを推進するNECソリューションイノベータ DXサービス事業部門 AXサービス統括部 山下喜宏と古津元大、実証現場の提供や設備担当者視点の提言・支援を行うNECファシリティーズ IFM事業部門 玉川IFM事業部の高野健人に、フィジカルAIを活用したロボット自動点検の狙いと実証実験で見えてきた課題、そして今後の可能性を聞きました。

ロボットを「現場で使えるシステム」にする総合力

ロボットによる施設・設備点検は、工場やプラント、倉庫、土木現場など、様々な場所で導入が進みつつあります。あらかじめ設定したルートを巡回し、カメラやセンサーで設備の状態を記録する仕組みは、人手不足の観点からも注目されています。 では、こうした従来の自動巡回をさらに発展させる取り組みとして、NECグループは何を目指しているのでしょうか。本プロジェクトを推進する山下は、ロボティクスやコンピュータービジョン分野の深い知見から、ロボットが取得した情報をAIで解析し、その結果を現実の行動へつなげていく点に特長があると話します。

「多くの現場に導入されている自動点検ロボットは、床に貼られたテープやあらかじめ決められたルートに沿って動くものが中心でした。センサーで取得した情報をサーバーに送り、異常があればアラームを鳴らすといった使い方もあります。
一方、私たちが今取り組んでいるのは、ロボットが現場を自律的に移動し、点検対象までたどり着き、必要な情報を取得する仕組みです。点検場所までの導線がない空間の中を、障害物を避けながら移動して点検を実行する。取得したデータをAIで解析し、その結果を次の行動や運用にフィードバックし改善していく。そのようなデータの循環までを含めて『フィジカルAI』として捉えています」(山下)

山下 喜宏(やました・よしひろ)
DXサービス事業部門 AXサービス統括部

ロボット自動点検というと、四足歩行ロボットやAGV(無人搬送車)、マルチコプター(一般的なドローンの形状の一つ)といったハードウェアに目が向きがちです。しかし、今回の取り組みで、点検現場環境の3Dデータ化や検証内容の取りまとめなどを担った古津は、現場でロボットのポテンシャルを引き出す鍵はむしろソフトウェアにあり、そこにNECソリューションイノベータの強みがあると言います。
「現場で使うには、ロボットが撮影した画像や取得したデータを蓄積し、それをAIで解析したうえで、異常の判断やレポートの作成を実行する必要があります。加えて、ロボットをどう制御するのか、利用者がどのような画面で結果を確認するのかといった部分も含め、各種ソフトウェアをシステムとして一体化することが重要です。さらに、こうした新しい仕組みを、お客様がすでに運用している設備管理システムや業務システムと無理なく連携させることも欠かせません。当社には、LLM(大規模言語モデル)やVLM(画像と言葉を組み合わせて状況を判断するモデル)といったAI技術、システム基盤、アプリケーション開発、UI設計、そして既存システムとの連携まで、SI(システムインテグレーション)として一貫して手がけてきた知見があります。個々の技術を現場で機能する一つのシステムへと組み上げ、一気通貫で対応できる総合力があることは、私たちの大きな強みだと考えています」(古津)

古津 元大(ふるつ・げんた)
DXサービス事業部門 AXサービス統括部

ロボット自動点検を現場で使える仕組みにしていくには、実際に使う人の声を開発に取り込むことが重要です。NECグループでは、設備管理業務を担うNECファシリティーズと連携し、現場の課題を聞きながら、実証と改善を進めています。

設備管理の現場がロボット自動点検に期待すること

点検の現場では、フィジカルAIを用いたロボット自動点検に、どのような期待が寄せられているのでしょうか。NECファシリティーズで、空調設備を中心とした施設の保全・点検業務に携わる高野は、日常点検の省力化に加え、危険を伴う現場での安全確保に大きな可能性を感じていると話します。

「2019年に多摩川が氾濫した際、川崎市にあるNEC玉川事業場でも地下機械室が水没するなど、大変な被害を受けました。高圧の受電設備がある場所や閉め切られた空間では、感電や酸欠のリスクもあります。そのような場所に人が立ち入る前に、まずロボットが状況を確認できれば、より確実に、より早く、安全を確保したうえで作業を始められるのではないかと期待しています。また、異音のように、メーターの数値だけでは評価しにくい情報をフィジカルAIが分析できるようになれば、これまで人の経験に頼っていた現場の状況把握を、より確実に行える可能性もあります」(高野)

ロボット自動点検への期待は、危険な箇所の確認だけではありません。高野は、日常点検で人が行ってきた判断をデータとして残し、共有できる可能性にも注目しています。設備管理の仕事は、トラブルを未然に防ぐことが重要です。一方で、重大なトラブルは頻繁に起きるものではありません。

「設備管理は、病気やけがを予防する医療に近いところがあります。トラブルを防ぐことが第一ですが、実際のトラブルに直面しなければ、業務経験は積みにくい。ロボットが取得した映像やデータに加え、どのように判断して対応したのかという過程をレポートとして残せれば、その場にいなかった人にも、知識や経験として共有できます。教育や研修にも活用できるのではないかと考えています」(高野)

こうした現場からの具体的な課題や期待の声は、ロボット自動点検およびフィジカルAIの開発を進めるうえで欠かせない手がかりになります。

「先ほど、総合力が強みだという話がありました。グループの中にNECファシリティーズのような、“ロボット自動点検を使う側”の企業があることも、大きな強みだと思います。現場を知り尽くした人たちのリアルな声を聞き、実際の現場で試行しながら精度を高めていけるからです。NECグループでは、自社をゼロ番目のクライアントとする『クライアントゼロ』の考え方のもと、自ら先んじて課題に取り組み、そこで得た知見をお客様や社会に還元する取り組みを進めています。今回の実証も、その考え方につながる一例と言えます」(山下)

実証実験で見えた、ロボットを現場で動かす難しさ

そして2026年7月、ロボット自動点検の開発チームは、NEC玉川事業場で実証実験を行いました。実際に点検業務が行われている場所に開発中のロボットを持ち込み、実用化に向けてどのような課題があるかを浮き彫りにすることが目的です。

今回の実証実験では、車輪で移動するAGVでは巡回が難しい場所をあえて選び、そうした場所でも移動できる四足歩行ロボットを採用しました。人が日常的に行っている巡回点検のうち、ロボットがどこまで対応できるのか、現場での移動や撮影を通じて、実用化に向けた条件を確認していきました。

「現場には、階段や段差、配管、狭い通路のほか、天井が低く、人が寝そべるような姿勢で進まなければならない場所もあります。今回はリモコンで操作しながら、ロボットがどこまで巡回できるか、ロボットの背中に取り付けたカメラで高い位置にあるメーターを確認できるかを検証しました。将来、自律走行させる際にどのような障害が生じるかを、一つずつ洗い出す狙いもあります」(古津)

現場選定や事前準備には、設備管理の実務を担うNECファシリティーズの知見が生かされています。高野らが開発チームに普段の点検方法や担当者の身体的負担を伝え、図面を共有して走行ルートの検討を支援しました。

「現場からのリアルな声に加え、実際の現場を実証実験に使えることがありがたいですね。これも、グループとして幅広く事業を展開している強みの一つだと思います」(山下)

実証実験の結果、四足歩行ロボットは、階段や片側だけが高くなった段差を越えられることや、狭い場所でも移動や旋回ができることが確認できました。また、複雑に入り組んだ設備が密集する箇所では、より高度な判断が必要になることも分かりました。むしろ、こうした「人がどう対応しているか」を具体的に可視化できたことが、この実証実験の価値だといいます。得られた知見はすでに次の開発フェーズに反映されており、危険な箇所を避けるルート設計や、対象物から適切な距離を保って撮影する制御など、安全性と実用性を両立させる技術的な対策の検討が進んでいます。

また、通信の課題も見えてきました。大きな設備や複雑な構造物の奥では、ネットワークが途切れることがあり、アクセスポイントの設置場所も含めて設計しなければなりません。
撮影にも工夫が求められます。多くのメーターは、人が正面から見ることを前提に配置されています。そのため、ロボットが下方から斜めに撮影すると、指針や液面を正確に読み取りにくい場合があります。カメラを人の目の高さまで持ち上げる機構なども、今後の検討課題です。

「これらの課題が見つかったこと自体が、実証実験の大きな成果です。今後は、実際の現場での自律走行、階段の昇降、適切な角度からのメーター撮影など、より実運用に近い検証へ進めていく予定です」(古津)

スモールスタートで進める、フィジカルAIの現場実装

フィジカルAIを用いたロボット自動点検は、まだ発展途上の技術です。今すぐに点検業務のすべてを、ロボットへ置き換えられるわけではありません。それでも、負担の大きい巡回や危険区域の事前確認、定型的な撮影など、現在の技術でも支援できる領域はあります。

点検業務へのロボット導入を検討している企業に向けて、古津は、まず現場の作業を整理することが重要だと話します。

「ロボットやフィジカルAIは、現場で使うにはまだ少し先の技術だと感じている方もいるかもしれません。ただ、現場の作業と課題を一つずつ整理していくと、すぐに適用できる領域も見つかると思います。
巡回点検の負荷を下げたい、点検品質のばらつきを抑えたい、危険な場所の確認を人に代わって行えるようにしたい。そうした課題があるなら、いきなりすべてを自動化するのではなく、業務を絞って効果を検証しながら段階的に進めていくこともできます。どこに適用できるのか、どのような成果が見込めるのかを、現場の皆さまと一緒に考えていきたいです」(古津)

山下も、100%の自動化を待つのではなく、まずは一部の負担や危険を減らすところから始めることに意味があると強調します。

「100%置き換えられないならまだ早い、と考えられることもあります。しかし、担当者の身体的な負担や危険を伴う作業を一部でも減らせるなら、スモールスタートで取り組む価値があるはずです。少しずつできる範囲を広げながら、最終的に、より多くの課題を解決できる状態を目指します。また、今回はNEC玉川事業場での実証ですが、NECグループには、製造業やインフラ、防災など様々な分野に強みを持つ部門があります。一つの現場で得た知見を積み重ね、いずれは他の現場、他の業種にも展開していく。そうした広がりを見据えながら、まずは一つひとつの実証を大切に進めています」(山下)

これからもNECグループは、その強みを生かし、現場の課題を起点に、実証と改善を重ねながら、ロボット自動点検の適用範囲を広げていく考えです。ロボットを単体の技術としてではなく、現場で働く人を支え、業務の安全性や品質を高める仕組みとして育てていく。その積み重ねが、フィジカルAIの社会実装につながっていきます。

最後に山下は、この領域に関心を持つエンジニアや学生に向けて、現場に入り込みながら技術を磨くことの面白さを語りました。

「研究や開発というと、黙々と技術を磨くイメージがあるかもしれません。しかし、この取り組みでは、実際の現場に入り、利用する人と一緒に本当の課題を見つけ、解決していくことができます。
自分たちの技術が、現場で働く人の負担を減らし、安全を支える。その手ごたえを感じられることは、エンジニアとして大きなやりがいになると思います」(山下)

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