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【共創事例】

生ごみ分別回収への参加意識を高めた「感謝」の気持ち

~ 資源が循環する町へ
  南三陸町での取り組み ~

・アミタ株式会社 様
・有限会社リアス・エンジニアリング 様

共創の概要

課題背景

  • 循環型社会の構築に向けて生ごみの分別回収に取り組んでいるが、回収量が想定より少なかった。

  • 回収した生ごみに異物混入があり、分別品質を高める必要があった。

成果

  • 感謝の気持ちを伝えることで住民の分別回収への参加意識が高まり、回収量増加、分別品質向上につながった。

取り組み

NECソリューションイノベータは、地域デザイン事業(*1)を展開するアミタ株式会社様、および廃棄物収集運搬業の有限会社リアス・エンジニアリング様と共創し、住民の生ごみ分別・回収への参加意識を高めていく実証実験を南三陸町で実施。

<実証実験での検証項目>

  • 生ごみ分別参加状況の把握の効率化

  • 住民への回収状況/分別参加への感謝をフィードバックすることによる参加意識の変化

  • (*1)
    地域の未利用資源を活用した自立型の地域づくりを、ビジョン策定からインフラ設計・運営、雇用創出支援までトータルで支援する事業。

共創の詳細

実証実験に至る背景

生ごみ回収の量と質を、いかにして高めるか

宮城県南三陸町様は、地域にある動植物由来の資源(バイオマス)を有効活用することで、人と環境にやさしい循環型社会の構築を進めています。2015年には、町内の家庭・飲食店で排出される生ごみなどを回収して資源化するバイオガス施設「南三陸BIO(ビオ)」を開所しました。ここで発生する電力エネルギーや液体肥料を地域内で有効活用する事業を、アミタ様の協力を得て推進しています。

開所当初は、生ごみの中に食品のプラ容器や卵の殻といった異物混入があり、分別品質の向上が懸案となっていました。また、住民から回収できる生ごみの量も、想定よりもかなり少ない水準でした。

生ごみの分別品質を高めながら、回収量を増やすにはどうすればいいのか・・・。この課題を解決するために、アミタ様は2018年にNECソリューションイノベータと共創活動の枠組み(*2)を構築し、今回の実証実験に着手しました。

  • (*2)

    2018年9月には「『持続可能な社会の実現』のための事業推進に関する包括連携協定」を締結し、両社の共創による地域課題の予防・解決や実証実験を進めています。

【南三陸町様の資源循環モデル】

【バイオガス施設 南三陸BIO】

町内で排出される生ごみやし尿処理汚泥は「南三陸BIO」に集められ、メタン発酵技術によって電気や熱エネルギー、および液体肥料として100%資源化されています。

【南三陸町内のごみ集積場の様子】

家庭内で分別された生ごみが、週2回各地区に設けた集積場に持ち込まれ、リアス・エンジニアリング様により回収されます。

【液肥散布の様子】

 生ごみの残渣は液体肥料として、南三陸町内の田畑や家庭菜園で使用されています。

課題解決に向けた取り組み

「感謝の研究」を活かし、実証実験を実施

今回の実験にあたり、NECソリューションイノベータは長年にわたる「感謝の研究」(*3)の知見に基づき、“生ごみを出すという行為に対して感謝の意を伝えることで、住民の返礼意識を促せば回収量が増え、南三陸町様の課題を解決できる可能性がある”という仮説を立てました。この仮説に基づいて、2018年9月より「生ごみ分別の参加状況可視化実験」として、下記の2点を検証すべく、実証プロジェクトを開始しました。

  • 生ごみ分別参加状況の把握の効率化

  • 住民への回収状況/分別参加への感謝をフィードバックすることによる参加意識の変化

参加状況を把握するためのデータ収集にあたっては、生ごみ回収業務時の負担にならないよう工夫する必要がありました。そのために、町内の生ごみ回収容器の内側に6段階の目盛りを打ち込み、生ごみのおおよその容積を目盛りによって把握するという方法を採りました。分別品質についても、3段階で登録する方法としました。これらの回収情報を、回収車両に搭載したタブレット端末から容易に登録できるようにしています。
また、町内全域で登録された生ごみ回収量と分別品質データを、デジタルマップ上で地区ごとに可視化することで、参加状況の分析が多面的に行えるようになりました。

続いて、生ごみを出す行為に対して感謝の意を伝えるため、住民向けのメッセージをしたためた「感謝状」を、より多くの人の目に触れるよう、ごみ集積場に掲示しました。その地域の家庭から提供されたごみの総量データ、過去のごみ出し傾向もシンプルなグラフにして、感謝状と並べて掲示しました。このような感謝のフィードバックは、町内に設けた生ごみ集積場 261ヶ所のうち、ランダムに抽出した42ヶ所に対して、週に1回のペースで行っています。そして、感謝のフィードバックを行う前後の生ごみ回収量・分別品質を比較し、住民の意識がどのように変化しているのかを検証したのです。

  • (*3)

    NECソリューションイノベータ イノベーションラボラトリでは、「ソフトウェア開発やICTシステムの構築にあたっては、人の心理を十分に理解したうえで取り組むべき」という考えのもと、心理学や行動経済学をベースにした「感謝の研究」に取り組んでいます。「感謝を伝えることが、人間関係や業務の生産性に良好な影響を与える」という仮説のもと、現在も多面的な研究を推進中です。

【感謝の表出による課題解決】

【生ごみ回収車に取り付けられたタブレット端末】

【ごみ集積場に掲出された感謝状】

【地区ごとの生ごみ回収実績や分別品質をデジタルマップ上で可視化】

共創による成果と、今後の展開

回収量の増加傾向が顕著。異物混入率はわずか1%

NECソリューションイノベータの強みと、アミタ様が保有する資源循環モデルのビジョン策定力、プラント設備などの運用ノウハウ、約3年にわたる南三陸町での事業経験などが融合することで、3カ月にわたったこの実証プロジェクトはスムーズに進行。2018年11月には現場で得られたデータを集約し、比較分析を行いました。

その結果、感謝状を掲示した地区は掲示しなかった地区に比べ、分別品質の向上、回収量の増加が確認できました。また、地区ごとに把握した回収量と分別率のデータを活かして、優秀な地区への表彰や、分別率が低い地区への効果的な指導も実施できるようになりました。

「感謝の気持ちを伝えるだけで、住民の皆様の行動がこんなにも変わるものなのかという驚きがありました。住民からの積極的な協力が得られやすくなり、そのことが行政活動の効率化にもつながっています」と南三陸町 環境対策課 課長 佐藤孝志氏は話します。

とくに異物混入率についてはこの実験を機に、わずか1%という状況が、今日に至るまで維持されています。「生ごみのリサイクルに取り組まれている自治体から耳にする平均的な異物混入率は、およそ10%です。南三陸町の皆様は、とても真摯な姿勢で分別に取り組まれていると感じます」と、アミタ株式会社 南三陸BIO所長 藤田和平氏は語ります。

「資源循環モデルとはやや異なる観点になりますが、今回の実験で得られたもうひとつの収穫は、じつは“人間関係”なんです。感謝を切り口にした3社の共創によって、南三陸町における良好な人間関係の形成に、多少なりとも貢献できたと思っています」(藤田氏)。今後、アミタ様とNECソリューションイノベータは、本実験で得られた知見やノウハウを、全国で展開している資源循環事業の高度化や、地域コミュニティ事業に活かしていく予定です。

なお本実験は、取り組みの新規性と社会的意義、行動科学の適切性などが環境省から評価され、同省が主催する令和元年度「『ベストナッジ(*4)賞』コンテスト」においてベストナッジ賞を受賞しています。

  • (*4)

    「ナッジ(Nudge)」の本来の意味は、「ひじで軽く突く」「背中を軽く押す」といったニュアンスを指す言葉です。本記事では、「人々が強制ではなく、自発的に望ましい行動を選択するように促すための理論」を指しています。

関係者の声

南三陸町
 環境対策課 課長 佐藤孝志氏

行政だけでできることには限界があります。「町内の生ごみ回収量をさらに向上させる」という共通の目的のために3社と連携し、ICTも活用しながら再資源化事業を推進したことで、目的達成のめどがつき、異物混入の課題も克服されつつあります。とくに感謝状の提示による今回の実験は、実際に明確な効果が表れており、たいへん感謝しています。南三陸町は高齢化率が高く、スマートデバイスなどを使い慣れていない人々もかなりおられます。だからこそ、ごみ集積場という誰もが目に付く場所に、パネルに貼りつけた感謝状が掲示されていると、「自分たちのやってきたことは良かったんだな」と、住民の皆様にあらためて認識していただけます。これからも、回収現場から得た情報を3社と共有しながら、資源循環への取り組みを強化していきます。

アミタ株式会社
 南三陸BIO所長 藤田和平氏

当社は資源循環の技術を用いて、社会課題を統合的に解決することで、持続可能な社会の実現を目指しています。今回の実証プロジェクトでは、生ごみを回収する際のさまざまな不確定要因を、NECソリューションイノベータの技術力と、「感謝の研究」の知見を活用することで抑制し、本事業を安定して運用できる基盤づくりが進展しました。資源リサイクルに関するより厳しい条例を定めて回収量を増やすような手法ではなく、住民に感謝の気持ちを返すというポジティブな手法によって着実な成果を上げ、住民の幸せにも寄与できる――。このようなストーリーは、当社が目指す「地域資本が十分に活用される全体最適の地域ビジョン」とも合致しています。

有限会社リアス・エンジニアリング
 取締役部長 伊藤秀昌氏

南三陸町様の資源循環モデルは、多くの住民がまだ仮設住宅に住んでおられる時にスタートしたこともあり、生ごみを一時的に入れておく容器を宅内に置くことすら難しかったはずです。当初は「分別が面倒だ」という声も多く聞かれました。2016年以降は本設住宅の整備が進み、一戸建てを所有する住民も増えてきました。とくに今回の実験地区では、生ごみの回収量が明らかに増加しています。分別品質がいっそう向上していることも、当社のメンバーが日々の現場で実感しています。

当社担当者の声

NECソリューションイノベータ株式会社
 イノベーションラボラトリ 日室聡仁

近年、学会では行動経済学の研究成果がかなり蓄積されてきました。しかし、実際のフィールドで研究成果を実証した事例は極めて少ないのが現状です。当社が長年取り組んできた「感謝の研究」に基づいた今回の実験で、私たちの立てた仮説が正しかったと証明でき、そして資源循環モデルを推進する上での課題解決に寄与することができました。
加えて本実験では、生ごみ回収現場から得たデータの分析結果に、アミタ様およびリアス・エンジニアリング様の知見・ノウハウを組み合わせることで、より効率的なごみ回収ルートや頻度、容器の数を提案しています。地区ごとの分別品質の傾向を踏まえて、説明会を強化すべき地区の選定など、南三陸町様のきめ細かな施策づくりにも活用されています。

(2020年3月30日)


宮城県南三陸町

所在地:宮城県本吉郡南三陸町志津川字沼田101番地
面積: 163.4平方キロメートル 人口:12,668人【2020年1月末現在】
世帯数:4,504世帯【2020年1月末現在】
URL: https://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/

アミタホールディングス株式会社 / アミタ株式会社

2010年1月設立(グループの設立は1977年)。「自然資本と人間関係資本が増加する持続可能な社会づくり」をミッションとする、アミタグループの持ち株会社。企業・自治体の持続性を向上させる統合的な支援を実施。サステナブルビジョンの策定・環境戦略の立案・廃棄物リサイクル・環境認証審査・生物多様性保全支援・環境管理業務のアウトソーシング、自立型エネルギーシステムや循環技術の開発等を手掛ける。

有限会社リアス・エンジニアリング

南三陸町に本社を置き、管工事や土木工事、水道施設工事などを手掛けるエンジニアリング企業。加えて、廃棄物処理や関連設備の工事・保守業務などを、南三陸町から受託している。町内全域のごみ集積場を把握している唯一の企業。