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【共創事例】

高台のマンション内に無人スーパー、買い物の不便を解決

~ ICTを用いて、「住と食をつなぐ」実証実験 ~

・株式会社ジョイフルサンアルファ 様
・株式会社穴吹ハウジングサービス 様

共創の概要

課題背景

  • 長崎には坂道が多くあり、住民にとって日常の移動や買い物に不便が伴う。

  • 現状展開しているスーパーの店舗は、今後、人口減少や高齢化に伴う集客力の低下が懸念される。

成果

  • マンション居住者は外出することなく、安全・安心に買い物ができるようになった。

  • 居住者が無人スーパーを“自分たちのお店”という意識でとらえ店舗運営に積極的に協力。これにより、居住者の要望に合わせた品揃えなどが可能となった。

取り組み

NECソリューションイノベータは、長崎市内でスーパーマーケットを展開するジョイフルサンアルファ様、および不動産・マンション管理のあなぶきハウジングサービス様と共創し、新しく開発したマンション内の無人スーパーの実証実験を実施。

<実証実験での検証項目>

  • 商業施設が少ない高台の分譲マンション内に24時間営業の無人スーパーを設置

  • 事業性や店舗内のシステム・技術を含むサービスの運用性を検証

共創の詳細

実証実験に至る背景

坂道が多い長崎。小売店舗の撤退も加速し、買い物難民が増加
ジョイフルサンアルファ
近藤陽介氏

長崎市を中心に15店舗のスーパーマーケットを展開するジョイフルサンアルファ様は、住宅街の中心部など、集客力にすぐれた商圏を保有しています。「ただし、長期的に事業を展望すれば、人口の減少と高齢化は避けられません。何も手を打たなければ、現状維持すら難しいという危機感を持っています。今後はお客様に“来ていただく”だけでなく、スーパーマーケットのほうからお客様に“近づいていく”必要があると考えています」同社 代表取締役 社長 近藤陽介氏は、自社の課題をこのように話します。

また、あなぶきハウジングサービス様とNECソリューションイノベータは、2016年から共創による新たな事業の創発に取り組んでいます。2018年にはジョイフルサンアルファ様が加わり、3社で「住と食をつなぐ」という事業コンセプトを固め、マンションの共用部分に出店できる、全く新しい小型無人スーパーの開発に着手しました。無人スーパーを本格展開する前に事業性の判断やシステム・技術を含む運用面の検証を行うため、3社で実証実験を行うことにしました。

課題解決に向けた取り組み

住民ニーズと事業性を踏まえた出店場所の選定

実証実験の出店場所には、あなぶきハウジングサービス様が管理を手掛ける分譲マンション「コアマンション長崎ガーデンヒルズ」(長崎市川平町:総戸数245戸)を選定しました。周辺に商業施設がほとんどない高台に立地しており、買い物に不便を感じている居住者が多かったからです。ジョイフルサンアルファ様の取り扱う食品などを、住まいのすぐ傍らで販売する――。つまり、「住と食をつなぐ」という事業コンセプトを具現化できる条件が揃った物件といえます。また、245戸という規模は、このコンセプトに沿った店舗が事業として成り立つかどうかを、販売データなどから実証していくうえでも適していました。

【「コアマンション長崎ガーデンヒルズ」の中に設けた無人スーパー】

売り場面積は、約16㎡。生鮮食料品、弁当・惣菜、飲料、日用雑貨などを販売。
顔認証技術をス-パーに導入。セルフPOSシステムで決済

無人スーパーは、マンション1階のエントランスロビーに設置し、食料品を中心に常時350~400品目程度の商品を24時間営業で販売します。

NECソリューションイノベータ
新冨啓明

無人化を支えるキーシステムは、NECグループの顔認証技術を利用した入退館システム(※)と、セルフPOSシステムです。マンションの居住者だけが利用できるよう、入店時にカメラによる画像と、事前登録された顔画像を照合して入り口ドアの開閉を制御します。また、売り場では、電子マネー機能が付いたジョイフルサンアルファ様のポイントカードを使用して居住者ご自身でキャッシュレス決済を行います。

          (※)Bio-IDiom KAOATO 顔認証入退管理システム を採用

「今回の実験で発揮できている当社ならではの強みは、『マンション業界向けICTシステムに関する深い知見』、『顔認証システムの導入支援と現場環境を踏まえた適用技術』、『小売店舗のPOSなど販売管理システムのノウハウ』です。この3要素によって、スムーズな店舗運営が維持できていると自負しています」と、NECソリューションイノベータ エンタープライズソリューション事業部 共創事業推進グループ 新冨啓明は話します。

【店舗入り口の入退館システム】

【居住者ご自身が決済を行うセルフPOSシステム】

共創による成果と、今後の展開

居住者に芽生える“自分たちのお店”意識。
事業性を判断したうえで、全国へ展開

3社による事業創発チームは、月に一度の頻度でマンション居住者との座談会を開催し、店舗運営や品揃えへのご要望をヒアリングしています。店舗の脇には「ご意見箱」を設けて、商品のリクエストにも対応。居住者の皆様は、“自分たちのお店”という意識で、この無人スーパーをどうやって良くしていくのかを常に考え、さまざまなご意見をいただいている状況です。「今回の新事業は、私たち3社とお客様との共創だといえます。ほかに見られない小売業のモデルが、この長崎で実現しつつあります」(近藤氏)

あなぶきハウジングサービス
森山憲二氏

「コアマンション長崎ガーデンヒルズ」の居住者が、ご自宅を訪ねてこられる家族や友人に対して、ちょっと誇らし気にこの無人スーパーを紹介されているシーンを、たびたび見かけます。居住者の皆様には“自分のマンションには特別なお店がある”という意識が強いのだと思います。お客様同士が『もっとお店を利用しようよ』と声を掛け合っているケースも多く見られ、事業主体である私たちも励みになります」(あなぶきハウジングサービス 長崎営業所 所長 森山憲二氏)

「当初は顔認証に抵抗を感じる人が多いのではないかと心配していましたが、居住者からは、『“私たちのお店”としてちゃんと運営されていることを示すものだから、ぜひ導入してほしい』というご要望が寄せられました。つまり顔認証は、スーパーと顧客の信頼関係を証明する入館証のような役割を担うこともでき、居住者にとっての“誇り”であり、顔認証が人々に提供できる新しい価値といえます。この気づきは、私たちにとって大きな意味がありました」(新冨)

 

“マンションに無人スーパー”という新しい事業モデルを持続可能にしていくため、居住者の利便性向上や売上伸長に向けて様々な施策を実施しています。実証実験の中で、これらの取り組みについて事業性、運用性を検証し、無人スーパーの市内および全国への展開を計画していきます。

関係者の声

株式会社ジョイフルサンアルファ
 代表取締役 社長 近藤陽介氏

NECソリューションイノベータは、事業コンセプトの設定からシステム構築のフェーズまで、約1年にわたって膝を突き合わせながらこの新事業に取り組んできた共創パートナーです。「お客様が実感できる価値とは何だろうか」というテーマから逆算して、無人スーパーの入退館・決済手順などを組み立て、それらの手順に情報システムを合わせていただきました。
売上が見込めるICTのしくみを構築いただいただけでなく、お客様への提供価値を高めるために、データの分析、リサーチ、サービスのアイデア出しに至るまで、幅広くご支援いただいています。このようなICTパートナーは、私が知る限り、他に見当たりません。

株式会社穴吹ハウジングサービス
 九州支社 分譲第二グループ 長崎営業所 所長 森山憲二氏

NECソリューションイノベータのメンバーには、ソフトウェア開発やシステムの実装、メンテナンスなどの業務対応に際して、たいへんな情熱を感じました。私は、彼らの情熱に心を動かされたという面があります。
顔認証システムなどの技術をマンションに適用することは、居住者の皆様にとって建物の付加価値・資産価値を高めることにもつながります。あなぶきグループが展開する多様な事業においても、NECソリューションイノベータとのパートナーシップをいっそう強化し、お客様へ提供できる価値の向上を目指していきます。

当社担当者の声

NECソリューションイノベータ株式会社
 エンタープライズ事業本部 エンタープライズソリューション事業部
 共創事業推進グループ 新冨啓明

「お客様が本当に求めていることは何なのか?」――。この点を明確にせず、作り手側の想いだけでシステムを作り込んでいくと、失敗やムダが多くなります。今回の新しい小売業モデルでは、まずマンション居住者の明確なご要望を把握したうえで、3社で無人スーパーの開発を進め、その運営に不可欠なシステムを作り込み現場に適用しています。
1年にわたる実証実験によって、特別な購買体験を居住者の皆様に提供しながら、リアル店舗とICTを融合した事業モデルをさらに磨きあげていきたいと考えています。「住まいと食」というテーマを広い視野でとらえれば、生活に密着したさまざまなビジネスの可能性が、おのずと見えてきます。人口減少・高齢化が進む社会の中で浮かび上がってきた課題を、当社の強みを用いて解決しながら、ICTの可能性をますます広げていきたいと考えています。

(2020年3月27日)


株式会社ジョイフルサンアルファ

1959年設立。長崎市においてスーパーマーケット「ジョイフルサン」の事業を展開。2016年、穴吹興産株式会社の出資によって、総合不動産業「あなぶきグループ」の傘下となる。現在、長崎市を中心に15店舗を運営。おもに住宅街の中心部に立地しており、顧客との物理的な距離の近さが優位性になっている。食を通じて地域社会に貢献しながら、地域社会から真に“必要とされる”企業、そして長崎で最も“身近”なスーパーを目指している。

株式会社穴吹ハウジングサービス

住まい創りや不動産価値創造事業を幅広く展開している「あなぶきグループ」。同グループの中で、不動産・マンション管理を事業の軸としている企業が、あなぶきハウジングサービスである。不動産管理に付帯する修繕工事・クリーニングなどを含めた、質の高いサービスをワンストップで提供している。また、コールセンターを自社で運営している点が、競合他社にない強みとなっている。フロント業務や修繕業務を経験してきた人材がローテーションを組み、24時間体制でセンターに常駐。問い合わせ対応力の高さに定評がある。