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ICTで健康長寿を実現して、少子高齢化時代の自治体が抱える課題を解決する。
『荒尾Well-being(ウェルビーイング)スマートシティ』

高齢化やそれに伴う社会保障費の増大は、現在日本の多くの自治体が頭を悩ます大きな問題。
住民の3人に1人が高齢者という「課題先進地域」である熊本県荒尾市を舞台に、
先進技術やデジタルを活用し、ヘルスケア領域から「日本の課題解決」を進めていく。

宮本 賢一 様
◆荒尾市役所 地域振興部 スマートシティ推進室 室長
◆2008年度入職。スマートシティを専門領域として担当。入職の動機は「ふるさとのまちづくりに直接関わりたかった」から。
田川 秀樹 様
◆荒尾市役所 地域振興部 部長
◆1995年度入職。「生まれ育ったまちに地域貢献したい」という思いを原動力に、まちづくり、スマートシティに携わる。
野元 美穂
◆公共住民DXソリューション事業部
◆2005年入社。先端技術を軸としたシステム開発の経験を基に、地域の課題を解決するスマートシティ事業の開発を行う。
寺澤 和幸
◆デジタル事業ライン
兼 スマートシティ事業推進室
兼 公共地域DXソリューション事業部
◆1992年入社。データ利活用やスマートシティ、都市OSの専門家として、様々な自治体のスマートシティ化を手がける。
プロジェクト概要 |
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2025年度末のウェルネス拠点の街びらきを契機に、スマートシティの推進を加速し「荒尾Well-beingスマートシティ」の実現を目指すプロジェクト。市民の未病改善・疾病予防・健康行動促進を促すデジタルサービスの提供により、市民の健康寿命の延伸や医療・介護給付費の増加抑制、荒尾市の持続可能な財政経営を目指すとともに、全国展開を視野に入れたヘルスケア事業の自治体におけるビジネスモデルの確立に取り組む。 |

自治体が抱える課題の根底にあるのは、
人口減少と高齢化。
寺澤:東北大学さんが中核機関としてヘルスケア領域の研究に取り組まれていたセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムのプロジェクトリーダを務めていた当社社員を通じて、2020年に荒尾市さんをご紹介いただいたのがはじまりでした。荒尾市さんがウェルネス基本構想を定め、競馬場跡地を拠点にスマートシティを目指していくタイミングで、データ利活用とスマートシティの専門家としてお声がけいただきました。
宮本:競馬場跡地の活用と並行して、2017年からエネルギー分野を起点に官民連携の様々な取り組みをはじめていました。新しい街を作るので価値を高めていこうと、最初に取り組んだのが国土交通省のスマートシティモデル事業。街づくりを行うにあたって、ヘルスケアの領域で東北大学さんと協業して推進していました。
寺澤:私がはじめて荒尾市を訪れた2020年は、国土交通省のモデル事業がすでに進んでいる時期でしたね。驚いたのは2020年の時点でまだ一般的でなかった「Well-being(ウェルビーイング)」という言葉を使っていたこと。世の中の先をいくネーミングにも感銘を受けて、ぜひ一緒にやりたいと思いました。打ち合わせ後に連れて行ってもらった干潟が、夕日があたってとても落ち着く場所だったことをよく覚えています。
田川:荒尾市は有明海に面した自然豊かな街。訪れた方に「雄大さや癒しを感じる」と言われるような風土があるからこそ、Well-beingというコンセプトがしっくりきたのかもしれません。宮本と私は2人とも荒尾の出身で、古くからこの街を知っています。元々ここは炭鉱の街で、1997年に炭鉱が閉山して、そこから新しい街づくりがはじまりました。やはり街を支えた一大産業がなくなることは自治体にとって大きなことで、その時期から何かしら変わらなければいけないと感じていたと思います。
宮本:荒尾市のような地方都市にとって、人口減少と少子高齢化は都市部よりも危機感を肌で感じる課題です。人口も現在の約5万人から2060年には約3万人に減るという推計がありますし、その一方で2030年には後期高齢者の数はピークを迎えるなど、数値からも課題が見えていました。これをなんとかしなければ、という思いは以前からありましたが、ノウハウもなくソリューションも持っていない。財源にもマンパワーにも限りがあるなかで、解決していくにはデジタルの力が不可欠だと思っていました。
市民の健康をデータでとらえ可視化して、
行動までも変えていく。

寺澤:様々な課題があるなかで、まず取り組むべきことは健康だと思いました。市民が健康でないと労働意欲も湧かないし、産業も育たず、消費も生まれない。その街に住む人たちがいきいきと暮らしていく世界がないといけないと考え、まずはヘルスケア領域から着手することにしました。
田川:自治体の視点だと、市民の健康は医療費という財源と直結する課題。適正化できれば財源に余裕が生まれ、様々なサービスを充実させることができます。逆に増えてしまうと、今あるサービスを削ってそちらに回さなければいけない。待っていても状況はよくならない。そう考えていたときにNECソリューションイノベータさんというパートナーと出会えて、自治体だけでは解決できない課題に向けて一手を打てたと思いました。
寺澤:ヘルスケアの課題に対して、まずは将来の疾病を予測する『フォーネスビジュアス』と、市民が自分の医療情報を一元管理できる『デジタル健康手帳』という2つのサービスを提供しはじめました。『フォーネスビジュアス』の導入は、国民健康保険の特定健診受診者の生活改善効果を上げるための施策。特定健診の受診者には生活習慣病や疾病を発症しやすい高齢者の方も多く、市の医療費のボリュームゾーンに対する行動変容をねらったものです。
田川:これまでも健康診断の結果改善が必要な方に保健指導を行っていましたが、その効果を測れないことが問題でした。指導をきっかけにどのように変わったのかをデータでとらえ、その後の改善状況まで可視化できることに魅力を感じました。
寺澤:『フォーネスビジュアス』は、血液中のタンパク質の値とAIを掛け合わせることで、将来の疾病リスクを明確に表せることが特徴。健康に対する「危機感」を高めることで、生活習慣を改善する意識も高まると思うのです。サービスのコンセプトは「健康を、予報する」というものなのですが、そういった一歩踏み込んだ未来の健康状態が見えるサービスは、データの利活用という民間のノウハウがなければできないことだと思います。
宮本:ヘルスケア領域では様々なサービスを試していたのですが、約3年かけてこの結論にたどり着きました。それまではセンサを使った実証実験を行っていたのですが、その結果、どのように受診者の意識や行動を変容できるのかが抜けていた。提案を受けて、「求めていたことは、まさにこれだ!」と思いました。
官民が同じスピードで連携して、
持続性のあるサービスへ。
宮本:今回のヘルスケアサービスは2022〜23年にかけて実証実験を行い、実際に市民の方にサービスを体験していただきました。『フォーネスビジュアス』がわずかな採血で疾病予測ができること、『デジタル健康手帳』が中長期的に健康状態を保存できることなど、どちらも利用した実感として非常に良い評価を得られ、その結果、2023年度から市全体で導入することになりました。
野元:実際にサービスを使っている方の反応を知ることができたのは貴重でした。『フォーネスビジュアス』の検査は「この先5年10年とゴルフなどの趣味を続けたい」といった、健康でありたいという思いを持った方たちが受けているので、行動変容は順調に進んでいきました。『デジタル健康手帳』は一定の利便性を感じてもらえたので、今後、医療・介護・福祉といった職種を越えて連携させていくことで、より効果的な価値あるサービスにしていけると考えています。

田川:プロジェクトを進める上で助けられたのは、NECソリューションイノベータさんのフットワークの軽さと提案力です。これらの事業は「持続性」を前提に組み立てていかなければいけないところがポイント。結果を「見える化」して、お互いが納得できるような明確な指標を提案してもらいました。会社は違うけれど、ひとつのチームとして事業ができていると感じます。
寺澤:プロジェクトの根幹にあるのは田川さんと宮本さんの推進力だと思っています。「これだ!」と思ったら市長まで一気に話を持って行き決定していく、そんなスピード感にどれだけ助けられたか。スマートシティは領域が多岐にわたるため各課との調整が非常に大変ですが、それをうまく調整してくださるおかげで話が前に進んでいく。スマートシティの活動を行う上で大事な要素をお二人は持ち合わせているのだと、プロジェクトの当初から感じていました。
野元:官民連携のプロジェクトでは「それぞれのスピード感が違う」ことが一番の課題に感じるのですが、田川さんと宮本さんは少し先の未来を見据えて、市民のためになることはすぐに行動してくださいます。しかも、ただスピード感を持って進めるだけではなく、各課と合意形成を図りながら、部署間の垣根を取り払うように動く、そのバランス感覚が絶妙だと思っています。
田川:スピード感を持って進められるのは、NECソリューションイノベータさんの提案がシンプルにまとまっていたという理由もあります。市にとってどんなメリットがあるか。どれぐらいのリスクを背負えばいいのか。様々な観点で色々と調べわかりやすく整理してくれるおかげで、我々もやることが明確になり、迅速に動くことができると言えるかもしれません。
「荒尾市モデル」の展開で、
日本の社会課題解決を。

寺澤:医療費の適正化や健康寿命の延伸は時間がかかることですが、今回のヘルスケアサービスの実装はその課題を解決する第一歩になると思っています。定量的なデータを基に効果を測定することで、設定した目標に対してどこまで到達したかの成果がエビデンスベースで見られるようになりますから。そこに対して当社も、たとえば成果報酬の契約形態を導入するなど、具体的な目標に向かってコミットしていくことで、個別のサービスが自立したビジネスとして成り立つ形にしていこうと思っています。
田川:今回一番実感したのは、持続してデータを蓄積していくことの大切さです。10年後、30年後、50年後、市民の健康がどう変わったのかが可視化されていくため、データの価値は日を重ねるごとに上がっていきます。なおかつ社会貢献性が高い事業というと自治体のなかでも珍しく、こんなにモチベーションが上がることはありません。多くの自治体が同じような課題を抱えているので、NECソリューションイノベータさんにはぜひ今回導入したサービスを、他の自治体にも拡げ、事業のスケールを大きくしていってほしいと思います。荒尾市で生まれたデータが、数十年後に遠く離れた海外で病気を予防できる可能性だってありますから。
宮本:私たちが今取り組んでいることは、荒尾市だけでなく「日本の社会課題」を解決していくことなのだと思います。この取り組みが成功すれば、日本全体の課題解決に繋がっていく。私自身、荒尾で生まれ、荒尾で育ってよかったと思っていますから、子どもにも孫にもそう思ってもらえたら行政に携わるものとしてこれほど嬉しいことはありません。そんな未来が来るために必要なのは、目の前の課題に一つひとつ取り組むこと。まずはこのヘルスケア領域を皮切りに、一歩ずつ解決していきたいという思いがあります。
野元:私は一番市民に近い役割でプロジェクトに関わっていることもあり、サービスを使うことで人と人が交流できたり、コミュニティがより強くなっていったりと、使う人の笑顔を増やしていくことが目標です。今はヘルスケアの領域に携わっていますが、次は子どもたちのためにも何かできたらいいなとも。デジタルツールで人が繋がって幸せに暮らすお手伝いをしていくために、できることを見つけ全力で取り組んでいきたいと思います。
寺澤:今後の展望というか、個人的な夢のようなものなのですが、長年スマートシティに携わっているので、荒尾市を「地域の魅力を発揮した日本で一番有名なスマートシティ」にしていきたいという思いがあります。私のなかで勝手に「荒尾市モデル」と呼んでいる、ここ荒尾市で実現していくスマートシティをモデルに日本中の地域に展開したい。市民が健康で自分らしく生きることができるようになって、街が賑わい、経済も活性化して、財政も潤っていく。そんな好循環を促す仕組みをICTで支えられたらと思います。
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UPDATE:2023.11.30