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健康で長生きできるまちを目指して
医療データの一元管理で市民の健康管理をサポートする。
『デジタル健康手帳』 

先進技術やデジタルを活用し、地域が抱える課題に立ち向かう『荒尾ウェルビーイングスマートシティ』プロジェクト。
健康を促進し、社会保障費を適正化するには「市民自らが健康管理を行うこと」も欠かせない。
目指したのは自身の健康情報を、医療機関を超えて一元管理できるサービス。
公共住民DXソリューション事業部
野元 美穂
2005年入社。
先端技術を軸としたシステム開発の経験をもとに、地域の課題を解決するスマートシティ事業の開発を行う。

プロジェクト概要 |
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![]() 熊本県荒尾市が進める『荒尾ウェルビーイングスマートシティ』では、ウェルネス拠点を中核とした健康増進と、スマートシティの先進技術を融合し、「幸せ志向のまちづくり」を全市域に展開することを目指しています。こちらで取り上げる『デジタル健康手帳』は、その中でも市民の日常的な健康管理を担うもの。市民の医療情報・おくすり手帳・健康データ等を一元的に管理することで、自らの健康管理に役立て、医療機関を超えた情報管理と活用をサポートするサービスです。2022年度には医師会と18の医療機関による協力を受けて実証実験を行い、約100人の市民が協力。2023年度はマイナンバーカード、マイナポータル連携によって予防接種、健康診断の記録と連携するなど機能を拡充。市民の利便性向上やさらなる機能拡充を図りながら、2024年2月サービス開始。 |

健康にまつわるデータを
一元化してスマートフォンで管理。

高齢化が進み、医療費の増大が課題となる中、市民のヘルスケアに注力している熊本県荒尾市。自治体と医師会が一丸となって作った「あらお健康手帳」をデジタル化できないか、という相談をいただいたのがプロジェクトの始まりでした。私たちが開発した『デジタル健康手帳』は、自分の健康情報をいつでも手元で閲覧できるもの。市民にとっての健康促進と、自治体にとっての医療費適正化の両立を目指す仕組みです。
これまで医療機関の診療情報は患者の手元には一部しか残らず、自分でメモなどに残して管理しなければならないことが負担になっていました。こうした診療情報を一元化してスマートフォンで閲覧できることで、どの医療機関にかかっても同じ情報を共有できるようにしました。『デジタル健康手帳』の診療情報は、医療機関の医師に加え、自治体の保健師も閲覧することができます。医師は診察の際に他院を含めたこれまでの診療情報を見て診察ができ、保健師は保健指導の際に健康改善の取り組み状況や医療機関の診療情報を見て指導を行うことができます。医師と保健師の連携により、包括的な市民の健康管理ができるようになったのです。
この仕組みは市民の見守りの観点からも有効です。離れて暮らす親の診療記録を確認できることで、本人だけでなく、見守る側の安心にも繋がります。離れていても家族の健康を気遣うことができる。そんな社会を目指して開発を進めています。
使う人に寄り添うシステムを目指して
2週間でプロトタイプを開発。

この仕組みを実現する上で大きな力となったのが、荒尾市ならではの医師会のあり方です。地域内で医師会が一体となっており、自治体を中心に医師会がサポートする、という構図ができていました。中でも医師会の副会長を務める中村光成医師との出会いは大きく、「すべての医療機関が一体となって市民の健康をサポートしていかなければいけない」という思いがあったからこそ、医師会主導で多くの医療機関に行き渡る仕組みを開発できたのだと思います。
プロジェクトを進める中で私が大切にしていたのは、「現場の人に寄り添ったシステムづくり」です。紙の健康手帳の課題をヒアリングし、すぐにデジタル版の画面デザインを作り見てもらいました。また、検討の中で「病院や薬局側の手間が増えそうだ」という声が上がったときには、運用の負担を少なくするため、患者側の簡単な操作で情報が登録できる方法を提案。アジャイル開発などを取り入れ、早い段階で形にして見てもらいながら、自治体と医師会、3者で力を合わせて開発を進めていきました。システムの良し悪しは、目に見える形にしないと相手には伝わりません。開発の途中段階でシステムの使い心地を試してもらいながらブラッシュアップしていく。そのような進め方をしたからこそ、お話をいただいて2週間後にはシステムのプロトタイプを開発、半年後には実証実験と、スピード感を持って進めていけたのだと思っています。
健診、介護、子育てとの連携、
自治体発ならではのサービス拡充へ。
私の新規事業開発者としてのモットーは「新しいことへの挑戦」です。入社時から先端技術を活かしたシステム開発を担当し、7年前から新規事業の開発へ。技術起点の発想に課題を感じ、顧客起点の思考で課題解決がしたいと思っていたところに今回のお話をいただきました。荒尾市には炭鉱の歴史があり情熱的な方が多い地域と聞いていましたが、実際に地域の方がどのような思いを持って医療問題への対策に取り組んでいるかまでは知りませんでした。
まち全体を巻き込んだ仕組みづくりを実現するには、医師会の医療機関の協力を得たり、自治体が市民や議会に説明したりと、大変な労力をかけなければなりません。地方都市でこのような挑戦をするのは、自治体側に強い思いがないとできないこと。様々な方の協力を得ながら、2022年度の実証実験には18の医療機関が参加し、4カ月と短い期間でしたが、多くの市民の方に使っていただくことができました。今後は荒尾市にある約40の医療機関すべてでの実装を目指して、このサービスのアップデートを進めています。

アップデートのひとつが、2023年度に実装を完了したマイナンバーカード、マイナポータルとの連携です。これにより、診療情報に加えて健康診断の状況や予防接種の情報が閲覧可能になり、医師は各種健診の結果を閲覧しながらの診察や、健診を受診していない人に対して自身の医療機関での健診を勧めることができるようになりました。また、小さなお子さまがいる方が、約10種類を複数回打たなければならない予防接種の状況を母子手帳を忘れても閲覧できるなど、市民にとってもメリットが生まれています。これらのサービス拡充は『デジタル健康手帳』が自治体発のサービスだからできたこと。今後は介護や子育てなど、さらに提供範囲を広げて、住民の健康や医療提供を支える人々がシームレスに情報共有しながら地域の人々の健康を支える、生活になくてはならないサービスに広げていけると思っています。
荒尾市と同じように、高齢化に伴う医療費の増大といった課題を抱える自治体は少なくありません。そして同時に、自治体や医師会の方々は「変わっていかなければいけない」という思いを抱いているはず。荒尾市をロールモデルとして、このサービスを様々な自治体に広げていくことで、高齢化に悩む地域をもっと元気に、健康に変えていけると信じています。
関連リンク
UPDATE:2024.2.29