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生成AIの活用で事故対応業務のプロセスを変革し、働き手の効率と安心感を高める。
[事業成長のためのエンジン]
生成AI(社員の働きやすさとお客様対応の品質向上)
三井住友海上火災保険株式会社
業務プロセスデザイン部
クレームオペレーションチーム
勅使河原 寛 様
2023年4月より現職。本プロジェクトでは、生成AI※を事故対応業務に導入することで業務効率化を実現し、より高い事故対応品質の創出に尽力。
金融ソリューション事業部
牧原 昌平
生成AIプロジェクトでは、複数の部署を取りまとめるプロジェクトマネージャーとして参画し、技術力を活かした効率的な開発を実施。
金融ソリューション事業部
溝川 謙
アプリケーション開発のプロジェクトマネージャーとしてお客様の要望に寄り添いながら、生成AIに最適なユーザーインターフェースを意識した開発を遂行。
以下敬称略
- ※テキスト、画像、音声など様々なコンテンツを生成することができる人工知能の1つ。大量のデータから学習し、そのデータ内に存在するパターンや構造を理解し、それに基づいて新たな出力を生成。
プロジェクト概要 |
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NECの音声認識技術を利用し、事故対応業務におけるお客様との通話内容をテキスト化し、生成AIによる文書要約技術を活用した経過記録業務のサポートシステムを開発しました。従来お客様との通話内容は、保険金お支払センターに勤務する社員(以下、社員)が経過記録としてシステムに入力しており、膨大な時間がかかっていました。また、保険金お支払センターでは一部のお客様からのカスタマーハラスメントに対し、今まで以上に組織的に対応を強化する必要がありました。生成AIを活用したソリューションの導入が入力業務の効率化と社員の心理的安全性の確保につながっています。 |
― どのように課題を解決し、どのような未来を描くのか ―
コールセンターに代表されるカスタマーサービス業務では、お客様からの様々な問い合わせに対応するためのノウハウや応答内容、対応品質などの膨大な情報の管理・活用に課題があります。生成AIはこうした情報の検索や整理に強みを持ちます。人間にしかできない作業と、AIのサポートを受けて完全に効率化する部分を適切に分担し、現場スタッフが本来取り組むべき業務に注力する時間を創出します。業務の効率化はお客様にとっても、対応品質の向上や問題解決の迅速化といったメリットがあります。今後は人とAIが補い合うことで、働きやすい環境づくりと働き手のWell-beingへの貢献が期待されています。
- カスタマーサービスの組織や部門では、膨大な情報を製品の価値やサービスレベルの向上に十分に活用できていない
- 現場スタッフは、事務処理業務に多くの時間を要するため、お客様との交渉・対話といった本来の業務に注力できない
- 生成AIの活用により人とAIが業務を分担することで、働き手のやりがいなど、Well-beingへのサポートが期待されている
三井住友海上火災保険の事故対応業務では、一貫性のあるサービスを提供するため、お客様を含めた事故関係者との通話内容を担当者が経過記録として損害サービスシステムに入力していました。しかし、この作業には膨大な時間を割いており、お客様に寄り添った迅速かつ丁寧な対応や、事故対応以外の防災・減災への取り組みなどの新たな価値提供に向けて、業務の省力化による時間創出が求められていました。また、一部のお客様には社員へのカスタマーハラスメント行為が見られたため、会社としてその実態を把握して組織的に対応することで、事故対応業務にかかわる社員全体のエンゲージメントの向上を考えました。
お客様からの声
- 最先端の生成AI技術を活用することで、業務プロセスを変革し、生産性の向上と新たな価値提供の創造に充てたい
- 社員へのカスタマーハラスメントを検知し被害を抑制することで、安心して業務に取り組める環境をつくりたい
事故対応業務に生成AIを活用したソリューションを導入し、社員の業務効率化と安心感が確保できたことで、事故対応業務の際の交渉や親身な対応といった本来取り組むべき業務に注力でき、お客様への対応品質向上にも貢献しています。
[ソリューション1:入力作業の効率化]
お客様との通話内容を音声認識技術でテキスト化した後、生成AIにて要約し、入力のサポートを行うシステムを導入した。経過記録業務を効率化することで、保険金お支払センターに勤務する社員約8,000名の年間約29万時間分の業務量削減効果が見込まれている。
[ソリューション2:カスタマーハラスメントへの対応]
カスタマーハラスメントへの対策として、悪質クレームのキーワードを検知して自動で上司に連絡が入る自動検知と、社員自らが上司へ通知する能動通知の2パターンを採用。どちらもカスタマーハラスメントそのものの抑制だけでなく、社員の心理的安全性の確保と業務へのモチベーション向上に寄与している。
― NECソリューションイノベータが描く未来 ―
人とAIが補い合う業務環境により、働き手のWell-beingを促進
今回のプロジェクトでは生成AIを活用したソリューションを運用し、膨大な情報の活用と業務効率化を実現しました。音声認識技術に要約技術を加えて損害保険領域に適用した事例です。今後、本プロジェクトの成果は生成AI活用のモデルケースになります。例えば、お客様の属性に応じた保険内容のご提案や保険金支払いシステムにも拡大し、人とAIが補完し合う事業モデルを社会実装していくことで、働く人のWell-being向上に貢献できると考えています。
お客様の対応品質が向上
通話内容の入力作業を生成AIを駆使した要約システムの導入で効率化し、年間約29万時間分の業務量削減効果が見込まれています。また、カスタマーハラスメント対策として2パターンの検知機能で被害を抑制し、社員の心理的安全性を確保しました。社員にとって働きやすい職場環境が実現したことは、事故対応業務全体の効率化を進めるだけでなく、業務への集中力を高め、お客様への親身な対応や保険金支払いの迅速化といった対応品質の向上にもつながっています。
Project Story
業務効率化とカスタマーハラスメント対策に生成AIを活用
勅使河原:生成AIを活用したソリューションの導入を考えはじめたのは、2023年度に当社の経営陣と現場社員が意見交換する会の中で、事故対応業務の効率化とカスタマーハラスメントによる心理的負担が大きいことが課題として挙がったためです。このような課題を解決できる仕組みを導入できないかと、NECソリューションイノベータさんに相談しました。実際のシステム構築面でも、牧原さんと溝川さんは様々なアイデアをお持ちで、当社の悩みや課題を率直にぶつけてご相談させていただきました。
牧原:三井住友海上火災保険さんと当社は、様々な業務でご一緒させていただいた歴史があります。その中で培われた互いの業務ノウハウや知見が決め手となって、パートナーに選定いただきました。ご相談を受けた際には、当社の音声認識技術と生成AIの技術を組み合わせることで、システム化の道を探りました。
溝川:実際の開発期間は、2023年10月にスタートし翌年3月には本番リリースだったため約半年という短い期間でした。かなり大規模な開発案件でしたが、業務アプリ、音声認識、生成AIの各チームが連携して、粘り強く問題解決と仕様調整に臨んだことが、短納期でのリリースを果たせた要因です。
生成AIを活用したソリューションの導入で、年間約29万時間分の業務量削減効果の見込み
勅使河原:今回NECソリューションイノベータさんに導入いただいた生成AIを活用したソリューションの要は、音声認識によるテキスト化とそれを要約する技術です。事故対応業務では、社員が電話でお客様とやり取りをした後に、会話を思い出しながら要点を手動で入力しており、この入力作業に膨大な時間がかかっていました。お客様との通話は長時間にわたることもあり、要点をわずか数秒で的確にまとめてくれることは大きなメリットです。試算では、本ソリューションを当社の約180拠点に導入した場合、年間で約29万時間の業務量削減の効果が見込まれています。
牧原:音声認識技術の精度にはこだわりを持っています。社員の方は丁寧にお話をされるため高い認識精度が維持できますが、お客様は方言など特徴的な話し方をされることもあるため、精度向上への調整は何度も繰り返しました。
溝川:事故対応業務で使う専門用語や、人間同士の複雑な交渉が絡む中での微妙なトーンやニュアンスをどのように汲み取るかという点が困難だろうと想定していました。2024年3月にリリースした後も少しずつ改善をはかり、音声認識技術や生成AIを使った要約の品質は、現在進行形で確実に向上してきている実感があります。
勅使河原:加えて、今回のソリューションではカスタマーハラスメント対策も行っています。必ずしもお客様に非があるものばかりではありませんが、明らかに対応した社員に落ち度がない事案も散見されています。そのようなケースでは社員が自身で抱え込み、能動的に上司に報告しないと状況が把握できないという課題がありました。その解決手段として、キーワード検知で自動的に上司へ連絡が入る方法と、社員自らが通知する方法の2パターンを採用しました。今後、社員の心理的な安全性の担保につながるのではと思っています。
働き手のWell-beingを高め、お客様の対応品質が向上
勅使河原:これまで社員の仕事には一定量の入力業務が存在しており、その分、お客様との交渉や対応といった本来割くべき時間を十分に確保できていませんでした。それが、生成AIを活用したソリューションの導入による業務効率化で、対話や交渉といった本質的なお客様対応に時間を充てることができるようになりました。要約に備えた電話中のメモも不要となったため、よりお客様の話に集中できるようになっています。副次的な効果としては、対応内容の全てが可視化されることで「会話内容」や「言葉遣い」などをマニュアル集のように参照でき、社員への教育効果も期待できます。また、カスタマーハラスメント対策の点では、第一線で働く社員からは「会社として事態を把握し対処してくれることに安心感がある」という声をもらっています。安心して働ける環境であれば、パフォーマンスが高まり結果的に業務全体の品質も向上します。
牧原:今回、業務効率化を本ソリューションでサポートし、社員の方の事故対応業務の品質向上に貢献できたと自負しています。そのうえで生成AIの活用は単なる効率化だけではなく、働く人のモチベーションにも好影響が出ていると感じています。
溝川:音声認識後の「要約」1つをとっても、保険金お支払センターごとに手順や記載のポイントには微妙な差がありました。それが本ソリューションを導入したことで、要約内容が対応担当の社員に左右されない品質へと統一された点も、事故対応業務全体の効率化を後押ししており、新しい事業を考える時間や余剰時間の創出につながっています。また、カスタマーハラスメントに関しても深刻なトラブルへの発展を未然に防ぐことで、職場環境の心理的安全性にも寄与しており、これらは働く人のWell-beingの向上にもつながっていると思います。
勅使河原:事故対応業務では、電話口の向こうでご不安に思われているお客様に寄り添った対応が大切です。加えて、保険金請求ではスピード感も重視されます。本ソリューションの導入により、より高品質な対応を実現することが事故対応業務の目指すべき目標であり、お客様への還元だと思っています。
損害保険領域から生成AI活用の裾野を広げる
勅使河原:今回、とても利便性の高いソリューションをご提供いただいたことで、事故対応における窓口業務を効率化できました。今後、当社が進めるべきミッションは、事故対応業務全体のプロセス改革です。より広い観点で変えていく、見直していくべきところに、生成AIなどの先進技術を活かしていくことです。そのためには、まだまだNECソリューションイノベータさんのお力が必要だと考えています。
牧原:生成AIは極めて便利なツールですが、完全無欠ではありません。今回の生成AIを活用したソリューションにも、要約を行う前には人間がテキスト化された段階の文章をチェックできる機能を備えています。現状では人とAIをうまく共存させAIのサポートを受けることで、人間にしかできない作業に集中できる環境をつくるかが大きなテーマだと考えています。今回のプロジェクトは生成AIの業務適用の第一段階です。まずは、損害保険領域で貴重な事例をつくり出せたので、ほかの事業部にも知見を連携して、NECソリューションイノベータとして生成AIの事業拡大をさらに盛り上げていきたいです。
溝川:コールセンターなどのお客様対応業務に音声認識技術を導入したケースはおそらくほかにもあると思います。しかし、そこに生成AIを使った「要約」技術を加えて損害保険領域の業務に適用したことで、今回のプロジェクトは新たな価値を示せました。今後は、本ソリューションを活用してお客様の属性に応じた保険内容のご提案や、現在当社が構築している損害サービスシステムと連携させることができれば、業務がより効率化され、お客様のご希望に沿うような保険業務が実現できると考えています。
UPDATE:2024.11.29