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豊かで持続可能な自然資本を未来に残すため、自然の維持と回復に還元される仕組みづくりを目指す。
[持続的成長を実現する経営基盤]
ネイチャーポジティブ事業(経済活動による自然共生社会の実現)
特定非営利活動法人
日本ジオパークネットワーク 事務局長
古澤 加奈 様
学生時代に人と出会う旅の楽しみを知り、国際開発協力を研究。室戸ジオパークで国際対応の専門員として活動後、2017年からJGN事務局に勤務し、持続可能な開発の実現のために活動中。
イノベーションラボラトリ
熊谷 直輝
2018年入社。ICTを活用したネイチャーポジティブの実現に向けて、全国各地で事業創出に携わる。
趣味のキャンプで感じる、自然資本の価値や魅力を知ってほしいと願い、ジオパークや国立公園で活動中。
以下敬称略
プロジェクト概要 |
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NECソリューションイノベータは、日本国内のジオパーク※1およびジオパークを目指す地域のサポートを行う日本ジオパークネットワーク(Japanese Geoparks Network、以下JGN)や、各地のジオパークなど、自然資本を保持する地域と連携し、ネイチャーポジティブ※2な仕組みづくりを目指しています。2023年度は、全国5地区でICTを使ったインタープリテーション※3の実証活動により、成果を確認しました。また、2024年3月には環境省を中心にネイチャーポジティブ経済移行戦略※4も公表されました。それも踏まえてネイチャーポジティブの実現に向けた意識改革や新たな価値創造に関して、今後の取り組みをさらに加速させていきます。
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― どのように課題を解決し、どのような未来を描くのか ―
企業は経済活動によって利益を得る一方で、環境破壊などにより社会にコストを負わせてしまう場合(負の外部性)があり、近年の自然環境などの損失の影響で世界のGDPの半分以上が失われる可能性が指摘されています。そこで、自然の景観や天然資源を財務的なフローやストックに見立てた「自然資本」の観点から、自然資本を消費せずに回復させながら経済活動に利用する行動が私たちには求められています。環境省などの4省は、ネイチャーポジティブ経済移行戦略を2024年3月に公表し、国としての取り組みもはじまりました。
- 企業には自然資本への依存・影響の低減が求められている
- 自然への配慮が評価され、市場評価や資金調達につながる
- 自然資本に根ざした経済活動は、新たな成長につながるチャンス
ジオパークでは、地域にある地質遺産などの自然資本を保護し自然・文化遺産とも関連させて活用することで、社会が直面する重要課題の解決に向けた活動を推進しています。その中で、ジオツーリズムなどを通じて観光業や教育分野での新しい仕事を生み出そうと、地域の活性化に取り組んでいます。また、地域への訪問者だけでなく地域の住民や地元企業なども、その地域の自然資本の魅力や重要性を理解し、地域に関わるすべての方が誇りを持てる機会の創出にも取り組んでいます。これらの取り組みをとおして、自然資本が維持/回復されることが、それぞれの地域で求められています。
各地域の自然資本の管理者が持続的に資源を管理し活用するためのサポートに加え、各地域の自然や歴史、文化を伝える「インタープリテーション」が可能な情報基盤をICTで実現し、地域の管理者の方々に活用していただく仕組みづくりに取り組んでいます。これにより、関係するすべての方々に自然資本を守るための行動変容を促せるように挑戦しています。利用者や地元企業などあらゆる方々と一緒になり各地のジオパークや国立公園など、広く事業展開できることを目指しています。
各地のジオパークおよび関連団体(企業や住民)とともに活動
NECソリューションイノベータは、各地のジオパークと情報交換し未来の事業を探索しています。2023年度は栗駒山麓ジオパークでカード(アナログ)とデジタルを掛け合わせ、栗駒山の登山者の安全管理や自然体験の価値が向上するかの実証活動を行いました。登山者にカードを配布しスマホとの連携をはかることで、登山者を管理しその山の情報がわかるようなWEBアプリを提供しました。2024年度は隠岐ジオパーク推進機構とともに未来を探索し、島根県立隠岐高校とも一緒に活動しています。隠岐高校ではジオパークを題材に、地域の魅力の発信や課題を解決する探求学習に取り組み続けており、日本ジオパーク全国大会※5でも発表され関係者の間で注目されています。そんな隠岐高校と連携し、当社が提供するアプリにそのノウハウを反映し、ジオパークにある自然や文化スポットをクイズ形式で訪問者へインタープリテーションすることの効果を現在検証しています。
- ※5日本全国のジオパーク関係者が一堂に会し、ジオパークに関する情報や意見の交換などが行われる年次イベント。ジオパークの理念と取り組みを多くの方々に周知し、ジオパークの一層の発展・向上につなげることを目的に開催されている。
― NECソリューションイノベータが描く未来 ―
自然資本の利用者や地域住民などの行動変容を促進
自然資本の利用者には自然の生態や歴史、周辺地域の文化に関するコンテンツを、テキストや動画などのICTを駆使したインタラクティブな仕組みで提供します。自然を回復軌道に乗せ生物多様性の損失を止めるには、まず自然の持つ価値や歴史を知り、自然との共生が持続可能な社会には不可欠であると学ぶことが大切です。こうしたインタープリテーションなどの手法を確立し行動変容を促すとともに、地域住民や関係機関と連携して活動の輪を広げることで、ネイチャーポジティブ実現への一歩を踏み出しました。
自然資本を守りながら持続可能な経済基盤を構築
自然資本を適切に管理する仕組みの1つとして、自然資本の管理者が利用者に費用負担を依頼する仕組みをICTでサポートしました。将来的には、費用負担していただいた資金を自然資本の管理者に分配するだけでなく、関係するステークホルダーにも分配し、自然資本を維持/回復するために環境保全金として活用できる仕組みづくりを目指しています。
Project Story
自然資本を未来に残すために、デジタルにできること
熊谷:私は、個人的にも趣味のキャンプや釣りなど、日常から自然と触れ合う機会が多いです。普段の業務においても、活動構想やビジョンを検討する中で「自然資本を未来に残すために、デジタルにできること」を意識して活動しています。
古澤:私は4年間室戸ジオパークで勤務したのちに、現在は、日本ジオパークネットワークで事務局長をしています。熊谷さんたち皆さんには、ジオパークに関心を持っていただきありがとうございます。
熊谷:当社は関連する省庁との検証事業を通じ、地域の方々とのディスカッションを重ねて、何が社会課題なのかに向き合って活動してきました。そこで感じるのは課題が多岐にわたっていることです。例えば、地域への来訪者が多くオーバーツーリズムに向き合うことになる場合もあれば、来訪者が少なく経済性が成り立たないこともあります。難しいのは1つの地域であっても季節によってこのような課題を併せ持っているという点です。ただし、それぞれの地域において共通で捉えられたのが、課題を考えるときに必ず「自然資本」が存在するということです。自然資本をどのように活用し守っていくべきなのか。共通項になる自然資本を軸に社会課題に向き合えるのではないかと考えています。この考えから「ネイチャーポジティブ」への挑戦をはじめました。当社の活動をとおして自然資本に関わるあらゆる人々の行動が、消費ばかりしてしまう状態(ネイチャーネガティブな状態)から関係する人々の行動を変容させ、ネイチャーポジティブな状態へと変えていくことを目指しています。地域住民の皆さんや地域事業者の方々、自然資本が好きで地域に来訪する方々、地域愛を持ち地域を応援したい方々、これらの皆さんが交流する中で経済を回していくことができれば、少しでも多くの資金を自然資本の保全に使うことが可能になり、ネイチャーポジティブな世界が実現できると考えています。そして、このような世界をICTのデジタル技術を活用した仕組みづくりで実現できれば、よりよい未来が描けるだろうと、構想を練り続ける日々を過ごしています。
古澤:このような構想を考えていただく中で、ジオパークを活動フィールドに選んでいただきありがとうございます。ジオパークは、地域にある豊かな自然、豊かな地質遺産、生物・生態系の遺産、文化遺産、地域住民の知恵など、地域に存在しているものを残しつつ、上手に活用しながら、その地域が元気になるためのプログラムです。このようなジオパークのプログラムが、熊谷さんたちが考える構想の中で進んでいくことが、JGNとしても、とても嬉しいことだと思っています。
自然資本を未来に残す際に、向き合うべき課題
熊谷:構想を評価いただきありがとうございます。この構想を進めようとしたときに何が課題になっていると思いますか。
古澤:私自身、現在は東京の事務所で勤務する都会の住人となりました。コロナ禍のときには、閉じこもりがちな生活が続いたことで忘れそうにもなりましたが、私たちは「地球」の上で暮らしていて、この地球上にある豊かな自然が存在しなければ、それぞれの命も成り立たないと考えています。都会に住んでいることで、地球で暮らしていること自体を意識するのが難しい。そんな感覚も個人的には抱えています。地球は動いているからこそ地震なども発生しますが、その動きが豊かさを生み出してもいます。私たちの日々の暮らしや文化は、この地球とつながっていると考えています。「地球を感じ大事にしていきながら、日々私たちが地球に対してできることを実践していきたい」と考える中で、現実にギャップが生まれ次の2つのことを課題として感じています。1つめは、地球に住んでいてその恩恵を受けて生活していることを、意識している方としていない方がいるということ。この違いによって結果が変わってしまう現実を感じています。もう1つは、豊かな自然を活用し地域が元気になることを目指している活動の中で、その地域に資金が落ちる仕組みができていないということです。
熊谷:海外のナショナルパークでは、訪問者が自然を守るために対価を支払いそこにある自然を楽しむという、理想的な仕組みが成り立っている事例を知りました。日本では、まだそのような活動が進んでいないと感じています。
古澤:最近、話題に取り上げられることは多くなってきていますね。ジオパークでも「地域にゴミだけ残されて、お金は落ちない」ことが以前から話題にされていました。来訪者を受け入れる地域側でも、来訪者に長く滞在して楽しんでもらえるようなサービスや仕組みの必要性を感じています。このようなサービスや仕組みがなければ、来訪者が通過型になってしまい地域に資金が落ちません。結果、トイレとごみ箱だけがいっぱいになってしまう、このような現実を変えていきたいと思っています。
ICTだけに頼らない仕組みづくり
熊谷:当社は、ICTを本業にしている企業ですが、本活動の中で感じているのが、ICTを活用しての技術だけが前面に出ても課題を解決できないということです。自然資本の魅力を伝えるためには、その自然資本の価値を、まずは五感で感じてもらうことが重要です。目の前に実在する価値を知ってもらうためには、リアルと掛け合わせたICTの活用こそが大事になると考えています。
古澤:まさにその通りですね。コロナ禍でICTのよさを感じる機会は増えました。オンラインでの会議ができるようになったりAIが進化したりと、ICTに助けられることは増えています。確かにデジタルの便利さは感じるのですが、それは魅力の1つであって自然資本は現物に触れる体感こそが大事だと思っています。組み合わせとバランスが大事ですね。
熊谷:まさに、このバランスづくりが難しくもやりがいがあると考えています。まずは、自然資本に関わる方に興味を持ってもらうことが必要です。昨年度は栗駒山麓ジオパークで、カード(アナログ)とデジタルを掛け合わせた実証活動を行いました。記念品になるカードとICTを紐づけ山のルールや価値を伝えることで利用者の体験価値をより高められるかを検証しました。
古澤:改めて考えると「バーチャルだけでも楽しめる世界」があるかもしれませんがそれだけではもったいない。まさにカードを通じてリアルとICTをつなげることで、より五感を使って楽しめる世界をつくれたらいいですね。私は食べることも大好きですから、それはバーチャルだけでは満たされないですね。
熊谷:私もキャンプや釣りを通じて自然の中で食べることが大好きです。それらを楽しむ場でいきなりICTといわれても違和感がありますが、私たちが自然を楽しむ動線上にICTがあり、より体験価値の向上をはかることができる、そんな仕組みづくりができたらいいと考えています。
ジオパークと創る未来
古澤:自然資本への対価が支払われ、その地域への来訪者がより楽しんでもらえる仕組みづくりがICTを活用することで叶うといいですね。自然をより楽しみながら、その自然を生み出す地球のことを考え、感じる方が増えるようになることを期待しています。
熊谷:自然資本への経済行動を変えるという、海外で当たり前になりはじめていることを、当社の事業をとおして日本でも当たり前にしていく。自然資本に関係する体験はリアルが主役でも、仕組みづくりにはICTの出番があると思います。その仕組みづくりを広げることを、ジオパークの方々と一緒にやっていきたいと考えています。
古澤:ジオパークのプログラムは、1990年代半ばぐらいにできたばかりのまだまだ新しいものではあるのですが、当初からネットワーク活動を柱の1つにして進めてきています。各ジオパークではみんなで助け合いながら試行錯誤し、その中から生まれた1つの成功を一気に広げることが得意分野です。一つひとつの地域だけでは資金も人材も潤沢ではないので、それぞれのジオパークが助け合いながらネットワーク活動を積み重ねてきました。ジオパークに関わるみんなで一緒に前に進んでいこう、という想いで各地で活動しています。さらに、熊谷さんたちからのご提案はJGNの活動指針とも合致しており、試行錯誤の中での失敗もあるかもしれませんが、それを含めてまた次の活動に生かしていく、そんな活動を一緒にできることを嬉しく思います。地質遺産だけでなく人々の暮らしや知恵を含めて、様々なことがジオパークの活動につながります。皆さんのそれぞれの得意分野を生かし、活動に参画してくれる方々をより一層増やしていきたいのでジオパーク活動の認知向上も一緒に進めていけると嬉しいです。
熊谷:豊かで持続可能な自然資本を未来に残すため、自然の維持と回復に還元される仕組みづくりには認知が必要です。その入り口は、私自身が自然資本が提供してくれている価値を楽しむことだと感じています。その価値をICTを活用して身近な家族や友人に知ってもらい、伝え、再現可能な状態にしていきたい。それをどうやって実現できるのか皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
古澤:「自然の維持と回復に還元される仕組み」とは、自然資本を体感する方々の「好き」や「楽しさ」を対価とともに自然資本に還元させることです。それはまさにジオパークが掲げる理念が実現された世界だと思います。個人も企業も関わるみんなが共感しその活動が日常化している、そんな未来を考えています。
熊谷:私たちの地球を守るために、好きや楽しさからネイチャーポジティブにつなげる活動を一緒に広げていきましょう。
UPDATE:2024.11.29