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THE WELL-BEING WEEK 2024で発表しました

DATE:2024.06.19
研究テーマ:ウェルビーイング

はじめに

ウェルビーイングや感謝の研究をしている丸山と申します。

2024年3月17~24日に開催された「THE WELL-BEING WEEK2024」にて、「ウェルビーイングの現在地とこれから」、「ウェルビーイング企業事例から見る”ウェルビーイング経営のヒント”」という2つのプレゼンテーションをさせて頂きました。
本記事では、それぞれの発表内容についてポイントをご紹介させていただきます。

ウェルビーイングの現在地とこれから

こちらの記事でご紹介していますが、私たちは2023年にウェルビーイングに関する意識調査を行いました。その調査では、あえて“ウェルビーイング”という言葉を用いることなく、「収入・資産」「ワーク・ライフバランス」「思いやりを持つこと」といった幸福に関わる要素を列挙し、それぞれについてどの程度大切だと思うか、どの程度高めていきたいと思うかを評価(1~7点)してもらうといった試みをしました。

THE WELL-BEING WEEK2024の発表では、調査の結果について「大切だと思う=現在重要視されている要素」、「高めていきたいと思う=これから注目されそうな要素」といった観点で整理し、5つのクイズを交えながらご紹介しました。その中から、現在重要視されているウェルビーイング要素に関するクイズをご紹介します。

クイズ 「自身の幸せのために大切だと思う」について、最も平均点が高く多くの人に重視されていた要素はどれでしょうか?
選択肢 A. 自身の健康状態/B. 収入・資産/C. 他の人を愛し 愛されること

いずれも、幸せのために多くの人に重要視されているであろうことが直感的に分かる要素です。読者の皆様はどれが正解だと思われるでしょうか。正解は…「A. 自身の健康状態」で、全体の平均で6.10と非常に高い値を示しました。ちなみに「B. 収入・資産」は5位、「C. 他の人を愛し 愛されること」は18位でした。
暮らしの中でお金は欠かせないものですが、幸せのために大切な要素としては一番ではないようです。

こういった結果から、社会福祉的要素が幸せの要素として重視される中でも、「健康」に関する関心が高いのが、現在の日本人の傾向であろうといったことが分かります。一方、重視する要素について、性別や年代による影響がみられました。例えば、若い世代の女性は「収入・資産」を特に重要視している傾向がみられました。すなわち、日本人の幸福感と言っても一様ではないようです。

では続いて、これから注目されそうな要素についてご紹介します。

「高めていきたいと思う」の中でも、「大切だと思う」にくらべてグッと順位を上げた要素に着目します。
表1に示したのは、順位のギャップが大きかった20要素を示しています。そのなかで注目したいのが「たとえ失敗したとしても、すぐに立ち直ること」です。順位が際立って高いわけではありませんが、他の要素に比べ、順位をグッと上げている要素です。
これはレジリエンス(回復力、ストレス等に対する柔軟性)に関する要素として設定していました。レジリエンスは、抑うつや不安といったネガティブな精神状態や、自身の疾患や身内との死別といったイベントから引き起こされるウェルビーイングに対する悪影響を緩和することが知られています(※1)。

この結果は、「今後はもっとストレスに対して柔軟な心を持ちたい」といった意識の表れなのかもしれません。
こういった意識が高まると、例えば「職場でのストレスにどう対処するか」といった課題に対して、ハラスメント対策を行う・人の配置や環境を見直すといった外的要因への対処だけではなく、「従業員が精神的にうまく適用していくことをサポートする」といった内的要因へのアプローチがより一層受け入れられていく、といったことがあるかもしれません。
レジリエンスは後天的に身に着けることのできる能力であるとも考えられており、レジリエンスを高めることを目的とした介入方法も存在します。今後よりいっそう注目していきたい要素のひとつと言えるでしょう。

表1. 「大切」と「高めたい」の順位の差が大きかった項目(20項目)

ウェルビーイング企業事例から見る
”ウェルビーイング経営のヒント”

続いて、ウェルビーイング経営に関する発表内容からのご紹介です。
私たちは、「“この会社で働いてよかった”と社員が思えるような経営をデザインできるか?」というリサーチクエスチョンのもと、2022~2023年にかけてウェルビーイング経営を実践している5社を訪問しました。それらの経営思想の構造を整理し、7つの共通点を見出しました(図1)。本記事では、「魂のパーパス」についてご紹介します。

図1. ウェルビーイング経営における5つの階層と7つの共通点

産業廃棄物中間処理が主要な事業であるA社の経営において、会社の掲げるミッション・ビジョン・バリューといった理念に“魂”が宿っていることが重要なポイントであることが分かりました。

A社は、産業廃棄物を処理するという本来の事業の枠を超え、「廃棄物を生み出さない暮らしをつくること」を理念として掲げています。こういった高い理想に対し、経営は確固たる意志を持ち、逆境に対してめげることなく事業を継続し、さらには将来に向けた新たな事業にも取り組んでいます。高い理想と軸のぶれない経営により、理念に“魂”が宿り、ただの飾りではない強い志として感じられるようになっていたのです。
すると、会社の理念に心から共感した人が社員として集まり、誇りを持って仕事に励むことにつながります。その結果、さまざまなポジティブな効果を生み出しています。その成果の一つとして分かりやすいのが、ホワイト企業対象、日本経営品質賞などの受賞といった外部評価の向上です。

では、魂が宿った理念にはなぜ共感が集まるのでしょうか。それは、経営において明文化されない行間が存在するからです。行間とは、「絶対に曲げられない原動力」や「人として守るべき道理」、「人として持つべきやさしさ」といった、経営者や従業員の行動に現れる思想のことです。

日本は世界一のハイコンテキスト文化※2と言われることがあるほど、あえて直接的な言葉で伝えず、行間を読み合う文化があります。そういった文化において、魂が宿っていない理念には共感が集まりにくいのです(図2)。
振り返ってみると、私たちが視察した会社はいずれも、経営者や従業員の言動から、理念に魂が宿っていると感じられました(表2)。これがウェルビーイング経営を成り立たせている共通点のひとつだったのです。

図2. 理念が共感されない理由(仮説)

表2. 視察した4社の理念に込められた魂

おわりに

今回はTHE WELL-BEING WEEK2024で発表した2つのプレゼンテーションから、それぞれポイントをかいつまんでご紹介しました。実際の講演は約90分のボリュームでしたので、より多くの内容をお伝えしています。
当チームでは研究者による同内容の講演(各90分程度)のご相談を受け付けておりますので、ご興味のある方は<お問い合わせ先>までお気軽にご連絡ください。

<お問い合わせ先>
NECソリューションイノベータ株式会社
イノベーションラボラトリ

参考文献

  • ※1
    石井京子. (2009). レジリエンスの定義と研究動向. 看護研究= The Japanese journal of nursing research, 42(1), 3-14.
  • ※2
    エリン・メイヤー, 田岡恵, & 樋口武志. (2015). 異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養. 英治出版.

担当者紹介

研究テーマ:感謝と信頼、ウェルビーイング
担当者:丸山 佳織
コメント:感謝やウェルビーイングの研究をしています。研究を通じて、働く人が「この会社で働いて良かった」と思えるような価値を作っていきたいと思っています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部