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我孫子事業場 四つ池で実施した「生物多様性×ビジネスアイディア創出」
“ウォーク”ショップについてご紹介

DATE:2024.10.23
研究テーマ:ウェルビーイング

はじめに

本記事では2024年5月にNEC我孫子事業場にて、「生物多様性×ビジネスアイディア創出 フランツさんの“ウォーク”ショップ」というワークショップを実施しました。本イベントはNECグループ社員を対象としたイベントでしたが、社外からもゲストを招き、貴重なお話を頂くことができましたので本記事にてご紹介します。

我孫子事業場の「四つ池」

NEC我孫子事業場に「四つ池」と呼ばれる4つの池があるのをご存知ですか?
JR常磐線を利用される方は、我孫子駅と天王台駅の間の東側の車窓からNECの看板があるのを見たことがあるのではないでしょうか。

その看板がある建物群より利根川寄りの敷地に、通称「四つ池」と呼ばれる池があります。四つ池は利根川から派生してできたと考えられる湧水池です。4つ池があるため四つ池と呼ばれており、それぞれA池、B池、C池、D池と呼称しています。
池の水はDからAに向かって流れており、4つの池はつながっています。そのため、台風や大雨による増水で、池同士がつながってしまうこともあります。写真は秋の四つ池の様子で、ガマやマコモなどの抽水植物が見られます。水上にはヒシという浮葉植物も写っています。

四つ池には環境省指定の絶滅危惧種IB類(EN)の「オオモノサシトンボ」の生息が確認されています。そういった貴重な生物の他にも、トンボの仲間、水生昆虫、魚類、鳥類など様々な在来生物が観察できる一方、オオクチバスやブルーギル、アメリカザリガニなどの外来生物も多数生息しており、new window手賀沼水性生物研究会のご協力のもと、希少な生物を保全するための活動を続けています。

四つ池は環境省から「自然共生サイト」というものに指定されています(プレスリリースはこちら)。自然共生サイトに関する説明は、環境省のWebサイトより引用してご紹介します。

「自然共生サイト」とは、「民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域」を国が認定する区域のことです。認定区域は、保護地域との重複を除き、「OECM」として国際データベースに登録されます。
以下の例のような場所のうち、

  • 生物多様性の価値を有し、
  • 事業者、民間団体・個人、地方公共団体による様々な取組によって、(本来の目的に関わらず)生物多様性の保全が図られている区域が、「自然共生サイト」の対象となります。

なぜ四つ池でワークショップを実施したのか?

次に、なぜ四つ池で生物多様性×ビジネスアイディア創出のワークショップを開催したのかについてご紹介します。

生物多様性が私たち人間にもたらす恩恵を「生態系サービス」と呼びます。生物多様性が損なわれると、生態系サービスを得ることができなくなります。例として、農作物や魚介類の不作・凶作といった私たちの食に関わる課題などが挙げられます。つまり、私たち人間の安全で豊かな暮らしを維持してくれているのは、生態系サービスなのです。そんな生態系サービスを維持していくために、自然環境を保全し、豊かな生物多様性を守らなくていいわけがない!と思われますが、自然環境や生物多様性の保全は、“短期的・直接的な利益”が見えづらいという問題を抱えています。

「生物多様性については理解しました。しかし、それを守ることが何の役に立つのですか?」という純粋な疑問を抱く方がいらっしゃいます。確かに、生物多様性を守ることで、私たちの明日の給料が上がるわけでなければ、目に見えて暮らしが豊かになるわけでもありません。
ビジネスにおいても同様で、「自然環境を守ることは大事だけれど、どうやって会社の利益につなげるの?」といったことから、あくまでCSR活動の一環として環境保全活動が行われることが多かったようです。近年は、ESG投資、TNFDなどによる情報開示などの潮流があり、生物多様性に取り組まないことが企業にとってリスクであると捉えられるようになってきました。しかし、それらは最近の話で、私たちはビジネスにおいて自然環境の保全に意義を見出しづらいことに、危機感を覚えてきました。

そこで、直接的な利益に結び付く、もしくは企業にとってメリットがあると思える環境保全のかたち、すなわち「ビジネスとして成り立つような生物多様性に関する取り組み」が必要だと考えたのです。また、生き物好きだけでビジネスを考えるのには限界があります。まずは、四つ池にゆかりがあるNECグループ社員の中で関係人口を増やし、さらにビジネスアイディアを一緒に考えて欲しい!と考えたのです。

ワークショップの概要ご紹介

「生物多様性×ビジネスアイディア創出 フランツさんの“ウォーク”ショップ」というワークショップのタイトルにもある通り、このワークショップはnew windowNPO Nelisのフランツさんらの全面的な協力のもと行われました。フランツさんは自然環境と地域文化のつながりに着目し、環境保全活動を推進されています。そういった背景から、会議室に一日中缶詰になるようなワークショップではなく、実際の現場を見て、その場を良く知る人からお話を聞くことから始める“ウォークショップ”を含む企画となりました。

午前の部:ウォークショップ 自然環境や四つ池にゆかりのある人に話を聞こう!

参加者が実際に四つ池の周りを歩きながら、各スポットでゲストスピーカーのお話を頂戴しました

ゲストスピーカー① 国立環境研究所 西廣先生

なんと、国立環境研究所の西廣先生から“半自然(Semi-Natural)”をテーマにお話を頂くことができました。
皆さんにとって“自然”と言えばなんでしょうか?多くの方が“人の手が加わっていない環境”をイメージされるのではないかと思いますが、そういった自然は“原生自然”と呼ばれ、私たちの身近な自然とは区別されます。すなわち、私たちの身近な自然には、ほぼ必ずといっていいほど人の手が加わっているという訳です。日本において原生自然は19.2%程度、そしてその残りが農地や半自然であると言われています。
そんな身近な自然の大部分を占める半自然が育む生物多様性に関するお話や、私たち人類と自然との関係に関する貴重なお話を頂きました。

ゲストスピーカー② NPO手賀沼水生生物研究会 代表 鈴木さん

四つ池での保全活動を長年続けていただいている手賀沼水生生物研究会の代表 鈴木さんからもお話を頂きました。四つ池での保全活動について、どのような作業を、何のためにどこで行っているのか、かなり具体的にお話しいただきました。さらに、実際に四つ池で見られる生物を観察できるよう、準備いただきました。四つ池保全の象徴的な生き物の一つであるオオモノサシトンボ(絶滅危惧I類(CR+EN))もちょうど出てきてくれて、実際に皆様に見ていただくこともできました!参加者には保全活動に取り組まれる鈴木さんの情熱も感じていただけたのではないかと思います。

ゲストスピーカー③ NEC総務統括部

我孫子事業場の総務という、先のゲストスピーカーお二人とはまた違った視点でお話をして頂きました。我孫子事業場は事業場という側面だけではなく、四つ池の存在やNECグリーンロケッツの練習場といった多様な側面を持っています。そのようななか、我孫子事業を、NECを、社員だけではなく地域の方も含めた多くの人に好きになって欲しい、という想いをもって業務に取り組んでいるといったお話を聞くことができました。

ゲストスピーカー④ NPO Nelis フランツさん

フランツさんからは、地域文化と地域の自然環境の相互作用に関するお話を頂きました。生物多様性のもたらす生態系サービスは、私たちの暮らしの中にあふれており、地域文化と非常に密接な関係があります。地域の特産物が分かりやすい例かもしれませんが、それだけではなく、伝統行事や行動様式などにも影響をもたらしているでしょう。筆者は浮世絵が好きなのですが、東海道五十三次などはまさに日本の自然あってこその文化だな、と感じます。
つまり、生物多様性を守ることは、私たちの地域文化を守ることにもつながります。気候変動や生物多様性の損失をこのまま見過ごすと、私たちの文化が失われていくかもしれないのです。フランツさんの故郷のリアルなお話なども交えつつ、そんなお話を頂きました。

午後の部:ワークショップ

午後は会議室に戻り、午前中のウォークショップの内容を踏まえたビジネスアイディア創出のワークショップを行いました。チームごとにテーマを決め、自分自身がステークホルダーになりきり、四つ池がどうあって欲しいかを考えたり(中には四つ池の外来生物“ブルーギル”になりきるというものも!)、さまざまな視点からブレーンストーミングを行い、ビジネスアイディア創出に向けてCS/VPを明確化していきました。ワークショップの進行は、Nelisのジョビンさんにご協力いただきました。手賀沼水生生物研究会の鈴木さん、半沢さんにも引き続きご参加いただき、鋭い視点からのアドバイスも頂戴することができました。

参加者全員が熱心にワークに取り組み、非常に興味深いアイディアが創出されました。
趣旨としては、「ビジネスとして成り立つような生物多様性に関する取り組みを創出したい!」というものでしたが、今回のワークショップはその入り口としては非常に充実したものとなったと思います。ご同席頂いた手賀沼水生生物研究会のお二人からも、「環境保全をメインにしている人たちだけでは出てこない意見があって興味深かった」とコメントいただいています。まさにおっしゃる通りで、生き物好きだけで生物多様性を守る時代はもう終わりつつあると感じます。さまざまな視点から、広い視野を持って取り組んでいくべきだと筆者も強く感じています。

ワークショップの結果

ワークショップ参加者にアンケートを取りました。その結果についても、簡単に紹介していきます。

まず、イベント自体の満足度は10点満点中8.42点とご好評いただき、さらに今後のイベントへの参加意欲については7.92点でした。特に、午前中に実施したウォークショップが印象に残っている方が多かったようでした(図1)。個人的にも、午前中に実際に四つ池周辺を歩いたり、生き物を見たからこそ、午後のワークショップにもより一層真剣になることができたのではないかと思っています。

図1.「印象に残ったワークは?」の質問に対する回答

また、参加者の意識の変化を問うようなアンケート項目も設定しました。その結果が図2となります。

全体的にやや増加傾向にあり、我孫子事業場に対する愛着は統計的に有意に高くなるといった結果となりました。自然環境の保全云々の前に、まずは現場を見ていただくことが重要なのかもしれません。こういったことについては、もう少し突き詰めた研究を今後していきたいと考えています。

※事後アンケートのみで変化を回答してもらいました

図2.参加後の心理的な変化を確認するための質問に対する回答

おわりに

本ワークショップは様々な方のご協力のおかげで、無事に開催することができました。この場を借りて御礼申し上げます。
NESのイノベーションラボラトリでは、研究という観点にはなりますが、引き続き四つ池に関わっていく予定です(生物多様性チームの活動についてはこちらをご覧ください)。四つ池、さらには自然環境の保全を継続的に行い、持続的な社会をつくっていくには、NECグループ社員のみならず、地域の皆様の協力が不可欠です。「素晴らしい自然を守る」という観点だけではなく、「自分たちの暮らしの未来を守る」という観点からも、関心を持っていただけるととても嬉しいです。

執筆者紹介

研究テーマ:ウェルビーイング
担当者:丸山 佳織
コメント:ウェルビーイング経営や推しとウェルビーイングの関係に着目した研究を担当しています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
wb-research@mlsig.jp.nec.com

企画・運営担当者紹介

担当者:稲熊 あすみ
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
biodiversity-contact@nes.jp.nec.com