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情報処理学会 第88回全国大会にて、LLM・生成AI・知識再利用に関する4件の研究発表を行いました

DATE:2026.3.8

2026年3月6日から8日に開催された情報処理学会 第88回全国大会において、LLM・生成AI・知識再利用に関する4件の研究発表を行いました。本記事では各発表内容についてご紹介します。

発表一覧

  • 3月7日(土) 小泉 博一 「LLMを用いた心理特性推定による目標行動設定の支援技術の検討」
  • 3月8日(日) 河又 恒久 「生成AIを用いた観光サイトの自動最適化エージェント構築に向けた検討」
  • 3月8日(日) 中尾 勇介 「AI観光サイトにおける観光客の受容性評価」
  • 3月8日(日) 小林 香織 「会議ログからの知識再利用に向けたIF-THENルール抽出におけるセグメント分割手法の検討」

LLMを用いた心理特性推定による目標行動設定の支援技術の検討

発表者:小泉 博一、市川 玲子、秋冨 穣

企業や組織における従業員の生産性向上や業務効率化を目的として、私たちは、ユーザが日々の行動を記録することで自己管理の習慣を身につけながら目標達成を目指す「自分日誌アプリ」の研究開発を進めています。目標に向けた日々の具体的な行動を決めることを支援するために、本研究では、LLMを利用してユーザの目標の動機などから心理特性を推定し、心理特性に合わせて個別化した行動を提案する仕組みを検討しました。特に制御焦点理論に着目し、人が目標に向かうときの心理的傾向である促進焦点(理想・成長重視)と予防焦点(義務・安全重視)に応じて提案内容を変えることで、モチベーション向上が期待できます。

図:目標行動設定の支援技術の仕組み

AIが生成したペルソナを用いたシミュレーションによる制御焦点推定の評価実験では、99.5%の精度で制御焦点を推定できることが確認されました。明確な違いを持つ選択肢を提示することで、ユーザの心理特性を捉えやすく、回答負担も少ないことが示唆されました。ただし、これはAIペルソナに対する推定精度であり、実際のユーザを対象とした検証が今後の課題です。
質疑では、「制御焦点の測定に質問紙ではなくLLMを用いる意義は?」というご質問に対し、回答負担を抑えつつ目標ごとに変わり得る制御焦点を把握する実用性を重視した点を説明しました。また、「精度が高すぎるのでは?」というご指摘には、明確なペルソナと選択肢を用いたため推定しやすかった可能性があることを回答しました。
今後は、実際のユーザデータを用いて推定精度を検証し、さらに心理特性に基づく行動提案がユーザの行動変容や目標達成に与える影響を明らかにしていきます。


生成AIを用いた観光サイトの自動最適化エージェント構築に向けた検討

発表者:河又 恒久、茶碗谷 廉太朗、森松 祐樹、小林 香織、久寿居 大

本研究は、観光分野におけるWebサイト(特にランディングページ=LPを対象)運用の課題に着目し、生成AIを活用した観光LPの自動最適化エージェント実現を目指しました。観光LPは魅力・使いやすさ・安全性を同時に満たす必要がある一方で、情報更新頻度の高さや誤情報リスクなど、運用負荷が大きいという課題があります。本発表では、LP生成・LP評価・LP監査の3プロセスをAIエージェントとして統合し、自律的に改善を繰り返す仕組みを提案しました。デモ実験を通じて、これらのプロセスの多くはAIに委任可能である一方、構造設計や最終判断などにおいて人の関与が不可欠であることが明らかとなりました。
質疑としては、「AI前提の情報探索行動の変化」がありました。従来の検索結果からページへ遷移するのではなく、AIに直接質問する行動が一般化しつつあり、これに対応したLP設計の在り方です。人間向けとAI向けに理解しやすい形を目指すべきかという点については、Web検索に対するRobots.txtのようなAIに対応する最適な設計指針はまだ確立されていないので、まだ模索段階にあると回答しました。さらに、ハルシネーションに関する質問もありました。AIが生成する情報の真偽は完全には保証できず、最終的な正確性の担保は人に依存する側面が大きいです。特に地域情報のようにローカル知識が重要な領域では、その土地に詳しい人間の関与が不可欠です。
これらの議論を通じて、生成AIの活用は単なる自動化ではなく、「人とAIの役割分担」をどのように設計するかが重要であると再認識しました。今後は、Human-in-the-Loopの最適配置を含め、AIと人間が協調する形でのLP運用の在り方をさらに検討していきます。


AI観光サイトにおける観光客の受容性評価

発表者:中尾 勇介、河又 恒久

NEC 白浜リビングラボでは、和歌山県白浜町を中心にフィールドリサーチから研究や新事業の仮説検証の加速を行っております。本研究では、前述の「生成AIを用いた観光サイトの自動最適化エージェント構築」に向け、AI生成コンテンツを利用者がどう受け止めるかを調査しました。
その際に、白浜町を対象とした観光ランディングページをAIで生成し、「①AI生成であることを開示しない」「②開示する」「③開示したうえで監修、出典、誤情報対応まで明記」の情報提示を3段階に操作した被験者間実験を実施しました。

図:AIで生成した和歌山県白浜町観光ランディングページ

白浜地域の来訪者27名を対象に、リスク認知・信頼性・有用性・行動意図の4指標で受容性を測定した結果、条件間に統計的な有意差は確認されませんでしたが、平均値の傾向としては、AI生成であることを開示することで信頼性が低下したことや、監修・出典・誤情報対応を付与したことで、有用性と行動意図、リスク認知が改善されており、「安心して使える」「役に立つ」という評価を支える可能性が示唆されました。
質疑で印象的だったのは、「地方の観光地こそAI活用が必要だが、情報を提供する側(地域事業者)にAIへの不信感がある」という指摘でした。利用者(観光客)の受容性だけでなく、地域の担い手側の信頼醸成が不可欠であるという視点は、まさに今後の研究課題と重なるものでした。
今後は、利用者評価と事業者側の信頼形成を組み合わせた長期間での社会受容性について実証を計画しています。


会議ログからの知識再利用に向けたIF-THENルール抽出におけるセグメント分割手法の検討

発表者:小林 香織、久寿居 大

業務の状況を踏まえ、「次に何をするか」を議論し決定することが日常的に行われています。しかし、こうした判断は会議の場に留まりやすく、後から参照したり、別の場面で再利用したりすることは容易ではありません。本研究では、このような会議中の判断に着目し、会議ログ(トランスクリプト)を対象として、判断を「条件(IF)と対応(THEN)」の形で整理し、再利用可能にするための方法について検討しました。
発表では、判断を扱う際の前提として、会話をどの単位で捉えるかに着目し、会議ログを話題単位で意味的に分割して扱う考え方を用いました。また、会議の発言をそのままIF–THEN形式に落とし込むと、数値や固有表現といった会議固有の要素に強く依存し、他の場面では使いにくくなることがあります。そのため、会議固有の表現に引きずられにくくするため、発言者の立場や意図といった観点を挟みながら、判断に必要な条件構造を検討しました。
質疑では、「AI社長や上司に使えるかな」といったご意見や、抽象化する際に数値や単位などをどのように扱うかといった点について質問がありました。これに対しては、数値をそのまま扱うのは難しい、また、アクセスログなどは経時的な変化を踏まえた上で抽象化していく必要がある、という考え方を示しました。
これらのやり取りを通じて、会議知識の活用は単なる自動化ではなく、「どこまでをAIに委ね、どこに人が関与するか」という役割分担の設計が重要である点を再認識しました。今後は、実際の会議への適用を視野に入れつつ、適用範囲や評価方法を含めて検討を進めていく予定です。


おわりに

今大会でも多くの方に関心を持って足を運んでいただき、様々なご意見・ご質問をいただくことができました。また、研究の実施にあたりご協力いただいた皆様にも、この場を借りて感謝申し上げます。今後もいただいたご意見をもとにさらなる検討を続けてまいります。


担当者紹介

担当者:小泉 博一
研究テーマ:心理学的行動変容
コメント:AIを利用した行動変容技術の研究をしています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
bt-design-contact@mlsig.jp.nec.com

担当者:河又 恒久
研究テーマ:研究成果の事業化・社会実装に関する実践的イノベーション研究
コメント:AI Native 時代の研究や研究成果の事業化・社会実装の在り方を実践を通して明らかにしていきます。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
t.kawamata@nec.com

担当者:中尾 勇介
研究テーマ:人間中心設計、リビングラボ
コメント:リビングラボを活用して新事業や研究の社会実装に向けた人間中心設計を実践しています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ
nakao-yusuke@nec.com

関連サイト:
Innovation Story 06 NEC 白浜リビングラボが拓く、新事業創出の未来: イノベーションストーリー | NECソリューションイノベータ
new windowNECソリューションイノベータ株式会社 | NEC 白浜リビングラボ SHIRAHAMA ENGINE

担当者:小林 香織
研究テーマ:人間能力拡張技術の研究(個別適応AI研究)対話からの知識抽出
コメント:生成AIを用いて対話から知識を抽出し形式知化するための研究をしています。
連絡先:NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーションラボラトリ