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専門家コラム
《連載》夏野剛氏のビジネスレビュー
コロナ禍で、なぜあの企業は成長しているのか?-デジタルシフトの力を考察する-
【第1回】
徹底したデータマーケティングでBtoB通販業界を独走する「MonotaRO(モノタロウ)」
UPDATE : 2021.02.19
コロナ禍の厳しい経済情勢において、なぜあの企業は成長しているのか? 夏野剛氏が成長の原動力であるデジタルシフトを考察します。
INDEX
第1回目に取り上げるのは、BtoB通販業界で勢いが止まらないMonotaRO(モノタロウ)。膨大な品揃えと顧客に個別最適化したプロモーションで、コロナ禍のなか会員数を大幅に増加させている。
夏野剛氏が、成長の原動力になっているモノタロウの戦略と、それを支えているデータ活用、そして“Amazonを凌ぐ”ほどのポテンシャルの秘密に迫ります。
通販業界で快進撃の「MonotaRO(モノタロウ)」
コロナ禍で大きな成長を続ける
「モノタロウ」の勢いが止まらない。事業者向け工業用資材の通信販売サイトとして知られるモノタロウだが、いまやBtoCも含めた通販全体でも「ひとり勝ち」といわれるほど好調を記録している。
事実、昨年10月27日に発表した2020年12月期第3四半期累計(1~9月)連結決算では、売上高1148億3700万円(前年同期比18.8%増)、営業利益143億6800万円(同27.1%増)、純利益101億9100万円(同31.5%増)と大幅な営業増益を記録している。
この躍進には、どんな要因があるのだろうか。
モノタロウは、切削工具や研磨材などの工業用資材から自動車関連商品や工事用品、事務用品に至るまで、現場・工場で必要とされる製品1,800万アイテムを販売している。
そのラインナップ数もさることながら、サプライチェーンの大幅短縮や新規顧客の大幅増加、商品のデータベース化などを実施。これらがモノタロウ大躍進の主な要因となっていると言える。
これらが原動力となって、コロナ禍でも大きな成長を遂げている。
※出所:モノタロウ「2019年12月期12月度月次業績に関するお知らせ」「2020年12月期12月度月次業績に関するお知らせ」を基に作成
では、具体的に何が成長を躍進させているのか。その要因に迫っていこう。
成長の要因①サプライチェーンの大幅カット
モノタロウが大躍進を遂げた要因の一つに、サプライチェーンの大幅カットが挙げられる。
一般的に、「商品」を製造する過程では、多くの資材やパーツ(中間消費財)が必要になる。製造業者がこれら中間消費財を調達するには、これまでは多くの時間を要していた。
部品を仕入れようとたら卸に発注し、納入まで時間がかかる。モノによっては長時間待たされることになったり、あるいは小口で受け付けられなかったりしたことだろう。
すると、「中間消費財をオンラインで、手軽に入手したい」という要望が間違いなくあったはずだ。ECが発達したとはいえ、なかなかこのニーズは十分に満たされなかったなかで、モノタロウが登場した。
さらに、供給元と需要者をダイレクトにリンクし、従来のプロセスを大幅にショートカット。即時発送にも対応し、サプライチェーンを極端に短くすることに成功する。
また、生産過程に必要な資材やパーツは、ラインナップが実に豊富である。
例えば、ネジ一つとっても膨大な種類があり、サイズは同じでもほんのわずか長さが違うものは多数存在する。その点、モノタロウはあらゆるパーツを、そして一般的には流通しにくい部品なども含めて豊富にラインナップしている。
種類豊富で便利、そして早く手に入るとなれば、人気が出ないわけがない。
Amazonの上を行く存在感
ちなみに、モノタロウが築き上げたサプライチェーンは、“Amazonの上流”と言うことができる。
コロナ禍による巣篭もり需要もあり、Eコマースの売上や利用率は大幅に高まっている。しかし、そのEコマース人気の裏には、商品(最終消費財)を作る数多くの製造業者が存在していることを忘れてはいけない。
そんな製造業から重宝されているのがモノタロウであり、なかには「無くてはならない」という事業者もいるのではないか。
Eコーマスの帝王Amazonは、 南米にあるアマゾン川のように世界最大、そしてアマゾン川の熱帯雨林の生態系のように、多様で膨大な種類の商品を取り扱っている。
その点、モノタロウは、そのようなAmazonという大きな川の上流に位置すると言えるのだ。
成長の要因②新規顧客の大幅増加
「製造業者向け」というイメージの強いモノタロウだが、その販路はBtoBに限らない。いまでは、マーケットや顧客層を「一般ユーザー」にも広げている。
実際に、一般ユーザーの大幅な増加はデータとして現れており、新型コロナウイルスの影響によって事業者(企業ユーザー)は一時期減少するなか、一般消費者(個人ユーザー)は増加。実に4月には17万人以上の獲得となり大幅成長している。
なぜモノタロウが個人ユーザーにも大きく利用されているかといえば、第一に「普通のECでは売っていないもの」をたくさん取り扱っているからだ。
ECサイトをいくつも回っても売っておらず、家電メーカーの直販サイトで「お取り寄せ商品」として1ヶ月待たないといけないようなアイテムであっても、モノタロウなら扱っているケースは多い。
実際に私も、一般ユーザーとしてモノタロウのお世話になった一人である。エアコンのフィルターを新しくしようと検索したが、Amazonや楽天では取り扱っていない。メーカーのサイトでも個人が気軽に取り寄せられるような状況ではない。万事休すかと思いきや、モノタロウでは普通に販売されていたのだ。
このような豊富なラインナップに加えSEOやリスティング広告などウェブマーケティングも個人向け消費の増加に一役買っている。
業務用のニッチな商品であれば、SEOなどはさほど気にしなくてもいいだろう。しかし、例えば「ネジ」とGoogle検索してみると、ショッピングタブにはモノタロウ扱いの商品がずらりと表示される。
このように特定のジャンルにおいてはモノタロウがAmazonなどの大手サイトを凌いでいるとも言える。
また、「工具セット」など、BtoBではなく、一般ユーザーが比較的調べそうな商品であってもモノタロウが上位に表示される。
やはり、個人向けにも幅広くアプローチするようなマーケティングを行っていると言えるだろう。
成長の要因③商品のデータベース化
先述した、ウェブマーケティングにはデータ活用も行っているようだ。
例えば、ユーザーの行動データやWebサーバー、アプリケーションのデータなどを「BigQuery」に集め、データの加工や最適化を実施。
このようなデータ活用もさることながら、モノタロウが行った「商品のデータベース化」も躍進を支えているだろう。
これはどういうことか。
もし「自分が欲しいと思っている家電」を探すときには、さほど難しいプロセスは必要ない。メーカー名と型番がわかっていれば確実に商品にたどり着ける。
しかし、製造業などで使われるような部品は話が別。幅広く細分化されているネジの規格などからわかるように、POSコードやメーカーの品番などがわかりづらくなっている。
いくら取扱う商品数や種類が多くても、欲しいものが見つけづらくては意味がない。そこでモノタロウは、取扱う商品のデータベース化を行い、商品を管理しやすくした。
このデータベース化は、途方もなく地道で、とても骨の折れる作業だったのではないかと予想する。しかし、この作業によって顧客にとっては欲しい商品がすぐにわかるようになり、モノタロウ側にとっても管理が容易になった。
地道に作り上げたこのデータベースは、他社の追随を簡単には寄せ付けないだろう。他社がモノタロウのビジネスを真似しようとても、その差を縮めることは至難になるからだ。
【夏野剛氏の考察】
世界に通用するモノタロウモデル
Eコマースの世界では、“カテゴリーキラー”が存在している。
例えば、「ヨドバシ.com」。家電製品を中心に特化し、豊富な品ぞろえと「ヨドバシエクストリーム」などの即時配達などを充実させ、独自の存在感を放っている。
Amazonや楽天が幅を利かせるEコマースの世界でも、ヨドバシ.comのような特定のカテゴリーに特化することで、生き残るサービスは珍しくない。
モノタロウも一見すると、「BtoB」や「工具」などのカテゴリーに特化しているように思える。しかし、最終消費者ではなく、中間消費財に焦点を当てた。
つまり、Amazonのような一般的なECとは戦う土俵を変えて見事に成功した。
そして、このモノタロウのビジネスモデルは、世界でもニーズがあると思われる。日本のモノタロウとAmazonのように、どのEコマースにも、“上流”には、その商品を製造するプレイヤーが存在しているからだ。
加えて、世界中で最終消費財を販売するEコマースが人気を博し、今後もニーズは高まっていくことは容易に想像できる。
Eコマースの川が広く、そして大きくなっていくとき、その上流に位置するモノタロウのようなビジネスモデルの需要も当然増えていく。
モノタロウ自体が世界で成功するかは、今後の経営戦略と手腕にかかっている。だが、この「モノタロウモデル」は、日本だけでなく世界で活躍できるポテンシャルを持っているだろう。
執筆者プロフィール
夏野 剛(なつの たけし)
株式会社ドワンゴ代表取締役社長・慶應義塾大学特別招聘教授
97年NTTドコモに入社。「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げ、執行役員を務めた。現在は、株式会社ムービーウォーカー代表取締役会長、KADOKAWA、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、グリー、USEN-NEXT HOLDINGS、日本オラクルの取締役を兼任する。