労働災害防止のために「体感する安全衛生教育」を ~安全教育の習得スピードを加速させるVR~ | NECソリューションイノベータ

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労働災害防止のために「体感する安全衛生教育」を
~安全教育の習得スピードを加速させるVR~

UPDATE : 2021.07.21

多くの業界で期待されているVRを活用した教育、研修。そうした中で今、とりわけ注目を集めているのが、建設業界における安全衛生教育のVR化です。労働環境の変化や新型コロナ禍など、激変する社会情勢において建設業界がどのような対策を取っているのか。他業界にとっても参考になるVR活用の最先端をまとめました。

INDEX

建設業にとっての「安全衛生教育」とは

「安全衛生教育」とは、労働災害を未然に防ぐ取り組みの1つです。就業に当たって必要となる安全衛生に関する技能や知識などを付与するために、「労働安全衛生法(安衛法)」の第59〜60条において実施が義務付けられています。

労働安全衛生法とは、労働者の安全と衛生についての基準を定めた法律で、今を去ること半世紀前、1972年に当時社会問題となっていた労働災害を未然に防ぐべく施行されました。同法第1条では『労働災害の防止のための危害防止基準の確立』をし、『責任体制の明確化及び自主的活動の促進』をすることで『労働者の安全と健康を確保』するとしています。

その中で特に重視されている取り組みが「安全管理者」の選任です。建設業や林業、鉱業、運送業、製造業など、一部の業種では労働者数が50名を超える事業場において安全管理者を選任せねばならず、特に建設業においては、300名以上が常時使用される事業場では最低1名を専任にせねばならないと定めています。

安全管理者の職務は、労働環境の安全性向上や発生した災害原因の調査及び対策の検討など多岐にわたりますが、中でも特に重要なのが冒頭で触れた安全衛生教育の実施です。労働安全衛生法では、雇用者が労働者に対して適切な技能・知識教育を行うことを求めています。具体的には新たに労働者を雇い入れた時や、労働者の作業内容を変更した時の安全衛生教育と、危険または有害な業務に就かせるときの特別教育を「義務」に、安全管理者ら、労働災害防止の任に就く者の能力向上教育、既に危険有害業務に就いている者への安全衛生教育を「努力義務」としています。

また、多くの業種、作業に関する共通的な事項について定めている労働安全衛生規則第35条では『機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること』『安全措置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること』『作業手順に関すること』などが明確に規定されており、同36条では特別教育を必要とする業務が50種類以上挙げられています。

この法律の登場によって、日本国内の労働環境は大幅に改善していくことになりました。

労働災害を防止するために
建設業の安全教育における課題

建設業界は、労働安全衛生法の効果が特に大きかったことで知られる業界の1つです。同法の施行前と現在では死亡災害発生件数が約7分の1にまで減少しており(厚生労働省「建設業における労働安全衛生対策」より)、業界が一丸となって安全対策に取り組んできたことを証明しています。

そんな建設業界ですが、直近では次のような課題が挙げられています。

【建設業の安全教育における課題】

  • 不安全行動について言葉で説明しても伝わりきらない
  • 外国人作業者に危険を言葉で伝えるのが難しい
  • コロナ禍で集合教育が難しくなっている
  • 人材不足で現場の技術伝承・ノウハウ伝承が難しくなっている
  • 災害の件数が減り、実際の場面を体験することが少なくなった
  • 体験型設備でも危険を再現するのが難しい場面がある

長年の取り組みによって効果的な安全教育を実現できている建設業界ですが、外国人労働者の急増や新型コロナ禍など、業界を取り巻く状況の変化に伴い、新たな課題が発生しています。また、労働災害が減ったことによって、実際の労働災害を見聞きする機会が損なわれてしまうという皮肉な現象も。建設業界が、こうした新たな課題をどのように解決していくかに注目が集まっています。

百聞は一見に如かず VRを活用し、
恐怖や危機感が伝わる「体感する安全教育」を

こうした中「課題」の解決策として今、期待されているのがVR(仮想現実)を活用した事故現場の体感です。どんな場面で活用すると有効なのか、見ていきましょう。

【安全教育の課題①】危険を言葉で伝えるのが難しい
【VR活用で解決】危険な場面を体感することで一瞬で理解できる

建設土木安全訓練

現場での作業において、何がどう危険なのかは言葉で説明するよりも、実際に見て、体験してもらうのが一番。VR技術を活用したトレーニングでは、3DCGを駆使して危険な場面をVRヘッドセット越しに再現することで、文字通り「百聞は一見にしかず」というかたちで理解を促すことができます。

VRならではのインタラクティブ性を充分に活かした学びを提供することで、研修ビデオなどよりも効率的に学習効果を得ることができるでしょう。同内容のトレーニングを定期的に繰り返し行いやすいのもVRならでのメリットと言えます。

なお、建設業における労働災害防止を目的に設立された建設業労働災害防止協会の調査によると、VRトレーニングの体験者からは、安全知識の習得と危険感受性を高める効果が実感できたという声や、日本語の不自由な外国人の理解度が高まるのではないかといった声が聞かれたとのことです。

【安全教育の課題②】人から人へリアルでの教育機会を設けにくい
【VR活用で解決】熟練者からリアルで教わらなくても同じ効果が得られる

安全教育を行える熟練者が近くにいない、あるいは人数が少ないために充分な研修を受けることができないという問題もVRを活用することで解決できます。

VRヘッドセットを使った安全教育はリモートでも行えるため、教官(熟練者)と受講者の物理的距離を問いません。たとえば東京から大阪、あるいは日本から海外というかたちでもしっかりとした安全教育を行えます。トレーニング内容をプログラム化すれば、受講者が好きなときに、好きな場所で学習することも可能になります。

【安全教育の課題③】実際に災害を経験させることは困難
【VR活用で解決】高所からの転落や土砂崩れの恐怖を疑似体験できる

土砂崩れに巻き込まれました

高層ビル間に渡した足場からの転落や、山間部工事における土砂崩れなど、実際に体感させることが難しい労働災害も、VRならば疑似的に体験させることができます。

恐ろしい災害の恐怖を体験させることで、油断や慢心が招く準備不足・対策不足などを防ぎ、より身を入れた安全教育への取り組みを促します。事故現場を再現した研修動画などと比べ、3DCGで構築された現場に入り込むようなかたちで状況を体験できるVRは、臨場感に優れ、より印象的な学習が可能になります。

関連記事:VRとは?仮想空間を体験できる仕組みやARとの違いなどVRの基礎知識を解説

疑似体験だけでなく「評価・分析」できるVRなら
技能習得スピードが上がる

ただし、こうしたVRトレーニングで得られる体験はあくまで疑似的なもの。『心理的負荷をVRで体験させるだけでは条件付け(安全意識の高揚)にはいたらない』という指摘もあり、より効果を高めるためには『体験による気付きを現場へ持ち帰るために行動目標を宣言させる』(前述の建設業労働災害防止協会調査より)といった工夫が必要だと言われています。

ではどういった工夫が有効なのでしょうか? ここではその最先端の事例をいくつか紹介します。

自分の行動を「数値」で確認し、技能定着のスピードを向上

VRを活用した訓練の様子

【参考資料】プレスリリース:ANA客室乗務員向け機内訓練にNEC開発のVRを活用

VRトレーニングへの注目度向上を受け、既に多くの企業からVRを利用した安全教育に利用できるソリューションが提供されはじめています。NECソリューションイノベータの「NEC VR現場体感分析ソリューション」は、その名称から分かるよう、「現場体験」に加えて「分析」も行えることが最大の特長です。

VR空間で実施したトレーニングを、各種センサーで収集、分析することで、正しいルールに沿った行動ができているか、迷わず冷静に作業できているかといった問題点の可視化を実現します。これによって正しい反復実習を促し、緊急時などにおける業務手順の定着化を促進することができます。

安全行動が身についている熟練者の技能を可視化する

安全行動が身についている熟練者の技能を可視化する

「NEC VR現場体感分析ソリューション」では、各種センサーで取得、分析した受講者の行動データを、熟練者の行動データと比較することも可能です。

未熟な作業者と熟練者の作業効率の違いを数値やグラフなどで可視化することで、技能の継承、習得をより早めることができます。VRトレーニングの内容を工夫することで、言語化しにくい熟練者の作業リズムなども合わせて習得させることも可能です。

まとめ

社会情勢の変化などによって顕在化してきた新たな問題を解決すべく、今、建設業界でVRの活用が活性化しています。もちろん、こうした課題は建設業界特有の安全教育に留まりません。より幅広い業界で、安全教育だけに留まらない幅広いトレーニングを行うツールとして、VRは極めて有望と言えるでしょう。熟練者からの口伝、インタラクティブ性に欠ける研修ビデオなどよりも、効果的で効率的な研修手法を求めている企業には、こうしたVR研修ソリューションの導入を強くおすすめします。

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