サイト内の現在位置
コラム
SAP S/4HANAコンバージョンを
着実に遂行するためのポイント

SAP S/4HANAへの移行状況調査レポート

“SAP S/4HANAへの移行状況調査”の結果を資料化いたしました。
SAP S/4HANA移行に向けた準備状況や、SAP S/4HANA移行/導入後の課題・今後の検討テーマなど、SAPユーザーの“今”と“これから”をご確認いただける資料です。
UPDATE : 2023.12.15
現行の『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』から最新バージョン『SAP S/4HANA』へ移行する方法の一つである「コンバージョン」。蓄積された取引データやアドオンなどの既存資産を継続して利用できるメリットがありますが、従来環境をそのまま移行できません。本記事では、『SAP S/4HANA』における主な変更点、および変更点を踏まえながら着実にコンバージョンを遂行するためのポイントなどを解説します。
INDEX
- SAP S/4HANA コンバージョンとは
現行ERPを『SAP S/4HANA』化する移行方式の一つ- SAPの移行が注目される背景
- 移行方式はコンバージョンを含め3種類ある
- コンバージョンのメリット・デメリット
- 【コンバージョンのメリット】
- 【コンバージョンのデメリット】
- SAP S/4HANAにおける主な変更点
- ビジネスパートナー(BP)の一元管理
- データモデルの変更
- クラウドサービス(RISE with SAP)の提供
- コンバージョンを着実に遂行するための4つのポイント
- ポイント①:事前調査を十分に行う
- ポイント②:システム全体を考慮した全体計画を策定する
- ポイント③:アドオンについて改修方針を立てる
- ポイント④:『RISE with SAP』は制約を考慮した運用設計を
- ロードマップ策定から導入まで一貫して支援
NECソリューションイノベータの「SAP S/4HANA 移行サービス」 - まとめ
SAP S/4HANA コンバージョンとは
現行ERPを『SAP S/4HANA』化する移行方式の一つ
SAP S/4HANA への「コンバージョン」とは、現行のSAP ERP『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』を最新バージョン『SAP S/4HANA』へと移行する方法の一つです。移行手段はいくつかの選択肢があり、既存環境をベースとして移行するコンバージョンは、「Brown Field(ブラウンフィールド)」とも呼ばれています。この方式の大きなメリットの一つは、既存の『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』の環境をベースとして移行するため、アドオンなどの既存資産をそのまま継続して利用できる点です。
移行手段にはコンバージョンのほか、「リビルド」や「選択データ移行」(後述)などが存在し、それぞれ特徴がありますので、自社に最適な方法を選択することが肝要です。
SAPの移行が注目される背景
SAP社の『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』は、世界中の多くの企業で基幹システムとして利用されてきました。『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』の後継として、2015年2月にリリースされたのが同社の第4世代ERPソリューション『SAP S/4HANA』です。これに伴い、『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』は、2027年末に標準保守が終了すると決定しています。この標準保守の終了は「SAPの2027年問題」とも呼ばれ、多くの企業で大きな経営判断が求められています。
次世代ERPである『SAP S/4HANA』は、大幅な業務効率化、DX推進にも成果が期待できるため、正しく移行できれば投資を上回る成果を得ることが可能です。SAP製品を利用する企業にとっては『SAP S/4HANA』への適切な移行が、今後の競争力を維持・向上させる鍵となるでしょう。
関連情報
移行方式はコンバージョンを含め3種類ある
前述したように、SAP社は『SAP S/4HANA』への移行の方法として、以下の3つの方式を提案しています。
- ① コンバージョン(Brown Field)
- ② リビルド(Green Field)
- ③ 選択データ移行
「コンバージョン」は、蓄積された取引データやアドオンなどの既存資産を最大限活用します。既存の環境を基に『SAP S/4HANA』での新しい機能や変更点のみを取り入れる方法です。本記事では主に、コンバージョンでの移行について解説します。
「リビルド」は新たにサーバーを用意し、ゼロからシステムを再構築します。この方法では、業務プロセスを全面的に改善することが可能で、世界標準のテンプレートや新機能をフルに活用できます。ただし業務プロセスの見直しが必要となり、全社的な合意が求められるため、移行コストや期間が長くなるリスクもあります。
「選択データ移行」は、必要なデータのみをピックアップして移行する方法です。コンバージョンやリビルドでは満たせない、固有の要件に合わせた移行に対応します。
以上の3つの方式には各々特徴がありますので、移行を検討する際には、自社の要件や状況に合わせて最適な方法を選択するようにしましょう。
関連情報
コンバージョンのメリット・デメリット
ここでは「コンバージョン」のメリットとデメリットについて解説します。
【コンバージョンのメリット】
コンバージョン方式のメリットは、主に以下の3点です。

これまでに蓄積された取引データやアドオンなどをそのまま引き継ぎ、活用できる点がコンバージョン最大のメリットです。既存資産を有効活用できるため、リビルドと比べて期間とコストを抑えた移行が実現できます。また、リビルドと比較すると、機能面での変更点も限定的です。そのためユーザーへの負荷が少なく、現場の混乱を最小限に抑えることができます。
【コンバージョンのデメリット】
コンバージョン方式のデメリットは、主に以下の3点です。

システムのみのコンバージョンの場合、業務プロセスの見直しは行われません。良くも悪くも現行のプロセスが継続されるため、『SAP S/4HANA』への投資効果を訴求しづらいという問題があります。また、業務プロセスや一部のデータ形式が古いまま残ることによって、『SAP S/4HANA』ならではの最新機能をフル活用できない場面があるかもしれません。加えて、『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』がユニコード化されていない場合やデータ量が非常に多い場合には、コンバージョンの際にシステムのダウンタイムが発生するリスクがあります。ダウンタイムは、ビジネスに影響を及ぼす可能性があるため、十分に注意が必要です。
SAP S/4HANAにおける主な変更点
『SAP S/4HANA』は、『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』の後継ソリューションではありますが、さらなる機能向上に向け、一部データモデル構造の変更などいくつかの大きな変更が施され、従来環境をそのまま移行できなくなっています。この変更点は「シンプル化項目」と呼ばれ、SAP社から発行されている「Simplification list」にまとめられています。
参考:「Simplification list」(SAP社)
『SAP S/4HANA』における主な変更点を以下に紹介します。
ビジネスパートナー(BP)の一元管理
『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』では、得意先マスタと仕入先マスタは別々に管理していました。一方『SAP S/4HANA』では、これらを統合し「ビジネスパートナーマスタ(BPマスタ)」として、一元的に管理する新しいアプローチが採用されています。

これに伴い、既存の得意先マスタ・仕入先マスタをBPマスタに関連付ける作業が必要となります。BPマスタには、取引先を区分する「カテゴリ」、どのような取引先かを表す「グルーピング」、役割を区分する「BPロール」があり、それぞれを設定していきます。
BPマスタの紐づけ作業を進める際、特に注意すべき点は「BPマスタ採番体系」の方針策定です。得意先や仕入先それぞれの番号をどのようにBPマスタの番号として統合するか、採番のルールや体系を明確に定める必要があります。この方針策定を適切に行うことで、データの整合性を保ちつつ、効率的なデータ管理を実現できます。
データモデルの変更
『SAP S/4HANA』では、データモデルの一部に効率化を目的とした変更が施されています。
【会計分野】
『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』では、会計明細情報が複数のテーブルやモジュールで管理されていました。『SAP S/4HANA』では、これらの情報が「ユニバーサルジャーナル」という一つの構造に統合されます。これにより、会計情報を一元的に管理・参照でき、効率的なデータ分析や高速なレポート生成が可能となりました。
【ロジスティック分野】
『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』では、入出庫伝票に関するデータが複数のテーブルで保持されていましたが、『SAP S/4HANA』ではテーブルが統合され、入出庫情報を一元管理できるように変更されています。これによりデータの冗長性が減少し、データ管理の効率が向上しました。
上記の変更点から、従来の環境で使用されているアドオンやカスタマイズ部分へ影響を及ぼす可能性があります。コンバージョンを計画する際には、これらのプログラムで参照しているテーブルや機能に変更がないかを確認し、必要であればプログラムの改修や調整を行います。
クラウドサービス(RISE with SAP)の提供
『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』はオンプレミス、つまり自社のデータセンター内でシステムを運用する形式が主流でした。一方『SAP S/4HANA』では、オンプレミスの他にもクラウドという選択肢があります。ここでは、クラウド環境での『SAP S/4HANA』移行をプラットフォームからアプリケーションまで包括的に提供するサービス『RISE with SAP』を紹介します。

『RISE with SAP』はクラウド環境であるため、導入時のインフラ構築が不要で、コスト削減や安定稼働、運用負荷の低減が期待できます。さらに、他のソフトウェアやサービスとの連携、システム改善のためのさまざまな追加サービスが利用可能です。これにより、企業は業務効率の向上やデジタル変革を加速させることができるでしょう。
なお、『RISE with SAP』にはクラウドサービス特有の制約や運用ルールがあります。例えば、一部のカスタマイズの難易度が高かったり、更新サイクルが定められていたりする点です。そのため『RISE with SAP』を選択する際には、これらの制約を十分に理解し、ビジネスニーズや要件に合わせた適切な対応が求められます。
コンバージョンを着実に遂行するための4つのポイント
『SAP S/4HANA』へのコンバージョンをスムーズに進めるために、4つのポイントを解説します。
ポイント①:事前調査を十分に行う
『SAP S/4HANA』へのコンバージョンを本格的に進める前に、まずは自社のERP環境の現状分析を十分に行いましょう。現状の業務フロー、データ構造、アドオンなど詳細情報を収集することで、コンバージョンにおける課題やリスクが予測しやすくなります。
現状分析に活用できる便利なツールが、SAP社やサードパーティから多数提供されています。例えば「SAP Readiness Check for SAP S/4HANA」は、コンバージョン時の技術的な影響や必要なアクションを明確に示してくれます。「Maintenance Planner」はアドオンの適合性確認を、「Simplification Item-Check」は整合性チェックなどを行えます。
また、ERPの現状分析に加え、周辺のシステムやソリューション、業務プロセス、経営などの観点からも課題を把握することが重要です。
ポイント②:システム全体を考慮した全体計画を策定する
コンバージョンは『SAP S/4HANA』への移行だけでなく、自社全体の業務プロセスや方針に影響を与える可能性がある大きなプロジェクトです。したがって、コンバージョンの実行計画だけでなく、システムを網羅的に考慮した計画策定が求められます。
例えば、業務領域や基盤領域を別途見直したり、『SAP BW(SAP NetWeaver Business Warehouse)』のような関連外部システムの統廃合方針も同時に検討したりすることが推奨されます。また、オンプレミスかクラウド(『RISE with SAP』)か、といった選択も重要です。状況によってはEhP(Enhancement Package)を適用し、現行ERPを延命してより長期的な検討を進める方法もあり得るでしょう。
その上で、コンバージョンをスムーズに進めるためには、テストや移行の規模、期間などを算定した計画が必要となります。実際の移行作業だけでなく、事前のテストや後続の運用を考慮して計画を立案すれば、予期せぬトラブルや遅延を防止できます。
ポイント③:アドオンについて改修方針を立てる
コンバージョン実施後、自社独自の追加機能であるアドオンが動作しない可能性は小さくありません。動作しなかった場合、これらのプログラムを改修する作業が不可欠となります。とは言え、すべてのアドオンを一つ一つ改修していくと工数が膨大となり、コストやプロジェクト期間に影響を及ぼすリスクが高まります。結果として、コンバージョンプロジェクト全体の効率や経済性が損なわれる恐れがあります。
この課題をクリアするためには、アドオンごとに改修方針を明確にすると効果的です。例えば、「対応が必須」とされるプログラム、条件を満たす場合「不要と判断して改修しない」プログラム、「対応不要」のプログラムなど、カテゴリを分けて方針を策定します。これにより、必要な改修の範囲や工数を最適化し、コンバージョンを効率よく進めることができます。
ポイント④:『RISE with SAP』は制約を考慮した運用設計を
『RISE with SAP』は、プラットフォームからアプリケーションまでを包括した、SAP社が推奨するサービスです。同サービスには、基盤となるインフラストラクチャーやシステム運用をサポートするマネージドサービスも含まれています。『RISE with SAP』を導入すれば、企業側の運用負荷が軽減できますので、業務改革やシステムの最適化に注力できるでしょう。
ただし、『RISE with SAP』はSAP社がサーバーやOS、DBなどの運用を担当する性質上、一部のカスタマイズや設定変更に制限があります。そのため『RISE with SAP』を利用する場合は、制約を踏まえた運用設計が必須となります。『RISE with SAP』のメリットを最大限に享受するには、制約内容を十分に理解し、考慮した上での運用設計がポイントです。
ロードマップ策定から導入まで一貫して支援
NECソリューションイノベータの「SAP S/4HANA 移行サービス」
『SAP S/4HANA』へのコンバージョンを着実に遂行するためには、自社に最適化された精緻な実行計画を策定し、ステップを踏んで確実に進めていくことが肝要です。NECソリューションイノベータの提供する「SAP S/4HANA 移行サービス」は、お客様企業の状況や要件に合わせて、ロードマップの策定から導入までを一貫して支援します。
【ノウハウを活かした一貫支援】

NECソリューションイノベータは、NECグループ内でのSAP導入実績や、自社グループの基幹システムを『SAP S/4HANA』にコンバージョンさせた経験に基づく、『SAP S/4HANA』を用いたデジタル経営基盤の構築ノウハウを蓄積。これらのノウハウを活かし、アプリケーション、データ構造、アーキテクチャーの各面からのアセスメント(評価・査定)を実施し、『SAP S/4HANA』へのコンバージョンを確実にサポートします。
さらに、コンバージョンの実施に加え、計画段階からシステム課題への対応やアドオンの適切な改修提案など、全方位で網羅的なサポートを行います。また、『RISE with SAP』を利用する場合、特有の制約を考慮した運用・移行策定も支援します。
【SAP S/4 HANAコンバージョンサービスの内容】

【アウトプット例】

まとめ
『SAP S/4HANA』へ移行する方法の一つである「コンバージョン」には、蓄積された取引データやアドオンを継続して利用できるメリットがある反面、変更への対応が不可欠です。また、社内全体に影響が生じる可能性があるため、システム全体を考慮した計画策定が求められます。
コンバージョンを着実に遂行するには、自社に適した精緻な実行計画の策定と、段階を追った確実な進行がカギとなります。『SAP S/4HANA』のコンバージョンを検討中の企業や「SAPの2027年問題」に悩む企業は、多数の導入実績とノウハウを兼ね備えたNECソリューションイノベータの「SAP S/4HANA 移行サービス」をぜひご検討ください。
SAP S/4HANAへの
移行状況調査レポート