SAPの移行とは?課題や方法、ベンダー選びのポイントを解説│NECソリューションイノベータ | NECソリューションイノベータ

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コラム

SAPの移行とは?
課題や方法、ベンダー選びのポイントを解説

SAP S/4HANA 移行サービス 資料

NECのSAP S/4HANA移行サービスは、お客様の状況にあわせて、数あるロードマップ案の中から最適な施策を立案し、その後の導入まで一貫してご支援します。

UPDATE : 2023.12.15

SAPの移行は、ERPパッケージの『SAP ERP』を最新製品や別製品の環境に移すことを指します。同製品は企業活動を支える基幹システムとして機能しているため、SAP製品のユーザー企業にとってSAPの移行は、重要な経営課題の1つとして位置付けられています。

そこで本記事では、SAPの移行についての基礎知識から移行方法まで、わかりやすく解説します。

INDEX

SAPの移行とは

「SAPの移行」とは、ドイツのソフトウェア開発会社「SAP社」が提供しているERPパッケージ『SAP ERP』を、最新のSAP製品環境や別のシステム環境に移すことを示します。ERPとは「Enterprise Resource Planning(企業資源計画)」の略語で、ERPパッケージは企業情報の管理に欠かせない基幹業務システムを指します。

『SAP ERP』は企業活動を支える基幹システムであるため、新しいシステムや環境に移行するのは、決して簡単なプロセスではありません。システム要件の見直しやデータモデルの変更など、複数の難作業が発生し、相応にコストや期間がかかります。

● SAPの移行が求められている理由とは

SAPの移行が注目されている背景には、以下の2つの課題の存在があります。

  • ① SAPの2027年問題への対応
  • ② DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の基盤構築

1つ目の課題にある「SAPの2027年問題」とは、『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』の標準保守期限が2027年末に迫っていることを指します。この問題を受けて、『SAP ERP 6.0(ECC 6.0)』のユーザー企業は、「最新版である『SAP S/4HANA』への移行」か「現行システムの一時的な延命」、「SAP製品以外のシステムへ乗り換える」かの経営判断が迫られています。

SAP2027年問題におけるユーザーの選択肢図解

SAPの移行が注目されているもう一つの背景として、近年「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」が企業戦略の重要課題として認識されている影響があります。DXでは、業務や実績管理の最適化を目指す保守的な発想のシステム整備だけでなく、データを積極活用してビジネスの競争力を向上させていく取り組みが重要視されています。『SAP S/4HANA』の環境下では、全社的なデータ活用やリアルタイムの経営情報分析などが可能になるため、DXを推進する基盤としての役割が期待されているのです。

しかし、現在はIT人材不足が深刻化している状況です。移行プロジェクトを実行するリソースの確保も容易ではないため、SAPの移行について迅速な経営判断が求められています。

● 『SAP S/4HANA』へ移行するメリット

SAP社が最適な移行先として推奨している次世代ソリューション『SAP S/4HANA』には、以下の特長があります。

  • インメモリデータベースによる高速データ処理
  • 最新型UIであるSAP Fiori(フィオーリ)を実装
  • オンプレミス・クラウド・ハイブリッドのいずれでも導入可能

『SAP S/4HANA』は、「SAP HANA」というインメモリデータベース(コンピューターのメモリ上でデータにアクセスするデータベースシステム)を採用し、企業情報の一元管理を高速化しています。一つのシステムでデータ入力業務と分析業務をリアルタイムに処理できるため、複数のERPパッケージを用いて企業情報の管理・分析を行っている場合は、特にSAPの移行で恩恵を受けられるでしょう。

『SAP S/4HANA』は、使いやすさという点でも進化を遂げました。「SAP Fiori」と名付けられたUIは、コンシューマー向けアプリを意識した直感的かつユーザーフレンドリーなUIで高い評価を受けています。ライブラリや開発環境も整えられておりカスタマイズ性が高く、ニーズに合わせた調整も可能です。また、マルチデバイス・マルチブラウザにも対応しているため、PCだけでなく、タブレットやスマートフォンなどさまざまなデバイスで操作可能な点もポイントです。

さらに『SAP S/4HANA』は、オンプレミス、クラウド、ハイブリッドの3つの導入形態から、企業の要件に応じて最適な形を選択できます。特にクラウドでの導入の場合、SAP社の機能アップデートの恩恵を受けやすくなるため、常に最新の技術や機能を取り入れられる環境が整うでしょう。

これらの特長を踏まえると、『SAP S/4HANA』への移行は、業務効率の向上や競争力の強化を実現するための重要な選択肢となるのです。

SAPを移行するための3つの方法

ここでは、SAPの移行を実現するための3つの手法について解説します。

【SAP移行方法①】コンバージョン

「コンバージョン」は、「ブラウンフィールド(Brown Field)」とも呼ばれるSAPの移行手法です。コンバージョンでは、既存の設定やアドオンなどの要件を最大限活用しながら、データを変換して、システム移行を実現します。移行する際には、SAP社が提供する専用ツールを使用します。

コンバージョンの特長は、業務面での変更を最小限に抑えられる点です。移行後、現場社員が混乱してしまうリスクの低減が期待できるでしょう。さらに、他の移行手法である「リビルド」と比較して、移行に必要な準備やテストの期間を短縮できる点もポイントです。

【SAP移行方法②】リビルド

「リビルド」は、『SAP S/4HANA』の環境をゼロから構築して移行を実施する手法で、「グリーンフィールド(Green Field)」とも呼ばれます。移行できるデータは制限されますが、SAP社の提唱するベストプラクティス(Best Practice:最善の方法)に合わせて業務を組み立てる「Fit to Standard」(システムの標準機能に業務を合わせていく導入方法)を実行しやすいというメリットがあります。

リビルドの選択は、企業のビジネスプロセスや業務オペレーションを根本から見直すチャンスになり、BPR(Business Process Re-engineering:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)も期待できます。ただし、システムやオペレーションの再設計など、多くの難作業が伴うため、相応にコストや時間がかかることは覚悟しておかねばならないでしょう。

【SAP移行方法③】選択データ移行

「選択データ移行(Selective Data Transition)」はシステム移行とデータ移行を分離し、先行して構築したシステムへ任意のデータを段階的に移行する手法です。一部の業務領域については従来の仕組みを再利用しながら、特定の部分だけを新規構築することが可能で、コンバージョンとリビルドの中間的な方法として位置付けられています。

選択データ移行は、複数システムを統合したい場合や、部署・事業部単位での移行を考えている場合、必要なデータやアドオンのみを継続利用したい場合などに適しているとされています。また、システムのダウンタイム(サービスが一時的に停止・中断する期間)を可能な限り短縮したいというニーズにも応えやすい手法です。

ただし、選択データ移行は、データの抽出作業が複雑になる点で、注意が必要です。SAP社が提供する選択データ移行用の専用ツール群を適切に使い分ける専門知識が求められます。

SAP移行方法のまとめ図解

なお、柔軟性の高い手法である選択データ移行は、さらに細かく分類可能です。例えば、「シェルコンバージョン」(既存の設定やアドオンを、新規環境のベースとして再利用する方法)や「ミックス&マッチ」(新規に構築したシステムに、一部の設定やアドオンを移行して調整する方法)といった手法に、選択データ移行は分けられます。

● SAPの移行方法を選ぶ時のポイント

SAPの移行プロジェクトにおいて、移行方法の選択は、難しいタスクの1つとして知られています。ここでは、移行方法の特徴を踏まえて、それぞれの方法に合っているとされる状況を紹介します。(あくまで一般的な判断の例であり、実際には個別の要件に照らし合わせて検討する必要があります。)

コンバージョンを検討したい状況の例
  • 既存SAPシステムのアドオンや蓄積データなど、過去のシステム投資を活かしたい。
  • システムの導入にあたって、現場ユーザーの負担や混乱を避けたい。
  • 現状のプロセスやオペレーションに課題が無く、まずは保守期限延長に対応したい。
  • コンバージョンを検討したい状況の例 リビルドを検討したい状況の例
  • 現状のビジネスプロセスに課題を抱えていて、抜本的な改革を進めたい。
  • 履歴データやアドオンを移行する必要性を感じていない。
  • DXを目指してAIやIoTなどの新しい技術を活用する基盤として、ERPを最新化したい。
  • 『SAP S/4HANA』をベストプラクティスで導入し、SAP社の最新技術を常に活用していきたい。
  • コンバージョンを検討したい状況の例 選択データ移行を検討したい状況の例
  • 既存のプロセスに大幅な変更を伴うことなく、複数システムの統合を果たしたい。
  • 一括で切り替えるリスクを避けつつ、段階的な移行でダウンタイムを削減したい。
  • 移行するデータやアドオンの取捨選択をして、システムを移行したい。
  • 上記の例以外では、コストや移行期間などの企業個別の条件も重要な判断軸となるでしょう。一長一短ある移行方法から最適な選択をするには、前提として、現状の課題と目指すビジョンからシステム移行の要件を明確にしなければなりません。

    SAP移行の企業事例

    ここでは、実際にSAPの移行を成功させたA社様の事例を紹介します。

    システム移行が求められた背景

    A社様の場合、法制度改正や新技術への対応で繰り返された場当たり的なシステム構築により、システムの構造が複雑に入り組んでいる状況(スパゲティ状態)でした。こうした状況下では、さまざまなシステム個別の運用管理に時間を取られるため、付加価値業務にリソースを分配できず、企業競争力の低下を引き起こすリスクがありました。

    システムの増改築を原因とするスパゲティ状態の解説図

    そこでA社様は、デジタル技術を有効活用しやすいシステム環境への移行を決意。業務標準化による生産性の向上や、経営情報の可視化による経営管理の高度化も、システムの移行で同時に達成することを目指しました。

    システム移行の方針

    これらの要件を満たす方法として採択されたのが、SAP社のクラウドソリューション(SAP S/4HANA Cloud+Business Technology Platform(BTP)+SAP Analytics Cloud(SAC))です。可能な限りベストプラクティスに近い形でのERPの導入によりバージョンアップへ対応しやすくしつつ、拡張機能の開発や周辺システムの連携にも優れた環境(=DXプラットフォーム)を構築しました。

    SAPのクラウドソリューションを軸としたDXプラットフォームのイメージ

    SAP移行の成果

    デジタル技術を継続的に有効活用できる環境となったA社様は、業務の標準化・効率化・多能工化と、情報の一元化によるデータドリブン経営の推進を実現。生産性の向上により人材配置の適正化が進み、働き方改革を加速させています。

    SAPのクラウドソリューションを活かしたDXプラットフォームによる働き方改革推進のイメージ

    SAP移行の課題とベンダーを選定するときのポイント

    移行支援ベンダーを選定する際のポイントを把握するには、SAPの移行が上手くいかないケースや、担当者の頭を悩ませる課題から学びを得ることが重要です。そこで、SAP移行の壁として知られている以下の懸念事項をピックアップして解説します。

    • システム活用のビジョン設計
    • トップの理解と予算の承認
    • 移行を推進する人員の確保

    SAPの移行およびシステム活用で目指す「ビジョン」の設計は、移行プロジェクトの第一歩になります。移行プロジェクトでは、ビジョンとして描いた理想の状況と現在のビジネスプロセスのギャップを把握し、システム移行で達成する効果を明確にする必要があるからです。このビジョン設計に加えて、ビジョンを実現するための技術・コスト・スケジュールなど「各種要件」を考慮した移行方法の選択は、高い専門性が求められるタスクとなります。

    システムの移行は、大規模で長期間にわたるプロジェクトです。多額のコストがかかるため、経営トップから予算の承認を得るのは容易ではありません。特に、既存のプロセスが安定している場合や、システム移行以外で緊急性の高いIT課題が存在する場合は難しいでしょう。「なぜ今システムを移行すべきなのか」を理解しやすい情報で、経営トップを説得する必要があります。

    SAPの移行が上手く進められないケースとして「プロジェクトを牽引するシステム部門のリソースが足りない場合」や「技術的要件の難度が高くプロジェクトを進行できる人員を社内外で確保できない場合」があります。昨今は、IT人材不足とSAPの移行需要の高まりにより、外部パートナーのリソース確保も一層難しくなってきています。特に「SAPの2027年問題」に直面している企業は、信頼できるベンダーのリソースを迅速に確保すべきでしょう。

    【ベンダー選びのポイント①】将来的な要件に応えられる総合的な技術力

    SAPの移行を、自社の独力で達成するのは容易ではありません。多くの場合、移行支援ベンダーと協力して移行プロジェクトを進めることになります。そのため、前段で紹介したSAP移行の課題に対して有効なソリューションを持っているベンダーの選択が、移行プロジェクトを成功させるポイントと言えるでしょう。

    1つ目のポイントが総合的な技術力です。SAPの移行では、アセスメントや移行計画の策定、導入作業、運用保守などさまざまなタスクが発生します。企画構想から運用保守まで一貫して対応可能なベンダーであれば、業務プロセスの分析からシステムの設計、そして本番導入後の教育サポートまでスムーズに進行可能となるでしょう。

    加えて、SAP移行のロードマップを将来の要件(データ活用やAIの導入など)も含めて提案できる力も重要です。総合的な観点からSAPを起点にしたシステム活用計画を策定できるベンダーであれば、システム移行に留まらずDXの実現まで、より具体的なビジョンを描くサポートをしてくれるでしょう。先を見越したIT投資の費用対効果を明確にできれば、経営層や関連部署との合意形成も進めやすくなります。

    【ベンダー選びのポイント②】導入実績とフォロー体制

    自社が求めている課題とベンダー企業のソリューションにミスマッチが生じてしまうと、予期せぬコストが発生してしまいます。そうした事態を避けるためにも、自社と同じ業界や同じ事業規模でのベンダーの移行実績を確認し、自社の状況においてどのようなサポートが期待できるかを見極めることが大切です。

    特に、移行後の運用保守や、DXの方針に合わせたシステム連携、カスタマイズ対応の可否などを確認すると良いでしょう。継続的にシステムを最適化していくためには、システム移行後のフォロー体制も充実しているベンダーの選定が肝要です。

    また「事業規模が相応に大きく、多様なソリューションを提供できるベンダーであるか」も重要な判断軸の1つです。自社の業務範囲が拡大した際や、システムに関する新たな要求が生じた際にも、柔軟な対応ができるベンダーを選び、将来的なミスマッチを避けることが大切です。

    NECソリューションイノベータのSAP移行支援サービス

    NECソリューションイノベータでは、アセスメントや構想企画、さらには実装・運用保守まで、SAP移行に関わるすべてのフェーズをサポートしています。NECグループ自体も含め、さまざまな業種・規模のクライアントを支援した実績があり、お客様のご要望に応じた最適な移行プランの提案が可能です。

    また、データドリブン経営の推進に不可欠な周辺システムとの効果的な連携支援など、継続的なサポートを提供可能です。合わせて「NEC デジタル変革支援サービス」も活用すれば、将来のDXを視野に入れたシステム全体の計画支援を受けられます。

    移行を検討する際には、以下のような課題が生じることでしょう。

    • SAPの移行により何ができるようになるかイメージできない
    • SAPの移行で見込める投資価値の見当がつかない
    • リビルドとコンバージョンのどちらが適しているかわからない
    • いつからSAPの移行に取り組むべきか判断できない

    NECソリューションイノベータは、上記のような懸念事項に対して、専門的な知見からアドバイスや解決策を提供可能です。SAPの移行でお悩みがある方は、一度お問い合わせされてみてはいかがでしょうか。

    まとめ

    SAPの移行は、SAPユーザー企業にとって大きな経営判断を迫られるプロジェクトです。難度の高いタスクが求められ、大規模で長期間を要するプロジェクトになるため、慎重を期す必要があるでしょう。
    しかしながら、SAPの移行を実現するIT人材の不足も深刻化しているため、悠長に構えてもいられません。SAPの移行にお悩みであれば、まずは信頼できる移行支援パートナーを見つけ出すことから始めてみてはいかがでしょうか。

    SAP S/4HANA 移行サービス 資料