V2Xとは、「Vehicle to X」の略で、車両と様々なものとの間の通信や連携を行う技術のことを指します。車に様々な機器や部品を搭載し、常時コンピュータネットワークに接続させることにより、運転に関する利便性を向上させます。V2Xには主に4種類の接続先があり、それぞれが異なる役割を担っています。4種類の接続先について、ひとつずつ解説します。
V2V(自動車と自動車)
V2Vは、「Vehicle to Vehicle」の略で、車両同士が通信を行うことを指します。この技術により、車両同士の車間距離を測定し、検知した障害物や、危険な路面状況などの情報を車に共有することが可能になります。事故や衝突の予防が図られるだけではなく、交通状況の相互通知などにより、運転の効率が向上します。運転者が把握しにくい死角や見通しの悪い状況でも、周囲の車両との相互通信によって情報を得ることができます。単体の車両では見えない範囲も、周囲の車両からならば見通すことができ、安全の確保につながります。これにより、危険が予測される場合は早期の対処を行えるようになるため、事故のリスクが低減されることが期待されています。 また、高速道路や一般道路での渋滞緩和にも貢献できます。車両間の通信によって、先行車が急ブレーキをかけた際に車へ速やかに情報が伝達されるため、それに伴う交通の滞りが軽減されます。さらに、急な渋滞や事故発生時にも、車への情報共有が迅速に行われることで、迂回ルートの案内や適切な速度調整が可能になり、交通の流れを改善できます。
V2I(自動車とインフラ)
V2Iは、「Vehicle to Infrastructure」の略で、車両と道路周辺のインフラ機器との通信を行う技術です。この技術により、信号機や道路標識、交通センサーなどのインフラから有益な情報が提供され、より安全かつ効率的な運転ができるようになります。V2Iを活用することで、信号の待ち時間や、歩行者の存在を運転者に知らせることができます。これにより、運転者は事前に適切な対応ができ、より安全な運転ができます。 また、V2I技術は車両の通行状況やインフラの状態をリアルタイムで把握し、最適な速度やルートを導き出すことが可能です。これにより、交通の効率化や渋滞緩和が期待できます。例えば、インフラ側からの情報提供によって、車両がスムーズに信号機を通過できる速度やタイミングが運転者に伝えられ、無駄な加速や急ブレーキを減少させ、燃費の向上や環境負荷の軽減が実現できます。 さらに、V2I技術は緊急車両の優先通行や駐車場の空き情報提供など、様々なシーンでの活用が期待されています。緊急車両への優先通行が実現されれば、救急車や消防車が迅速に現場に到着できるようになり、救命活動や災害対応がより効率化されます。また、駐車場の空き情報が提供されることで、運転者は無駄な時間を費やすことなく、効率的に駐車場を利用できるようになります。
V2P(自動車と歩行者)
V2Pは、「Vehicle to Pedestrian」の略で、車両と歩行者との通信を行う技術です。この技術は、歩行者が携帯するV2Pに対応したタブレットやスマートフォンと連携することで、歩行者の位置情報を車両に伝達します。V2P技術を利用することで、交差点や駐車場などの歩行者が多い場所では、車両と歩行者両方の安全性向上が期待できます。例えば、車両が交差点で右折する際、左折よりも死角が多いため歩行者との衝突リスクが高まりますが、V2P技術によって歩行者の存在を知ることができれば、運転者は十分な注意を払って進むことができ、事故のリスクを低減できます。 また、車両の死角に入った歩行者を早期に検知することも可能です。これにより、運転者は歩行者の存在に気づくことができ、適切な対応を行って事故を未然に防ぐことができます。
V2N(自動車とネットワーク)
V2Nは「Vehicle to Network」の略で、ネットワークに関する技術です。車そのものをインターネット端末として見なし、車の制御ソフトや地図情報の更新、エンターテインメントコンテンツの配信といったサービスを受けることができます。特に、リアルタイムの交通情報が受信できるのは、交通面や運転面において大きなメリットになります。
V2XとV2Hとの違いは?
V2XとV2Hは、一見すると似ている単語ですが、全く違うものを指す単語です。V2Hとは、「Vehicle to Home」という意味で、自動車と住宅を接続する技術のことを指します。特に電気自動車のバッテリーに蓄電された電力を、災害等の非常時に家庭で利用できるのが特徴です。一方、V2Xは上記でもご紹介したように交通に関わる技術で、車と様々な対象との通信を行い、運転に関する利便性を向上させることを目指すものです。つまり、V2Xは交通の面で車両をつなぐ技術で、V2Hは車両と住宅で電力をやり取りする技術、と全く違う概念を指します。
V2X技術の世界市場規模は、急速な成長が期待されています。調査会社であるIMARCグループ予測では、2027年までに45%以上の成長率で市場が拡大すると予測されています。この成長の背景には、自動運転技術の進化や、都市部に人口が集中したことによる渋滞やエネルギー問題を、最先端技術で解決する「スマートシティ」の構築、交通安全や効率化のニーズが挙げられます。 しかしながら、V2X技術の普及にはいくつかの課題が存在しています。その中でも、通信規格と周波数帯がまだ一本化されていないことは大きな問題となっています。現在、DSRC(Dedicated Short Range Communications)とC-V2X(Cellular Vehicle-to-Everything)という2つの主要な通信規格が存在しており、各国や企業でどちらの規格を採用するかが注目されています。通信規格が異なれば、相互のデータやり取りなどに支障を来す可能性がでてくるため、どちらを採用するのかは重要です。 日本政府も、海外の規制当局の動きを見ながら今後の方針を決めていくと考えられます。